8/32のエデン

情無合成獣スフィアマザコンザウルス

第一夜「ユメノハジマリ」(脚本)

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〇黒
謎の男「──────!!──!!!!────────!!」

〇走る列車
一二三荘司「────────!!?」
  ────じとっとした嫌な感覚と、汗が車内クーラーで冷却される際の寒気。
  目を覚ました次に僕が味わったのは、記憶の混雑である。
  名前すら出てこなかったのだ。覚えていないが、よほど混乱するような夢を見たのだろう。まだ心臓が高鳴っている。
  ────しばらくして落ち着くと同時に、手元のリュックサックに目が行った。
  記憶が混乱する中、そこに自分の手がかりがあると直感で感じた俺は、リュックサックの中を覗き込む。
一二三荘司「・・・・・・・・・」
一二三荘司「・・・・・・へっ」
  リュックサックの中に学生証を見つけた僕は、ようやく自分の事を思い出し、それまでの自分の行動を馬鹿馬鹿しく思った。
  まるで、記憶喪失の主人公だな。と───

〇田舎の線路
  ───僕は”一二三荘司(ひとみ・そうじ)”
  13歳の中学生。背が低いがそれ以外は至って普通・・・のつもりだ。
  中学に入って最初の夏休みを迎えたワケであるが、両親が仕事の都合により海外に行く事になり、僕は色々考えられた結果・・・
  ・・・若い内に日本を離れるのはよくないとして、今から向かう”きさらぎ市”に住んでいるという親戚の元で過ごす事になった。

〇屋敷の門
  そしてその親戚・・・
  ・・・”真木夏(まきな)”家であるが
  なんでも旧日本の貴族、華族とか言うやつの末裔で、大変な資産家”だった”らしい。
  今では海辺の屋敷で、膨大な貯蓄を抱えて世間から隔離された世捨て人のような生活をしているとか。
  その屋敷は、付近をウミネコがよく飛んでいる事から”うみねこ館”と呼ばれ、気味悪がられているとか・・・

〇走る列車
一二三荘司(若いうちに日本を離れるのはよくないて・・・普通逆では?)
一二三荘司(こんなど田舎にまで追い出してさ・・・)
  外国を体験させてくれなかった両親に心の中で毒づきつつ、確認がてら僕はリュックサックを覗き込む。
  着替、ゲーム、夏休みの宿題。
  財布に携帯電話。
  そして・・・
一二三荘司「・・・なんだこれ、手紙? こんなの入れたっけ?」
一二三荘司「えっと何々・・・」
  大人になれよ
一二三荘司「・・・?」
  それだけしか書いてなかった。
  どうせ両親が”不便な田舎で揉まれてこい”とでも言うつもりで忍ばせたのだろう。そう思って僕は手紙をリュックに押し込んだ。
一二三荘司(・・・うざい)
  思春期特有の苛立ちを覚える僕に、電車のアナウンスが鳴り響いた。
「次は〜きさらぎ駅〜、きさらぎ駅〜 お降りのお客様は・・・」
一二三荘司「・・・僕以外乗ってないけどね」

〇海岸沿いの駅
一二三荘司「・・・ふう」
一二三荘司「・・・あっついなあ」
  電車のクーラーから開放された僕は、その照りつける太陽に辟易としながら、自販機が無いか周りを見渡す・・・

〇海

〇海岸沿いの駅
一二三荘司(・・・海だ)
一二三荘司(実物ははじめて見たな・・・ 住んでる所内陸だから・・・そして)
一二三荘司(・・・自販機は無し!)
謎の男「・・・・・・・・・」

〇田舎駅の改札
一二三荘司(・・・改札を出ても自販機は無しか 流石は田舎・・・)
一二三荘司(・・・んっ?)
一二三荘司(・・・・・・・・・・・・)
一二三荘司(・・・・・・メイド・・・?)
一二三荘司(なんでメイド・・・? 近くにメイド喫茶でもあるのか・・・?)
一二三荘司(というか、この気候であんな格好して、 暑くないのか・・・?)
手塚知恵「・・・一二三荘司さま、ですね?」
一二三荘司「・・・えっ?」
一二三荘司「あっ・・・はい」
手塚知恵「・・・お迎えにあがりました、真木夏家にお仕えするメイドの ”手塚知恵(てづか・ちえ)”と申します」
手塚知恵「今夏は、よろしくお願いしますね ”坊ちゃま”?」
  ・・・衝撃。
  僕は生まれてはじめて、本物のメイドに出会った。
  コスプレやお手伝いさんではなく、
  知恵さんは服装から仕草まで、全てが本物のメイドだった。

〇海辺の街

〇田舎町の通り

〇車内
一二三荘司「・・・・・・」
手塚知恵「・・・・・・」
一二三荘司「・・・運転上手いですね」
手塚知恵「メイドたるもの、当然です」
手塚知恵「・・・」
一二三荘司「・・・」
一二三荘司(・・・か、会話が続かない)

〇屋敷の門

〇日本庭園
一二三荘司(広い上に綺麗だ・・・流石はお金持ち)
一二三荘司(・・・んっ?)
  僕が真木夏家の屋敷の優美さに目を見張らせていると、その庭に人影がひとつ、こちらを見つめている事に気づいた。
一二三荘司(・・・・・・)
一二三荘司(・・・・・・女の子?)
  僕と同い年前後の少女が、物珍しそうにこちらを見ていた。
  そして田舎の大自然がそうさせるのか、身長も発育も女子たるあちらが上である。
一二三荘司「・・・・・・」
一二三荘司「・・・・・・え、えと」
真木夏希「一二三荘司くんでしょ?」
一二三荘司「えっ?」
真木夏希「知恵さんから話は聞いてる あたしは”真木夏希(まきな・のぞみ)” 見ての通りの花の中二女子」
一二三荘司(真木夏・・・ってことは、 この家のお嬢様か)
一二三荘司(そして中二だから先輩だった・・・)
真木夏希「ふうん、それにしても君が荘司くんかぁ・・・」
一二三荘司「あ、あの・・・なんです?」
真木夏希「・・・・・・♪」
真木夏希「・・・君、かわいいね♪」
一二三荘司「は、はい・・・!?」
真木夏希「あははっ、照れちゃって!」
真木夏希「ま、これから一夏お世話になるんだからお互いに仲良くやろうじゃないの」
真木夏希「・・・”弟くん”♪」
  ・・・ひとしきり僕をからかった後、
  希さんは僕を置いて門の外へと走っていった。
一二三荘司(鞄持ってた・・・って事は、こっちの中学の夏休みはまだなんだ)
  そして・・・初対面の相手を”弟”呼ばわりとは、なんてお嬢様なんだろう。
  田舎ってすごいなと僕は心の中で呟いた。
手塚知恵「坊ちゃま、こちらへ」
一二三荘司「あ、ああ・・・はい」
一二三荘司(・・・こっちもこっちで坊ちゃま認定 してくるし!)

〇広い和室
  ・・・僕は手塚さんに案内されるまま、応接間と思しき和室に通された。
手塚知恵「・・・では、奥様が参りますのでしばらくお待ちください」
一二三荘司「・・・・・・・・・」
  僕は、周囲を見渡しながら”奥様”・・・
  ・・・この屋敷の主で、一夏の間僕の保護者になる人を待った。
  庭にいたウミネコが飛んでいくのが見えた。
  波の音も聞こえるし、本当に海が近いのだろう。
???「・・・一二三荘司くんですね?」
一二三荘司「・・・・・・!!」
  ────目を奪われるとは、まさにこの事を言うのだろうと思った。
  現れたその女性は、
  まるでこの世のものとは思えないようなとても・・・美しい人だった。
一二三荘司「・・・あっ、そ、その・・・・」
真木夏愛梨「・・・落ち着いて、緊張しなくていいわ」
真木夏愛梨「そして・・・はじめまして 私は”真木夏愛梨(まきな・あいり)”」
真木夏愛梨「この館の主で・・・夏休み中、あなたを預かる事になっているわ よろしく・・・」
一二三荘司「こっ・・・こちら、こそ・・・」
真木夏愛梨「ふふ・・・まずは遠路はるばるご苦労さま」
真木夏愛梨「疲れたでしょう?部屋で休むといいわ」
真木夏愛梨「・・・・・・知恵?」
手塚知恵「はい、奥様」
真木夏愛梨「荘司くんを部屋に案内してあげて」
真木夏愛梨「・・・くれぐれも、粗相のないように」
手塚知恵「承知しました、奥様」
手塚知恵「・・・では荘司様、こちらへ」
一二三荘司「・・・っは、はい・・・」
一二三荘司「・・・・・・」
真木夏愛梨「・・・・・・ふふっ」

〇大きな箪笥のある和室
  ・・・少々の名残惜しさを感じながらも、僕は愛梨さんの元を離れ、この夏休み中に自室となる部屋にやってきた。
手塚知恵「ごめんなさい、元は物置の一つだったので汚いですが・・・」
一二三荘司「いえいえ、厄介の身でそんな・・・」
一二三荘司「・・・所で、このような部屋は他にも?」
手塚知恵「はい、女3人で住むには少々広い屋敷なもので・・・」
一二三荘司「・・・」
手塚知恵「・・・それと」
一二三荘司「?」
手塚知恵「今日の6時からの予定は開けておいてください」
手塚知恵「お嬢様が、あなたに用があるので」
一二三荘司「希さんが?」
手塚知恵「はい・・・それでは、昼食の準備がありますので、これで・・・」
一二三荘司「・・・・・・」

〇日本庭園

〇大きな箪笥のある和室
  ・・・昼食の卵かけご飯を頂いた後、僕は宿題を少しして、部屋で一人ゲームをしていた。
  そりゃあ、好きなゲームだから楽しいといえば楽しいが、目下気になるのは・・・
一二三荘司「・・・・・・」
一二三荘司「・・・やっぱ、なにか変だな」
  ・・・・・・この家のことだ。

〇大きな箪笥のある和室
手塚知恵「はい、女3人で住むには少々広い屋敷なもので・・・」

〇大きな箪笥のある和室
  実を言うとさっきの質問は、ささやかな好奇心からのカマかけだ。
  手塚さんの答えから読み解くと、この家には愛梨さん、手塚さん、希さんの三人のみしかいないように思える。
  こんな地方の港町の、さらに辺鄙な場所に、女が三人・・・・・・果たして、それで生活は成り立つものなのだろうか?
一二三荘司「・・・・・・」
一二三荘司「・・・・・気になってゲーム所じゃないよ」

〇広い和室

〇大きな箪笥のある和室
一二三荘司「・・・・・・・・・・・・」
一二三荘司「・・・・・・」
  ────────僕も思春期である。

〇大きな箪笥のある和室
一二三荘司「・・・・・・・・・っ」
  どうやら、長旅でつかれていたらしくウトウトしてしまったようだ。
  携帯を覗き込むと、時計は17時を記していた。
一二三荘司(・・・そういえば予定を開けておくように言ってたけど、なんなんだろう)
  そう思っていると、遠くから扉が開く音がした。
「──知恵さん!弟くん──あっ、荘司くん荘司くん──」
一二三荘司「あの声は・・・」
真木夏希「ただいまぁ、弟くん!!」
一二三荘司「のっ、希さん・・・」
  返事も聞かずに飛び込んできたのは、今朝も会った真木夏希さんだった。
  驚いたのは、思春期真っ盛りであり異性的精神的には自分より成熟しているハズの希さんが、僕の所に・・・
  ・・・年代の近い男の部屋に、こうも軽々しく来る事だ。こんな事、愛梨さんが知ったらなんと言うか。
一二三荘司「あっ、あの・・・女の子がそんな男の部屋に軽々しく行くのは・・・その」
真木夏希「へェー・・・まるで、自分があたしをそういう目で見てるみたいな言い草だね?」
一二三荘司「いっ、いえ!!そ、そんな事は・・・」
  そうは言ったが図星であった。
  夏の日差しの中を帰ってきたという事もあり、彼女の肌は汗を反射してキラキラ光っていた。
  そして、汗と化粧品の混ざった・・・普通なら不愉快なハズの香りに、ときめいている自分に気づいた。
  我ながら気持ち悪い。
真木夏希「・・・にししっ」
一二三荘司「なっ・・・なんですか」
真木夏希「いやー、わかりやすくてカワイイなって」
一二三荘司「かわいいって、人を子供みたいに・・・」
真木夏希「いや法的には子供だし」
一二三荘司「それはそう!」
真木夏希「・・・まあいいや 知恵さんに言われた通り予定は空けてる?」
一二三荘司「まあ来たばかりですし、入れる予定も無いといいますか・・・」
一二三荘司「・・・そういえば、希さんが僕に用があるって聞いてますけど」
真木夏希「知恵さんは伝えてくれたようだね、よろしい」
  文脈を読み取ると、彼女は今から、僕を何かしらの目的に連れて行こうというのだ。
  未成年が日も沈もうとしてる時に、どこに行こうというのだろう・・・
真木夏希「・・・・・・・・・ねえ」
真木夏希「お姉ちゃんとデートしない?」

〇海

〇神社の出店
一二三荘司「・・・・・・・・・」
一二三荘司「デートって・・・お祭りの付き添いですか」
真木夏希「お祭りでもデートには変わりないでしょ?」
真木夏希「それに学校の決まりで、一人じゃ行けないし」
一二三荘司「じゃあ友達誘えばいいんじゃ・・・」
真木夏希「それがねえ、友達はみんな彼氏とデートだって言ってるのだよ」
一二三荘司「じゃあ彼氏と・・・」
真木夏希「・・・弟くん?」
  曰く、女子におけるモテるモテないの問題は男子のそれよりかなり深刻である。
  希さんの発する圧と殺意は、それを物語っていた。
一二三荘司「ア、ハイ。コレ以上ナニモ訪ネマセン」
真木夏希「よろしい」
真木夏希「それに弟くんも、こんな絶世の美少女とデートできて嬉しいでしょ?」
一二三荘司「自分で美少女て・・・」
一二三荘司「・・・・・・」
  ・・・自称ではあったが、美少女というのは間違ってないように思えた。
  希さんは、確かに愛梨さんの娘であるように思える。系譜こそ逆であるが、美少女である事には変わらないだろう。
真木夏希「あっ、照れてる!カワイイ〜♡」
一二三荘司「もっ、もう・・・からかわないでくださいよぉ」
真木夏希「にしし、じゃあ・・・行こっか」
  ・・・彼氏代わり、というのは文脈を読めば僕だってわかった。
  それ以前に、健全な女子は頼りない年下の男を恋人に選ぶ事はない。
  これは恋愛ではなく恋愛ごっこだ。頭では理解できる。
  ・・・・・・・・・
  ・・・・けれども
  僕の手を引いて、提灯の光に照らされた希さんの笑顔を見ていると、嫌でも”ワンチャン”と考えてしまう。
  その度に僕は”そんなわけないだろ”と、
  必死に自分に言い聞かせるのであった・・・
真木夏希「あっ、弟くん!!これやろうよっ!!」

〇射的コーナー
一二三荘司「射的ゲーム・・・ですか」
真木夏希「ただの射的じゃないよ、商品を狙うんじゃなくて・・・」
真木夏希「下にある的を狙って、当たり面に対応した商品がランダムで貰える、名付けてクジ射的!!」
  失礼だが、なんかややこしいなと思った。
  こういうのは地域によって違うのだろう。
  そして自分のサイフの中を見てみれば・・・一回だけなら余裕そうだ。
真木夏希「よし、じゃあまずお姉ちゃんがお手本を見せてあげよう」
真木夏希「おじちゃん、一回ヨロシク!」
おじさん「あいよぉ」
真木夏希「・・・・・・」
真木夏希「──────そこだッ!!」
おじさん「4等賞〜!!ポテチ詰め合わせセット!!」
真木夏希「やりぃ!!」
一二三荘司「すごい、命中だ・・・」
真木夏希「にしし、もっと褒めてくれたまえ〜? 弟くん」
真木夏希(まあ本当は一等賞のゲーム機が欲しかったんだけどね・・・)
真木夏希「よし、じゃあ弟くんもやってみたまえ」
一二三荘司「は・・・はい」
一二三荘司(狙って狙って・・・)

〇神社の出店

〇射的コーナー
真木夏希「うわっ!!すごい突風・・・」
一二三荘司「ああっ──!!」
  いきなりの突風に驚いた僕は、誤って射的ライフルの引き金を引いてしまった。
  打ち出されたコルク弾は、僕も検討もない方向へ飛び────的に命中した。
おじさん「二等賞〜!!二等賞で〜す!!」
一二三荘司「えっ・・・ええっ!?」
真木夏希「すごいっ!!あの突風の中を当てちゃうなんて!!」
一二三荘司「い、いや、今のは偶然当たっただけといいますか・・・」
真木夏希「運も実力の内、どっちみちすごい事だよこれは!!」
真木夏希「それでおじさん、商品は?」
おじさん「あい待ってね、二等賞の商品は・・・」

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コメント

  • 主人公が両親と離れ田舎の街に夏休みを過ごすという設定自体、この時代になにか懐かしさ感じさせられとても惹きつけられるストーリーの始まりでした。女性3人との関係もこれからの展開の鍵になりそうですね。

  • 巨大な顔面や謎の男…。謎が謎を呼ぶ展開のプロローグ、ワクワクしますね。荘司が少しだけ大人の階段を上る成長物語の側面もありそうな一夏のジュブナイル、楽しみです。

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