精霊の湖

桜木ゆず

第4話 生きるための戦い(脚本)

精霊の湖

桜木ゆず

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〇児童養護施設
宿屋の主人「早く!こっちだよ!」
ルーフェン「助かるよ、ばあさん」
宿屋の主人「どうやら騎士は 村の西門辺りにいるみたいだよ」
宿屋の主人「東門から出るといいからね」
ルーフェン「ありがとう これは宿代だ、騒がしくして悪かったな」
宿屋の主人「いいのさ 前々からあの貴族には 嫌気がさしてたんだ」
宿屋の主人「こんな子どもに、 なんて酷い仕打ちさね」
宿屋の主人「・・・あんたも大変だったね」
ホープ「えっと・・・」
宿屋の主人「必ず生き延びるんだよ?」
ホープ「ええ、ありがとうございます」
宿屋の主人「あたしは東門を閉めてもらうように 村長に伝えてくるよ」
ルーフェン「感謝する・・・」
宿屋の主人「元気でね」
ホープ「ありがとうございます・・・」
ルーフェン「ホープ、馬に乗って移動するぞ」
ホープ「は、はい!」
ルーフェン「ピュー、ピュー!!」
  指笛を鳴らすと、
  一頭の馬が駆け寄ってくる
馬「ブルルル・・・」
ホープ(お、大きい・・・ 怖い・・・)
ルーフェン「よしよし、イイコだ」
ルーフェン「よっと・・・」
ルーフェン「お前は前に乗るんだ ほら、手を貸せ」
ホープ「は、はい!」
ホープ「わわっ!」
ホープ(す、すごーい! 高い!)
  今はそんな場合ではないのに、
  あまりの眺めの良さに心が躍る
ルーフェン「走らせるぞ! しっかり掴まっておけよ」
ルーフェン「行け!」

〇雪山の森の中
ホープ「・・・」
ルーフェン「・・・」
ホープ「い、痛い・・・」
  昨日執事長にムチで叩かれた傷が、
  チクチクと痛む
  馬の走るリズムに合わせ、
  まるで針でチクチクと
  刺されているかのようだった
ホープ「い、痛いっ・・・」
ホープ「でも我慢しなくちゃ!」
ホープ「気をまぎらわそう」
ホープ「あのルーフェンさん どこに向かっているのですか?」
ルーフェン「国境を越えようと思っている 幸い国境はすぐそこだからな」
ルーフェン「隣国のタージまで行けば おそらく追ってこないだろう」
ホープ「隣国へ・・・」
ホープ「うぅっ!」
ホープ「・・・っ!」
ホープ「ダメだ、痛くて内容が入ってこない 話が続かない・・・」
ルーフェン「ホープ?」
ホープ「・・・っ・・・」
ルーフェン「・・・?」
ルーフェン「なぁ、もしかしてお前、体が・・・」
ホープ「・・・っ──」
ルーフェン「おい、ホープ」
ホープ「・・・えっ? なんですか?」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「いや、なんでもない」
  少し馬のペースが落ちた
  ルーフェンは考えごとをしているようだった
ホープ(助かった・・・ もう限界だったから)
  ドドドッ・・・ドドドッ
  ・・・ドドドッ
ホープ(ん?)
ホープ(何の音だろう・・・?)
ホープ「馬の鳴き声!? それに蹄の音も!」
ルーフェン「どうした?」
ホープ「後ろに馬が何頭かいるようです!」
ルーフェン「そうか・・・、 十中八九追っ手だろうな」
ホープ「ど、どうしよう!!」
ルーフェン「大丈夫だ」
ルーフェン「ホープ 馬を降りろ」
ホープ「えっ!」
ルーフェン「大丈夫だ、 お前を置いていったりしないさ」
ルーフェン「向かえ撃つぞ」
ホープ「・・・!」

〇雪山の森の中
ホープ「怖い、怖いよ・・・」
ホープ「きっと私を殺しに来たんだ」
ホープ「今度こそ殺されちゃう! それに・・・」
ホープ「ルーフェンさんまで 私を護って死んでしまったら どうしよう」
「・・・ホープ」
ホープ「おじいの時みたいに いやだよ・・・」
ホープ「もう誰にも死んでほしくない」
「ホープ」
ホープ「はい!?」
ルーフェン「ふっ・・・ 心配するな」
ルーフェン「俺は死なないさ それにお前もな」
ホープ「・・・」
ルーフェン「ホープ、 もう少し下がっていてくれないか?」
ホープ「はい、分かりました」
ホープ(何もかも、おじいの時と同じだ・・・)
ホープ(もう、人が死ぬところを見たくない)
  ドドドッ・・・ドドドッ
ホープ「き、来たっ!」
騎士「おい!このガキっ! 許さねぇ!」
古株の騎士「落ち着け、この奴隷は主が裁くのだ だからここでは殺してはならぬ」
古株の騎士「さぁこっちへ来い 今なら楽に殺して下さるように 主へ頼んでやらんこともない」
ホープ「い、いや・・・」
ルーフェン「おい」
古株の騎士「なんだ貴様は?」
古株の騎士「奴隷・・・ではないな」
ルーフェン「お前らは騎士の風上にも置けない」
古株の騎士「ふん、貴様に騎士の、 誇り高き我々の何がわかる」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「あぁ、お前らのことなど 分かりたくもないな」
古株の騎士「お前が何者かは知らんが、 死にたくなければ、それをこちらに渡せ」
ルーフェン「”それ”か・・・ 騎士の誇りも堕ちたものだ」
ルーフェン「騎士とは主を護るためにあるのではない」
ルーフェン「主が護るその土地に住む、 全ての人を護るためにある」
古株の騎士「知ったような口を!」
ルーフェン「今、引き返せば 俺は深追いはしない」
古株の騎士「ふざけるなぁ! 貴様ごと殺してやる!」

〇雪山の森の中
ホープ「ル、ルーフェンさん・・・!」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「ホープ・・・」
ルーフェン「下がっていろ」
ルーフェン「大丈夫だ、心配するな」
ホープ「・・・」
ルーフェン「な?」
ホープ「はいっ」
  ルーフェンを・・・
  信じてみよう
  ルーフェンと騎士達は
  同時に剣を抜いた
  金属の嫌な音が耳に響く
騎士「たかが旅人風情が、 オモチャの剣で我らに勝てるとでも?」
ルーフェン「・・・」
古株の騎士「・・・」
古株の騎士「おい!油断するな! どうやら剣の構えは出来ているようだ」
古株の騎士「剣術におぼえがあるようだ 気をつけろ」
騎士「分かりましたよっと! おらっ!」
  若い騎士はルーフェンめがけ、
  一気に間合いをつめ、剣を振るった
ルーフェン「っ!」
  ルーフェンは騎士の剣を
  身軽に上手くかわし、一気に間合いに踏み込んだ
騎士「なっ!?早・・・」
騎士「がはっ!」
古株の騎士「なっ!」
古株の騎士「ばかなっ!」
古株の騎士「貴様ぁぁぁ!」
ルーフェン「遅い この程度か?」
ルーフェン「所詮こんなものか・・・」
古株の騎士「っ!!」
古株の騎士「ぐっ・・・!」
古株の騎士「はぁはぁ・・・」
古株の騎士「くそっ!なぜっ! この私が貴様なぞにっ!」
ルーフェン「終わりだ」
古株の騎士「がはっ!」

〇雪山の森の中
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「はぁ・・・」
ホープ「・・・」
ルーフェン「全部・・・ 終わったぞ・・・」
ホープ「・・・」
ホープ(助かった、だけど・・・)
  ルーフェンの傍らには
  血だらけの二人の騎士が倒れていた
  一人は目を見開いて死んでいて、
  もう一人は苦悶の表情を浮かべながら、
  息絶えていた
  そしてルーフェンの顔は
  赤黒い血で染まっていた
ホープ(平然と人を殺せるこの人が・・・)
ホープ(怖い)
ホープ(そういえば私は、 この人のことを何も知らないんだ・・・)
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「軽蔑しているんだろう?」
ホープ「・・・!?」
ルーフェン「俺が怖いか?」
ホープ「・・・」
ルーフェン「だがこれが俺だ 別に取り繕うとも思わない」
ルーフェン「信用してくれなくてもいいさ」
ルーフェン「だが俺はお前を傷つけたりしない 絶対にな」
ホープ「・・・」
ルーフェン「何か言ってくれ」
ホープ「私は・・・」
ホープ(命掛けで私を守ってくれた それは今の事実)
ホープ(だとしたらこの人には誠実に、 今の気持ちを伝えよう・・・)
ホープ「あなたの事を何も知りません」
ホープ「だからあなたの事を知ってから、 考えてみます」
ホープ「今はまだ、信用していません」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「そう・・・か」
ルーフェン「それでいいさ」
ルーフェン「さぁ、まだ追っ手が来ないとも限らない」
ルーフェン「馬に乗るぞ」
ルーフェン「来い」

〇雪洞
ホープ「・・・」
ホープ(もう限界だ・・・)
ホープ「・・・」
ホープ「ZZZ・・・」
「おい」
ホープ「は、はい!?」
ルーフェン「どうした?」
ルーフェン「国境を越えて安心するのはいいが、」
ルーフェン「しっかり手綱を握っておけ」
ルーフェン「馬を歩かせているからと言って、 手綱を離していい訳ではないからな」
ホープ「ええ」
ホープ(危ない、眠るな、がんばれホープ!)
ホープ(・・・)
ホープ(でも背中も痛いし、お腹も減ったし、 もう限界だ・・・)
ホープ「・・・」
  馬上で後ろのルーフェンに少し寄りかかった
  雪の降る中、
  馬とルーフェンの体温は温かく、
  なんだか安心する
ルーフェン「・・・」
ホープ「Zzz・・・」
ルーフェン「はぁ・・・」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「・・・」
ルーフェン「子どもは面倒だ・・・」
ホープ「・・・ZZZ」

次のエピソード:第5話 初めての街

コメント

  • ルーフェンは元騎士。生き方がかっこいい。顔も態度もイケメンでした。ホープが「あなたのことを知ってから…」と正直に言うところが何とも素直な子供の発想ぽくていいですね。

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