第2話 勇者様は食事したい(脚本)
〇草原の道
骨勇者マコト「・・・ネぇ」
シフエル「ん、なんだ?」
骨勇者マコト「オーガってあんナに勢いよく飛んデいく魔物だっタっけ」
シフエル「俺が知ってるオークは大体あれぐらいはいつも飛んでるぞ」
骨勇者マコト「ツまりシフエルは会っタオークは全部飛ばしテたって事だヨね」
シフエル「あの程度の魔物はそうなるだろ、俺は勇者を支え民を護る聖神の司祭だぞ」
骨勇者マコト「コころざしと同じくラい筋肉が凄いンだよなぁ・・・」
ホネスケ「バウッ!! わふわふっ!!」
骨勇者マコト「アっ、ホネスケおかえりー、スぐ何処か行っチゃうんだから」
シフエル「戻ったか、さっきまでお前が居た方向から何かに追われるように、オーガが次々と飛び出して来るから心配してたんだぞ」
ホネスケ「ワッフ?」
骨勇者マコト「マあ、ホネスケは逃ゲ足速そうだし、でモやっぱり心配ダからあんまり遠くにイっちゃだめだよ」
ホネスケ「わふわふっ!!」
骨勇者マコト「ソういえば町ってマだ遠いの?」
シフエル「この辺はかなり開拓範囲から外れてるからな、数日はかかるぞ」
骨勇者マコト「ソうなんだ、シフエルはなんデそんな所に来てタの?」
シフエル「治安維持任務だな、聖神の司祭は七神の中で最も多いんだ」
シフエル「当然司祭ばかりがいても教会の数はそこまで多くは無い、余った司祭が地方の治安維持に回されたわけだ」
骨勇者マコト「ソうなんだー、シフエルなラ凄く強いし頼りにナるもんね」
シフエル「いや、ただの厄介払いだ」
骨勇者マコト「エっ」
シフエル「特にやらせる事もない奴等を放り出してるんだよ、成果がもしあれば儲けもん、野垂れ死んでもそれは民の為に立派に殉じたってな」
骨勇者マコト「ソんなわけないよ!!」
シフエル「マコト・・・!!」
骨勇者マコト「ダってシフエルならどンな魔物でもぼっこぼコじゃん!!」
シフエル「まぁ確かに腕力には自信があるが、俺の場合は人間関係だな」
骨勇者マコト「ドういう事?」
シフエル「長い話にな・・・らないな、大司教をぶん殴ったら左遷されたんだ」
骨勇者マコト「エえぇっ!? なんでそんな偉イ人を!?」
シフエル「あの生臭坊主はな・・・そこら中の商人連中から出資金を掻き集めて、その伝手をそのまま使って村々の若い娘を集め・・・」
骨勇者マコト「ム、娘を!?」
シフエル「その娘達を・・・」
骨勇者マコト「エっ、えっ、聞いてイい話なのこレ!?」
シフエル「娘達をアイドルグループとしてデビューさせ各地で握手会を開催!!」
シフエル「握手券やグッズを買い求める民は混迷を極め、破産して借金奴隷に堕ちる者が後を絶たず」
シフエル「ついには王都の貴族への枕営業が発覚!! 暴動を起こした民達だったが、その民に向かって大司教は神殿騎士を派遣する!!」
シフエル「さすがにそこでもう放置することは出来なくてな、俺が全員殴り飛ばした」
骨勇者マコト「ゼんいん!?」
シフエル「全員だ」
骨勇者マコト「シんでん騎士も!?」
シフエル「民もな」
骨勇者マコト「ナんで!?」
シフエル「酷い商売ではあったが一応は法だけは守っていたからな、気持ちは分かるが暴動の前にやることがあるだろう」
骨勇者マコト「ソうかもしれナいけど、うーん・・・」
シフエル「暴動を起こした民と、神殿騎士と、途中から大司教が連れてきた冒険者と。 最終的に百人程殴り飛ばしたな」
骨勇者マコト「ヒゃく人!?」
シフエル「まあ仕方が無かったんだ、俺の推しのリンコを護らねばならんかったからな」
骨勇者マコト「ンんっ!? なんて!?」
シフエル「いや、仕方が無かったんだ」
骨勇者マコト「チがう、その後」
シフエル「俺の推しのリンコを・・・」
骨勇者マコト「オまえもハマってたノかよ!?」
シフエル「大丈夫だ、グッズには手を出して無いし、リンコが枕営業に関わっていないのは証明済みだぞ」
骨勇者マコト「ソういう事じゃなイ!!」
シフエル「いやしかし、リンコは幼い時から苦労してな、天真爛漫な笑顔と誰に対しても分け隔てなく優しくてだな」
骨勇者マコト「ダいファンじゃン!?」
骨勇者マコト「アのね、シフエル。 ああいうノはね、演出でやってルんだよ、演技だよ」
シフエル「そ、そうか・・・全員殴り飛ばして返り血で染まっていた俺に手を差し伸べてくれたのも演技だったのか」
骨勇者マコト「ソれはマジのやツだねぇ!? ボくもファンになっちゃいそうだよ!!」
〇草原の道
シフエル「そろそろ準備しないといかんな」
骨勇者マコト「ジゅんび?」
シフエル「ああ、そこに丁度良さそうな所があるからな、そこで野営するとしよう」
骨勇者マコト「ウん、ホネスケー、あっちデ野営するってさー、かエっておいでー」
ホネスケ「わふわっふ!!」
〇森の中
シフエル「よし、雨は降りそうにないしこんなもんでいいだろう」
骨勇者マコト「マきってこんなのデいいんだよね?」
シフエル「ああ、長いのは使いにくいから折ってくれるか」
ホネスケ「うぉふうぉふ!!」
シフエル「ホネスケも戻ったか、って!?」
ホネスケ「ワフーーーーーン!!」
シフエル「獲物を獲って来たのか、ホネスケ!!」
骨勇者マコト「スごいよホネスケ、お手柄だね!!」
ホネスケ「くぅーんくぅーん」
骨勇者マコト「ハい、ご褒美」
ホネスケ「わっふぅーん!!」
ガリガリガリ
シフエル「ははは、これは張り切って美味いもの作ってやらないとな」
骨勇者マコト「タのしみだねー」
シフエル「なぁ」
骨勇者マコト「ン、何?」
シフエル「楽しみにしてるみたいだけど、お前飯食えないだろ」
骨勇者マコト「エー、何言ってるノさ、そんなわけ」
骨勇者マコト「アるーーーーー!!」
ホネスケ「ヒャンッ!? ヴァウッ!! ワゥーーーン!!」
シフエル「ほらほら、ホネスケが興奮するから騒ぐな」
ホネスケ「わふっ」
ペロペロ!! ガリガリガリ!!
骨勇者マコト「ビっくりさせてごメんねホネスケ」
骨勇者マコト「ソうだよ、ボク骨だったの忘れテた、シフエルと会ってかラ楽しくって」
シフエル「そもそも五年だか十年だか、どうしてたんだ?」
骨勇者マコト「シょうじきあんマり覚えてないンだよね、食べテないし、寝てなイんだけど、ソれ以外も何か・・・してタのかな」
シフエル「ふむ・・・そもそも骨だから食うのは無理だろう、おそらくは神力で代替してるんだな。睡眠も同じだろう」
シフエル「人が食欲と睡眠欲を満たせずに過ごしていて、正気を保てるはずがない」
骨勇者マコト「エっ!? じゃあボクはドうなってるノ!?」
シフエル「真実は分からんが、おそらく加護の影響で精神的な異常に強烈な耐性があるのかもしれんな」
骨勇者マコト「ダいじょうブなのそれ!?」
シフエル「大丈夫も何もお前自身の事だろうが」
骨勇者マコト「アー、じゃあだいジょうぶかなぁ」
シフエル「うん、確実に影響出てるな」
シフエル「お前多少何かに驚いてもすぐ素に戻るだろ、精神的な揺らぎは有りつつもすぐに安定状態に戻すなんて普通は出来ん」
骨勇者マコト「スごいね、でも精神タいせいあるっテいい事なンじゃないの?」
シフエル「そりゃあな、戦においては常に冷静で、食事も睡眠も必要とせず、強靭な体で再生までする」
シフエル「悪夢のような相手だぞそれ・・・しかもほぼそれってアンデッドの特徴だからな?」
骨勇者マコト「ソうだった!! やっパりボクってアンデッドなノかな・・・」
シフエル「生きてるのか死んでるのかはよくわからんな」
骨勇者マコト「ジゃあやっぱり食事ヲ愉しむのはムりかぁ・・・残念ダなぁ」
シフエル「・・・いや、もしかしたらいけるかもしれん」
骨勇者マコト「エっ!?」
シフエル「お前、ホネスケを撫でて『フわふわで気持ちイいよー』って言ってただろ」
骨勇者マコト「アあ、うん。 耳の後ろトかが特に良いよネ」
シフエル「お前どうやってるのか分からんが、骨なのに触覚が有るってことだろ」
骨勇者マコト「ソうだね、確かに」
シフエル「神力は身体強化と精神強化に使ってるっぽいし、魔力枯渇で崩れるだろお前」
シフエル「体の操作関係は多分魔力でやってて、触覚もその魔力で再現してるんじゃないか?」
骨勇者マコト「トいうことは!!」
骨勇者マコト「ドういうコと?」
シフエル「触覚は再現出来てる、風魔法と水魔法の複合で声帯を再現して喋れている」
シフエル「舌を再現して味を感じる事も出来るかもしれん」
骨勇者マコト「ホっ、本当に!?」
シフエル「分からん、俺は舌の再現魔法なんぞ知らんからな」
シフエル「だが、声帯魔法も風で流れを制御する部分は、人体では舌の部分と口の部分でやってるはずだ」
シフエル「上手く再現出来れば・・・どうだろうな」
骨勇者マコト「ヤってみたい!! 頑張ルよボク!!」
〇森の中
シフエル「よし、お前が獲ってきた獲物は下拵えも終わったし、後は調理するだけだぞ」
ホネスケ「ワッフワッフ!! キューン!!」
シフエル「おーいマコト!! そろそろ戻って来い!!」
骨勇者マコト「・・・グむぅ~・・・」
シフエル「どうなった?」
骨勇者マコト「ムずかしいよー・・・」
骨勇者マコト「クちとね、舌の形のサいげんは多分出来てるト思うんだけど、味?ってどうすレばいいの?」
シフエル「骨神に加護を貰う前の記憶は無いのか?」
骨勇者マコト「アる事はあるんだケど、なんかあんマりうまく思い出セないんだよね」
シフエル「ふむ・・・」
シフエル「なら触ってみるか」
骨勇者マコト「ナにを?」
シフエル「舌だ舌、俺に現物があるだろうが」
骨勇者マコト「エえっ!! さ、触ってイいの?」
シフエル「別に構わんぞ、魔力を流して探ってみろ」
骨勇者マコト「ナ・・・なんかエッちくない?」
シフエル「何を言っとるんだお前は、骨の分際で」
骨勇者マコト「ウぅ・・・じゃあチょっと待ってね」
パチャパチャと念入りに手を洗っている
骨勇者マコト「ヨし、じゃあイくよ」
シフエル「おう」
怖々と手を伸ばし、ゆっくりと舌に近付く
骨勇者マコト「カ、噛まないデね」
シフエル「それはホネスケに言え」
ホネスケ「ワフ?」
骨勇者マコト「ハはは、いくよ」
舌にピトリと骨の指が触れる、体温は無く少しヒンヤリしている気がする
骨勇者マコト「ンー・・・? じゃあ魔力ヲ流してみるネ」
なんとなく反発するような感覚と共に、じんわりと何かが広がってくると感じた瞬間
骨勇者マコト「アばばばばバばばばバ!!」
シフエル「ぬぅおっ!? なんだ!?」
骨勇者マコト「アばぁ~!! び、びっくりシた!!」
シフエル「聖の魔力が強烈に抵抗しているような感覚があったな、骨神の神力はもしかしたら聖属性とかなり相性が悪いのか?」
ホネスケ「わふわふ!!」
骨勇者マコト「アっ、そういえばもウすぐご飯だっタのに待たせチゃってたね」
骨勇者マコト「ハい、これでもう少シ待っててね」
ホネスケ「ワフン、ペロペロ!! ガリガリ!!」
シフエル「しかしこれじゃ俺の舌から情報を得るのは難しくなったな」
骨勇者マコト「ウーん、この辺じゃヒとも見当たらないシ、どうすれば・・・」
ホネスケ「ペロペロ、ペロペロ、ガリガリ!!」
骨勇者マコト「アあああっ!!」
骨勇者マコト「シた!! 舌だよ!? ホネスケがペロペロしてる!!」
シフエル「ああ、まあそうなんだが」
骨勇者マコト「モうずーーーっとペロペロさレ続けてたもノ、何年も!!」
骨勇者マコト「マってね、魔力を流シたら・・・」
ホネスケ「わふっ? ・・・ペロペロペロペロ」
骨勇者マコト「イける・・・イけるよこれなラっ!!」
シフエル「お、おいちょっと待てって・・・」
骨勇者マコト「イくよ!! えーーーイ!!」
骨勇者マコト「ムむむ!?」
マコトはおもむろに自分の指を口元に寄せた
「ペロペロペロペロ」
骨勇者マコト「オいしい気がすルよ!? なんだろウ、深い出汁が出テるような・・・!?」
シフエル「お、おいマコト、その指俺の口に突っ込んでた指だぞ」
骨勇者マコト「ヌふぅん!?」
骨勇者マコト「ゴ、ごめんね!? 興奮しちゃっテ・・・いやそういう興奮ジゃなくて魔法がね!? 成功してテね!?」
シフエル「いや別に構わんのだが、魔法は成功したのか」
骨勇者マコト「ウんうん!! じんわりとこウ、滲み出すような出汁ノ旨味があっタんだよ!!」
シフエル「成功したのは喜ばしいんだがなマコト」
骨勇者マコト「ウん!!」
シフエル「その味覚は多分ホネスケと一緒、犬の味覚なんじゃないのか」
骨勇者マコト「エえぇっ!?」
骨勇者マコト「ソうなのホネスケ!?」
ホネスケ「わふん?」
シフエル「肉もついてないただの骨をガリガリ齧っても味なんぞ多分わからんぞ俺は」
シフエル「まぁ味覚の再現までは出来ているなら、後は調整を続ければいつかはどうにかなりそうだが・・・」
シフエル「よしよしホネスケいっぱい食えよ、お前が獲ってきた獲物なんだしな」
ホネスケ「わふ!! ペロペロバクッ、ガツガツ!!」
骨勇者マコト「ウーん、この草は苦イ・・・この草もニがい・・・」
骨勇者マコト「ナんかこの実は・・・ぴりピりする!?」
シフエル「ん、それは・・・こっちに寄越せ」
骨勇者マコト「ハいどうぞ、美味しクはなかったよ」
シフエル「ふむ、やはりこれは山椒だな。 肉には丁度いい、残りも貰うぞ」
骨勇者マコト「ナんかいっぱいアったからどうぞ」
ホネスケ「わふわふ?」
シフエル「ホネスケには刺激が強すぎる、やめておけ」
骨勇者マコト「ソれ!! ホネスケには刺激ガ強すぎるのに、ボクはだいジょうぶだったよ!!」
シフエル「ふむ、ならこの肉を食ってみるか」
骨勇者マコト「イいの!? 食べたい、タべたいよ!!」
山椒を少しだけ振りかけて骨付き肉をマコトに渡す
骨勇者マコト「オいしそうだね、ドうかな・・・」
骨勇者マコト「チょっとピリッとしテて・・・塩味もすル、肉汁がじワっと・・・」
骨勇者マコト「オいしい・・・美味しイよシフエル!!」
シフエル(まあ山椒以外はほとんどホネスケ用の味付けなんだがな、使い慣れればその内これもなんとかなるだろ)
骨勇者マコト「オいしい、美味しい・・・」
シフエル(まあ黙っておいてやろう)
ホネスケ「ワフッ、ワフーン」
骨勇者マコト「ナに、ホネスケこの骨モ欲しいノ?」
ホネスケ「くぅーん」
骨勇者マコト「ハいどうぞ、ボクの骨ダけじゃなかったんダねぇ」
ホネスケ「ワフッ!! ペロペロ、ガッ!!」
バギッ!! ボギッゴリゴリ!! バキバキバキバキッ!!
「ホっ、ホネスケーーー!!」