第六話 面接番号二番 ギャップ少女 なつ夏喜 その3(脚本)
〇シックなリビング
雪根佳乃子「こんばんわぁ」
雪根サトシ「おはようだろ」
雪根サトシ「朝なんだから・・・・・・」
雪根佳乃子「おにーちゃん、今日はお勉強?」
雪根佳乃子「かのこも一緒に!!」
雪根サトシ「いや、今日は用事があってな」
雪根サトシ「外出なくちゃならないんだよ」
雪根佳乃子「なんの用事なの・・・・・・」
雪根サトシ「まぁ・・・・・・友達と遊びにいくんだよ」
雪根佳乃子「勉強はいいの??」
雪根サトシ「あぁ、今日は、勉強はお休みだ」
雪根サトシ「じゃ、行ってくるよ」
雪根佳乃子「わかった・・・・・・」
雪根佳乃子「そういえば、かのことの”約束”覚えてる?」
雪根サトシ「え?」
雪根サトシ「なにか、約束とか、したっけ?」
雪根佳乃子「あ、ううん」
雪根佳乃子「やっぱり、忘れて・・・・・・」
雪根サトシ「あぁ」
雪根サトシ「じゃ、行ってくるよ」
雪根佳乃子「行ってらっしゃーい!!」
〇シックなリビング
雪根佳乃子「・・・・・・」
雪根佳乃子「はぁ・・・・・・」
雪根佳乃子「おにーちゃんのバカ・・・・・・」
雪根佳乃子「死んじゃえ・・・・・・」
〇並木道
はぁ
デートってマジかよ・・・・・・
俺は、昨日宮坂さんに指定された場所に、集合時間10分前に着いていた。
宮坂皐「おまたせ!ごめんなさい。待った?」
雪根サトシ「待ってたっていうか、待たされてたって表現の方が適切だな」
雪根サトシ「ていうか、何?そのデートのテンプレ台詞」
雪根サトシ「今どき、ドラマでもやらないだろ」
宮坂さんは来たが、肝心のあの子が来ていない。
まぁ、まだ集合時間まで数分あるからな
宮坂皐「そういえば、雪根さん、これを」
雪根サトシ「え?」
宮坂皐「本日は、これを付けてデートをしてもらいます」
雪根サトシ「え?なんで???????」
宮坂皐「このイヤホンから、私が直接指示しますので、基本的には、それに従ってください」
雪根サトシ「はいはい。やらなかったら、どうせ爆ぜさすって脅してくるんでしょ??」
宮坂皐「さすが、察しがいいですね」
宮坂皐「E判定のくせに」
雪根サトシ「それは、関係ないだろう!!」
雪根サトシ「はぁ・・・・・・」
雪根サトシ「やるよ。やりたくないけど」
宮坂皐「では、私は、お二人をストーカーしますので、安心してデートしてくださいね」
雪根サトシ「はいはい。勝手にしろ」
安心出来ないんだよなぁ
ていうか、『私はお二人をストーカーしますので、安心してデートしてくださいね』って文面ヤバくねぇ??
雪根サトシ「ていうか、もうこれ、デートするって、面接の域を超えてると思うんだけど」
宮坂皐「いいえ、これも立派な面接ですよ!!」
宮坂皐「では、私はこれで、失礼します」
雪根サトシ「はぁ・・・・・・」
もうやだぁ
帰りたい
???「ご・・・・・・ごめんなさい」
俺は、先ほど渡されたイヤホンを辟易しながらも、粛々と右耳に装着する。
???「おまたせしました」
まだ、来ないのかな??
???「あの・・・・・・聞こえてますか?」
はぁ、やだな
???「ごめんなさい。待たせてしまって」
帰りたいなぁぁ
「返事は「いや、待ってないよ。来たばっか」で!!」
突然、イヤホンから、網を掛けたような声音が流れてきた
??????
「聞こえてますか??」
「なつさんに返事をしてください」
雪根サトシ「はぁ??」
???「ご、ごめんなさい。雪根さん」
雪根サトシ「え??なんで俺の名を」
「いいから!!爆ぜたくなかったら、『今来たとこ』って!!」
雪根サトシ「い、今来たとこ・・・・・・」
???「そ、そうなんですか・・・・・・よかったです」
雪根サトシ「え?失礼します。どなた・・・・・・ですか??」
???「きっ、昨日・・・・・・面接を受けた」
???「なつ夏喜です」
???????
雪根サトシ「え??でも、昨日はメガネ・・・・・・」
なつ夏喜「きょ・・・・・・今日はコンタクトで」
雪根サトシ「そっ、それに、髪型も・・・・・・身長もちょっと違うというか」
なつ夏喜「えぇ、今日は」
なつ夏喜「髪を下ろして、ヒールを履いてきました」
雪根サトシ「え??」
雪根サトシ「だれ??」
なつ夏喜「なつ夏喜です」
雪根サトシ「・・・・・・」
嘘だろ・・・・・・
でも、確かに、小動物みたいな声音や、訥々とした語り口は、昨日の彼女に瓜二つだ。
雪根サトシ「マジかよ・・・・・・」
雪根サトシ「宮坂さんは、気づいてたのか?」
「当たり前じゃないですか」
「こんなに気づかないやつは、クソです」
「人間じゃありません」
『悲報』どうやら、俺は人間じゃないらしい
「では、彼女をエスコートしてください」
雪根サトシ「え?どうやって?」
「自分で考えろ。カス」
酷い言われようだな
雪根サトシ「じゃあ、行きますか・・・・・・」
なつ夏喜「は・・・・・・はい!!」
〇水族館前
俺たちは、水族館の順番待ちを、龍の巨体の一部になったかのように、待っている。
なつ夏喜「たっ、楽しみ・・・・・・です」
雪根サトシ「あぁ・・・・・・そうだな」
雪根サトシ「いい、天気・・・・・・だな」
なつ夏喜「そうですね!!」
なつ夏喜「・・・・・・」
雪根サトシ「・・・・・・」
なつ夏喜「・・・・・・」
雪根サトシ「・・・・・・」
何これ!気まずすぎる
会話が!!会話がぁぁぁ!!!
「『今日も、きれいだね』」
雪根サトシ「はぁ??」
「はよ言えよ、カス」
なんか、宮坂さん、口調荒くない??
まぁ、荒いのは口調だけじゃないんだけどな
もはや、行動が荒い
雪根サトシ「今日も、きれいだな・・・・・・」
はっずぅぅ
死にてぇ
なつ夏喜「あっ、ありがとうございます!!うっ、うれしいです」
「いい調子ですよ!!」
さいで
そんなこんなしているうちに、俺たちの番がやってきた
雪根サトシ「あぁ、やっと中入れるな」
なつ夏喜「そっ、そうですね!!」
なつ夏喜「私、楽しみです!!」
〇水中トンネル
なつ夏喜「すごい!!」
なつ夏喜「きれいだな・・・・・・」
「『君の方がきれいだよ』」
あいつ、マジで殺す
雪根サトシ「きっ、君の方が・・・・・・きれいだよ」
なつ夏喜「え・・・・・・」
なつ夏喜「やっ、やめてくださいよぉ・・・・・・」
それは俺のセリフなんだよなぁ
「『もし、付き合ったら、なにか、俺に貢献できることはあるか?』」
雪根サトシ「なんだよ、それ!」
「面接の一環として、必要なことです。昨日聞けなかったので」
雪根サトシ「はぁ・・・・・・」
雪根サトシ「なっ、なぁ」
なつ夏喜「え?」
なつ夏喜「どうしました??」
雪根サトシ「もし、付き合ったらさぁ、俺に貢献できることはあるか?」
なんだよ!!この最悪なセリフは!DV彼氏でもこんなの言わないだろぉぉ
なつ夏喜「『答え』になっていないかもしれませんが・・・・・・」
なつ夏喜「ずっと、雪根さんと一緒にいることなら・・・・・・できます!!」
なつ夏喜「そっ、それには」
なつ夏喜「それだけには、自信があります!」
雪根サトシ「そうか・・・・・・」
はっずぅぅ
〇並木道
俺たちは、水族館デート(仮名)を終えて、元の集合場所に戻ってきていた。
なつ夏喜「きょっ、きょうは、と・・・・・・とっても!」
なつ夏喜「楽しかったです!!」
雪根サトシ「そうか・・・・・・」
雪根サトシ「なら、良かったよ」
正直、女の子に喜んでもらえて、うれしくない男なんていない
もちろん、俺も例外ではない
「『なにか、俺に質問はあるか?』」
雪根サトシ「なんだよ、それ」
「就職面接で、面接官が、受験者に行なうやつですよ」
なるほど!わからん
わからないということが、わかりました
正直、就職なんて、俺にとっては、10歳が成人式の準備をするようなものだ
よくわからん
雪根サトシ「なにか、質問とかって、あるか?」
なつ夏喜「し・・・・・・しつもんですか?」
「これも、採点対象になります」
雪根サトシ「なんか、採点対象になるらしい」
「今のは、言わなくていいです」
雪根サトシ「あ・・・・・・」
なつ夏喜「じゃ、じゃあ、」
なつ夏喜「大学、どこ考えてるんですか?」
雪根サトシ「あぁ、」
雪根サトシ「それはな・・・・・・」
???「そのクズには、大学受験なんて、絶対無理だよ」
え?
その声音は、幼い頃からずっと聴いてきたものだった。
佐藤恋心「人との約束を破っておいて、」
佐藤恋心「Eくんは、何をしているのかな?」
雪根サトシ「あ・・・・・・」
雪根サトシ「ハート・・・・・・」
水道管が破裂したときのように、一気に脇汗が吹き出してきた
雪根サトシ「なんで、こんなとこに・・・・・・」
佐藤恋心「そりゃ、呼ばれたからね」
雪根サトシ「だ、誰に?」
佐藤恋心「自分で考えろ、カス」
やべぇ
そういえば、今日は、ハートの家で勉強する予定だった・・・・・・
雪根サトシ「こっ、これは、違うんだ」
雪根サトシ「俺は、脅されてて・・・・・・」
雪根サトシ「ハート、これは、彼女めんせ・・・・・・」
「何ペラペラ喋ろうとしてるんですか?」
「忘れたんですか?」
「この面接の件は他言しないでと、言いましたよね」
「爆ぜたいんですか??」
クソが
なつ夏喜「雪根さん」
なつ夏喜「どちら様ですか??」
雪根サトシ「あの・・・・・・その・・・・・・」
「『今日は、彼女とデートをしてたんだよ』」
雪根サトシ「え?それは、マズいっていうか・・・・・・」
「爆ぜたいのですか??」
ちくしょー。
あーもう、どうにでもなれ!!
雪根サトシ「今日は、この子と、でっ、デートぉしてたんだ」
佐藤恋心「は?」
佐藤恋心「受験生のくせに」
佐藤恋心「E判定のくせに」
佐藤恋心「デートなんてしてるヒマあるの??」
「『受験生なら、受験勉強してる暇があったら”恋愛”しないとダメなんだよ』」
雪根サトシ「受験生ってのはなぁ、受験勉強してる暇があったら恋愛しないとダメなんだよぉぉ!!!」
佐藤恋心「は??」
終わったわ・・・・・・
佐藤恋心「死ね」
雪根サトシ「ちょっ、待って・・・・・・」
なつ夏喜「ゆ、雪根さん??」
宮坂皐「楽しい茶番劇でしたね」
宮坂皐「おっと、雪根サトシさん、”あれ”を追いかけないでくださいね」
雪根サトシ「チッ・・・・・・」
なつ夏喜「びっ、びっくりしました」
なつ夏喜「今まで、どこにいたんですか??」
宮坂皐「そんなの、どうでも良いことですよね」
宮坂皐「というわけで、突然ですが、面接の結果を発表します」
なつ夏喜「えぇぇ!!そっ、そんないきなり」
宮坂皐「おめでとうございます」
宮坂皐「”不合格”です」
なつ夏喜「え・・・・・・」
今、こいつ、”おめでとう”って言わなかった??
支離滅裂すぎんだろ
なつ夏喜「そっ、そんな・・・・・・」
なつ夏喜「グスン」
なつ夏喜「すっ、すみません、私、帰ります」
雪根サトシ「あぁ、ちょっ・・・・・・」
なんだよこれ
宮坂皐「彼女の不合格の理由は」
宮坂皐「デートだからって、張り切って髪をおろして、コンタクトまでするとかいう」
宮坂皐「気合いの入れ方が気に入らなかったからです」
雪根サトシ「それって、普通のことだろ・・・・・・」
宮坂皐「いや、でも、なんかムカついたんで」
雪根サトシ「最低だな」
宮坂皐「も!!褒めたって、何もでませんからね!」
雪根サトシ「ほんと、褒めてないんだよなぁ」
雪根サトシ「あとさぁ、もうこれ、面接じゃないよな・・・・・・」
宮坂皐「いいえ、朝に申しました通り、これも面接ですよ」
雪根サトシ「はぁ・・・・・・」
ていうか、俺、周りの女の子との仲がどんどん悪くなっていってる気がするんだけど・・・・・・
気がするっていうか、事実だわ。これ
〇並木道
雪根佳乃子「・・・・・・」
雪根佳乃子「・・・・・・」
雪根佳乃子「おにーちゃんのバカ」
雪根佳乃子「死んじゃえ・・・・・・」
〇綺麗なリビング
佐藤恋心「はぁ、いままで、何のために勉強してたんだろ・・・・・・」
ハートママ「ハートちゃん、お帰りなさい」
佐藤恋心「だから!」
佐藤恋心「それやめてって、言ってるじゃん!!」
ハートママ「ご、ごめんね」
佐藤恋心「あと、」
佐藤恋心「僕、大学行かない」
ハートママ「えぇぇ?」
ハートママ「せっかく、A判定取れてたのに・・・・・・」
ハートママ「急にどうしたの??」
佐藤恋心「行く理由がなくなったの」
佐藤恋心「はぁ」
佐藤恋心「もう、今日は寝る」
ハートママ「ちょっ、ちょっと!!」