百合の葉に隠れないで

美野哲郎

第十話『百合の葉に隠れないで』(脚本)

百合の葉に隠れないで

美野哲郎

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〇雨粒
  『目を覚ますと そこは病院のベッドの上だった』

〇田舎の病院の病室
  『メグミと過ごしている日々 ほとんど眠らず、食事もとらずにいた私は』
  『生きているのが不思議なほど衰弱しきっていたという』

〇新緑
  『私はメグミと再会する為、長年の不摂生を払拭するように体力回復に努めた』

〇森の中
  『再び朝の公園に戻ったが そこに霧が立ちこめることはなく──』
  『メグミは二度と姿を現さなかった』

〇渋谷のスクランブル交差点
  『私は社会に復帰した』
  『そりの合わない人々と友だちになり 就職し 歯を食いしばって周囲に順応するすべを覚えた』

〇森の中
  『メグミに再び会うために必要だと思えることは どんなに恐ろしくてもやり遂げた』
月居ゆず葉「『メグミ ・・・ あなたに会いたい』」
月居ゆず葉「『もし会えたら、今度こそ』」
月居ゆず葉「『一番伝えたかった言葉を伝えさせて』」
月居ゆず葉「『メグミ!?』」
  『そこにいたのは メグミによく似た女性』
女性「『ずっと あなたを探していました』」
女性「『あなたが あの子と・・・』」
女性「『本当に 本当に ・・・ありがとう』」

〇雨粒
  『メグミは、私が倒れた時と同じ病院に眠っていた』
  『いや 元からあの病院の患者だったのだ』

〇田舎の病院の病室
  『いつも笑顔だった娘が、ある日から突然、拒食と不眠を繰り返し、不登校になったという』
  『──その理由 私はなんとなく察するけれど 胸にしまっておこう』
女性「『朝 病院をこっそり抜けだし娘がいなくなっている事は知っていました』」
女性「『けれど それは私には救いでもあった あの子なりに、この世界と繋がっていてくれるなら』」
  『お母さんの願い虚しく メグミは朝の外出をやめてしまう』
  『私が倒れて もう朝の公園に訪れなくなっていた頃だ』
メグミ「『お友達が 来なくなったの』」
  『そしてメグミは 今までの眠れなかった時間を取り戻すかのように』
  『長い長い眠りについた──』

〇雨粒
  『そして長い眠りからやっと目覚めたメグミは 母親にこう求めた』
メグミ「『あの人に もう一度会いたい』」

〇田舎の病院の病室
月居ゆず葉「『メグミ・・・・・・』」
メグミ「『あ・・・・・・』」
レイン「『レイコちゃん・・・』」
レイン「『レイコちゃん レイコちゃんだ』」
レイン「『うぐ・・・ひっく』」
レイン「『うわあ~ん』」
月居ゆず葉「『ふふ よしよし』」
  『一年半ぶりに出会えたメグミの 痩せ細った体を抱きとめながら』
月居ゆず葉「『ああ なんて幼いの』」
  『私は 彼女に幻想を押しつけていた自分を恥じた』
月居ゆず葉「『ねえメグミ 私にして欲しいことがあったら言ってね』」
月居ゆず葉「『今までずっと 私は心の中であなたに甘えていた』」
月居ゆず葉「『今度は メグミに甘えてほしいの』」
レイン「『うぅ・・・あのね』」
レイン「『私 夢の中でもずっとレイコちゃんといたんだよ あの朝の公園で』」
月居ゆず葉「『ふふ 同じ病院で眠っていた効果かしらね』」
レイン「『私のお願い────』」
レイン「『あの公園から 一緒に出て行こう』」

〇霧の立ち込める森
  『私達を覆い隠す 不思議な朝霧はもう要らない』

〇森の中
  『私とメグミは 真昼の世界でデートをした』
  『真昼のメグミは 朝とは別人のように周囲の人目に怯えていた』
  『私はそっと彼女を抱き寄せる』
月居ゆず葉「『いいんだよ 私たちは私たちで』」
  『この言葉が芯まで届いて いつか彼女を支えてくれるように』
月居ゆず葉「『霧がないと 全然パッとしないね、この公園』」
レイン「『魔法、とけちゃったみたい』」
月居ゆず葉「『ねえ、いいよ メグミの願いごと、これからどんどん口にしても』」
月居ゆず葉「『今度は私が全部受け止めてあげたい』」
レイン「『・・・・・・』」
レイン「『レイコちゃん 私・・・』」
レイン「『レイコちゃんのことが』」

〇霧の立ち込める森
  『私たちはきっと この公園の外の世界について 沢山のことを受け止める必要があるんだろう』
  『ひとりでは難しくても ふたりならそれを出来るかも知れない』
  『そして 私たちが世界を受け止めたら その後は──』

〇新緑
  『この広い世界に 私たちを受け入れさせにいこう』

〇森の中
月居ゆず葉「『・・・好きよ あなたが』」
レイン「『・・・あなたのことが 大好きです』」
  『そうして 私たちはキスをした』
  『真昼の公園で 私たちだけのキスを』

〇新緑
  ───── fin.

〇説明会場
風間 泰人「うう・・・ 良かった」
風間 泰人「まだ撮影素材流しただけだけど、名作の予感や・・・」
風間 泰人(何より がんばったな、ふたりとも)
浅倉玲司「うう・・・ 本当に良かった・・・」
風間 泰人「うわっ 監督!?」
風間 泰人「いつのまにラッシュチェックに紛れ込んで」
浅倉玲司「思い知らされたよ ああ、そうか・・・」
浅倉玲司「この物語に、最初から俺は要らなかったんだなぁ」
風間 泰人「・・・・・・」
風間 泰人「それでも、ここにいるじゃないですか」
風間 泰人「誰も、いなかった事にはなりませんよ」
新山ルミ「素材チェック完了しました うん 大丈夫」
新山ルミ「撮影はこれで終了 クランクアップです ありがとうございましたー」
サークル部員「初監督、お疲れ──」
サークル部員「正直、ルミちゃんが監督で良かったよー」
浅倉玲司「ルミくん」
新山ルミ「げっ!! 浅倉」
浅倉玲司「"げっ”?」
新山ルミ「いえ、なんでもないです」
新山ルミ「あの、このたびは・・・ いくら監督がバックレたからといって」
新山ルミ「映画を横取りするような真似をしてしまい」
浅倉玲司「いや この映画がそうなるよう望んだという事だろう 気にしないでくれ」
浅倉玲司「それより 映画作りはこれからが本番だ 編集作業、よければ付き合うよ」
新山ルミ「いえ 最後まで私に頑張らせてください」
新山ルミ「これはもう 私が始めた物語ですから」
浅倉玲司「ちゃっかりしてるなあ タイトルまでこっそり変えちゃってさ」
新山ルミ「えへへ ほとんどいただきものですけどね 一部イジって──」

〇新緑
  『 百合の葉に隠れないで 』
  主演──
  レイコ:月居ゆず葉
  メグミ:新海雨音
  原案:浅倉玲司
  監督/脚本:新山ルミ

〇雑居ビル

〇街中の道路
レイン「ほんっと~に ありがとうございました、ゆず葉さん」
レイン「私はきっと、引き際が欲しかったんです 燃え尽きたかったんです」
レイン「だって、絶対に特別な出会いだって思ったから」
レイン「ドラマチックな事が起こるんだって思ったから」
月居ゆず葉「そんなに思ってくれてたのね 素直に嬉しいわ」
レイン「だからこそ、あっさりフラれてそのままなんて、信じたくなかったんです」
レイン「最後まであがきたかった」
レイン「気が付けば、いっしょに映画なんて出てしまって」
レイン「この世界に私が生きた証、ばっちし残しちゃった」
レイン「その・・・キスもしちゃったし」
レイン「うん これでもう、いい思い出に」
月居ゆず葉「もう、満足しちゃったの? 私のことはどうでもよくなった?」
レイン「え? だって、これ以上ない・・・」
月居ゆず葉「たかがキスじゃない それに、あんなのお芝居でしょ」
レイン「すっかり女優気取りだ 勘違いした素人こわー」
月居ゆず葉「う、うるさいわね」
月居ゆず葉「それで? レインは、私とキスさえ出来ればそれで良かったの?」
レイン「・・・・・・え?」
レイン「ゆ、許されるなら、その先もしてみたいですっ」
月居ゆず葉「そ、そうじゃなくてっ」
月居ゆず葉「いえ ううん・・・そうでもあるのか」
レイン「────へ?」
月居ゆず葉「『メグミとレイコの物語』は終わったわ それで?」
月居ゆず葉「私とレインの物語は、この先どうなる?」
レイン「えっ!? ちょっと待ってください 一体、何の話を──」
月居ゆず葉「だって──」
月居ゆず葉「まだ始まってもいなかったじゃない 私たちは」
月居ゆず葉「レインはまだ、私と恋する気、ある?」
レイン「・・・フッたのは、そっちのくせに」
月居ゆず葉「そうだよ だって私、まだあなたに恋心を抱いてないもん」
レイン「えーっ? 何それ」
月居ゆず葉「それでもよ」
月居ゆず葉「どう? 真剣に考えてみて」
レイン「ん・・・はい 考えてみます」
月居ゆず葉「素直ね」
レイン「どうせなら もう少し歩きません? あの公園まで」
月居ゆず葉「あの・・・?」
レイン「私とゆず葉さんが 初めて出会った」

〇大樹の下
レイン「灰島・・・私をイジメてたアイツ」
レイン「最近もう普通なんです」
月居ゆず葉「普通?」
レイン「ああ、本当に私に興味を失ったんだなって」
レイン「きっとこれから先も、彼と私の人生が交わることはない」
月居ゆず葉「そうね・・・そういう事はある」
レイン「さっきの・・・ 私が、ゆず葉さんの人生と交わること」
レイン「まだ諦めなくてもいいってことですか?」
月居ゆず葉「そういうところが子供なの」
レイン「へっ!?」
月居ゆず葉「理解しなさいよ」
月居ゆず葉「私はまだレインのこと、好きじゃないけど」
月居ゆず葉「それでも、付き合ってみない?って言ってるの」
月居ゆず葉「お試しってやつよ 普通に、ヘテロのカップルがそうしてるみたいにさ」
レイン「お、お試し!?」
レイン「むぅ・・・」
レイン「そういう事言ってると、危ないですよ」
月居ゆず葉(近い近い近い)
レイン「キスだって、その先だってなんだって、したいに決まってるじゃないですか!!」
レイン「そこまで子供じゃないですから!」
月居ゆず葉「いいよ」
レイン「へっ!?」
月居ゆず葉「私は、レインの「先輩」じゃないし、 レインは、私の「あの子」でもない」
レイン「メグミとレイコでもない?」
月居ゆず葉「ええ だから、」
月居ゆず葉「ハッピーエンドは約束出来ないけれど」
レイン「・・・決めた」
レイン「やっぱり私、ゆず葉さんと同じ大学入ります!」
レイン「有言実行して、時間をかけて、ゆず葉さんにもっともっと好きになってもらいますから」
レイン「ちゃんと大人の恋人同士になるまで、本当のキスはおあずけ」
月居ゆず葉「大した自信だこと」
レイン「私を誰だと思ってるんですか」
レイン「新しい海に響く雨の音と書いて、レインですよ」
レイン「あ、で、でも。それまでだって何度も会いに行きますからね」
レイン「受験勉強の息抜きには、たまにデートにも付き合ってくれること!」
月居ゆず葉「はいはい 出来たらね」
レイン「浮気はなしですからねーっ」
レイン「ゆず葉ちゃんっ! 大好きっ!」
月居ゆず葉「えっ、ちゃん付け?」
月居ゆず葉「あーあ 行っちゃった」
月居ゆず葉「そういうところが子供だってのよ」
月居ゆず葉「・・・まあ 少しずつわかってもらえばいいか」
月居ゆず葉「私が あなたのことをどれだけ特別に感じているか」
月居ゆず葉「私のペースで 私たちの世界を大切にしながら」

〇新緑
  私たちの恋は まだ始まってもいない
  けれど 今日からもっと この世界の見え方は変わっていくだろう
  そしていつか この世界も変えていけますように
  少しずつ 少しずつ

〇空
  変わっていきますように──

コメント

  • 完結お疲れ様&おめでとうございます。
    二人の物語が始まるまでを描いた十話、ラストにレインが去っていく時、心地よい風が吹いたように感じました^^
    サブキャラにも抱えたものがあり、それぞれ乗り越えていく所も良かったです。(元監督もちょっぴり成長!笑)
    最初から最後まで本当に丁寧な心理描写で、ドラマを見ているようでした。ついエンタメ路線に走ってしまう私ですが、こういう作品にもいつか挑戦してみたいです!

  • ラスト一気に読ませていただきました!
    ゆず葉がカミングアウトしたシーンでぐっときて、そこから物語の加速度が上がった感じがして、いつの間にかレインとゆず葉の関係性も逆転していて…惹き込まれてどんどん読んでしまいました。
    映画は無事ハッピーエンドでしたが、これからのゆず葉とレインもハッピーエンドになりますように✨
    完結お疲れ様でした😊

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