シャウト(脚本)
〇古いアパートの居間
さとこ「・・・ふう」
熱い夏にはあえて熱いお茶を・・・
じゃねーよ。
ババアか。
慧ちゃんとの再会は最悪なものだった。
彼女は立派な田舎のオバサンに・・・
〇田舎の公園
慧「多分、心の中ではよう喋りよるんやろうね」
〇古いアパートの居間
さとこ「ねえ、ママ」
さとこ「・・・」
さとこ「おかーちゃん!」
さとこの母「なによ大声出して」
さとこ「一人暮らしするけ」
さとこの母「あっそ」
さとこ「いっちばん近い都会に出るけ」
さとこの母「あっそ」
さとこ「ゆくゆくは東京戻るけ」
さとこの母「あっそ」
さとこ「・・・」
さとこ「まあ、先々の話やけど・・・」
さとこの母「お風呂掃除お願いね」
さとこ「・・・」
子供だ・・・
私だけ子供のままだ。
〇田舎の公園
慧「コーラス。見においで」
〇古いアパートの居間
分かったよ。
いや、口に出してやる。
さとこ「分かったよ」
さとこ「どうせ子供やけ、口に出しちゃる」
〇中央図書館(看板無し)
さとこ「そしてママさんコーラスとやらの発表会の日が来たのであった!」
顔見知り「あれー?大泉さんとこの娘さん?」
さとこ「こ、こんにちは」
顔見知り「東京から戻ってきたんやってね~」
顔見知り「慧ちゃんの歌聴きにきたん?」
顔見知り「仲良かったもんね~いつも一緒で」
顔見知り「あはは。服も若~い」
顔見知り「やっぱり一度東京行った子は違うわね~」
口に出してやる。
もう静かさは飽き飽きだ。
叫んでやる。私は、子供だから!
〇黒
さとこ「うるっせえんだよババアーーーーーー!」
〇中央図書館(看板無し)
さとこ「会場こっちでしたっけ?」
さとこ「それじゃ・・・」
顔見知り「しっかり応援しちゃげてね~」
顔見知り「・・・あの娘、もう30でしょ?」
顔見知り「なにあの恰好・・・」
聞こえちょるよ。
おばちゃん達も、口ほどに顔がもの言いよるけえ。
〇劇場の座席
慧ちゃん・・・今、緊張しちょる?
『続いての発表はあけぼのコーラスクラブです』
『昔、若者たちの間で流行した曲がいま、穏やかなアレンジで甦ります』
私も緊張しちょるよ。
『ソロパートは一番の若手、鈴井慧さん』
『それでは、お聞きください。ボーイズBアンドシャツ。情熱』
だって、今から叫ぶけ。
子供の私が慧ちゃんに変わって叫ぶけえ。
〇劇場の舞台
違うよ。
そんなの、ウソの声だ。
ウソの歌だ。
ウソの静かさだ。
大人になった慧ちゃんに変わって私が歌っちゃる。
私が叫んじゃる。
慧ちゃんのウソをぶち壊しちゃる!
慧「・・・」
〇劇場の座席
〇黒
〇炎
〇劇場の座席
顔見知り「ちょっと、アレ何?」
顔見知り「あの人。何叫んでるの?」
顔見知り「メチャクチャなんだけど」
さとこ「・・・慧ちゃん」
〇劇場の舞台
慧「~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」
〇劇場の座席
慧ちゃん・・・何やりよん?
主婦やろ?
ママやろ?
PTAの役員で草刈り担当やろ?
さとこ「大人やろ?」
〇劇場の舞台
慧「~~~~~~~~~~~~~~~♪」
〇劇場の座席
さとこ「ばっきゃろう・・・」
さとこ「慧ちゃんのばっきゃろーーーーーー!」
さとこ「~~~~~~~~~~~~~~~♪」
〇劇場の舞台
それはただの騒音だった。
慧ちゃんが私の為に歌ってくれた騒音。
〇劇場の座席
そして私が慧ちゃんのために歌う騒音。
さとこ「ありがとう。慧ちゃん」
さとこ「これで、ここで生きていける!」
〇劇場の舞台
慧「よっしゃあ!いくぞーーーさとこーー!」
〇炎
「JYOUNETU!」
〇黒
あ・・・この爆発は私達のシャウトじゃなくて。
なんと言うか、各方面からこっぴどく怒られたという意味の爆発で。
パパはまたちょっと体調悪くなって。
なのに何故か、うちのママだけはゲラゲラ笑ってて。
慧ちゃんは、ギリギリ離婚回避出来たって感じで。
あーもう。これで絶交されちゃうなーって覚悟したんだけど。
〇寂れた雑居ビル
けーこ「ママーはやくはやくー!」
慧「コラー!けーこ!ちょっと待ちー!」
けーこ「さとこおばちゃんも遅い遅いー!」
さとこ「誰がおばちゃんよ誰が!」
静けさなんてクソくらえだ。
安らぎなんてクソくらえだ。
さとこ「ノーカントリー!ファッ○オーーーーフ!」
慧「あーあ。口に出しちゃった」
さとこ「ってな感じで」
ご清聴ありがとうございました。