盲目の神絵師

富士鷹 扇

エピソード1 読めない手紙(脚本)

盲目の神絵師

富士鷹 扇

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〇美術室
  母さんに褒めてもらえた
  家族以外にも認められた
  沢山の人が私の絵を求めてくれた
  ああ
  頑張って絵を描いてきて
  よかったなぁ
  失望された!
  きっと失望された!
  飽きられる!
  見捨てられてしまう!
  もう一年も経ったのに!
  スランプから抜け出せない!
  早く早く早くどうにかしないと!
  どんな手段を使ってでも!
  何に頼ってでも

〇黒

〇黒

〇黒

〇バスの中
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「くぁぁ」
車内アナウンス「次は 夜つがい村 夜つがい村」
桜庭 りん「やっと着いた」
車内アナウンス「お降りの方は押しボタンでお知らせください」
桜庭 りん「降りまーす」

〇田舎のバス停
桜庭 りん「んぅ」
桜庭 りん「自然が豊かな匂いがするね」
桜庭 りん「それと」

〇神社の出店
  これは
  お祭りの準備をしている匂い?

〇田舎のバス停
桜庭 りん「今日はお祭りかな」
桜庭 りん(人が多いと歩きにくいから嫌だけど)
桜庭 りん「まあ大丈夫か」
桜庭 りん「えっと 目的地は」
桜庭 りん「あっちだね」

〇屋敷の門
桜庭 りん「匂いの元は、ここかな」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん(チャイムどこ?)
九曜「おや?」
九曜「もしや画家の 桜庭先生ですかな?」
桜庭 りん「あ そうだよ」
桜庭 りん「廃業中だけど」
桜庭 りん「貴方がこの手紙の送り主?」
九曜「ええ、たしかに」
九曜「あたくしが送り主の」
九曜「九曜と申す者です」
桜庭 りん「会えてよかった」
桜庭 りん「貴方を訪ねに来たんだよ」
桜庭 りん「アポなしで来ちゃってごめんね 九曜さん」
九曜「それは全くかまいやしませんが」
九曜「まさか、お一人で?」
桜庭 りん「うん」
九曜「連絡してくだされば」
九曜「迎えをよこしましたのに」
桜庭 りん「大丈夫だよ」

〇黒
  目は見えなくなったけど
  鼻が利くようになったからね

〇広い和室
桜庭 りん「点字の手紙なんて」
桜庭 りん「初めて貰ったから驚いたよ」
九曜「無事、先生のもとへ届いてよかった」
桜庭 りん「でもごめんなさい」
桜庭 りん「私、まだ点字は読めないの」
九曜「それはそれは」
九曜「読めない手紙の送り主に」
九曜「よく会いに来てくださいましたな」
桜庭 りん「手紙の内容は分からなかったけど」
桜庭 りん「この便箋の匂いが気になってね」
九曜「匂い?」
桜庭 りん「うん」
桜庭 りん「化け物の匂いがするんだ」
桜庭 りん「この手紙からも」
桜庭 りん「貴方からも」
九曜「ほお」
桜庭 りん「半年前」
桜庭 りん「スランプに苦しんでいた私の前に現れて」
桜庭 りん「画力を与えて」
桜庭 りん「代わりに視力を奪った」
桜庭 りん「あの化け物と同じ匂い」
九曜「・・・」
桜庭 りん「会わせてくれない? 匂いの元に」
九曜「・・・」
九曜「こちらへ」

〇黒

〇古民家の蔵
九曜「これが先生の言う」
九曜「化け物の匂い」
九曜「その元となる物でしょう」
桜庭 りん「ん?」
桜庭 りん「この匂い・・・」
九曜「お分かりになりますか」
九曜「コレは」
九曜「桜庭先生」
九曜「アナタが描いた絵画です」
桜庭 りん「腕が八本ある化け物の絵?」
九曜「左様です」
桜庭 りん「あの絵」
桜庭 りん「貴方が落札したんだ」
九曜「ええ」
九曜「この絵は」
九曜「化け物を完全に再現している」
九曜「だからこそ先生の言う」
九曜「『化け物の匂い』まで再現したのやも」
桜庭 りん「じゃあ」
桜庭 りん「ここにアイツは居ないんだね」
九曜「そうですな」
九曜「ところで」
九曜「先生に送った手紙は」
九曜「他の絵も買い取らせて欲しい」
九曜「といった内容でしたが」
桜庭 りん「そう」
桜庭 りん「悪いけど、在庫はないよ」
桜庭 りん「私の絵は結構売れるからね」
九曜「それは残念」
桜庭 りん「それに」
桜庭 りん「貴方が欲しいのは」
桜庭 りん「多分」
桜庭 りん「化け物に画力を貰ってからの」
桜庭 りん「私の絵だよね?」
九曜「・・・」
九曜「ええ」
桜庭 りん「ならその一枚しかないよ」
桜庭 りん「画力を貰って」
桜庭 りん「試しに」
桜庭 りん「化け物の姿絵を描いたら」
桜庭 りん「すぐに対価として」
桜庭 りん「視力を持って行かれたから」
九曜「・・・」
桜庭 りん「もう一度、化け物に会いたくて来たんだけど」
九曜「そうでしたか」
桜庭 りん「居ないなら仕方ない」
桜庭 りん 「ごめんね、お邪魔しちゃって」
九曜「ああ お待ちください」
桜庭 りん「ん?」
九曜「どうでしょう ここは一つ」
九曜「あたくしと取引をしてみませんか?」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「どんな?」
九曜「あたくしが 先生の視力を取り戻せるように」
九曜「段取りを組みましょう」
桜庭 りん「!?」
九曜「代わりに」
九曜「先生には あたくしが求める絵を描いて頂きたい」
桜庭 りん「求める絵と言われても」
桜庭 りん「目が見えないから・・・」
九曜「絵を描く際に必要な視力は」
九曜「あたくしが用意いたします」
桜庭 りん「そんな事できるの!?」
九曜「できますとも」
九曜「あたくしは蒐集家でしてな」
九曜「妖しく便利な物も」
九曜「所有しておりますので」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「描いて欲しいものって なに?」
九曜「怪異たちです」
桜庭 りん「怪異?」
九曜「先生の言う化け物のことですな」
九曜「ああいった存在は 存外、世界におりますゆえ」
桜庭 りん(え、こわ)
桜庭 りん「どうして怪異の絵を 私に描かせたいの?」
九曜「先生の絵は 怪異を完全に写し取れます」
九曜「それはつまり」
九曜「怪異の依り代を作る事ができる」
九曜「という事」
桜庭 りん「?」
九曜「怪異は繊細な存在でして」
九曜「時代と共に削れ消えゆくものなのです」
九曜「しかし 依り代があれば」
九曜「怪異は存在を維持することが出来る」
九曜「あたくしは怪異をコレクショ・・・」
九曜「いえ、保護したいのです」
桜庭 りん(コレクションって言った)
桜庭 りん「怪異を描くって事は」
桜庭 りん「怪異に関わるってことだよね?」
九曜「勿論 大量の怪異と関わっていただく事になるでしょうな」
桜庭 りん「それ、危なくない?」
九曜「当然、命の保証はありません」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「少し、考えさせて」
九曜「ええ、存分に」

〇田園風景
桜庭 りん(視力を取り戻す為に)
桜庭 りん(命をかけるべきかどうか)
桜庭 りん「まあ、悩む必要なんかないか」
桜庭 りん「絵が描けない私に 価値はない」
桜庭 りん「描けないまま生きるより」
桜庭 りん「怪異に関わって死んだ方が」
桜庭 りん「マシだ」
桜庭 りん (取引に応じよう)
桜庭 りん 「ぁ」
「いたた」
(こけちゃった)
狗飼 みきお「おい、あんた大丈夫か!?」
「あ、大丈夫だよ」
「慣れてるんで」
狗飼 みきお「慣れるなよ そんな事に」
狗飼 みきお「ほら、掴まれ」
「ありがと」
「よっこいしょ」
桜庭 りん 「助かったよ」
狗飼 みきお(目ぇ見えないのか)
狗飼 みきお「あんた、見かけない顔だが」
狗飼 みきお「祭り見物にでも来たのか?」
桜庭 りん 「違うよ」
桜庭 りん 「あれ?」
桜庭 りん 「貴方からは都会の匂いがするね」
桜庭 りん 「アスファルトや排気ガスの匂いだ」
桜庭 りん 「地元の人じゃないのかな?」
狗飼 みきお「ん、ああ 昔はここに住んでたんだが」
狗飼 みきお「今は引越しちまって」
狗飼 みきお「って」
狗飼 みきお「すんげえ嗅覚だな」
桜庭 りん 「凄いでしょ」
桜庭 りん 「貴方はお祭りに参加しに戻って来たの?」
狗飼 みきお「いや」
狗飼 みきお「人を探しに来たんだ」
桜庭 りん 「人探し?」
狗飼 みきお「ああ でもまあ」
狗飼 みきお「望み薄だがな」
桜庭 りん 「起こしてもらった借りもあるし」
桜庭 りん 「手伝ってあげよう」
桜庭 りん 「警察犬より鼻が利く この私がね」
狗飼 みきお「そりゃ心強い」
狗飼 みきお「これの持ち主だ」
桜庭 りん (匂いが薄い けど)

〇古びた神社
  女の子の匂い
  かな

〇田園風景
桜庭 りん 「持ち主は女の子?」
狗飼 みきお「ああ 娘だ」
狗飼 みきお「神隠しにあった」
桜庭 りん 「神隠し?」
狗飼 みきお「五年前」
狗飼 みきお「この祭りの日に」
狗飼 みきお「娘は俺たちの目の前で」
狗飼 みきお「忽然と姿を消した」
桜庭 りん (五年前・・・)
狗飼 みきお「無駄なのは分かってるんだが」
狗飼 みきお「諦めきれなくてな」
狗飼 みきお「娘を思い出すこの田舎から」
狗飼 みきお「逃げ出しても」
狗飼 みきお「毎年毎年」
狗飼 みきお「祭りの日には」
狗飼 みきお「娘を探しに来ちまうんだ」
桜庭 りん 「そう・・・」
狗飼 みきお「まあ、もし」
狗飼 みきお「娘の匂いがしたら」
狗飼 みきお「教えてくれや」
桜庭 りん 「うん」
桜庭 りん 「任せてよ」
桜庭 りん 「鼻だけはいいんだから」
狗飼 みきお「ありがとよ」
狗飼 みきお「んじゃ」
狗飼 みきお「用があるから行くわ」
桜庭 りん 「うん」
桜庭 りん 「起こしてくれてありがとね」
狗飼 みきお「一人で大丈夫か? また転ばないか?」
桜庭 りん 「大丈夫だよ」
狗飼 みきお「気ぃつけろよ」
桜庭 りん 「はいはーい」
桜庭 りん 「・・・」
桜庭 りん 「家族ねぇ」
桜庭 りん 「・・・」
桜庭 りん 「もし、私が死んじゃったら」
桜庭 りん 「お父さんも悲しむのかな」
桜庭 りん 「・・・」
桜庭 りん 「悲しむだろうなぁ」
桜庭 りん 「・・・」
桜庭 りん 「気が変わっちゃった」

〇広い和室
桜庭 りん「ごめんなさい、九曜さん」
桜庭 りん「私、もう怪異に関わらず」
桜庭 りん「のんびり生きていこうと思うの」
九曜「それは、残念です」
桜庭 りん「長々とお邪魔しちゃってごめんね」
桜庭 りん「そろそろ帰るよ」
九曜「む?」
九曜「もうバスは出ておりませんよ」
桜庭 りん「え゛」
桜庭 りん「もうそんな時間!?」
九曜「今は18時過ぎですが」
九曜「まあ、田舎ですからな」
桜庭 りん「ど、どうしよ」
九曜「泊まっていかれますか?」
桜庭 りん「いいの?」
九曜「構いませんとも」
九曜「大したおもてなしは出来ませんがね」

〇黒

〇広い和室
桜庭 りん「ごちそうさまでした」
九曜「お粗末様」
九曜「今夜は村の祭りがありますが」
九曜「見に行かれますか?」
桜庭 りん「んー」
桜庭 りん「今日は疲れたからやめとくよ」
桜庭 りん「ぐっすり眠ります」
九曜「そうですか」
九曜「・・・」
九曜「桜庭先生」
桜庭 りん「ん?」
九曜「怪異を描ききる画力は勿論ですが」
九曜「怪異の匂いを嗅ぎ取る」
九曜「その嗅覚もまた、稀有な物です」
桜庭 りん「そうなの?」
九曜「ええ」
九曜「あたくしには」
九曜「いえ、他の人間にも」
九曜「怪異の匂いなど」
九曜「分かりませんとも」
桜庭 りん「そうなんだ」
九曜「その能力を遊ばせておくのはもったいない」
九曜「気が変われば、いつでもあたくしをお尋ねください」
九曜「怪異を描いてくださるのならば」
九曜「協力は惜しみませんので」
桜庭 りん「・・・まあ」
桜庭 りん「気が変わったら」
九曜「お待ちしておりますよ」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「おやすみなさい」
九曜「よい夢を」

〇黒

〇モヤモヤ
  何も見えない
  こわい
  こわいよ!
  もう、絵が描けない!
  描けない!
  描けない!
  描けない!
  嫌だぁ!
  だれか!!
  たすけて!!!

〇古風な和室
桜庭 りん「っ!」
桜庭 りん「夢でも泣くのか、私は」
桜庭 りん「はぁ」
桜庭 りん「やっぱりすぐには」
桜庭 りん「諦めきれないよねぇ」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「お祭りまだやってるかな」

〇屋敷の門
桜庭 りん(九曜さんの匂いがなかった)
桜庭 りん「お祭りに行ってるのかな」
桜庭 りん「私も行こ」

〇田園風景
桜庭 りん「田舎の夜中だと」
桜庭 りん「きっと目が見えていても」
桜庭 りん「真っ暗なんだろうね」
桜庭 りん「私には関係ないけど」
桜庭 りん「っ」

〇田園風景
桜庭 りん「あの化け物とは違うけど」
桜庭 りん「どこか似てる」
桜庭 りん「人外の匂いだ」
桜庭 りん「この先に怪異がいる」
桜庭 りん「逃げなきゃ、いけないのに」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「化け物の匂いにまじって」

〇古びた神社

〇田園風景
桜庭 りん「あのハンカチの匂いもする」
桜庭 りん「怪異に捕まってるの?」
桜庭 りん「五年間も?」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「でも」
桜庭 りん「私は、死ぬわけにはいかない」
桜庭 りん「私にも、心配してくれる家族がいるんだ」
桜庭 りん「だから」
桜庭 りん「見捨ててでも」
桜庭 りん「逃げないと」
桜庭 りん「けど」

〇田園風景

〇田園風景
桜庭 りん「うぅ」
桜庭 りん「わ、私は鼻がいいんだ」
桜庭 りん「怪異を避けて」
桜庭 りん「オジサンの娘を連れて帰る」
桜庭 りん「それくらい、きっとできる」
桜庭 りん「か、怪異に関わるのは」
桜庭 りん「これが、最後、だからっ」

次のエピソード:エピソード2 蝶つがい様

コメント

  • 面白かったです。かなり凝った作りですね勉強になります

  • キャラがいい味出してますね!
    アニメのホリックや化物語を思い出しました
    展開の雰囲気も怪しかったです

  • さすがのハイセンススチル芸、そして自作立ち絵の破壊力!😆 動きのある差分など最高でした✨
    ストーリーも、創作者なら身につまされるスランプ、そして一番大事なものを奪われる苦悩……といったところがリアルに描かれていて、続きを追っていきたくなりますね✨
    怪異もバリエーションがありそうで楽しみです✨

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