幸せの味

夏目心 KOKORONATSUME

5 帰るべき場所(脚本)

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〇大衆居酒屋
佐藤博之「何だ霧斗、その話聞いてたのか」
桐宮霧斗「知りませんでしたよ。師匠がそんな凄い人だったなんて」
鮫島花恋「私も、まさかあの日に会った人が伝説の料理人だなんて気付きもしませんでした」
佐藤博之「まぁ、もう昔の話だから話しても仕方の無い事だったからな」
鮫島花恋「それで、どうして名誉有るオーナーを辞めて、普通のお店をやろうとしたんですか?」
佐藤博之「こう言うのは余り好きじゃ無いが、偶には良いか。霧斗、俺と一緒にこの店やって俺に対して気付いた事有るか?」
桐宮霧斗「え?そうですね・・・何と無くですが、美味い飯を食ってるお客さんの笑顔を見たいとか・・・ですか?」
佐藤博之「正解だ!流石俺が鍛えただけは有るな!」
鮫島花恋「え!?それじゃあ、夏目ホールディングスを辞めたのって・・・」
佐藤博之「そうだ。確かに夏目ホールディングスのオーナーに成れるってのは名誉な事かも知れないが、あそこじゃ殆ど厨房に籠もってるから」
佐藤博之「見たいと思った物も見れないんだ。それで思ったんだ。腕も技術も極めたし、それがやりたいならやって見ようってな」
佐藤博之「最初こそ苦労はしたが、夢が有るから俺は前に進めた。夢を本当にしたいから頑張れて、その上で霧斗と出会って今に至る訳よ」
佐藤博之「一流に成るのは大切だが、夢を見つけたら一歩踏み出すのも立派な事よ。何より、一度切りの人生だ。楽しまなきゃ損だぜ」
桐宮霧斗「師匠らしいですね!」
佐藤博之「たりめぇよ!それでお嬢さん、これからどうするつもりだい?」
鮫島花恋「あ、そうでした。霧斗君には今後、私達のお屋敷で料理長としてやって貰おうと思います。職員全員が霧斗君の事聞いて」
鮫島花恋「納得してくれましたので、今後も妹の料理を作って貰うつもりです」
佐藤博之「おぉ!!料理長とはやるもんだな霧斗!昔の頃じゃそんなの想像すら出来なかったぜ!」
桐宮霧斗「師匠の教えが有ったからこそです」
佐藤博之「此処まで成長してくれるとは嬉しいぜ。だけど油断するなよ。これからも、自分の腕を確り磨いてくんだぜ!」
桐宮霧斗「はい!!師匠には、感謝してもし切れません!!」
  現状報告を済ませ、師匠の話を聞いた俺達は、師匠の店を後にした。

〇ファンタジーの学園
  俺が鮫島家に雇われてから約一年が経った。毎日鍛錬を怠らず、今も変わらずサヤカちゃんの料理は俺が作っていた。
  師匠が伝説の料理人で、今は普通の店を経営してると言う事は一部の人しか知らない。平凡を好む師匠の気持ちを無下に
  したく無いから誰にも言わないで居る。今は気分転換に屋敷の庭を歩き回っていたのだが、
「良いじゃない!此処に霧斗が居るのは分かってるんだから!」
桐宮霧斗「ん?誰か居るのか?」
  向こうの方から誰かの声が聞こえたので、俺は直ぐに覗いて見る事にした。そこに居たのは、思いも寄らない人物だった。
セバスチャン「申し訳有りません。こちらは関係者以外は立入禁止なのです。花恋様からの許可が無いと」
桐宮母「良いから会わせなさいよ!私達は霧斗の家族よ!」
桐宮父「そうだぞ。会わせないと言うなら我々にも考えが有る」
セバスチャン「し、しかし、そう仰られても・・・」
桐宮霧斗「セバスチャンさん!これは一体何の騒ぎですか!?」
セバスチャン「あぁ、料理長殿!こちらの方々が、料理長殿に会わせろと・・・」
桐宮霧斗「え!?父さん、母さん、和也まで!?」
桐宮母「久し振りね霧斗!やっと出て来てくれたわね!」
桐宮和也「久し振りだね兄さん!随分凄い所で働いてるじゃ無いか!!」
桐宮霧斗「どう言う事だ・・・セバスチャンさん、此処は任せて、戻って下さい」
セバスチャン「か、畏まりました!」
  何と鮫島家に訪問して来たのは嘗て俺を切り捨てた俺の家族だった。どうして俺が此処に居るのが分かったか知らないが、
  先ずは話を聞いて見る事にした。
桐宮霧斗「父さん、母さん、和也、此処へ何しに来たの?」
桐宮母「最近テレビで鮫島家の料理人の特集を見てね。料理長の名前が霧斗だったから驚いたわ。あんなに立派に成ってお母さん」
桐宮母「嬉しかったわ!」
  この前確かにテレビ局からの取材が有った。立場の問題も有って取材には俺が応えた。
桐宮和也「本当ビックリしたよ。只でさえ邪魔な兄さんが此処まで出世してるなんて!ガッポリ儲かってるんだろうなって」
桐宮父「お前の成長は間違い無く私達の教育の賜物だろう。だから霧斗、お前にはこれから、お前を産んだ時に使った金、」
桐宮父「これまで我々が使った教育費等を返して貰おうと思う。そしたらまた、家族で一緒に暮らそう。悪く無い話だろう」
  何しに来たかと思えば、ロクな謝罪もせずにこれまで俺に使って来た金を返せと来た。しかもその暁にはまた家族として
  俺を迎え入れると、こいつ等の魂胆が丸見えだった。追い出されたあの日から、家族は誰も俺を連れ戻そうとしなかった。
  それを今に成って、謝罪すらせずに金を返せと。こんな奴等が俺の家族かと思うと絶望しかしなかった。だから俺は行動を起こそうと
  思ったその時だった。
鮫島サヤカ「駄目ぇぇぇ!!!」
桐宮霧斗「サヤカちゃん!?」
桐宮母「ちょっと、何よこのガキ?」
鮫島サヤカ「お兄ちゃんを連れてかないで!!」
桐宮霧斗「サヤカちゃん!どうして此処に!?」
鮫島サヤカ「さっきセバスチャンが霧斗お兄ちゃんが変な人達に囲まれてるって聞いて!連れてかれるかも知れないからこの人達を追い返しに」
鮫島サヤカ「来たの!!お姉ちゃんにも知らせてってセバスチャンには言って有るわ!!」
桐宮母「ちょっと何なのよこのガキ!霧斗!その娘を黙らせなさい!」
鮫島花恋「サヤカ!霧斗君!」
工藤信宏「兄貴!助太刀に来ましたぜ!」
桐宮霧斗「花恋さん!工藤も!」
工藤信宏「兄貴、此処はアッシ等に任せて下さい!何処ぞの馬の骨に兄貴は渡しません!」
鮫島花恋「霧斗君、此処は私達に変わってくれる?」
桐宮霧斗「わ、分かりました!」
鮫島花恋「霧斗君の御家族の方々ですね?私は鮫島家の代表の鮫島花恋と申します」
桐宮父「おぉ!貴方様が代表ですか!お会い出来て光栄で御座います!」
桐宮母「如何にも!私達は霧斗の家族です!最近内の霧斗が鮫島様のお所で有名に成ってると聞きまして、家族として迎えに来たのです」
鮫島花恋「そうですか。霧斗君の気持ちは聞きましたか?仮に連れ戻してどうするおつもりで?」
桐宮父「な〜に、霧斗にはこれから親孝行して貰おうと思います。あいつが出世したのは我々の力有ってこそですので」
桐宮母「あの子に使ったお金を全部私達に返して貰って、その後は家族皆で助け合って行こうと思います。だから、」
鮫島花恋「ふざけるのも大概にして下さい!!!」
桐宮父「・・・・・・!!??」
鮫島花恋「親孝行?助け合い?さっきから聞いてれば自分達の都合ばかりじゃ無いですか!!霧斗君は貴方方に捨てられて、」
鮫島花恋「行き場の無い所をお師匠様に拾われてずっと頑張って来たんです!!そんな事も知らずに貴方達はずっとヘラヘラしてたんですか!?」
桐宮父「た、確かに我々は霧斗を捨てました!ですが、私達は和也にも幸せに成って欲しかったんです!」
桐宮母「そうよ!和也はとても優秀な子なの!落ちこぼれだった霧斗に学費や食費を払うなんて勿体無いじゃないですか!」
桐宮母「そもそも二人分なんて払えないし!」
鮫島花恋「貴方達、本当に人の親なら、責任を持って全員大切にしなさいよ!!それが出来ないなら最初から人の親になんて成るな!!」
鮫島花恋「さっきから気に成ってたけど、霧斗君に対して謝罪はしたんですか!?」
桐宮父「しゃ、謝罪と言われましても・・・」
桐宮母「そうよ!私達が謝る事なんて・・・私達は家族なんですし・・・」
鮫島花恋「成る程、あくまで白を切るつもりですか。分かりました。そんなに霧斗君を返して欲しいなら、屋敷の者全員が相手に成ります」
鮫島花恋「さあ、掛かって来なさい!」
桐宮父「ま、待って下さい!幾らなんでも暴力に頼るのは・・・」
鮫島花恋「霧斗君が大事なんですよね?それなら私達を屈伏させてでも取り返す事位は出来ると思いますよ」
桐宮父「そ、そんなぁ・・・・・・」
桐宮和也「冗談じゃ無いよ!兄さん!父さん達が困ってる!こいつ等を大人しくさせて僕達を助けてよ!!」
工藤信宏「おっと!こう言う都合の悪い時に俺の兄貴に頼るとは、王様にでも成ったつもりかい?」
桐宮和也「煩い!僕は一流大学を卒業したエリートで、これから一流企業に入って大物に成るんだ!兄さんはそんな僕に使われて」
桐宮和也「幸せなんだよ!」
工藤信宏「おやおや・・・それが君の言いたい事か。あのね僕ちゃん。俺も兄貴から教えて貰った事なんだけどさ」
工藤信宏「一流ってのは、一流に成ろうとした時点で、失格なんだって」
桐宮和也「はぁ?」
工藤信宏「僕ちゃんはこの先、一生掛けても一流には成れないって事だよ」
桐宮和也「な、何だと!!??今の僕は高学歴だ!!出来ない事なんて一つも無い!!」
桐宮和也「おいお前!!」
鮫島花恋「何かしら?」
桐宮和也「見てろよ!これから僕は一流企業で大出世して鮫島なんて潰してやる!そして兄さんをお前達から買い取ってやる!覚えてろ!!!」
桐宮和也「父さん!母さん!もう帰ろう!!」
桐宮父「そ、そうだな・・・今日は諦めるか・・・」
桐宮母「こんな事して、只で済むと思わない事ね!」
  言い合いの果て、俺の家族は花恋さん達に押し負けてこの場を離れた。これを機に、もう関わる事は無いと、そう思いたかった。
工藤信宏「へ!一生そこでほざいてろってんだ!やりましたね、花恋様!」
鮫島花恋「えぇ!霧斗君の御家族が私達の前に現れたら言おうと思ってた事全部言えてスッキリしたわ!」
桐宮霧斗「あの、皆、大丈夫ですか?」
工藤信宏「兄貴!やってやりましたよ!」
鮫島花恋「もう大丈夫よ霧斗君。またあいつ等が来ても霧斗君は渡さないから!」
桐宮霧斗「その事については本当有難う御座います。あいつ等俺に罪悪感無かったから、俺も警察呼ぼうとしてました」
桐宮霧斗「でも、どうして助けてくれたんですか?」
工藤信宏「決まってるじゃ無いですか!俺はこれから兄貴に教えて貰いたい事有るんですから、居なく成られちゃ俺等が困ります!」
鮫島花恋「私達は助けたいから助けたの。霧斗君は実感して無いかもだけど、貴方は私達の家族だと思ってるわ」
桐宮霧斗「家族?」
鮫島花恋「そうよ。喧嘩する事も有るけど、困ってる時はお互いを助けるのが家族よ。誰とも別け隔て無くね。私はずっと霧斗君は」
鮫島花恋「私達の家族だと思ってたけど、違ったかな?」
桐宮霧斗「いえ、俺には、家族に捨てられてから家族って思える人が居ませんでした。俺には師匠以外に頼れる人が居なかったし、」
桐宮霧斗「そんな風に言ってくれる人が居るって考えた事無くて」
鮫島花恋「そっか。でももう気にする事は無いわ。佐藤さんだけじゃ無い。これから貴方が困った事が有れば、何時でも私達の誰かに」
鮫島花恋「相談してね」
  飛んだ災難に苛まれたが、俺には本当の意味で帰るべき場所が見つかった。いや、師匠に鍛えられて、花恋さんに見込まれて、
  色んな人達に出会って、もう俺にはとっくに帰るべき場所は出来てたのだった。当たり前に成り過ぎてそれに気付かなかったのだ。
工藤信宏「兄貴!そろそろ課題教えて下さい!さっきからやりたくてウズウズしてるんですよ!さぁ!」
桐宮霧斗「おぉ、そうだったか!じゃあ今からやろうか!」
工藤信宏「喜んで!!」
鮫島花恋「サヤカ、知らせてくれて有難う。お陰で霧斗君を守れたわ」
鮫島サヤカ「どいたしまして!」
鮫島サヤカ「お姉ちゃん、これからも、霧斗お兄ちゃんは此処に居てくれるんだよね?」
鮫島花恋「えぇ、居るわ!上手く行かない事も有ると思うけど、私達なら大丈夫!」
鮫島サヤカ「そっか!良かった!私達も戻ろっか!」
鮫島花恋「えぇ!」

次のエピソード:6 別れと旅立ち

コメント

  • 安泰と思った先に災難ですか。
    義理の家族がとても暖かくいいですね。困った時も助けに来てくれた。
    にもかかわらず実家族はひどいですね。
    切り捨てにもかかわらず大金持ちも家の料理長になったと知ったとたんに手のひら返しで連れ戻しにくるとは、しかも謝罪なしで子育て費等の返金要求に他者の手柄すらも自分たちのお陰と言い張る。
    これは救いようがないですね。
    しかも努力の使い方も間違っているし
    どんな結末になるか

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