天才クリエイターTADANOの憂鬱

山本律磨

だからフィクションだと言ってるじゃないかああ(T□T;)(脚本)

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山本律磨

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〇東京全景
  『メガロポリスTOKIO』
  『欺瞞のバビロンよ』
  『つまり結局ここは僕の才能を見抜く事が出来ない、硝子細工の虚飾の街だった』
TADANO「そして僕の才能は、こんな軽薄な都会では発揮されない硬派なるものだった」
TADANO「ようやく気付いたよ」
TADANO「美しき、そして懐かしき故郷の為に使う」
TADANO「僕の才能はそのために備わっていたんだ」
TADANO「時代はビューティフルカントリー」
TADANO「穢れたエンパイアは有象無象と共に沈んでゆくがいい」
TADANO「僕は故郷に戻る!」
TADANO「本物の才能を必要とするフロンティアへ!」

〇田舎駅のロータリー
駅員「お疲れ様でーす」
町民「どーもー」
駅員「お疲れ様でーす」
町民「はいこんばんわー」
駅員「お疲れ様でーす」
多田野「・・・」
駅員「お疲れ様でーす」
子ども「こんばんわー」
駅員「はい。こんばんわー」

〇研究装置
  『世界の創造』
  『つまりは、僕のライフワークたるファンタジーワールドクリエイト』
  『まあそれはしばし小休止だ』
TADANO「これからの本業はこっちだな」
  『街おこしサークル新人募集!集え!我が町の才能よ!』
TADANO「BINGO!」
TADANO「町おこし。これだ」
TADANO「フッ、僕の才能を貸してあげるとしよう」
TADANO「朴訥なるカントリアン(完全な造語)には及びもつかない我がアイディアを提供しようじゃないか」
TADANO「さてと・・・始めますか!」

〇綺麗なコンサートホール

〇説明会場(モニター無し)
町おこし会の会長「新しく入会された多田野一男さんで~す。ではちょっと自己紹介して下さい」
多田野「ああ、ええと。多田野と申します」
多田野「その、ええと。宜しくお願いします。はい」
町おこし会の会長「それでは故郷にかける意気込みなどひとつ」
多田野「ええと・・・意気込み・・・あの・・・」
多田野「がんばります」
町おこし会の会長「多田野君は東京から戻って来たんだよね」
多田野「あ、はい」
町おこし会の会長「前はどういうお仕事を?」
多田野「あ、色々な場所で経験を積みました」
多田野「・・・」
町おこし会の会長「・・・」
町おこし会の会長「そうですか。じゃあこれから宜しくね」
町おこし会の会長「うちは若い人少なくて、大歓迎だから」
マドンナ「・・・♪」

〇研究装置
TADANO「フッ、予想どおり前時代のスタッフばかりで新たなる才能は枯渇していると見える」
TADANO「唯一の若い同志が得られそうな所が救いといえば救いだが」
TADANO「それでは早速僕のアイディアを提出するとしよう」
TADANO「さあ私の指揮の下、羽ばたけ伊那華町!」

〇説明会場(モニター無し)
町おこし会の会長「はいこれ、夏まつりのビラね~」
町おこし会の会長「入れちゃいけない家はここにメモっといたから、まあゆっくり配ってね~」
町おこし会の会長「今度の町興しはカニフェスタを中心にやろうと思ってるんだけど」
町おこし会の会長「どう?多田野君もキタンの無い意見を聞かせてよ」
多田野「ああいや、僕は別に・・・」
マドンナ「・・・」
多田野「・・・」
多田野「で、では!ここに資料を用意しました!」
「おーっ!」

〇ファンタジー世界
多田野「シンボルキャラクターを作ってみたらどうでしょう?」
多田野「調べてみたんです。伊那華町ゆかりの戦国武将、織田川長信!」
多田野「長信と我が町の特産のカニを合体させた、ローカルヒーロ!革命戦士カニノブ!」
多田野「まあいずれは映像作品や2・5次元演劇にも広がっていければと」
多田野「その際は、私が脚本演出を担当させて頂きますのでご安心を」
多田野「僕的に言わせてもらえれば、近年地方を舞台としたアニメが、ファンの間で聖地巡礼として話題になっております」
多田野「それに対し自治体は常におんぶに抱っこ。後だし後のりもいい所」
多田野「そういう不純さをファンはすぐに看破し、嫌悪し、やがて無視するのです」
多田野「今こそ地方発のアニメ、ゲーム文化を!」
多田野「そして・・・」

〇商店街
多田野「夏まつりでーす」
多田野「よろしくおねがいしまーす」
多田野「夏まつりでーす」

〇説明会場(モニター無し)
自治体のホープ「僕はもう四、五年うちの若い連中と一緒にイベントやらせてもらってんですけど」
自治体のホープ「ハッキリ言って変な事やると客が逃げるんですよね」
自治体のホープ「ああいや、すいません。変というか奇抜ね(苦笑)」
自治体のホープ「自分で考えたオリジナルの歌とかロックとかコスプレとか、ちょっと町のイベントにそぐわないっていうか」
自治体のホープ「まあそこが薄っぺらいネットの世界と血の通ったコミュニティとの違いであって」
自治体のホープ「僕、アニメとか正直よく分からないですけど、まあ集客の担保や企画に対する責任というものがプロデューサー業にはあって」
自治体のホープ「ああ、ちなみにこれが町のシンボルキャラクターの伊那丸です」
自治体のホープ「やっと子供達の間で浸透してきた所なんで」
自治体のホープ「ローカルヒーロー?よくわかんないけど、今回はご遠慮させて頂いてですね」
自治体のホープ「まああれです・・・色々考えて頂いた事は本当に感謝してます」
自治体のホープ「それでですね。イベントの件なんですが、マンガのお話はまあ置いといて、現実的な企画を出しますと」
自治体のホープ「僕が関わってる中学生ダンスチームのよさこいと、県内で活躍なさってるオペラ歌手のSATOMIさんをお招きしようかなと」
マドンナ「賛成です!あの娘たち、夏祭りの為に凄く頑張ってるんで!」
自治体のホープ「OBとして真由も出るかい?」
マドンナ「嫌だな~ケンちゃんったら」
町民「おいおい~イチャつくのは後からにしろ~」
町おこし会の会長「まあ、ゆっくりなじんでいこう」

〇商店街
「あ、はい。町おこしサークルなんですけど」
「ちょっと仕事の方が忙しくなっちゃって」
「はい。夜勤とかあって日曜祝日も全然ない職場なもので」
「はい。退会でお願いします。失礼します」

〇研究装置
TADANO「まあ老害と利権のしがらみに塗れた町興しなど早晩崩壊するであろう」
TADANO「泥船からは早急に脱出するに限る」
  『音成町ニューヒーローデザイングランプリ募集』
TADANO「これだ!さすが隣町、繁華街は違う!」
TADANO「私が作り出すヒーローはこんなさびれた町に理解される程度のデザインではない!」
  『さあ、存分に暴れ回るがいい!革命戦士カニノブ・・・』
  『いや、ジャッジメントナイト!幻影騎士アマデウスよ!』

〇商店街
  音成町ニューヒーローデザイングランプリ優勝!田中幸希君(8)
  『ハッピー星人スターちゃん』
多田野「・・・」

〇研究装置
TADANO「フッ、所詮商業主義に塗れたキャラクターに膨大な資料に裏打ちされた深遠なる設定など無意味というわけか」
TADANO「せいぜい子供だましの宇宙人とやらを持て囃すがいい」
  『台戸階市市民ミュージカル脚本募集』
TADANO「これだ・・・!」
TADANO「演劇こそ僕の知識と教養、そしてセンスと思想の全てを注ぎ込める究極の企画!」
TADANO「そして古臭い市民全体のマインドを一気に進化させる最大のエンターテインメント!」
TADANO「いいだろう。バビロンTOKIOで手に入れた我がセンスと思想を今こそ解放する時」
TADANO「僕が10年あたため続けたファンタジックストーリーを解き放とう!」
TADANO「さあ感動せよ、老若男女の市民たち!」
  『聖姫伝説ヴァルキュリア(序章)!』
  『さあ!伝説の始まりだ!』

〇商店街
  台戸階市市民ミュージカル脚本募集!
  優勝!杉村夏子さん(主婦)
  タイトル『春のおとずれ』
多田野「・・・」
多田野「ん?」
  『伊那華町、未来へのスローガン募集』
多田野「・・・」
  くたばれ!クソ田舎!

〇研究装置
TADANO「おのれ・・・何故なんびとも我を理解せぬ」
TADANO「どうして我が才を受け入れぬのだァ!」
TADANO「許さぬ・・・許さぬぞ。愚かなる俗物ども」
TADANO「我が崇高なる志を妨げる者どもめ!」
TADANO「うおおおおおおおおおおおおおお!」
DARKTADANO「さあ、今こそ復讐の時だ!」
DARKTADANO「まさに、ソドムとゴモラが如き絶望の街と化した我が故郷よ!」
DARKTADANO「神、いや魔王に変わりてこの我が審判の炎で焼き尽くしてくれようぞ!」
DARKTADANO「メギドファイアアアーーーーーーー!」
母ちゃん「あーもう!うるっさいわねーーーー!」

〇オタクの部屋
母ちゃん「アンタはもう!いつまで引籠ってんのよ!」
母ちゃん「昼間っからゲームばっかりして!戻ってきて何か月経ったと思ってんの!」
母ちゃん「やれ町おこしだの公募だの金にもならん事をブラブラブラブラ!まず働け!」
母ちゃん「いい加減ハローワーク行きなさい!来月までに生活費入れないと家追い出すからね!」
母ちゃん「by母ちゃんアンド父ちゃん」
多田野「ご、ごめんなさい」

〇田舎駅のロータリー
駅員「お早うございます。行ってらっしゃいませ」
駅員「お早うございます。行ってらっしゃいませ」
多田野「・・・」
駅員「お早うございます。行ってらっしゃいませ」
多田野「・・・」
多田野「おはようございます」
駅員「お早うございます。行ってらっしゃいませ」
  『続いているけど・・・おわり』

コメント

  • ノイズジャンキー とはまた別の切り口で面白かったです。クリエイターの理想と村社会の無様さが、そのまま脳内のTADANOと現実の多田野として書き分けられていて感心するやら切ないやら。DARKTADANOをもってしてもラスボスの母ちゃんに玉砕なのは仕方ないですね。

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