第一話:魂の還る場所(脚本)
〇暖炉のある小屋
「食料、ジャガイモ一個」
「水、一日分」
「お金は・・・」
「・・・ま、なんとかなるか」
リリィ「うん」
リリィ「きっとなんとかなる」
〇空
「いい天気!」
「旅日和だ」
「さあ、出発しよう」
リリィ「目指すは北の地、アランスカ!」
〇荒地
デイ(死体?)
デイ(まだ新しい・・・)
デイ(こんな子供まで・・・可哀そうに)
リリィ「あ゛・・・」
デイ(生きてる!?)
デイ「君、平気かい?」
リリィ「お・・・」
デイ「お?」
デイ「・・・お腹が減っているのか?」
デイ「近くに僕の家がある」
デイ「ほら、掴まって」
リリィ「うう・・・」
〇黒背景
あったかい・・・
それに、いい匂いがする・・・
ここは──
〇英国風の部屋
リリィ「天国!?」
リリィ「じゃ、ない・・・」
デイ「やあ、起きたんだね」
リリィ「キミは・・・」
デイ「自己紹介はあとにしよう」
デイ「よかったら、そこのスープをどうぞ」
リリィ「ほ、本当にいいの・・・?」
デイ「もちろん!」
リリィ「・・・いただきます」
リリィ「美味しかった・・・!」
リリィ「生き返った気分だよ、ありがとう」
デイ「それはよかった」
デイ「僕はデイ。君は?」
リリィ「ボクはリリィ」
リリィ「何かお礼をしなきゃいけないんだけど、 あいにく食料は持ってなくて・・・」
デイ「僕は・・・大丈夫」
デイ「食欲が湧かないんだ。 彼女が亡くなってから」
リリィ「彼女?」
デイ「お礼はいらないよ」
デイ「それで、代わりにといってはなんだけど、 ちょっとついてきてくれないか」
〇荒地
リリィ「これは・・・」
デイ「彼女の・・・サナの墓だ」
デイ「といっても、立派なものじゃないけれど」
リリィ「そんなことない」
リリィ「今の状況で、死んでも墓を作ってもらえない人だってたくさんいるよ」
デイ「・・・なんだか、現実味がなくってさ」
デイ「まだ信じられないんだ」
デイ「サナの魂がまだ、ここにいる気がして」
デイ「だから、君に祈ってもらえれば、 サナもきっと安らかに眠れると思うんだ」
リリィ「・・・わかった。祈るよ」
リリィ「どうか、キミの大切な人に」
リリィ「安らかな眠りが訪れますように──」
〇英国風の部屋
デイ「・・・ありがとう、サナのために祈ってくれて」
デイ「さ、次は君の話を聞かせてくれ」
デイ「どうしてあんなところで倒れてたんだ?」
リリィ「それは・・・」
リリィ「あれ?」
リリィ「ボクのかばん! 近くに落ちてなかった!?」
デイ「ああ」
リリィ「それ!」
デイ「念のため、中身を改めさせてもらったよ」
デイ「驚くほど何にも入ってなかったけどね」
デイ「入ってたのは、少量の水と・・・」
デイ「この箱だけ」
リリィ「蓋、あいてないよね!?」
リリィ「ああ、よかったあ・・・」
デイ「大事なものなのか?」
リリィ「うん、これにはね・・・」
リリィ「ボクの、母さんと、父さん」
リリィ「それと兄さんが、入ってるんだ──」
〇原っぱ
天候、病気、災害・・・
色んな要因が重なり合って、
農作物が全く育たなくなった
村はすぐ、飢饉に襲われた──
シン「麦は全部だめだな・・・ 実が全然ついてねえ」
イレナ「病気かしら。 他のところも、同じような状況みたい」
キリアン「食料を確保する方法を考えないとな・・・」
ねえ、お父さん
王都の人は、助けてくれないの?
イレナ「心配しなくても大丈夫よ、リリィ」
シン「きっと、今はどこも大変な状況なんだろう」
キリアン「大丈夫」
キリアン「家族みんなでなら、乗り越えられるさ」
シン「ああ、そうだな」
シン「そうだろ、リリィ?」
・・・うん!
──翌日、
村で初めて、疫病の患者が出た──
〇荒地
兄さん
キリアン「リリィ」
ボクたち、どうなるの?
キリアン「・・・お前は俺が守る、だから心配するな」
キリアン「きっとよくなる。もう少しの辛抱だ」
キリアン「きっと・・・」
もう少しって
いつまで待てばいいの?
もう、
お父さんもお母さんもいないのに
兄さん!?
ねえ、どうしたの?
起きてよ!!
兄さん!!
〇暖炉のある小屋
キリアン「ゴホッ、ゴホッ」
兄さん、大丈夫?
何か食べないと・・・
キリアン「もういい、リリィ」
キリアン「食料を無駄にするな」
キリアン「わかるんだ。俺はもう長くない」
でも!
キリアン「こっちにおいで、リリィ」
〇黒
・・・なあ、リリィ
『魂の還る場所』って、知ってるか?
ううん・・・
大陸の最北端、アランスカ地方に、
メルト山って山がある
そこは、死んだ人の魂が浄化され、
再びめぐり合う場所と言われているんだ
うん、それで・・・?
・・・頼りがいのある妹であるお前に、頼みがある
俺が死んだら、俺と、父さんと母さんを、
そこまで連れて行ってくれないか
そしたらきっとまた、家族に逢える
死ぬなんて言わないで!
兄さんが一緒じゃないと嫌だよ・・・!
お前はもう、ひとりでも大丈夫だ
俺が保証する
いやだ!
置いてかないで!
リリィ
兄さんからのお願いだ
俺たちの魂を、送り届けてくれるか?
・・・・・・
わかった・・・
ボクが・・・兄さんたちを・・・
『魂の還る場所』に・・・
連れていくから・・・
・・・ありがとう
お前は自慢の妹だよ、リリィ・・・
〇英国風の部屋
リリィ「・・・兄さんは結局、助からなかった」
リリィ「それからボクは、兄さんたちの骨を持って旅に出たんだ」
リリィ「『魂の還る場所』、メルト山を目指してね」
リリィ「途中で食料がなくなって、動けなくなっちゃったけど・・・」
デイ「・・・そうか」
デイ「そうすると、ここから北上して、王都に向かうつもりなのかな?」
リリィ「うん、途中に町があるから、そこで物資を補給するつもり」
リリィ「王都から先は・・・人に訊ねながら進んでいくよ」
デイ「そうか」
デイ「止めないよ。ここにいたって、生きていける保証はない」
デイ「君の旅が順調であることを祈ってるよ」
リリィ「・・・ありがとう」
デイ「それにしても、『魂の還る場所』かあ・・・」
デイ「そこは、きっと・・・」
デイ「いい、場所」
デイ「なん、」
デイ「だろう、なあ──」
リリィ「デイ!」
リリィ(手足のしびれ・・・)
リリィ「兄さんと同じ・・・栄養失調だ」
リリィ(きっとこの人、サナって人が亡くなってから、ほとんど何も食べてない・・・)
デイ「あ、はは・・・」
デイ「君が来て、安心したのかな・・・」
デイ「僕が死んでも、君が、僕とサナのことを覚えてくれるから・・・」
リリィ「そんなこと言わないで! きっと助かる」
リリィ「スープを作ってあげる。飲んだら休むんだ」
〇英国風の部屋
デイ「リリィ・・・?」
リリィ「デイ!」
リリィ「気がついた? 調子はどう?」
デイ「あんまり、よくはないかな・・・」
デイ「わかるんだ、たぶん僕は助からない」
リリィ「そんな・・・」
デイ「絨毯の下の扉に、食料が備蓄してある」
デイ「持っていってくれ」
デイ「僕たちにはもう、必要のないものだから」
リリィ「やめて・・・!」
リリィ「そんなこと、言わないでよ・・・」
デイ「君は、優しいね・・・」
デイ「引き出し・・・三段目・・・」
デイ「箱がある・・・それをこっちに・・・」
リリィ「引き出し・・・」
リリィ「えっと、箱・・・これかな?」
デイ「ありがとう」
リリィ「指輪・・・?」
デイ「・・・ふたりで一つだけ、買ったんだ」
デイ「飢饉を乗り越えて結婚したら、二つ目の指輪を買おうって・・・」
リリィ「・・・・・・」
デイ「・・・リリィ、君にお願いがある」
リリィ「・・・なに?」
デイ「この指輪を、君に持っていてもらいたいんだ」
デイ「『魂の還る場所』、君ならきっと辿り着ける」
デイ「この指輪は・・・僕とサナだ」
デイ「僕とサナを・・・君と一緒に・・・」
リリィ「・・・わかった。約束する」
リリィ「ボクがキミたちを、『魂の還る場所』に連れていくよ」
デイ「ありがとう・・・」
デイ「これでやっと、サナと一緒になれる・・・」
〇英国風の部屋
デイ「」
サナ「」
サナ「」
デイ「」
〇英国風の部屋
デイ「あれ・・・おかしいな・・・」
デイ「周りが、暗くなってく・・・」
リリィ「デイ・・・」
デイ「え・・・?」
デイ「サナ・・・?」
デイ「サナなのか?」
デイ「よかった、やっぱり生きてたんだな・・・」
デイ「一緒に、指輪を買いに行こう・・・」
デイ「それで、結婚式を挙げるんだ・・・」
デイ「おいしいごちそうも・・・ ケーキも用意して・・・」
デイ「それで・・・ふたりで・・・」
デイ「一緒に暮らそう・・・」
〇英国風の部屋
「あ・・・」
「ボク、もう行かなくちゃ・・・」
「おやすみ、デイ、サナ」
「キミたちの魂は、」
「ボクが、連れていくから・・・」
〇荒地
リリィ「うん、今日もいい天気」
リリィ「旅日和だ」
デイ、サナ
忘れないよ
絶対に忘れない
これは、家族を失った少女の
キミ達の魂は
ボクが必ず、送り届ける
『魂の還る場所』を目指す旅の物語である
これは…!
毎回泣かされる予感…😢
切なすぎる~!ツラすぎる~!
リリィ、どうか無事にメルト山へ!🙏
悲しみを背負い、死者のを鎮めるために旅をする
切なくなる物語ですね
これからもリリィは多くの悲しみを背負っていく予感がします。
独特な切り口のストーリーに惹きつけられました😭😭😭
うぉぉぉ〜ん、第一話から、こんな、こんなっっ!!
泣ける話になるとはあああああ😂😂😂
いつもながら、Nazunaさんの構成力には脱帽です。
リアクションが一個しか押せないのが悔しいです😭