第5話 放課後のお誘い(脚本)
〇散らかった職員室
『ガラガラガラ』
陽影 伶「失礼しまーす、八千代先生はいらっしゃいますか?」
女性教師「あら、また君か。 飛鳥ちゃんならまだ戻って来てないわね」
陽影 伶「ああやっぱり、すみませんが待たせてもらいますね」
女性教師「何度も何度も来て、職員室好きねぇ」
陽影 伶「今の所は特に何も起こってないので好きでも嫌いでもないですね」
女性教師「あら正直者ね、泉に斧とか落としたりした?」
陽影 伶「泉の女神様は、あんなごっつい斧を自分の管理してる泉に不注意で投げ込まれておいて、よく笑顔で応対したもんですよね」
女性教師「ああ、まあ普通の人なら怒るわよねきっと、女神様だから寛容だったんじゃないかしら?」
女性教師「そういえばこの島には色々な各地の遺跡や伝承のレプリカみたいな物が多数あるんだけど」
陽影 伶「い、遺跡? ここって結構新しい人工島ですよね?」
女性教師「そう、だからレプリカよ。 ピラミッドとかストーンヘンジとか地上絵とか」
陽影 伶「えっ、なんでそんな物があるんですか?」
女性教師「さぁ? それはこの島を作った人達じゃないとわからないかもね、もしかしたら理事長とかなら知ってるのかしら?」
女性教師「まあそれはいいとして、その中には『正直者の泉』もあるらしいのよ、場所は知らないけどね」
陽影 伶「ピラミッドとか分かりやすいモノならともかく、『正直者の泉』ってどうして分かったんでしょう、看板とかあるんですかね?」
女性教師「そういえばそうね、ピラミッドには看板とか無かったし泉にも無さそうよね」
女性教師「変な遺跡とかゴロゴロあるから、そんな中で綺麗な泉を見つけたらそうだと思っちゃったのかもね」
陽影 伶「泉から女神様が常時生えてたら分かりやすいんですけどね」
女性教師「ふふふふ、それなら私も見てみたいわ。 もし生えてる泉見つけたら教えてね」
陽影 伶「群生してたら逃げちゃいますねきっと」
女性教師「もうそれは泉じゃなくて『女神温泉』とかなんじゃないかしら」
『ガラガラガラ』
女性教師「あら、飛鳥ちゃん戻って来たわね」
女性教師「飛鳥ちゃん、お帰りなさい」
八千代 飛鳥「はい、ただいま戻りました」
八千代 飛鳥「陽影君、お待たせしちゃったみたいでごめんなさいね」
陽影 伶「ああ、いえ、久世先生・・・大変そうでしたし、先生が話し相手になってくれたので」
女性教師「なかなか面白い子よね、この子」
八千代 飛鳥「面白い・・・で済んでくれたら嬉しいんですけど」
女性教師「じゃあ、良い気分転換にもなったし、私は小テスト作りに戻るわね」
八千代 飛鳥「はい、頑張って下さい」
女性教師「頑張るのはイヤだわぁ・・・」
八千代 飛鳥「えぇー・・・」
陽影 伶「先生方も大変ですね」
八千代 飛鳥「まぁそうなんですけどね、じゃあこっち来てください」
てくてくと歩く八千代先生を追って、八千代先生の机へ行く。 久世先生はやはり居ない
八千代 飛鳥「ちょっと待ってくださいね、こっちの・・・」
陽影 伶「・・・」
八千代 飛鳥「今度は戻って来たら土下座してるのとか止めてくださいね!!」
陽影 伶「土下座はしませんよ」
八千代 飛鳥「陽影君だとそういう言い方をしたら土下座以外の何かをしそうで怖いんですよね」
陽影 伶(自業自得だけど全く信用が無いな・・・)
八千代 飛鳥「ヨッコイショ!! ふう、これです」
運ばれて来たダンボール箱の中には沢山の教科書が詰まっている
八千代 飛鳥「持つの大変ですからダンボールごと持って行ってください」
陽影 伶「ありがとうございます」
八千代 飛鳥「教室の陽影君の席のすぐ後ろにロッカーがありますよね、名札付けておきましたから使ってくださいね」
八千代 飛鳥「さすがにその教科書を全部持ち帰るのは大変ですからね、でも置きっぱなしにしちゃダメですからね」
八千代 飛鳥「少しずつでもいいので持ち帰る事。 あと、ロッカーは施錠出来ないので貴重品は絶対入れておかないでください」
陽影 伶「はーい」
八千代 飛鳥「はい、じゃあこれでもういいですよ、気を付けて帰ってくださいね」
陽影 伶「はい、先生も知らない人に付いて行っちゃダメですよ、お菓子とかも貰わないように」
八千代 飛鳥「小学生じゃないんですよ!? それは陽影君こそ気を付けてください!!」
陽影 伶「それじゃまたね、八千代先生」
八千代 飛鳥「はい、また元気に登校してください」
ちょっと気合いを入れて、重いダンボールを抱えて職員室を後にした
〇教室
陽影 伶「ふうふう、どっせい!!」
陽影 伶「ようやく教室にたどり着いた、ロッカーは・・・これか」
確かに席のほぼ真後ろのロッカーに、
『陽影 伶』と名札が付いている
陽影 伶「まあ持ち帰るのはまたいつかにするとして、全部入れておくか」
『ガチャ』
陽影 伶「あれ、なんだこの封筒?」
ロッカーを開けると、中央にぽつんと封筒が置かれていた
陽影 伶「八千代先生からの連絡・・・とかじゃなさそうだな」
『陽影殿』
陽影 伶「・・・殿?」
陽影 伶「差出人の名前は・・・無いか」
陽影 伶「どう見てもラブレターじゃなくて不審物だよなこれは、まあ開けて見るか」
『ガサガサガサ』
本日放課後
高等部旧校舎図書室にて待つ
陽影 伶「うん」
陽影 伶「ラブレターだな」
陽影 伶「・・・」
陽影 伶「自分を騙すのって難しいな、どっちかと言うと果たし状だもんなこれ」
陽影 伶「問題は・・・旧校舎ってどこだ?」
〇学校の昇降口
陽影 伶「うーん、もう誰でも良いから通りかかった人に聞いてみようかな」
月詠 諒子「あーっ!!」
月詠 諒子「裏切り者発見!!」
陽影 伶「裏切り者?」
月詠 諒子「私が先生にドナドナされていったのに助けようともしないで見送ったじゃない」
陽影 伶「あー・・・いや、どうしようもなかったじゃん」
月詠 諒子「そうかもしれないけど、助けようとする姿勢がね・・・!!」
そう言いながらプリプリと振り上げた手には
陽影 伶「『月詠殿』」
月詠 諒子「『陽影殿』」
「本日放課後 高等部旧校舎図書室にて待つ」
〇ボロい校舎
月詠 諒子「そういえば、 お互いまだ自己紹介もしてなかったよね」
陽影 伶「あー、確かにしてないね」
月詠 諒子「私は、月詠 諒子(つくよみ りょうこ) 二年七組だよ、中等部に妹が通ってるんだ」
陽影 伶「俺は陽影伶、二年三組だね」
「よろしくお願いします!!」
陽影 伶「で、ここが高等部旧校舎?」
月詠 諒子「うん、と言っても私もさっき聞いて初めて来たからあんまり自信無いけど・・・」
月詠 諒子「一応今は一部を部室として使ってたりするらしいの」
陽影 伶「ああ、なんかこの学園部活が沢山あるんだっけ」
月詠 諒子「私も詳しくは知らないけど、人数さえ揃えれば反社会的とかじゃない限り創部出来るらしいよー」
月詠 諒子「その代わり人数足りなくなるとその年度で廃部らしいけどね」
〇木造校舎の廊下
月詠 諒子「誰もいないねー・・・」
陽影 伶「図書室が何処なのかわかる?」
月詠 諒子「え、さすがにそこまでは聞いた人も知らなかったよ」
陽影 伶「あ、この辺りの部屋は部室みたいだ」
月詠 諒子「本当だ、『セパタクロー部』『ゲートボール部』『第八庭球部』」
陽影 伶「庭球・・・あ、テニスか。 なんでテニス部が第八まであるんだ?」
月詠 諒子「ブームでもあった・・・のかな、全然わかんないけど」
陽影 伶「でもこの辺りは運動部ばかりだし、なんか図書室って感じはしないよね」
月詠 諒子「確かに・・・そ、あっ」
月詠 諒子「あっちの廊下、文化部じゃないかなあれ」
陽影 伶「『古代生物研究部』『漫画科学部』『西洋オカルト部』『古典文学部』『自動人形部』・・・」
月詠 諒子「えーっと、よくわかんない・・・」
陽影 伶「俺もわからんよこんなの」
月詠 諒子「あっ、あそこ、あの奥の部屋!!」
陽影 伶「『図書室』あった、あったね」
月詠 諒子「薄暗いし、こんな肝試しみたいなのいつまで続くのかと思ったよ」
〇古い図書室
月詠 諒子「し、失礼しまーす・・・」
陽影 伶「呼ばれて来たのになんでそんなに遠慮がちなの」
月詠 諒子「いやだって、なんかこうこの古めかしい感じが怖いじゃん・・・」
図書室を見回すが、見える範囲には誰も居ない。本棚が並んでいるが、棚の半分ほどは本が入っていないようだ
月詠 諒子「あれ、誰も居ない・・・よね?」
陽影 伶「見える所にはね、あっちの方は本棚で見えないし行ってみようか」
月詠 諒子「え、行くの?」
陽影 伶「ああ、見てくるから別にここで待ってていいよ」
月詠 諒子「それだと一人になっちゃうじゃん!? 行く行く、一緒に行こうよ」
『ギシ・・・ギシ・・・』
踏み出すと床が鳴る音が図書室に響く、本棚の本を歩きながら横目で見るとかなり古めの本が目立つ
月詠 諒子「な、何もいませんように・・・」
陽影 伶「いや、呼び出されたんだから何もいなかったらむしろ困るよ」
そうして本棚の間を抜けて行くと、窓際に閲覧用の机が並んでいた
月詠 諒子「やっぱり、誰もいな・・・っ!?」
奥の目立たない机に、一人の少女が座っている。鮮やかで輝くような金髪の少女
『ギシッ!!』
驚いた拍子に一歩後ろに下がった月詠の足が床を鳴らす
その音に反応して少女がこちらに顔を向けると、綺麗な金髪がさらりと肩を流れ落ちる
此方に気が付いた少女は薄く微笑み、桜色の唇を開いた
アラーニャ・ルピナス「おお、よく来たのじゃ!!」
アラーニャ・ルピナス「そなたらに宛てた封書には本日としか記しとらんかったと気付いてな、もしや今日は来ないのじゃないかと不安じゃったわ!!」
月詠 諒子「えっ、えっ!?」
アラーニャ・ルピナス「一日千秋の想いで待っておったのじゃ。 さ、そこに座ってゆるりと話そうではないか」
月詠 諒子「えぇーーー!!」
アラーニャ・ルピナス「では改めて・・・ 儂の名は、アラーニャ・ルピナスじゃ、二年九組で古典文学部の副部長を務めておる」
アラーニャ・ルピナス「ああ、御主らの名も組も知っておるのでな、名乗る必要は無いのじゃ」
月詠 諒子「えっ、あっ、うん。 同学年だったんだね、知らなかったよ」
アラーニャ・ルピナス「儂は此方の旧校舎に部室もあるしの、ほとんど授業時間以外は此方におるから致し方ないのじゃ」
月詠 諒子「そ、そうなのじゃ?」
陽影 伶「うつってるうつってる」
月詠 諒子「あっ、その、ごめんなさい・・・」
アラーニャ・ルピナス「いやいや、気にする必要はないのじゃよ、変な喋り方じゃろう?」
月詠 諒子「いや、その・・・」
陽影 伶「凄く変」
アラーニャ・ルピナス「儂もそう思うからのう、だからまあ気にするでない」
アラーニャ・ルピナス「主に日本語を教わったのがな、権三郎と可夜殿でな。 それに加えて時代劇ばかり見ていたせいでこの有り様じゃよ」
「権三郎?」
アラーニャ・ルピナス「陽影よ、お主は知っておろう。 担任だったはずじゃろうが」
陽影 伶「あ、久世先生? あの人権三郎って名前だったのか」
アラーニャ・ルピナス「そう、そして翁の奥方が可夜殿じゃ」
陽影 伶「あの人あの有り様で結婚してたのか・・・」
アラーニャ・ルピナス「はっはっはっ、確かに普段は本当に酷いな権三郎は、その分可夜殿がとても頼りになるのじゃよ」
月詠 諒子「普段?」
アラーニャ・ルピナス「ああ、儂は日本へ来て権三郎の屋敷で世話になっておるのじゃ」
月詠 諒子「あー、ホームステイってことかな」
アラーニャ・ルピナス「まあ、その様なものじゃな。 特に可夜殿が時代劇が好みでのう、儂も色々見せて頂いて・・・この有り様というわけじゃ」
月詠 諒子「あはは、そうなんだ。 私は全然そういうの観たことないや、面白いんだね」
アラーニャ・ルピナス「儂が初めて観たのは『暴れる!! 将軍!!』シリーズでな、将軍の豪快な乗馬姿が最高なんじゃ!!」
月詠 諒子「暴れる?そ、そういうのがある、の」
アラーニャ・ルピナス「そしてなんと言っても儂が一番好みであったのが『暴れる!! 副将軍!!』じゃな!!」
アラーニャ・ルピナス「旅仲間のな、世間的には六之助と七千代が人気なのじゃが、なんといっても儂が最も推しておるのは『九衛門』じゃな!!」
陽影 伶「八は?」
アラーニャ・ルピナス「あやつはうっかりすぎるのじゃ」
月詠 諒子「そうなんだ、へー・・・」
アラーニャ・ルピナス「さらに『暴れる!!桜吹雪!!』にもなるともう、感涙を禁じえんのじゃ!!」
陽影 伶「どれもこれも暴れてるだけだな!?」
アラーニャ・ルピナス「ふっふっふっ、この違いが分からないようではお主もまだまだなのじゃ」
月詠 諒子「そ、そういえば、私達ってなんで呼ばれたのかな?」
アラーニャ・ルピナス「おお、実はな・・・本題はもう既に終えてる様なものなのじゃよ」
陽影 伶「ん? どういう事?」
アラーニャ・ルピナス「端的に言うとじゃな、話をしたかっただけじゃよ」
アラーニャ・ルピナス「陽影よ、お主今日の昼時に学食で楽しげな事をしておったらしいな」
陽影 伶「俺じゃなくて、八千代先生が魔法少女になっただけだよ?」
月詠 諒子「なにそれ、どういう事!?」
アラーニャ・ルピナス「それだけではなかろう、その前の事も聞いておるぞ」
簡単に昼の学食での出来事を二人に話す。 箸の件については濁して伝える事にする
月詠 諒子「ええー!! そんなに面白い事やってたんだったら呼んでよね!!」
陽影 伶「名前すらついさっきまともに聞いたばっかりだって」
月詠 諒子「もう、ルピナスさんも見たかったよね?」
アラーニャ・ルピナス「ふむ・・・」
アラーニャ・ルピナス「のう、月詠殿よ」
月詠 諒子「なに?」
アラーニャ・ルピナス「お主は良い娘じゃの、どうかこれからも懇意にしておくれ。諒子、と呼んでもいいかの?」
月詠 諒子「嬉しい!! ルピナスさん・・・ううん、アラーニャちゃん、こちらこそ!!」
アラーニャ・ルピナス「ふふふ、ラニじゃ」
月詠 諒子「え?」
アラーニャ・ルピナス「親しい者はそう愛称で呼んでくれるのじゃ、ラニと呼んでいいのじゃ」
月詠 諒子「ふふふ、よろしくねラニちゃん!!」
陽影 伶「おお、美しき友情かな」
アラーニャ・ルピナス「お主もまあ、好きに呼んで構わんぞ?」
陽影 伶「えっいいの・・・? あらーにゃ・・・るぴなす・・・」
陽影 伶「ニャル!」
アラーニャ・ルピナス「無貌の邪神、這い寄る者みたいではないか、そんな呼び方をするなら・・・」
アラーニャ・ルピナス「ひかげれい・・・げ、れ、ゲレゲレじゃ!!」
陽影 伶「俺はプックル派だから」
アラーニャ・ルピナス「なんでじゃ!! ゲレゲレ可愛いじゃろ!?」
〇ボロい校舎
結局目的は濁されたまま、図書室での会合は終わった。 話をしたいだけなんて言っていたが、まず間違いなく他の目的がある
まだやる事があると言うので、ニャルとは図書室で別れて外に出て来た。 既に日が落ちかけていて、夕日が半ば沈みかけている
高等部校舎に戻り、それぞれの教室へ向かうので月詠さんとも別れる。謎の呪いを受けてる変な人だけどこの人もいい人ではあった
変な人ばかり出会った気がするが、いきなり始まったこの生活も助けてくれそうな人に沢山出会えた
〇明るいリビング
陽影 伶「ただいまー」
『タタタタ・・・バンッ!!』
暁 灯可里「あら、おかえり、れーちゃん」
激動の一日を乗り越え
暁 灯可里「ま・さ・か、家族会議を忘れてたなんて事は・・・」
たと思っていたのは俺だけだったようです
暁 灯可里「な い わ よ ね ?」
助けてくれそうなみんな、出番は今でしょ、今!! なう!!
暁 灯可里「さ、こっちいらっしゃい」
俺の一日は、まだもうしばらく続く
──もしくは一日じゃなくて人生が終わるかも?