荊姫のお茶会に終止符を1:本庁にて(脚本)
〇オフィスのフロア
麻生 環「分っかんないなぁ・・・」
警視庁捜査一課第二強行犯捜査二係
人もまばらな昼休み
座席へ戻ると、柔和なはずの顔が捜査資料を睨んでいた
中津 傑「すっかり行き詰まっちゃいましたね」
中津 傑「はい、コーヒーどうぞ」
麻生 環「んあ〜・・・どうもぉ」
このリアクションが独特な彼は、捜査一課きっての変わり者として知られる麻生環刑事
通称・環さん
俺の教育係だ
麻生 環「ったく・・・傑もツイてないねぇ、一課の初現場がコレだもん」
麻生 環「一班だけで追えとか鬼だね、鬼」
中津 傑「はは、これも勉強だと思って頑張りますよ」
中津 傑「それにしても——・・・」
中津 傑「高校生連続失踪事件・・・」
中津 傑「マスコミの好餌になりそうな名前がついちゃいましたね」
麻生 環「本庁まで上がって来る事件は遍く餌食になるモンでしょ」
麻生 環「ま、ここまで大事になったんだ、ただの家出だったら一時間は説教させてもらいたいね」
中津 傑「・・・家出で済んでくれたら有難いですよ」
遡ること約三ヶ月——
娘が帰って来ない、と警察に相談が入った
近所の交番が対応したものの、翌日になっても少女は帰宅せず
探し続けること数日、家族から捜索願いが提出された
単なる家出と軽視されてしまいそうなこの一件が、事件の始まりだった
以降、一週間に一人という頻度で高校生が行方を晦ますようになり、遂に人数は二桁を超え、
漸く、一連の事件の関連性が疑われるようになったのだ
しかし、彼ら彼女らが姿を消した場所、在籍校、部活、性別・・・みなバラバラである
無論、失踪者たちに面識もない——
麻生 環「なぁんか後手後手に回ってる感じ・・・嫌な予感がするなぁ」
中津 傑「ちょ、ちょっと! そういうの止めましょ、不安になるじゃないですか」
麻生 環「んなこと言ってもねぇ・・・唯一の救いは第二の被害者が出てない点だけでしょ」
麻生 環「それも『見つかってない』だけで実際のところは判らないじゃん?」
中津 傑「だから! 不穏なこと言わないでください!」
麻生 環「不穏も何も、俺は事実を言ってるだけよ?」
麻生 環「第一被害者の失踪は約三ヶ月前」
麻生 環「彼女の遺体が発見されたことで警視庁が動き始めたのが一ヶ月前」
麻生 環「例えば誘拐と仮定しても、その間、攫うだけ攫って何もしてません、なんて悠長過ぎる考えだと思うけどねぇ?」
中津 傑「んぐ・・・っ」
麻生 環「最高の終幕は全員を健康な状態で保護して、犯人を確保すること」
麻生 環「最悪の終幕は全員死亡の上、犯人逃亡・・・そんなとこでしょ」
麻生 環「どんなに残酷なものであっても可能性から目を背けちゃダメよ、中津刑事さん?」
中津 傑「そんなの・・・解ってますけど・・・」
頭で理解することと心で納得することは、全くの別物だと思う
中津 傑「せめて小さくても共通点があれば、足がかりになるかもしれないのに・・・」
麻生 環「年齢十代、現役高校生、以上。嫌になる」
中津 傑「ならないでください」
中津 傑「神隠しだの何だの好き勝手書かれ始めてますし、いい加減糸の一本も掴みたいですよ」
麻生 環「神隠しぃ?」
中津 傑「ええ、週刊誌にそんなこと書かれてましたよ」
中津 傑「神隠しなんて時代錯誤だって、警部たちは笑ってましたけど・・・地獄耳の環さんが知らなかったなんて珍しいですね」
麻生 環「一言余計だよ、新人くん」
麻生 環「にしても・・・時代錯誤、ねぇ・・・ そうとも言い切れないんじゃない?」
中津 傑「・・・どういうことです?」
突如声を落とした先輩刑事はオフィスチェアに背を預けると、天井を仰ぎ語り始めた。
麻生 環「年間八万人——これ、何の数字か解る?」
中津 傑「い、いえ・・・ピンと来ません・・・」
麻生 環「日本の年間行方不明者数だよ」
麻生 環「信じられる? 至る所に『眼』があるこの時代に、ふらっと姿を消して戻って来ない人間が年間八万人もいるんだよ」
麻生 環「神隠しが実在しても、おかしくないと思うけどなぁ」
中津 傑「それは・・・」
極論過ぎないか、と言わなかった自分を褒めてやりたい
これは討論するべき内容ではない
麻生 環「神隠し・・・神隠しかぁ・・・ 傑、ちょっとそれ貸して」
中津 傑「えっ? あ、はい」
乞われるまま差し出した捜査資料に、環さんは物凄い勢いで目を通して行く
麻生 環「うーん・・・これはあいつらの得意分野かもしれないなぁ・・・」
中津 傑「あいつら?」
麻生 環「うん、勘だけど。早速行こう」
中津 傑「い、行くって何処にです?」
席を立ち、ジャケットを羽織る環さんがニコリと笑った
麻生 環「骨董屋」
本格ミステリーの予感がしてゾクゾクしますね!
謎に満ちてて 猟奇的でもあるのかな?楽しみです!
登場人物全員が見事なまでにイケメン揃い。2.5次元の舞台で見たら壮観でしょうね。ステンドグラス風の表紙イラストも妖しい雰囲気たっぷりで素敵です。不可思議な事件にこれからアヤがどんなふうにアプローチしていくのか楽しみです。
タプノベ版骨董屋さん、続き楽しみです🥰