第3話 勇者様は水泳したい(脚本)
〇森の中
骨勇者マコト「モぐもぐ・・・ふふふ、美味シいねぇ」
シフエル「さすがにあの量の肉を持って行くのはキツイからな、なるべく食って減らしてくれ」
骨勇者マコト「フふふーん、いっぱい食べチゃうぞー」
シフエル「・・・」
骨勇者マコト「ジっと見てどうしタの?」
シフエル「いやな、お前食ったのはいいけど、その後どうなってんだそれ」
骨勇者マコト「ソの後?」
シフエル「声帯魔法と味覚魔法?の効果で喉と口周りに結界が霞みがかってて、見えないんでよくわからんのだが」
シフエル「どう考えても食った量を保管するスペースが無いのに、溢れ出て来ないよな」
骨勇者マコト「アあそれね」
骨勇者マコト「ワかんない」
シフエル「おい・・・」
骨勇者マコト「イや、ボクもね、初めハどうしたらいいノか悩んでね、魔法デ水分抜いて圧縮シて、とかやっテ処理しようと思ってタんだけど」
骨勇者マコト「ナんか喉の辺りマでいくと消えてナくなっちゃうンだよね」
シフエル「どういう事だ? ちょっとよく見せてみろ」
骨勇者マコト「エっ、なんか恥ずかシいよそんなにミられたら」
シフエル「中身まで丸出しの癖に今さら何を言ってるんだお前は」
骨勇者マコト「マる出し!?」
シフエル「モロ出し」
骨勇者マコト「モろ出し!?」
骨勇者マコト「ア、ほんとだ凄い出シっぱなしだったわ」
シフエル「もういいから食え、ほれ」
よく焼けた肉を掴み取りマコトの口にずぼっと突っ込む
骨勇者マコト「アもっ!? ・・・もぐモぐ・・・」
骨勇者マコト「・・・ゴくん」
マコトが肉を飲み込む、器用に喉部分の結界を蠕動するように動かして奥へと運ぶ
うっすらと様子の分かる喉奥の肉が鎖骨に到達する前に、猛烈に収縮し消えてしまった
骨勇者マコト「ド、どうなったのかナ?」
シフエル「消えたな」
シフエル「魔力の作用じゃないな、消える時にうっすらとだが神力を感じた」
骨勇者マコト「エっ、神力なの?」
シフエル「お前に宿ってる神力で食物を分解して、神力として吸収して溜め込んでるのかもしれんな」
骨勇者マコト「エえー、なんか思ってタより凄いなぁ」
シフエル「もしかしたら普通は人が食えない物でも消化して吸収出来るかもしれんな・・・」
シフエル「なあマコト、大分前に狩った希少種のキマイラの魔石があるんだが」
骨勇者マコト「タべないよそンなの!?」
シフエル「三つ頭で、猿・犬・雉の珍しいタイプでな」
骨勇者マコト「オに退治するの!?」
シフエル「尾? 尾には何故か熟れた桃が生っていたぞ、桃を護るのに必死だったから隙を突いて比較的楽に討伐出来た」
骨勇者マコト「モ、ももモも、桃はど、どうシたの!?」
シフエル「そりゃ食ったぞ、普通に美味かったな」
骨勇者マコト「エぇー!? な、中身は!? タろうは!?」
シフエル「桃の中身? 種しか無かったぞ」
骨勇者マコト「ソ、そっか、まあそうだよね」
シフエル「赤子が入りそうなほどでかかったがな、土に埋めてみようかと川で洗っていたら手を滑らせてな、流されていってしまった」
骨勇者マコト「ウまれる前に土葬ノ危機から脱したンだね、助かッた!!」
骨勇者マコト「アとは上手くおばアさんが拾って帰っテくれるかな・・・種ダけじゃ無理かナ」
シフエル「お前はずっと何を言ってるんだ?」
〇草原の道
骨勇者マコト「メざしてる村ハ近いの?」
シフエル「ここからならそれほど無いな、昼くらいには・・・あ、いやどうだろうな?」
骨勇者マコト「ナにかあるの?」
ホネスケ「わふっわふわふ!!」
骨勇者マコト「オかえりホネスケ、なンかびしょ濡れダけどどうしたの?」
ホネスケ「ワッフーーーン!!」
〇島
骨勇者マコト「ナにこのでっかイ川!?」
ホネスケ「ワウワウワフーーーン!!」
目の前に大きな川が広がっている。川幅はおおよそ八十メートルはあるだろうか
だが、丁度真正面にこんもりと広がっている陸地があり、その部分だけは川幅が五十メートル程になっているようだ
シフエル「この川のこちら側はまだ開拓が始まっていないからな、この川にはまだ橋が無いんだ」
骨勇者マコト「コんなに広イ川に橋を架けるナんて大変だろうネぇ」
シフエル「さて、問題はどうやってこの川を渡るかなんだが」
骨勇者マコト「コの川をシフエルはワたって来たんだヨね?」
シフエル「ああ、それ以外でこちらに来る方法は無いからな」
骨勇者マコト「ドうやって渡っテ来たのシフエルは」
シフエル「んー・・・どう説明すれば・・・」
シフエルはキョロキョロと辺りの地面を見渡し、目当ての物を見つけて拾い上げる
シフエル「これが良いな」
骨勇者マコト「イし?」
シフエル「これを・・・こうだ!!」
シフエルは軽く振りかぶると、平べったい石を水面へ向かって投げる
パシャッ パシャッ パシッ パシッ パシパシパパパパパ!!
ゴッ・・・と、対岸の岩に投げた石が当たった
骨勇者マコト「ジょうずだねシフエル!!」
骨勇者マコト「デもこれでどうスるの?」
シフエル「今の石と同じ様に行く」
骨勇者マコト「ナにが?」
シフエル「俺が」
骨勇者マコト「・・・ウん、よくわかんなイけどわかったよ」
ホネスケ「うぉふ!!」
骨勇者マコト「エっ!? ホネスケもしかしてイま投げた石をソのまま追いかけてトってきたの!?」
シフエル「ホネスケは問題無く渡れるな、偉いぞホネスケヨシヨシ」
骨勇者マコト「スごいやホネスケ、ボクはドうやって渡ればいいかな・・・」
シフエル「俺は泳ぐのはあまり得意じゃないからああなったが、マコトは泳げるのか?」
骨勇者マコト「ぼクって泳げるノ?」
シフエル「お前自身の事だろうが・・・」
骨勇者マコト「チ、ちょっと試しテみるね」
川の浅いところにおっかなびっくりとした様子でマコトが入っていく
腰の辺りまで入った所で体を前のめりにして、水中へ飛び込む
ホネスケ「バウバウ!!」
一切水上に姿を見せず、水底でバタバタともがくマコトを見て、ホネスケがさっと飛び出す
ズリズリズリズリ・・・
ホネスケ「ウゥ、ゥォフ!!」
骨勇者マコト「アぶぶぶぶ・・・ホ、ホネスケ助けテくれてありがとウ・・・」
シフエル「ずっと沈んだままで蠢いてたな」
骨勇者マコト「コこまで浮かないトは思わなかっタよ、手の中をミずが全部すり抜ケて行くんだ」
シフエル「骨だからまあそうなるだろう」
骨勇者マコト「ア、ホネスケどうぞ」
ホネスケ「わふっ!!」
シフエル「ところでだな」
骨勇者マコト「エー、なーに・・・」
シフエル「お前はそもそも呼吸をしてないんじゃないのか?」
骨勇者マコト「・・・?」
骨勇者マコト「・・・」
骨勇者マコト「シてないの!?」
シフエル「お前、見たらわかる通り肺が無いだろうが」
骨勇者マコト「ホんとうだ!? 無いよ・・・っテなんか魚が入ってル!?」
骨勇者マコト「ナに!? このでっかいオさかなさん!?」
シフエル「食糧はまだ余裕あるし逃がしておけ」
骨勇者マコト「ソうだね、元気デねー」
びちびち・・・ぼちゃん!!
骨勇者マコト「アれ、なんの話してタんだっけ」
シフエル「肺が無いし呼吸してないよなって話だ」
骨勇者マコト「アー、そうだそうダ・・・やっぱりシてないのかな、呼吸ナんて意識してなかっタからなぁ」
シフエル「まあその辺は流れも緩いしゆっくりと入ってみて確かめたらどうだ?」
骨勇者マコト「マあもうびしょ濡れだしね」
骨勇者マコト「ほネスケー、今度は溺れタりしないから助けナくて大丈夫だからネー」
ホネスケ「ワフン!!」
骨勇者マコト「ホねに凄い夢中ダった・・・じゃあ潜ってミるね」
マコトはちゃぷちゃぷとゆっくり川に入っていき、先程と同じ辺りに着くと今度は飛び込まず、少しずつ川に沈んでいった
シフエル「どう見ても喰われ尽くした水死体だなこれ」
水底を向いていたマコトだが、しばらくして体勢を変えて水中からこちらを見て、時折カタカタと口が動いている
シフエル「うわこわっ・・・夢に見そうだなおい」
マコトはもがくようにゆっくりと水を掻き、それでは起き上がる事が出来ず、再度体勢を変えて立ち上がり
水を割って剥き出しの眼窩や腰骨から垂れ流し、こちらへ一歩踏み出・・・
シフエル「ディヴァインレイ!!」
骨勇者マコト「フんぎゃっ!?」
ザボーン!!
シフエルの魔法が直撃し、吹き飛んだマコトが数メートル先に落ちて沈む
シフエル「あ、しまった・・・」
骨勇者マコト「ナにするの!? シフエルひドいよ!!」
シフエル「いや本当にすまん、水中から襲って来る魔物にしか見えなくて、反射的に撃ってしまった」
骨勇者マコト「マものって・・・!!」
骨勇者マコト「・・・マもの・・・」
骨勇者マコト「ドう見ても魔物ダあ・・・」
骨勇者マコト「マた入ってるシ・・・」
びちびち・・・ぼちゃん!!
骨勇者マコト「マあそれはもういいヤ、呼吸はやっぱりシてなかったね」
シフエル「あ、ああ、やはりそうだよな」
シフエル「それならこれで行けるだろう」
〇海岸の岩場
ちゃぷちゃぷと静かに流れる水面を割り、マコトの頭蓋骨が現れる。 今度は岸に誰も居ないため不意討ちを受けることは無い
骨勇者マコト「オもい・・・重いよぅ・・・」
骨勇者マコト「ナんとか渡りきれたミたいだ、シフエルはホントにワたって来れるのかな」
振り返り、対岸で心配そうにこちらを見ていたシフエルに合図を送る
〇島
対岸でまたも魔物の様に水面から出てきたマコトが見える、合図も送って来たので問題は無かったようだ
シフエル「よし、上手くいったようだ、次は俺達も渡るぞホネスケ」
ホネスケ「ワフッ!! ワフーーーン!!」
ホネスケは大きく吠えるとためらい無く川に飛び込んで、犬掻きとは思えないスピードでマコトを目指して進む
シフエル「水飛沫を上げて泳ぐ犬なんて見たことが無いがいるんだな・・・」
シフエル「よし、それじゃ俺も行くか」
シフエル「アースシールド」
地面がもこもこと盛り上がり、土の壁が出来上がる
シフエル「少し厚い気もするが、まぁ問題無いだろう」
シフエルは土の壁に手をかけると根本から折り取った
そのまま土の壁を持って川から少し離れ、
〇海岸の岩場
骨勇者マコト「ワぁー、ホネスケ速い速イ!!」
バババババババシャシャシャサボン!!
ホネスケ「ワッフーーーン!!」
骨勇者マコト「スごいなあホネスケ、ボクの六十倍クらい早く着いタよ」
ホネスケ「わふーん」
ホネスケ「・・・」
骨勇者マコト「ン?」
骨勇者マコト「ア、ごめんねホネスケ、今チょっと撫でるの無理だカら少し待ってて」
骨勇者マコト「ハやく来てくれナいかなシフエル・・・ン? シフエル?」
骨勇者マコト「ツちがにょきにょき出テ・・・あ、折った」
骨勇者マコト「ツちの板を構えて、あレどこ行くの」
骨勇者マコト「フぁっ!?」
川から距離を取ったシフエルは、土の板を構えたまま猛烈な勢いで助走をして川へ飛び出した
バシュッ!! バシュッ!! バッ!! バッ!! バッ!!ババババババババババ!!
骨勇者マコト「ミず切りの石みたイにシフエルが飛ンでく・・・」
???「くたばれ魔物!!」
ガヅン!!
骨勇者マコト「ン゛!?」
いつの間にか背後に忍び寄っていた何者かがマコトの頭に剣を振り下ろしていた
???「硬っ!? なんだこいつスケルトンじゃな・・・いぶぇろしゅ!!!?」
背後から襲って来た何者かは、マコトの骨のあまりの強度に怯んだ瞬間に突っ込んできたシフエルの土の板に轢かれて弾け飛んだ
シフエル「あ、すまん。 誰だ突然飛び出して来て」
〇海岸の岩場
シフエル「・・・聖神の加護賜りて彼の者の傷を癒したまえ、ディヴァインヒール!!」
???「う・・・くぅ・・・」
冒険者A「骨が!!」
冒険者A「あ、あれ、骨は!? 悪魔の骨は!?」
シフエル「何があったか知らんが落ち着け」
冒険者A「あ、あなたは?」
シフエル「俺は治安維持活動中の聖神の司祭だ、こんな所に倒れていて、一体何があったんだ?」
冒険者A「そ、それが・・・魔物を、スケルトンを見つけたので、不意を突いて剣を当てたんだが、全く効かず・・・」
冒険者A「なんとか反撃される前にもう一撃喰らわそうと振りかぶった瞬間に何者かに襲われたようで・・・」
シフエル「俺が来た時には倒れている君だけで周囲には何もいなかったが」
冒険者A「そんなはずは、魔物が獲物を放置するなんてありえない!!」
シフエル「スケルトンだったか? どんな相手だったか覚えているか?」
冒険者A「何か妙な物を身に付けているスケルトンだと思ったが・・・そういえば横に犬がいたな、小型だったんで気にして無かったが」
シフエル「斬ったが効かなかったんだな?」
冒険者A「ああそうだ、まるで岩でも斬りつけたかのように堅かったんだ」
シフエル「ふむ・・・それはもしやアレではないか?」
シフエルが指差す先には丁度人の胴体程の太さの白い汚れた岩が突き出ている
冒険者A「こ、これは?」
岩の天辺は丸く磨かれたようになっていて、腰の高さ付近にはボロボロになった布が巻かれていた
冒険者A「なんだこれは?」
シフエル「誰かが特訓相手にでも作ったのかもしれんな」
冒険者A「オレはこれを魔物と間違えた・・・いやそんなバカな!?」
冒険者A「そうだ、オレは斬った後に何者かにやられたんだ、凄い衝撃だった事だけは覚えている!!」
シフエル「その横を見てみろ」
横には折れた様に見える岩の残骸が横たわっている。 先程の白い岩よりも太く、一目見ただけでかなりの重量であろう事がわかる
冒険者A「ま、まさか倒れたこの岩に当たったと!?」
シフエル「もしかしたら最初の白い岩を斬った衝撃で倒れた・・・のかもしれんな、そんな事もまあ、無い事も無いだろう?」
冒険者A「くっ・・・まさかそんな・・・」
シフエル「疲れてるんだろう、ゆっくりと休むのが一番だぞ。 この辺はまだ開拓域じゃないようだが村は近いのか?」
冒険者A「ああ、村ならこの川をしばらく下っていくと滝があってな、滝の手前に右側に向かう下り坂がある」
冒険者A「その坂の先を、後は一番広い道を辿っていくと村があるんだ」
冒険者A「今から急げば、なんとか真っ暗になる前には村に行けるから、良かったら案内しようか?」
シフエル「いや、もう少しここらを回りたくてな、明日にでも村に行こうと思う」
冒険者A「そうか、まあこんな僻地に来るような司祭様だから大丈夫だろうが、最近ここらも魔物が増えてるんだ、気を付けてくれ」
冒険者A「そうだ、治療の礼がまだだったな、金・・・いや、お布施はどれほど必要だろう?」
シフエル「いや、治安維持の一環だ必要無い。 それより早く村へ向かった方がいいんじゃないか」
冒険者A「ありがとうございます、村長には明日司祭様が来ると伝えておくので、待ってます」
シフエル「ああ、治療の必要な者がいるなら案内してくれと伝えておいてくれ」
冒険者A「はい、お気をつけて司祭様、それじゃ」
シフエル「ああ、君も道中気を付けてくれ」
シフエル「おい、もう完全に見えなくなったから出て来て良いぞ」
骨勇者マコト「イやー・・・ひどいネぇシフエル」
ホネスケ「ワフワフ!!」
シフエル「ホネスケちゃんと静かにしてたな、偉いぞー」
骨勇者マコト「ムしをしないでよシフエル」
シフエル「アレが真実だ、それで良いじゃないか」
骨勇者マコト「マあボクもそれでいいんダけどね・・・」
ホネスケ「わふっ」
骨勇者マコト「トころでシフエル、これソろそろ外してくれナい?」
シフエル「具合はどうだった?」
骨勇者マコト「コれのお陰で流さレなかったけど、重イし自分じゃ外せナいんだよ、早ク外してほしいよ」
マコトは体の色々な箇所に岩をくくりつけていた。 これのおかげで流れの速い川の中央も、川底を歩いて渡れた
シフエル「それだけ岩をつけていたから誤魔化せたのかもしれんしな、まさかそんな事にも役立つとはな」
マコトは早く外して貰うためか、重いのを我慢してじわじわと、ゆっくりシフエルへ向かって進む
シフエル「岩を括って川に落とされ死んだが、怨念が強すぎて動き出した朽ち果てた水死体にしか見えんぞ」
骨勇者マコト「サすがにひどすギるよ!?」