魂運びのホトトギス

Nazuna

第二話:旅人が帰る場所(脚本)

魂運びのホトトギス

Nazuna

今すぐ読む

魂運びのホトトギス
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇荒地
  リリィが故郷を発ってから七日
リリィ「あれが・・・」

〇外国の田舎町
リリィ「王都へと続く道」
リリィ「ウラル村・・・!」

〇外国の田舎町
リリィ「デイから貰った食料もほとんどなくなっちゃったし」
リリィ「他にも色々と補充しないと」
リリィ「これで、どれくらい買えるんだろう・・・」
リリィ(あの人に聞いてみよう)
リリィ「おーい、そこのひとー!」
リリィ「この辺りで、食料を売っているところは・・・」
村人「・・・あんた、この村の人じゃないね」
村人「帰ってくれ」
村人「ここはあんたが来るところじゃない」
リリィ「あ・・・」
リリィ「えっと・・・」
???「ねえあなた、南から来たの?」
リリィ「あ・・・うん」
???「私の家にいらっしゃい」
リリィ「え、」
リリィ「でも、いいの?」
???「もちろん!」
???「ほら、こっちよ」

〇西洋風の部屋
???「ただいま、お母さま!」
アリス母「おかえり、アリス」
アリス母「その子は?」
アリス「南から来たみたいなの」
リリィ「あの・・・」
アリス母「あんた・・・」
リリィ「え?」
アリス母「その服、ボロボロじゃない!」
アリス母「腕も細いし・・・満足に食事を取れてないのね」
アリス母「アリス、シャワーに案内してあげて!」
アリス母「その間にご飯作とっくからね」
アリス母「あなた、魚と肉、どっちが好き!?」
リリィ「え、えっと・・・」
アリス母「疲れた体には、肉の方がいいわね!」
アリス母「ジャガイモのシチューに、牛肉を入れて、パンと一緒に・・・」
アリス母「よし、決まり!」
アリス母「そうと決まったら、ほら、早く行きな!」
アリス「はーい」
アリス「シャワーはこっちよ、行きましょ」
リリィ「あ、うん・・・」
リリィ「あの、この服って」
アリス「私のよ。サイズがぴったりでよかった」
アリス母「あんたのは、洗ってきれいにしとくから」
アリス母「ほら、ご飯にしましょ」
アリス「いただきます」
アリス「んー! おいしい!」
リリィ「・・・・・・」
アリス「食べないの?」
リリィ「・・・ボク、ここにいていいのかな」
アリス「・・・どうして?」
リリィ「さっき・・・」

〇外国の田舎町
村人「ここはあんたが来るところじゃない」

〇西洋風の部屋
アリス「・・・・・・」
アリス母「・・・ここでも飢饉の影響はあったけど、南ほどじゃない」
アリス母「あなた以外にも、資源を求めて南から来た人はいたんだよ」
アリス母「でも厳しい旅の中で病気になったり、 疫病を患ったまま来た人もいた」
アリス母「だから、南から来た旅人をよく思っていない人も多い」
アリス母「・・・疫病で家族を亡くした人は、特にね」
アリス「お父さまも疫病にかかってね・・・ そのときはみんなに避けられていたわ」
リリィ「そう・・・なんだ」
リリィ「・・・ボク、やっぱり迷惑だったかな」
アリス母「・・・何言ってんのよ」
アリス母「あんたまだ、子供じゃないか」
アリス母「詳しいことは知らないけど、ひとりでここまで来たんだろ」
アリス母「大変だったね。よく頑張った」
リリィ「あ・・・」
リリィ「あれ・・・なんで、ボク・・・」
アリス母「さ、冷める前に食べちゃいなさい」
リリィ「うん・・・」
アリス「おいしい?」
リリィ「うん・・・おいしい・・・」
アリス「よかった!」

〇西洋風の部屋
アリス「ごちそうさま!」
リリィ「ごちそうさま」
アリス母「片づけはやっとくから、あんたたちは休んでなさい」
アリス「私の部屋に行きましょ!」
アリス母「あ、そうだ」
アリス母「あんた、名前は?」
リリィ「リリィ」
アリス「私はアリス」
アリス「よろしくね、リリィ」
アリス「さ、行きましょ」

〇可愛らしいホテルの一室
アリス「シチュー、美味しかった?」
リリィ「うん、とても」
アリス「よかった!」
アリス「今度は、あなたの話を聞かせて」
アリス「リリィはどうしてこの村に来たの?」
アリス「やっぱり、飢饉や疫病から逃れるため?」
リリィ「実は、そういうわけじゃなくて・・・」
リリィ「アリスは、『魂の還る場所』って聞いたことある?」
アリス「メルト山のこと?」
リリィ「知ってるの!?」
アリス「うん、あのね・・・」
アリス「えーと、どこだったかな・・・」
アリス「あった!」
アリス「これ」
リリィ「絵本?」
アリス「そう」
アリス「家族を亡くした小鳥が、神様に会うためにメルト山の頂上に向かう話で・・・」
アリス「最後のページに・・・ほら」

〇雪山
  『小鳥』
  空に近い場所に行けば、神様に会える
  そう信じ、小鳥は雪の中をけんめいに飛んでいました
  長い飛行の末、小鳥は大陸でいちばん高い山、メルト山の頂上に辿り着きました
  『かみさま、かみさま』
  『わたしの家族は、どこにいったのですか?』
  小鳥が空に向かってそう訪ねると、雲の切れ間から声が聞こえてきました
  『あなたの家族は、皆ここにいます』
  『あなたの冒険を、ずっと見守っていたのですよ』
  それを聞いた小鳥は、安心して目を閉じました
  やがて小鳥は、ゆっくりと眠りに落ちていきました
  小鳥の魂は、小さな光となって、空に昇っていきました
  小鳥と家族は、ようやく一緒になれたのです

〇可愛らしいホテルの一室
アリス「・・・こうして、メルト山は『魂の還る場所』として」
アリス「他の動物たちに、知られるようになったのでした」
アリス「めでたし、めでたし」
リリィ「・・・・・・」
アリス「この物語と、あなたの旅に関係があるの?」
リリィ「うん、ボクの兄さんが・・・」
リリィ「──だからボクは、『魂の還る場所』を目指して、北に向かって旅をしてるんだ」
アリス「そうだったの・・・」
リリィ「兄さんは、この絵本を読んだことがあったのかな」
アリス「うーん」
アリス「この物語は、アランスカ地方に住む民族の伝承を元にしてるって聞いたことがあるわ」
アリス「リリィのお兄さんは、誰かからこの話を聞いたのかもしれないわね」
リリィ「そう、なのかな」
リリィ「ありがとう、教えてくれて」
アリス「いえいえ」
アリス「ねえ、これからどうするの?」
リリィ「この村で資源を手に入れてから王都に向かうつもりだったんだけど・・・」
リリィ「これで、どれくらいの食料が買えるのかな」
リリィ「王都は物価が高いだろうから、できるだけここで買っておきたいんだけど・・・」
アリス「えっと・・・」
アリス「ジャガイモ、一個くらい・・・?」
リリィ「え?」
アリス「い、いや。もしかしたら二個・・・」
アリス「三個くらいなら、サービスしてくれるかも・・・?」
リリィ「・・・・・・」
リリィ「ボクって、貧乏だったんだ・・・」
アリス「あ、そうだわ!」
アリス「リリィ、しばらくこの村に留まってみない?」

〇西洋風の部屋
アリス「──というわけなの」
アリス「お父様がいなくなってから人手不足だったし、」
アリス「リリィに手伝ってもらえば、お金も渡せるでしょう?」
アリス母「・・・そうね」
アリス母「じゃあ、一週間」
アリス母「一週間私たちと一緒に働いてくれたら、十分な給料をあげる」
アリス母「それでどう? リリィ」
リリィ「願ってもないことだよ・・・!」
リリィ「こちらこそ、よろしくお願いします」
アリス母「よし!」
アリス母「そうと決まれば早速働いてもらうよ!」
アリス母「まずは畑仕事から! やり方はアリスに教えてもらいな!」
「はい!!」

〇山中の滝
リリィ「わあ、きれいな水・・・!」
アリス「そうでしょう?」
アリス「ウラル村の自慢のひとつなのよ」

〇可愛らしいホテルの一室
アリス「気をつけてね」
アリス「針が手に刺さらないように」
アリス「そう、そこを通して・・・」
リリィ「できた!」

〇菜の花畑
アリス「私が穴を掘るから、そこに種を植えていってね」
リリィ「うん、わかった」
村人「ほら、あれが南から来たっていう・・・」
村人「・・・ホント、いい迷惑だよ」
リリィ「・・・・・・」

〇西洋風の部屋
アリス母「じゃ、これをラルフさんのとこへ持ってってあげて」
アリス「はーい」

〇外国の田舎町
リリィ「アリス!」
リリィ「どこ行くの?」
アリス「ご近所さんに、野菜のおすそ分けしてきてってお母さまに言われたの」
リリィ「あの・・・ボクも一緒に行っていいかな」
アリス「・・・ええ、いいわよ」
アリス「でも、大丈夫?」
リリィ「うん」

〇廃倉庫
アリス「・・・ラルフさんは、疫病で娘を亡くしているの」
アリス「もしかしたら、あなたにひどいことを言ってしまうかもしれない」
アリス「でも、あんまり気にしないであげて」
リリィ「・・・ボクは、大丈夫」
アリス「ラルフさん?」
アリス「お野菜の、おすそ分けです」
ラルフ「ああ・・・ありがとうね」
ラルフ「そっちは・・・」
ラルフ「・・・他に用がないなら、帰ってくれ」
アリス「ラルフさん・・・」
リリィ「あ、あの!」
ラルフ「な、なんだね」
リリィ「ボクは、」
リリィ「家族を亡くして・・・彼らの魂を『魂の還る場所』に届けるために旅を始めた」
リリィ「確かにボクは、あなたたちにとって迷惑な存在かもしれない」
リリィ「けど、ある人に出会って、ボクにも出来ることがあるんじゃないかって思えたんだ」
ラルフ「なんだ、何が言いたい」
リリィ「・・・あなたの娘さんの話を、ボクに聞かせてくれませんか」
ラルフ「・・・・・・」
ラルフ「・・・よそ者に話すことなんか、何もない」
アリス「ラルフさん!」
ラルフ「・・・・・・」
ラルフ「・・・わかったよ。こっちに来なさい」

〇小さな小屋
ラルフ「・・・娘の部屋だ」
ラルフ「今ではもう、ただの空き部屋さ」
ラルフ「疫病で・・・唐突すぎる死だった」
リリィ「・・・あれは?」
ラルフ「・・・娘が大切にしていたぬいぐるみだ」
ラルフ「部屋を片付けて、あの子のものは全て売り払って・・・」
ラルフ「あの子のことは忘れて、前を向こうと思っても」
ラルフ「これだけは、捨てられなかった・・・」
リリィ「・・・ラルフさん」
リリィ「ボクは、『魂の還る場所』を目指して旅をしています」
リリィ「・・・あなたさえよければ、このぬいぐるみをボクにくれませんか」
ラルフ「君が・・・」
ラルフ「娘の魂を・・・ 連れていってくれるのかい・・・?」
リリィ「約束します」
リリィ「ボクが最後まで、娘さんを連れていきます」
ラルフ「ありがとう・・・」
ラルフ「ありがとう・・・」

〇西洋風の部屋
  翌日
アリス「はーい」
アリス「アンジュさん! どうかしましたか?」
アンジュ「・・・リリィって子はいるかい?」
アリス「今は私の部屋に・・・」
アリス「リリィ!」
リリィ「どうかした?」
アンジュ「あんたがリリィだね」
アンジュ「ラルフから聞いてここに来たのさ」
リリィ「これは?」
アンジュ「私の・・・死んだ夫が大事にしてた懐中時計さ」
アンジュ「あの人は、いつか旅に出たいとよく言っていたよ」
リリィ「これを、ボクに?」
アンジュ「・・・本当は、こんなこと頼める立場じゃないのかもしれないけど」
アンジュ「受け取ってくれるかい?」
リリィ「もちろんだよ」
アンジュ「・・・ありがとね」
アンジュ「それだけだよ、邪魔したね」
アリス「・・・・・・」
アリス「みんな、今を生きるのに精一杯で、亡くした人を弔う余裕もなかったのね」
アリス「リリィ」
アリス「あなたが来てくれてよかった」

〇外国の田舎町
村人「あ・・・」

〇外国の田舎町
村人「ここはあんたが来るところじゃない」

〇外国の田舎町
リリィ「・・・・・・」
村人「ま、待って!」
村人「あの・・・」
村人「あの時のこと、謝らせてほしいの」
村人「夫を殺した疫病が憎くて」
村人「疫病を持ち込んだ旅人を憎んで」
村人「あなたに、酷いことを言ってしまった」
村人「辛いのは、あなたも一緒なのにねえ・・・」
リリィ「顔をあげて」
リリィ「ボクは、大丈夫だから」
村人「これ・・・」
村人「夫との写真・・・あの人との思い出は、これくらいしかなかったけど・・・」
村人「あなたに、渡してもいいかしら?」
リリィ「うん」
リリィ「ボクがちゃんと、持っていくよ」
村人「ありがとう・・・」
村人「本当にありがとうねえ・・・」
リリィ(・・・兄さん)
リリィ(ボクなりに、なんとか頑張ってるよ)
リリィ(でもその分、責任重大だ)
リリィ(絶対に、メルト山に辿り着かなきゃね)
リリィ(絶対に・・・)

〇菜の花畑
  そして、出発の日──

〇西洋風の部屋
アリス母「うん、よく似合ってるよ」
リリィ「ほんと?」
リリィ「新品みたいだ・・・本当にありがとう」
アリス母「ううん、これくらいのことはしてあげなくちゃ」
アリス母「食料も水もちゃんと持ったね?」
リリィ「うん、十分すぎるくらい」
アリス「リリィ!」
リリィ「アリス!」
アリス「ちょっと、私の部屋に来て!」

〇可愛らしいホテルの一室
リリィ「どうしたの?」
アリス「私から、あなたに渡したいものがあるの」
リリィ「渡したいもの?」
アリス「これよ」
リリィ「あ」
リリィ「あの絵本?」
アリス「うん、あなたに持っててほしいの」
アリス「でもこれはね、メルト山に置いていっちゃだめよ」
アリス「旅を終えたら、またここに戻ってきて」
アリス「絵本はそのときに返してほしいの」
アリス「だって今のあなた、まるで」
アリス「『旅が終わったら死んでもいい』」
アリス「って思ってるみたいだもの」
リリィ「・・・!」
アリス「亡くなった人を弔うのは大切なこと」
アリス「でも、あなたの人生はそのあとも続くのよ」
アリス「だから、ちゃんと帰ってきてね」
アリス「私はここで、あなたのことを待ってるから」
リリィ「アリス・・・」
アリス母「そろそろ出ないと、王都に着く前に日が暮れちまうよ!」
アリス「はーい!」
アリス「行きましょうか」
リリィ「うん、そうだね」

〇外国の田舎町
リリィ「それじゃあ、ボクはこれで」
アリス母「気を付けてね、食事もしっかり」
アリス「私たちはここで、あなたの帰りを待ってるから」
アリス「いってらっしゃい、リリィ」
リリィ「うん」
リリィ「いってきます」
  旅が終わったら、なんて
  考えたこともなかった
  背負うものは多くなったけど、
  足取りは軽い
  帰る場所があるということが、
  ボクの背中を押してくれる
  王都へと続く道、ウラル村
  旅人が、帰る場所──

次のエピソード:閑話:旅する懐中時計

コメント

  • よそ者を嫌う冷たい人たちがの心が氷解していくのが良いですね。物悲しさがありながら優しさに溢れた展開がこの物語の独特な雰囲気を作っているのだと思います。人々の想いを託されながら進む使命感を強めながら、もう一つの帰らなくてはいけないという想いもリリィを勇気づけ強くするのでしょうね😢

  • こんばんは!
    泣きました😭アリスとお母さん北と南というカテゴリーではなくリリィ個人を、ちゃんと見てくれる人がいて良かったです

    アリスが渡した日記を返すために帰る理由も出来ましたね
    まさに帰り道、bgmへのこだわりにも拍手です

    心温かくなりました

  • 本のとおりだと、家族は魂を還すまでもなく最初からメルト山にいたことになるんですよね。そして小鳥が家族の待つ場所で命を落とす。
    お兄さんの意図はどうだったのでしょう。疫病と孤独で死ぬくらいなら自分が待つ場所で一緒にあの世を生きようというメッセージだったのか…。
    リリィが無事に帰ってこれることを願ってます。

コメントをもっと見る(9件)

ページTOPへ