第13話 教示分裂(脚本)
〇城の会議室
2021年 青森県 三志和市 斎王家 客間
斎王達は北海道千歳市にあるカトリック系の教会へ向かうことになった。
幸い青森県内は警察の捜査範囲の外だったのか、警察の包囲は緩かった。
とはいえ、身分証明をする一発でバレて捕まってしまうため斎王達が考えた案は···
〇コンテナヤード
数時間後 青森県 大間町 船着場前
検査員「お客さん、悪いんだけど貨物リストの『機密事項』ってなんだい?相当重量あるけど···」
斎王家 執事「申し訳ありませんが明かすことはできません。防衛省から輸送の連絡が来ているはずですが···」
検査員「ったく聞いてねえぞ··· ··· ···待ってろ、確認してくるから」
そして数十分後、男は足早に戻ってきて話始める
検査員「大変申し訳ございませんでした、こちらの確認不足でお時間を取らせてしまって···」
検査員「検査は念の為、苫小牧港で確認させていただきます。勿論機密事項品は提出しなく結構です」
検査員「大変申し訳ございませんでした、急ぎご乗船を」
斎王家 執事「わかりました、では『慎重に』貨物積んでくださるようお願いしますね?では」
〇壁
津軽海峡 フェリー貨物内
キング「しっかし···まさか普通に行けるとはな、これ本当は何運んでるんだ?」
鸞「分からない。リストでもあればいいが···あ、おい凪園。変にいじくりまわすな!」
凪園無頼「だって暇なんだもーん。あ、なんかみっけー」
早速飽きたのか凪園がコンテナ内の貨物を物色し始める
コンテナには食料品の他に雑貨も様々あったが、凪園が手にしたものは···
凪園無頼「ねーねーエンチャントー?これって割ったら罪深いかなー?」
鸞「よせ!あまりでかい音を立てるとバレるぞ!!」
エンチャント魔導法士「スーロンの天使像···?こんもんがなんの役に立つか分からんが壊さず盗んどけ凪園」
鸞「あんたまで何言ってんだエンチャント、止めろ!」
凪園無頼「でけー音出すなって言った鸞が1番でけー声でてんのウケるー」
斎王幽羅「サラッと言ったけどスーロンの天使像って何···?もしかして偉い天使様なの···?」
エンチャント魔導法士「キリスト教の天使も位があって全部で10個あるんだが」
エンチャント魔導法士「スーロンと呼ばれる位は3番目にえらい天使だ、ちなみにだが」
エンチャント魔導法士「お前達が知ってるであろう、ラファエルやミカエルは一番偉いセラフィムという位になる」
斎王幽羅「へぇー、勉強になったなー」
フェード「妙だな···そんな物を防衛省のコンテナにわざわざ積んで運ぶのか···?」
エンチャント魔導法士「ワシも妙だとは思ってたが···なんか忘れてる気がしてならん」
そうこうしている内に汽笛の音が船内に響き渡る。どうやら苫小牧港に着いたようだ
ガタンッ!という音ともにコンテナは揺れた。恐くコンテナの積み下ろしなのだろうと斎王達は考えた
斎王家の執事の計らいで検査も無事に終わり、大型トラックのエンジン音と共に揺れが少し起きる
どうやら本来の目的地に移動しているらしい事を斎王達は理解した。そこでエンチャントが話始める
エンチャント魔導法士「いいか?本来このトラックの行先は札幌だが千歳に寄ってワシ達を降ろしてくれる事になってる」
エンチャント魔導法士「その際、執事さんが『一服しますか』と言うからそれがコンテナから出ていい合図だ」
エンチャント魔導法士「降りたらひとまずワシに着いてこい、この辺で知り合いがいるからそこに匿ってもらう」
そして数時間後、執事の一服しますかの声を聞き斎王達はコンテナを降り歩き始める
〇繁華な通り
斎王達はエンチャントの後を着いていきながら街を歩き続け、数十分後
斎王達は1つの一軒家にたどり着く。エンチャントはインターホンを押し反応を待つも誰も現れない
不思議がるエンチャントが道行く人に所有者について尋ねると、どうやら数年前に亡くなっていたことがわかった
管理してる娘夫婦も東京で何年も来ていないとの事。しかし現在は隣の家の人が定期的に掃除などをしてくれていると言う話であった
エンチャントは隣の家に行き、事情を説明。当然怪しまれるも『1日だけなら』という条件で解放してくれる事に
〇古めかしい和室
北海道 千歳市 とある一軒家
キング「随分ちゃんと管理されてるじゃねえか、んで···教会だったか?どうすんだよ」
エンチャント魔導法士「ワシだけで行く。まだ警察はワシをマークしておらんだろうしな」
斎王幽羅「あ、じゃあ俺も行くよ。1人だと心配だし」
エンチャント魔導法士「話聞いてなかったのか?ワシだけでいいと言ってるだろうが」
斎王幽羅「Xヒーロー六代目マスターの権限使いまーす。それに俺エンチャントさんのこと色々知りたいし」
キング「斎王、一応こいつまだXヒーローに加入してねえからな?」
斎王幽羅「わ、忘れてた···ま、まぁ!一応皆のリーダーポジ俺だからいいよね?」
凪園無頼「斎王リーダーより使われる側じゃねー?」
キング「言えてるな、まぁいざって時はリーダーヅラするし異論はねえけどな?」
斎王幽羅「リーダーヅラって···まぁとにかく俺とエンチャントさんで教会行ってくるね。皆は見張りお願い」
そして斎王とエンチャントは2人で市内の教会へ向かった。
〇大聖堂
斎王とエンチャントは教会へ入り適当な場所へ座る。
人はまばらで数人しかおらず、ほとんどの人が聖書を読んだり祈りを捧げていた
牧師の様な人がパンフレットを渡しに来るとエンチャントは『懺悔室』の空き時間を尋ねる
しかし懺悔室はもう空いていないらしく、また明日来なければならない様であった。
斎王幽羅「明日来なきゃいけないっぽいね···どうする?エンチャントさん」
エンチャント魔導法士「元々ワシひとりで来るつもりだから、お前は帰っていいぞ斎王。ワシはここで祈りを捧げてから帰る」
斎王幽羅「うーん···じゃあ俺もいるね。さっき渡されたパンフレット読んで待ってるよ」
数分の間静寂の時間が流れた。その間にも教会に居た人達は居なくなり気づけば斎王とエンチャントだけになっていた
教会に流れてくる風の音すら響く教会の中で斎王は静かに口を開く
斎王幽羅「エンチャントさん···なんで懺悔室に···?誰か知ってる人がいるの?」
エンチャント魔導法士「ひとつはここに居る牧師の居場所を知るため、もうひとつは···」
エンチャント魔導法士「『ワシの罪を主に告白する為だ』」
斎王幽羅「罪って···エンチャントが教え子を殺してまわった事···?」
エンチャント魔導法士「あぁ、いずれ主に告白し主に祈りを捧げるつもりだった」
エンチャント魔導法士「主はワシを裁いてくださる、だが教え子達の罪も背負い1人奈落へ落ちるのが」
エンチャント魔導法士「ワシが『あの子達』にできる罪滅ぼしだ。その為に主に懺悔し祈りを捧げるんだ」
斎王幽羅「エンチャントさん··· ··· ···気持ちはわかるんだけど、そんな事をしても教え子さん達は浮かばれないよ?」
エンチャント魔導法士「わかってる、わかっちゃいるが··· ··· ···ロシア正教は追いきれんかったワシができるのは、これくらいしかない」
エンチャント魔導法士「なにか手がかりがあればと思ったがそれもない以上、長居も無用かもしれん」
立ち上がろうとするエンチャントに斎王は引き止めるように話始める。
斎王幽羅「あのさ、エンチャントさんの事俺まだ全然知らないけどさ···」
斎王幽羅「俺らは皆どうしようもできない過去を持ってる、それはエンチャントさんも同じでしょ?」
斎王幽羅「エンチャントさんが教え子さん達を殺したのが何年前か知らないけど、今この瞬間まで忘れず思い続けてる」
斎王幽羅「エンチャントさんはもう···『過去を受け入れ前を見る』事が大事なんじゃないかな···?」
エンチャント魔導法士「過去を···受け入れる··· ··· ···」
斎王幽羅「エンチャントさん、俺達は居なくなった人たちから託された事を成し遂げなきゃならない」
斎王幽羅「俺は父さんと婆ちゃんの遺言を胸に、今の胎児誘拐を追ってる」
斎王幽羅「エンチャントさんは···今何を目標に生きているの···?教え子さん達はエンチャントさんの今の姿を望んでる···?」
エンチャントは少し制止した後、静かに座り斎王に話始める
エンチャント魔導法士「ワシに孫がいればお前くらいの歳になるな。はぁ~···そんな奴に説教されるとは思わなかったわ」
斎王幽羅「え?いやそ、そんなつもりじゃ···ご、ごめん···」
エンチャント魔導法士「斎王、説教されてる時お前が『神王』と被ったよ。あいつは馬鹿で喧嘩ばっかしてたイカれ野郎だったが」
エンチャント魔導法士「妙に説教臭いところもあったな、ふふっ···懐かしいもんだ···」
エンチャント魔導法士「さて斎王···お前の能力で懺悔室入れるか?取ってきて欲しい物がある」
斎王幽羅「いけるけど、何取ってくる?」
エンチャント魔導法士「『告解文書』だ、懺悔室は神に己の罪を告白し赦しを乞う場所。どのカトリック系の教会にもカメラ等機械類は置いてない」
エンチャント魔導法士「しかし例えば『人殺しました』なんて奴がいたら流石に野放しにはできない。その為予め文書に記録しておくんだ」
斎王幽羅「ちなみになんで必要なの···?そういう人殺しとかに心当たりが···?」
エンチャント魔導法士「懺悔室に来るのは一般人だけじゃない、教徒も同じように来る」
エンチャント魔導法士「藁にも縋る思いではあるがもしかしたら···プロテスタント系の奴が懺悔に来てるかもしれんと思ってな」
斎王幽羅「わかった、じゃあ行ってくるね」
斎王は自身の能力で地面に潜り懺悔室へ向かう。
数分もしない内に斎王が地面から現れ、告解文書をエンチャントに渡す。
エンチャントはその文書に目を通していく。日によって別の言語で書かれており斎王には全くわからなかったが
エンチャントはあるページで手を止める。英語っぽいものが書かれておりエンチャントが指を指す
エンチャント魔導法士「こいつ知ってるぞ···『ミハイル・スロヴェーコフ』プロテスタント系の魔術師だ」
斎王幽羅「ま、マジ!?懺悔内容は···!?」
エンチャント魔導法士「『全能なる主よ、私の罪をここに告白します』」
エンチャント魔導法士「『私は主の御命と信じ多くの罪なき命を奪いました』」
斎王幽羅「エンチャントさんと同じように利用されたのかな···」
エンチャント魔導法士「『あぁ、私はなんと罪深い事をしたのか。私は祖国ロシアで産後の母親を大量に殺してしまいました』」
斎王幽羅「『産後』···?産まれた後のお母さんを···?」
エンチャント魔導法士「『主よ、私の罪をどうか赦してください。そしてロシア正教に裁きの光をお与えください』」
エンチャント魔導法士「産後の母親を殺す理由···頼と勇次郎の遺言書に書いてあった『クローン研究』に関係があるやもしれんな」
斎王幽羅「クローンを作る母体とかで必要だったとかは···?」
エンチャント魔導法士「いや、それなら『生きたまま』のほうがいいはずだ」
エンチャント魔導法士「殺すって事は何か···それこそ『養分』として必要と考えた方がいいかもしれん」
斎王幽羅「戻って皆に聞いてみよう、何かわかるかもしれない」
斎王とエンチャントが立ち上がり教会を去ろうとしたその時
教会に数人の教徒達が入り込み斎王とエンチャントを包囲する。
包囲の外側から1人の男が現れ斎王達に話始める。
イヴァン司教「こんばんわエンチャント魔導法士。ご機嫌いかがですか?」
エンチャント魔導法士「現役女子大生と飲めると思ったら汚ねえババアが出てきた気分だ、アズリエル魔導審士」
イヴァン司教「相変わらずで何よりです。さてエンチャントさん、単刀直入すみませんが」
イヴァン司教「告解文書をお渡し下さい。それはロシア正教にとって『異端物』なのですから」
斎王幽羅「え、どういうこと···?」
エンチャント魔導法士「気に食わないから燃やすって事だ。プロテスタントは主に赦しを乞わないからな」
斎王幽羅「やばいじゃん!でも···どうするの?」
エンチャント魔導法士「アズリエル魔導審士、どうしても告解文書を燃やすのか···?」
イヴァン司教「えぇ。プロテスタントにとって懺悔その物が『悪』です」
イヴァン司教「神に許しを乞う程我らは横に並んでいない。己の罪を告白しようとも最後に決めるには我らが主である」
イヴァン司教「肉体と魂が切り離された時初めて、神は我らの罪を暴き罰を与えてくださる」
イヴァン司教「その瞬間を和らげようとする行為は異端そのもの。よって告解文書を燃やすのです」
エンチャント魔導法士「教会で習わなかったのか?『我らが隣人を愛し隣人は我らを愛す』ロシア正教にはないのか?」
イヴァン司教「えぇ、少なくともロシア正教では」
イヴァン司教「それと私はアズリエル魔導審士の名は捨てましたよ、エンチャント魔導法士」
イヴァン司教「私はロシア正教『イヴァン司教』として今は生きています」
エンチャント魔導法士「そりゃ良かったな。さて、そろそろどいてくれる気になったか?イヴァン司教」
イヴァン司教「いえ?まぁ貴方は昔から頑固なところがありましたから仕方ありませんね」
イヴァン司教「お前達『告解文書』を奪い、神の道理に背く愚か者共に裁きを与えよ」
To Be Continued··· ··· ···