ノイズジャンキー

山本律磨

ダイアローグ(脚本)

ノイズジャンキー

山本律磨

今すぐ読む

ノイズジャンキー
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇田舎の公園
さとこ「う~~~っ・・・」
慧「う~~~っ・・・」
「う~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
「かんぱーーーーーーーーーーーーーーい!」
「キクゼーーーーーーーーーーーーーー!」
さとこ「わはははは!」
慧「でも初めてやね。さと子とお酒飲むの」
さとこ「慧ちゃん。結局、東京来なかったから」
慧「ゴメンね・・・しかたなかったそい」
慧「まさかデキちょったとは」
慧「野暮ったい彼氏なんてサクッと捨てて東京でイケメン塗れのタダレタ人生を送る予定が、おじゃんになっちゃったぜ」
さとこ「でも幸せそう」
慧「まあ、フツーやね。フツー」
  この田舎町を一緒に飛び出そうと約束した慧ちゃんが突然のデキ婚で上京出来なくなった事を人づてに聞いたのは最初の夏だった。
  その頃は、私にも新しい友達が出来てて『あーそうなんだ。じゃあ元気で』って感じで。それからは何の連絡もしなくて。

〇渋谷駅前
  でも時々は考えたよ。
  ここに慧ちゃんがいたらなって・・・
  慧ちゃんと一緒に歩きたいなって・・・

〇田舎の公園
慧「ね。時々はうちのこと思い出したりした?」
さとこ「べ、べーつに・・・」
慧「そっか。そんなに楽しかったか東京。畜生」
さとこ「そっちだって、代わりに別の幸せ手に入れたじゃん」
慧「うわ、今『じゃん』とか言った」
慧「ひくわ~」
さとこ「チッ、いっそバツ3くらいになってりゃあよかったのに」
慧「残念やね。もう倦怠期は乗り越えました」
さとこ「そりゃ結構!」
慧「ねえ、この曲覚えちょる?」
さとこ「うん?」
慧「ふふふふ~ん♪ふふふふ~ん♪」

〇炎
「ふふふふ~ん♪ふふふふ~ん♪」
「JYOUNETU(情熱)!」

〇田舎の公園
さとこ「ボーイズBアンドシャツ!」
慧「もう解散しちゃったね」
さとこ「それ今うちのスーパーで流れよるよ」
慧「昔流行った歌とかフルートとかでアレンジして流しよるアレやろ」
さとこ「そうそう、こんな感じ」

〇スーパーの店内
  『いらっしゃいませ。いらっしゃいませ』
  『本日は解凍ブラックタイガーが680円。解凍ブラックタイガー680円』

〇田舎の公園
「ダッサ―――――――――――――――!」
慧「何でスーパーってああいうダサいアレンジして流すかな」
さとこ「だれが喜ぶんだろ?QUEENとかボンジョビのクソアレンジ」
慧「もっとも~」
慧「ウチも今、ママさんコーラスに入ってたりなんかしちょったりして」
さとこ「・・・へ?」
さとこ「・・・」
さとこ「へーそうなんだーすごーい」
慧「はい引いたァ!今、完ッ全に引いたァ!」
さとこ「そ、そんなことないよーすごーい」
慧「すごいって言うな!凄いとカワイイはコメントに困った時に無意識に出る台詞だ!」
慧「仕方ないそっちゃ!町内会とPTAとママ友と姑の包囲網から逃れられんかったそっちゃ!」
慧「主婦はこういう同調圧力に日々耐えながらささやかな幸せを守り抜かんといけんそ!」
さとこ「どうどう!おちつけ!おちつけ!」
慧「あんたはおしゃべりなんだから気を付けた方がええよ。私だから笑って許してあげるんやけえね」
  笑ってもないし許してそうにもないけど。
さとこ「そんなこと言うの慧ちゃんだけだよ」
さとこ「むしろ無口な方だと思うけどな~」
慧「顔」
さとこ「へ?」
慧「自分で気付いちょらんの?さとこは、口に出しよる言葉の何十倍もよう顔が動くほ」
慧「多分、心の中じゃよう喋りよるんやろ?」
さとこ「ははは・・・そんなこと」
  よく見てるな~
慧「よく見てるな~」
慧「ガーン♪」
さとこ「・・・SEまで!」
さとこ「慧ちゃんにお喋りって言われるようになっちゃオシマイだな」
慧「私は全然いね」
さとこ「よく言うよ」
慧「顔も言葉も全部ウソ」
さとこ「え?」
慧「と、までは言わないけど」
慧「田舎で大人になるってそういう事」
慧「静かで穏やかなコミュニティの中で生きてくには心の声を絶対聞かれちゃダメよ」
  驚いた。
  あんなに天真爛漫だった慧ちゃんがそんな事言うなんて。
  そんな生き方してたなんて。
  私は、慧ちゃんが私を置いて立派な大人になってしまったように見えて・・・
  ちょっと・・・
  いや、すっごくイラついた。
慧「怒った?」
さとこ「別に」
  『別に』じゃないってきっと見透かされてるはず。
慧「そう」
  その笑顔もウソなの?
さとこ「・・・」
さとこ「まあ、確かに。大変そうだね」
さとこ「ママさんコーラスかあ・・・」
  喧嘩、売ってみた。
さとこ「昔はゴリゴリのデスメタルしか聞かなかったのにね~」
さとこ「コーラスもデスっちゃえば?」
さとこ「ヴォエーーーーーーーーーー!」
さとこ「って感じ?」
さとこ「ヴァダジノ~オヴァガノ~バエデエエ~!」
さとこ「って感じ?」
慧「あはははは!」
慧「そんな馬鹿なことできないよ」
さとこ「・・・」
さとこ「説教?」
慧「まあ、一応ママやけえね」
さとこ「本当は叫びたいんじゃない?」
慧「あははは!」
  叫びたいって言って。
慧「あはははは!」
  そんな笑顔見たくない。
  大人になんてならないで。
  私を追いて大人にならないで。
  見透かしてるんでしょ?私の気持ち。
  だったらもう笑わないで。
  一緒に苦しんで・・・
慧「来週、発表会なんよ。公民館で」
さとこ「ふーん」
慧「タダやけ見においで」
さとこ「タダ程度のものか~」
慧「・・・」
さとこ「・・・」
慧「カッーコいい♪」
慧「東京のセンスに磨かれたレディは、本物にしか興味ありませんってか~」
さとこ「・・・」
さとこ「じゃあ一緒に来りゃよかったじゃん。東京」
慧「そうですね~。じゃ~ん」
慧「その方がよかったじゃ~ん」
さとこ「笑うな!」
慧「・・・」
さとこ「しょうがないじゃん!もう抜けないのよ、標準語!」
さとこ「『え?怒ってんの?』とか言われるから、必死で治したのよ!」
さとこ「もう10年だよ10年!慧ちゃんと一緒に過ごそうって思った10年だったんだよ!」
さとこ「何勝手にデキ婚してんのよ!元サッカー部の先輩?知らねーよバーカ!」
さとこ「てか淫行じゃん!勝手に淫行して、勝手にデキ婚して勝手に田舎のオバサンになってんじゃねーよ!」
さとこ「あと虫うるさい!のどかさアピールとかいらないし!」
さとこ「鳴き止むなよ根性ねーな、虫!」
さとこ「不安になるのよ・・・」
さとこ「静かだと不安になるのよ・・・」
さとこ「どうやって生きてったらいいか分かんないのよ!」
さとこ「何の取り柄もない、友達もいない三十路女が浦島太郎になって戻って来て・・・」
さとこ「介護か!最早介護だけの人生か!」
さとこ「静か!静か静か静か静か静か・・・」

〇不気味
さとこ「静か静か静か静か静か静か静か静か静か!」
さとこ「静かすぎてうるさい!頭が割れそう!」
さとこ「うわあああああああああああああああ!」

〇田舎の公園
慧「・・・」
慧「あーあ。夜中、騒がしかったって町内会で問題になる」
さとこ「知らない」
慧「まあ、ゆっくりなじんでこう」
慧「おいでよ。ママさんコーラス発表会」
さとこ「行けたらいく」
慧「なんだったら参加する?」
慧「誰とも話合わんのよ。平均年齢高くて」
さとこ「・・・」
  慧ちゃんも寂しいの?
  それとも、それもウソ?
  だったら。
さとこ「だったら」
さとこ「一緒に叫んで」
慧「・・・」
慧「こ、コラ。さとこ!近所迷惑だって!」
さとこ「私はもう、口に出したよ」
慧「・・・え?」
さとこ「顔ほど喋って、叫んだよ」
慧「・・・」
さとこ「あースッキリした」
さとこ「じゃあコーラス頑張ってね。幸せママさん」
慧「・・・」
慧「そうよ」
さとこ「・・・」
慧「私、主婦なの」
さとこ「だから?」
慧「PTA役員」
慧「草刈り担当」
さとこ「だから何?また大人自慢?」
慧「何も知らんのに。生まれ育った町で大人になるってのがどういうことか」
慧「この静かさを壊したらどんな目で見られるか何も分かっとらんのに」
慧「大人の世界で寂しい思いをしたくないなら」
慧「叫ぶな」
慧「叫ぶな馬鹿」
さとこ「分かったよ。もういい」
慧「・・・」
さとこ「・・・もう。いい」
慧「コーラス。見にきてよね」
さとこ「・・・」
さとこ「帰る」
さとこ「お前じゃない」
  カエルだけに。
  ・・・
  あと少し、続きます。

次のエピソード:シャウト

成分キーワード

ページTOPへ