1 カンデラ × = q.e.d.

きせき

エピソード2-秋色の刻-(脚本)

1 カンデラ × = q.e.d.

きせき

今すぐ読む

1 カンデラ × = q.e.d.
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇貴族の部屋
黒野すみれ「・・・・・・」
リエ「黒野様。お茶をお持ちいたしました」
黒野すみれ「あ、リエさん・・・・・・」
リエ「朝は雨が降っていましたが、今日はもう雨が降らないようですね」
黒野すみれ「ありがとうございます。すみません、仕事を増やしてしまって・・・・・・」
リエ「いえいえ、エマメイド頭にも明石家にとって大切なお客様だと申しつかっております」
リエ「それに何故でしょう・・・・・・私は黒野様にお会いしたことがあるように思うのです」
リエ「お会いする・・・・・・いえ、それだけではなく、お話をさせていただいたことも」
黒野すみれ「・・・・・・」
リエ「あ、不躾なことを申し上げてしまいましたね」
リエ「申し訳ありません。今の話はご放念いただけますと」
  リエさんはそう言うと、部屋を出て行こうとする。
黒野すみれ「リエさん・・・・・・」
リエ「はい」
黒野すみれ「・・・・・・いえ、何でもないです。紅茶、ありがとうございました」
リエ「いえ、こちらこそありがとうございます」
リエ「他にもご要望がございましたらベルでお知らせくださいね」
黒野すみれ「(今日は東刻さんと南田さんの遺体が戻ってくる日らしい)」

〇銀閣寺
  過去が確定される前の世界では
  東刻さんが息を引き取った後、
  彼が月見櫓に火を放った。
  全ては主人の罪を葬るため
  主人の願いを叶えるために・・・・・・

〇貴族の部屋
黒野すみれ「(この世界では2人とも火災で亡くなっていて、事件性はないと判断されたらしい)」
黒野すみれ「(ただ、ここは明石家。明石家の当主が亡くなり、新当主を立てなければならない)」
黒野すみれ「(それ故、遺体がないまま葬儀を行って、今日は近親者のみで秘密裏に弔うらしい)」
黒野すみれ「(近親者・・・・・・青刻さんと東刻さんの婚約者だったトキ)」

〇城の会議室
黒野すみれ「あ・・・・・・」
物部トキ「あ・・・・・・おはようございます」
リエ「おはようございます、トキ様」
物部トキ「おはようございます、リエさん。えーと、そちらの方も今日の式に?」
リエ「・・・・・・いえ、青刻様のご友人の方と伺っております」
物部トキ「そうなんですね・・・・・・すみません、挨拶もしないで・・・・・・」
物部トキ「私は物部トキと申します」
黒野すみれ「私は黒野すみれ・・・・・・です」
物部トキ「黒野さんと仰るんですね。よろしくお願いいたします」
黒野すみれ「・・・・・・はい、こちらこそよろしくお願いします」

〇黒
  頭では分かっていた筈なのに、
  今の世界では友人になっていない友人

〇貴族の部屋
黒野すみれ「・・・・・・」
黒野すみれ「(これから、どうしたら良いんだろう)」
黒野すみれ「(青刻さんと話すべきなんだろうけど、今日は難しいだろうな)」
黒野すみれ「(トキも同様・・・・・・でも、話せたとしても、今のトキは・・・・・・)」
  私の知っているトキとは全く違う人間だった。
黒野すみれ「・・・・・・胡蝶庵にでも行ってみようか」

〇大きな日本家屋
  胡蝶庵・・・・・・春刻がかつて生活していた場所。
  春刻が存在しないこの世界では日向かし庵という名で
  東刻氏が幼少期を過ごした場所・・・・・・
  ということになっているらしい。

〇貴族の部屋
黒野すみれ「(日向かし庵・・・・・・春刻がいる世界ではその後、胡蝶庵になった)」
黒野すみれ「(でも、春刻がいない世界では東刻さんの家のままだった)」
黒野すみれ「(春刻がいる世界の東刻さんが知ったとしたらどう思うだろう)」
黒野すみれ「(まぁ、考えても仕方ないか・・・・・・)」
黒野すみれ「(それでも、考えずにはいられないかも知れないけど・・・・・・)」

〇大きな日本家屋
黒野すみれ「(さて、やってはきたけど・・・・・・)」
  そう・・・・・・ここはもう胡蝶庵ではない。
  玄関を開錠するパスワードはあの時のものとは違う。
黒野すみれ「(とりあえず、庭の方にでも行ってみようか)」
黒野すみれ「(部屋の中でずっと考え込むよりは良いかも知れないし)」
  部屋で考え込むよりは・・・・・・と思って、
  私は例の庭に向かう。
  ただ、私は庭には向かえなかった。
  いや、より正確に言えば、庭に行くことはできた。
  そこにはかなり信じられない光景が
  目の前に広がっていたけれど・・・・・・

〇黒
黒野すみれ「(あれ?)」
  私は庭に向かって歩いた筈なのに、
  その道は途中でぷつりとなくなってしまう。
黒野すみれ「(どういうこと?)」
  しかも、覚えのある感覚が私を襲う。

〇魔法陣2
黒野すみれ「(この感じって・・・・・・)」

〇風流な庭園
黒野すみれ「・・・・・・」
黒野すみれ「(こ、ここは?)」
  と思ってみたものの、あの庭に違いなかった。
  ただ、さっきまで午前中だったし、
  着ている服だって違っていた。
  しかも、絶対この世界にはいる筈のない人がいた。
黒野すみれ「秋川さん・・・・・・」
  そんな、どうして、彼が、ここに?
  そんな言葉が頭の中を駆け巡る。
  確かに春刻は存在しない世界だが、
  彼もまた既にこの世界にはいない筈の存在だ。
秋川「貴方は私を知っているようですね」
秋川「差し支えなければ、貴方のお名前をお伺いしても?」
黒野すみれ「私は・・・・・・黒野すみれです」
秋川「ありがとうございます。改めてまして、私は秋川昂と申します」
秋川「すみれ様とおっしゃると・・・・・・もしかして、貴方がトキ様のおっしゃっていた?」
黒野すみれ「トキ・・・・・・」
  この世界は私がトキと友人だった世界なのだろうか。
  春刻も存在する世界なのだろうか。
黒野すみれ「はい、私はトキの友人です」
秋川「そうですか・・・・・・貴方があの子の・・・・・・」
  あの子というのは勿論、春刻のことだろう。
  秋川さん、もとい、夏坂さんはよく見ると、
  春刻に似ていた。
黒野すみれ「(まぁ、当然と言えば当然だよな。春刻は秋川さんの子なんだから)」
  私がそんなことを考えていると、
  秋川さんは私に聞いてきた。
秋川「貴方はあの子・・・・・・いえ、春刻様をどう思いますか?」
黒野すみれ「え?」
秋川「いや、失礼。トキ様から春刻様は貴方を好いているとお聞きしていたので」
黒野すみれ「私は・・・・・・」
  どう答えるのが正しいのかは分からない。
  ただ私にとって春刻は・・・・・・
黒野すみれ「彼がいない世界では生きていく自信がありません」
  好きか、そうでないか。
  そんな簡単な言葉では表せないくらい
  私にとって春刻は大きな存在だ。
黒野すみれ「(彼がいなければ、私は父さんを失っていた)」
黒野すみれ「(それだけじゃない・・・・・・彼は何度も私を助けてくれた)」
黒野すみれ「(自分の1年間の寿命を何度も犠牲にして・・・・・・)」
  これから彼がいない世界を歩いていけるのか
  それは歩けたとしても痛みを伴う人生だろう。

〇畳敷きの大広間
秋川「すみません、大したおもてなしができないのですが・・・・・・」
黒野すみれ「いいえ、その・・・・・・お構いなく」
  やがて外では日が暮れていって、
  私はことの顛末を秋川さんに話していた。
  顛末・・・・・・まだ終わるどころか、
  この時点では始まってすらいない
  彼の描いた物語を・・・・・・
秋川「・・・・・・」
黒野すみれ「・・・・・・」
  私は全てを話し終えた。
  全て・・・・・・

〇地下室
  春刻が秋川さんの命を奪った犯人を見つける為、
  私を寿命が許す限り、過去へ送ったこと
  そして、その犯人を永久に時間の中へ閉じ込め、
  明石家当主としての禁則を犯したこと。
  その結果、彼は世界からいなくなってしまったこと。

〇畳敷きの大広間
秋川「あの子に私達は愛されていたのでしょうね・・・・・・」

〇魔法陣2
  そう・・・・・・
  かたや、自らの命と引き換えに生かされた者
  かたや、自分の命と引き換えに復讐された者
  歪ではあるが、両者とも愛されていたのだろう。

〇畳敷きの大広間
秋川「許されるのならそんな馬鹿なことをするあの子を止めたいですね」
秋川「殴りつけてでも・・・・・・」
黒野すみれ「・・・・・・」
  笑顔でバイオレンスなことを言うのは
  春刻にも受け継がれたのかも知れない。
秋川「貴方の話は分かりました。私が死んだ後、あの子は寿命を使い、禁則も犯してしまう」
  秋川さんは静かに言うと、本邸の方を見た。
  春刻を案じているのだろうか。
黒野すみれ「でも、貴方が生きていれば、彼は・・・・・・」
秋川「・・・・・・それはそうですね。ただ、貴方も見てきたのならご存じの筈です」
  そうだ・・・・・・私は見てきた。

〇風流な庭園
  秋川さんの寿命はあと僅かなこと。

〇宮殿の門
  彼を亡きものにしようと
  彼の兄弟と使用人がいたこと。

〇畳敷きの大広間
秋川「すみれ様・・・・・・すみれ様はあの子を助けていただけますか?」

次のエピソード:エピソード3-秋色の刻-

成分キーワード

ページTOPへ