第06話 【耳かきASMR体験】(脚本)
〇可愛い部屋
希美都ココロ「・・・台本を考えるのって、 結構、難しいね」
紺野正樹「うん。いったい、 どういうのが喜ばれるんだろう・・・」
二人は額を突き合わせ、テーブルの上に
広げたウィンドウを覗きこんでいた。
そこには、書きかけの文章が
散らばっている。
紺野正樹「ココロちゃんの初めてのASMR配信 だし、そこまで凝らずにプレーンな内容で いいとは思うんだけど・・・」
希美都ココロ「うん。シチュエーションは オーソドックスなものがいいと思うな」
ASMRとは、耳への刺激によって
脳がぞわぞわする感覚のこと。
専用のマイクを用いて、視聴者に
耳かき音や囁き声などを体感してもらう
ASMR配信は、大人気のジャンルだ。
ASMRの配信をしてみようということで、二人はその内容を考えていた。
うんうんと首を傾げて唸るココロの顔を
見つめながら、正樹は、数日前のことを
思い出していた。
〇洋館の廊下
希美都ココロ「ア、アイリス・・・?」
〇可愛い部屋
幽霊を見た彼女は、確かに、
その名前を口にした。
今日の打ち合わせにあたっては、
いつもどおりの表情を見せているが・・・
紺野正樹「・・・・・・」
あの呟きの意味を問いかけたかったが、
踏み込んでいいものかどうか思い悩み、
なかなか聞き出せずにいた。
希美都ココロ「そうだ!」
紺野正樹「わ! ビックリした・・・。どうしたの?」
希美都ココロ「ちょっと実験してみればいいんだよ」
紺野正樹「実験?」
希美都ココロ「うん! 実際にASMRのシチュエーションを体験してみながら、どういうものが 喜んでもらえるか考えるの!」
紺野正樹「なるほど。でも実験って、誰に・・・」
希美都ココロ「そのための正樹くんじゃん! ええと、耳かき耳かきっと・・・。 部屋は、やっぱり和室がいいかな?」
片手に耳かきを持ち、微笑むココロ。
〇幻想空間
部屋の様相が変化していき、
風情漂う和風の空間へと切り替わる。
〇古風な和室(小物無し)
希美都ココロ「というわけで、正樹くん。 ちょっとこちらへ来ましょう」
ココロは畳の上にクッションを敷いて
正座で座ると、スカートから覗く
自身の真っ白な膝をぽんぽんと叩いた。
希美都ココロ「ほらほら、おいで」
紺野正樹「え、えぇ!?」
希美都ココロ「あー。イヤなの?」
紺野正樹「い、イヤじゃないよ! むしろ、願ったり叶ったりなんだけど!」
希美都ココロ「いつも正樹くんには頑張ってもらってる からね。そのお礼も兼ねて。 日頃の疲れを癒して、労ってあげましょう」
紺野正樹「それじゃ・・・えっと・・・失礼します」
恐る恐る横になり、片耳を下にして、
ココロの膝の上へと頭を乗せる。
柔らかい感触に、耳と頬が着地した。
紺野正樹(・・・うっ。もう死んでもいい)
希美都ココロ「ちょ、ちょっと! なんで泣きそうになっちゃってるの!? 正樹くん、そんなに疲れてたの!?」
慌てた様子の声が、頭上から降ってくる。
希美都ココロ「大丈夫だよ、いっぱい癒して あげるからね! 任せといて!」
紺野正樹「ココロちゃん、ASMR配信をするときは、イヤホンを付けて音量を上げてる人が多いから、大声は出しちゃダメだよ」
照れ隠しに、仕事の話へと戻す。
希美都ココロ「あ、そ、そっか。囁き声だね。 よ、よーし、やるぞー」
希美都ココロ「・・・と、言っても、人に耳かきする なんて初めてだから緊張するなぁ。 い、いくよー・・・」
耳元でゴソゴソという音が響く。緊張して息を止めているのか、ココロのかすかな
吐息が、時々、苦しそうに震えた。
ここはVR空間だから、
実際に耳を掃除されているわけではない。
だが、そのことすら忘れそうになる。
希美都ココロ「耳かきって、どうして人にされると、 みんな気持ちが良いって感じるんだろうね。なんだか、不思議」
何か話そうと思ったのか、
ココロが言った。
手を止めないようにしているためか、
やや普段よりも、ぎこちなく喋っている。
希美都ココロ「どうかな。私、ちゃんとできてるかな」
紺野正樹「うん。上手・・・だと思う」
希美都ココロ「ほんと? 良かった~」
囁くココロの声が静かに落ちてきて、
気持ちが良い。
ああ、これは配信の視聴者数が
伸びそうだと、純粋に思った。
希美都ココロ「ああ、お客さん。 こいつぁ、溜まってますねぇ。ふふっ」
徐々に乗ってきたのか、
ココロらしいトークが繰り広げられる。
けれど囁き声なために、
いつもとは違う雰囲気だ。
希美都ココロ「いつも、お疲れさま。頑張ってて偉いね。 今は全力でゆっくりしてていいからね。 よしよし」
紺野正樹(これがココロちゃんに秘められていた 真の母性か・・・)
希美都ココロ「いい感じ?」
紺野正樹「うん。確実に人気出るよ、これ」
希美都ココロ「へへ、やったー」
ココロの息が頬に当たって、
くすぐったい。
希美都ココロ「眠たくなったら、 寝ちゃってもいいからね~」
紺野正樹「僕が寝ちゃったら、実験にならなくない?」
希美都ココロ「はっ。確かに」
紺野正樹「でも、眠たくなるほど気持ちがいいって ことだから、それはそれで大成功なのかも」
希美都ココロ「お。じゃあ、頑張って正樹くんを 眠らせちゃおうかな? でもこれ、ちょっと恥ずかしいね・・・」
紺野正樹「あ、やっぱり、そうなんだ」
希美都ココロ「うん。なんだか、こうしてると・・・」
紺野正樹「こうしてると?」
希美都ココロ「・・・ううん。なんでもなーい」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
耳かき棒を持った挿絵で思わず叫んでしまいました。
惚れてまうやろー!