百合の葉に隠れないで

美野哲郎

第九話『ゆず葉とレインの物語』(脚本)

百合の葉に隠れないで

美野哲郎

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〇学校沿いの道

〇美術室
  私は、親友だと思っていた女の子に
  ──告白されたことがある
新山ルミ「あー・・・・・・はいはい」
新山ルミ「今度はそういうノリね  いいよ、この前のことは怒ってないから」
新山ルミ「これからも、一生親友でいようね」
  彼女の一世一代の告白を、そんな風に冗談として受け流した
  それからも表面上、親友のフリをし続けたけれど
  卒業してから、一度も連絡は取っていない

〇水たまり
  ──ゆずちゃん 初めて会った時から
  私はあなたに、あの子を重ねていたんだ

〇水中
  私があの子に作らせてしまったような、
  偽りの笑みを浮かべているあなたに

〇学校の部室
  けど、違ったね
月居ゆず葉「私は、レズビアンです」
  ゆずちゃんは強かった
  あれから、撮影は中断したまま
浅倉玲司「これは、浅倉の映画なのに 浅倉の世界なのにぃ」
  コントロールできると思い込んでいた〈自分の映画〉から反逆を受けた
  ショックを受けた浅倉監督は、再び失踪してしまった
  またぞろ別荘に山ごもりでもしているんだろう ブルジョアめ
  撮影は空中分解
  ゆずちゃんも部室に姿を見せなくなり
レイン「ルミさん こんにちはー」
  なぜだか レインの姿は連日見かけるようになった
新山ルミ「いや本当に何故よ 高校行きなさいよ!」
レイン「だって やっぱり私にも責任はあるから」
レイン「だからゆず葉さんに謝りたいのに 逃げられるんです~」
レイン「色々と軽率に進めちゃってたなって反省はしてるんですよ」
レイン「せっかくのゆず葉さんの居場所を このまま失くす訳にはいきません!」
新山ルミ「・・・・・・」
新山ルミ「それでいったら 私のほうが軽率だよ」
新山ルミ「待ってて、レイン ここは、私の役目かもしれない」

〇大教室
新山ルミ「──と、いう訳なの」
月居ゆず葉「じゃあ、ルミちゃん 最初から気づいてたの?」
月居ゆず葉「私が、女性が好きな女性だってこと」
新山ルミ「なんとなく、ね」
新山ルミ「「わかってた」だなんて、 ひとりよがりに過ぎないけどさ」
新山ルミ「ゴメンね ゆずちゃんを私の思い出のあの子と、勝手に重ねちゃってた」
新山ルミ「あなたは、あの子じゃないのにね」
月居ゆず葉「・・・ルミちゃん」
新山ルミ「だからさ、罪滅ぼしってわけじゃないけど」
新山ルミ「ここからは、私にゆずちゃんを見つめさせてほしいの」
月居ゆず葉「えーっと???」
新山ルミ「あのボンクラに代わって、」
新山ルミ「私が、この映画の監督になります!」
月居ゆず葉「ええっ!?」

〇団地のベランダ
月居ゆず葉(『あなたは、あの子じゃない』・・・か)
月居ゆず葉(レインだって、仁絵ちゃんではないように)

〇大教室
新山ルミ「最後まで、映画を完成させよう、ゆずちゃん」

〇団地のベランダ
月居ゆず葉「ルミちゃん 私・・・・・・」

〇学校の部室
レイン「ゆず葉さん!」
レイン「は、今日も来ないと」
新山ルミ「本当にゴメンねー レインにここまで付き合ってもらう義理ないのに」
レイン「私にだって、引き受けた責任がありますから」
レイン「物語 キチンと終わらせましょう」
レイン「私とゆず葉さんじゃなくて、 『レイコとメグミの物語』を」
新山ルミ「それにしても、今日は本当に姿見ないな」
新山ルミ「ゆずちゃん どこ行っちゃったんだろう」

〇駅のホーム

〇村の眺望
黛仁絵「わー、久しぶり」
黛仁絵「全然変わらないねー」
黛仁絵「・・・・・・なんて」
黛仁絵「ウソね 自分を作るのが上手になった」
  私のせい、って言わせたい?
月居ゆず葉「・・・・・・久しぶりね 仁絵ちゃん」

〇森の中
月居ゆず葉「んー、いい匂い こんなに新鮮な空気の中で暮らしてたんだ、私」
黛仁絵「都会に出れた人間の余裕でしょ、それって」
月居ゆず葉「うん その通り」
黛仁絵「まさか こんなに早く、またゆず葉ちゃんと並んで過ごすとは思わなかった」
月居ゆず葉「私も もう一度仁絵ちゃんに会いに来れる勇気なんて、一生手に入らないと思ってた」
黛仁絵「・・・・・・」
黛仁絵「えっ!? まさか本気で」
黛仁絵「私に会うためだけに帰って来たの? 今」
月居ゆず葉「うん そうだよ」
月居ゆず葉「だって、ちゃんと謝れていなかったでしょう?」
月居ゆず葉「その・・・キスのこと」
黛仁絵「・・・・・・」
月居ゆず葉「あの時のこと、本当にごめんなさい」
黛仁絵「・・・・・・」
月居ゆず葉「・・・あの」
黛仁絵「被害者ヅラ──」
黛仁絵「って感じ」
月居ゆず葉「そんな」
黛仁絵「私が、よ」
黛仁絵「私は、その、そういう人たち──ゆずちゃんみたいな」
黛仁絵「そういう人たちの気持ちはわからないから」
黛仁絵「けど、私も社会に出るようになって、注意深く周囲を見てるとね」
黛仁絵「時々、『あ、この人』って、わかる瞬間があるんだ」
月居ゆず葉「へ、へえ・・・」
黛仁絵「知ってるよね 私、ローカルだけどテレビ局に就職して」
黛仁絵「この数ヶ月でね、何度かあったの」
黛仁絵「地方はまだまだ古臭いからね ジッと我慢を強いられてる人たち」
月居ゆず葉「・・・・・・」
黛仁絵「それに比べたら、たかがファースト・キスくらい何よって感じ」
月居ゆず葉「そんなことない!!」
月居ゆず葉「仁絵ちゃんは、私にうんと怒っていい!」
黛仁絵「それはそうよ! 知ってる!」
黛仁絵「私がどれだけファースト・キスを特別だと思ってたか、誰より知ってたくせに!」
月居ゆず葉「ご、ごめんなさい!」
月居ゆず葉「本当にいけないことをしたと思ってます」
月居ゆず葉「ずっと、それだけを伝えたかったの・・・」
黛仁絵「・・・私も」
黛仁絵「これだけは伝えたかった 自分の口から、ハッキリと」
月居ゆず葉「う、うん・・・何?」
黛仁絵「ゆずちゃんの気持ちには応えられない」
黛仁絵「私は、女性を恋愛対象としては見れないから」
月居ゆず葉「・・・・・・はい」
「・・・・・・・・・・・・」
月居ゆず葉「ふふ」
月居ゆず葉「良かった ちゃんと初恋にお別れできた」
黛仁絵「む」
黛仁絵「なによ 勝手に吹っ切れちゃって」
黛仁絵「言っておくけど  自分のしたこと、絶対に忘れないでよね」
月居ゆず葉「はーい」
黛仁絵「ゆずちゃんのファースト・キスの相手は、私なんだから」
黛仁絵「一生、忘れないでね!」
月居ゆず葉「・・・・・・」
月居ゆず葉「うん」
月居ゆず葉「私、一生忘れないよ」

〇学校の部室
新山ルミ「それじゃ 新しい台本は頭に入った?」
サークル部員「あ 来た!」
レイン「え ゆず葉さん!?」
浅倉玲司「や、やあ 久しぶり」
新山ルミ「監督・・・いえ、浅倉さん」
浅倉玲司「知ってるよ 浅倉から勝手にメガホンを奪ったこと」
浅倉玲司「それで? メインキャストがひとり顔を出さないまま、少しでも撮影は進んだのかな」
新山ルミ「それは・・・」
浅倉玲司「だろうね さ、返してもらおうか」
浅倉玲司「浅倉の映画 『百合の葉に隠れて』を──」
月居ゆず葉「浅倉さん!」
新山ルミ「ゆずちゃん!?」
レイン「ゆず葉さん!?」
月居ゆず葉「浅倉さんが、私とレインにインスピレーションを受けてくれたこと」
月居ゆず葉「私は本当に感謝しています 光栄でした」
浅倉玲司「あ そ、そうかい?」
月居ゆず葉「だからこそ、これは『私達の物語』なんです」
月居ゆず葉「どうか、私達の感じるままに、最後まで演じさせてください」
月居ゆず葉「監督はルミちゃんで」
月居ゆず葉「『レイコとメグミの物語』を」
レイン「・・・・・・」

〇大樹の下

〇学校の部室
レイン(やっぱり格好良いな ゆず葉さんは)
レイン(うん そうだよね ちゃんと終わらせよう)
レイン(『私とゆず葉さんの物語』を)

〇海辺
  例えそれが どんなラストを迎えるとしても

次のエピソード:第十話『百合の葉に隠れないで』

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