第七話『百合の葉に隠れて』(脚本)
〇新緑
学生映画界の奇才・
浅倉玲司監督最新作
ーー『百合の葉に隠れて』
それは 信じていた男に裏切られ
周囲との繋がりが断ち切れた
孤独な大学生『レイコ』が
白い霧のたちこめる朝の公園で
不思議な少女『メグミ』と出会い
彼女とのふれあいの中で、少しずつ再生していく物語ーー。
〇空
「───なんだけどね」
〇学校の部室
新山ルミ「メグミ役はすでにレインで決定。 そしてレイコがーー?」
浅倉玲司「実は、レインくんが大学見学に来た時」
浅倉玲司「僕は部室で二人の姿を見ていたんだ ひっそりとね」
レイン「フフン」
月居ゆず葉「えー・・・」
浅倉玲司「以来、ずっと引っかかっていたんだ、君たちの姿が」
浅倉玲司「そして後日、映画館で偶然の再会を果たせた時、ピーンと来た」
浅倉玲司「天啓だ アイデアが降ってきたんだ!」
月居ゆず葉「わたしたちを、見て?」
浅倉玲司「そうだよ どうかな? 月居くん」
月居ゆず葉「どうかなって・・・正直言ってもいいんですか?」
浅倉玲司「素直な気持ちを聞かせてほしい この浅倉の映画で主演を張れるチャンスについて」
月居ゆず葉「とっても気持ち悪いです」
浅倉玲司「え」
新山ルミ「わあああ そこまでの本音はしまって、ゆずちゃん」
浅倉玲司「浅倉、気持ち悪かったのか?」
新山ルミ「まぁ、ぶっちゃけ最初に聴いた時の感想は「キモいなー」でした、私も!」
浅倉玲司「うう・・・」
新山ルミ「いいんですよーキモくたって、それもまた映画の個性になりますから」
新山ルミ「我々としては、浅倉玲司がまた映画を撮る気になってくれた」
新山ルミ「それだけでありがたいんですから」
浅倉玲司「キモいのは否定しないんだね・・・」
浅倉玲司「それでどう? 出てくれるかな、月居くん」
レイン「出てくれるんです? ゆず葉さん」
月居ゆず葉「と、言われましても──」
月居ゆず葉「ごめんなさい」
月居ゆず葉「私、お芝居の経験なんて無いし、せっかくの映画を台無しになんてできません」
浅倉玲司「それなら心配無用さ レインくんだって演技はズブの素人なんだよ?」
レイン「えっへん、ズブの素人です」
月居ゆず葉「じゃ、どうして受けたりしたのよ」
月居ゆず葉「・・・ああ、そういうことか」
レイン「なんですか 勝手にわかったような顔して」
新山ルミ「愛だなぁ」
風間 泰人「愛だねぇ」
月居ゆず葉「愛なんかじゃない!」
レイン「ね、ゆず葉さん これは不可抗力じゃないですか」
レイン「なによりお芝居ですから、そう肩肘張らず」
レイン「サークルの皆さんに貢献しちゃってください」
風間 泰人「あ、僕からもよろしく 監督に紹介しちゃった手前さあ」
新山ルミ「ごめん 私からもお願い~」
月居ゆず葉「なによーみんなして」
月居ゆず葉「イヤったらイヤです!!」
浅倉玲司「そ、そんな 一体どうして 浅倉の新作だよ・・・?」
月居ゆず葉「逆にどうしてそこまでOK出ると思うんですか」
レイン「ごめんなさい、ちょっとふざけました」
月居ゆず葉「でしょう?」
レイン「でも私、どうしてもゆず葉さんといっしょに出たくって」
レイン「それに、こういう映画が作られる意義ってあると思うんですよ」
レイン「その、女性同士の・・・」
月居ゆず葉「・・・」
〇映画館の座席
レイン「あの動物園の飼育員さんが ゲイだってわかるシーン」
レイン「何がそんなに面白かったんです? 私、笑いどころがよく・・・」
〇学校の部室
月居ゆず葉「あ・・・」
浅倉玲司「どうかな 考えるだけでも」
浅倉玲司「カメラの前にさえ立ってくれたら、後はなんとかしてみせるから」
〇空
「ごめんねー、急な話で」
〇並木道
月居ゆず葉「どうしてサークルのみんな、あの人にそこまで従ってるの?」
新山ルミ「うーん 私も会うのは数える程度だけど、ウワサだけは高校の頃から知ってたんだ」
〇黄緑(ディープ)
『浅倉玲司』
彼は学生映画界のちょっとした顔なの
大学入学当初は山のように映画を撮って、彼の人脈のおかげで学外にもサークルのコネクションは広がっていった
だけど去年から全然顔を見せなくなって
ウワサでは山ごもりしてインスピレーションを蓄えてたって
〇並木道
月居ゆず葉「そこまでの人なんだ・・・だったら」
月居ゆず葉「私がこの役を断って、浅倉玲司の新作が見られなくなってしまったら」
月居ゆず葉「学生映画界の大きな損失。。。ってこと?」
新山ルミ「ううん、それはない」
月居ゆず葉「ふぇ!?」
新山ルミ「だって才能ないもの、あの人」
月居ゆず葉「はい???」
〇紫(ライト)
面白くないの、映画としては
大量生産していた頃は『謎の天才現る』ってもてはやされてたけど
メッキが剥がれちゃったのね、映画作りがこなれてくるにつれて
〇並木道
月居ゆず葉「じゃ、どうしてみんな特別視して、本人も選ばれし者オーラ出してるの?」
新山ルミ「実家が太いからよ」
月居ゆず葉「身も蓋もない!」
新山ルミ「スマホでも簡単に撮れる時代と言ったって、基本、映画はお金がかかるものよ」
新山ルミ「でも浅倉さんなら湯水の如く制作費を捻出できる」
新山ルミ「みんな、そのおこぼれで自分の活動実績にしたり、スポンサーになってくれないかなって画策してる訳」
月居ゆず葉「世知辛いカリスマ」
月居ゆず葉「じゃ、やっぱり、私が義理立てして出なきゃいけない理由はないな」
レイン「出ないって言うんですかー? ゆず葉さん」
月居ゆず葉「ビックリした いつだってビックリさせるわね、レイン」
月居ゆず葉「ごめんね ハッキリ言う」
月居ゆず葉「あなたに中途半端に希望を持たせるようなこと、出来ません」
レイン「は? はあー? 全然そんなんじゃありませんし」
レイン「お芝居はお芝居です 現実と混同したりなんかしませんー」
新山ルミ(おもっきし公私混同でゆずちゃん巻き込んでるけどね)
レイン「キスシーン、あるんですよ」
月居ゆず葉「・・・は?」
新山ルミ「ええっ? そんなのあの台本のどこにも」
レイン「監督から直接断り入れられましたもん あるんです、キスシーン」
レイン「いいんですか? ゆず葉さんは」
レイン「私のファーストキス、どこぞの無名女優に奪われても」
月居ゆず葉「どういう脅しなのよそれは」
月居ゆず葉「無名女優って、あなたもでしょ」
レイン「フフン」
月居ゆず葉「・・・考えさせて」
レイン「それじゃ、私バイト行ってきまーす」
新山ルミ「どう? 映画、興味出た?」
月居ゆず葉「心配になってきたの あの子にさせる気?」
新山ルミ「台本って呼ぶにはメモみたいなプロットだけどね、はいこれ」
新山ルミ「どうせなら、読んでから決めてみて」
月居ゆず葉「『百合の葉に隠れて』・・・ね」
〇空
〇ファストフード店の席
新山ルミ「どう? 読んでみて 率直な感想」
新山ルミ「まだ内容飛び飛びだし、ラスト決まってないけどね」
月居ゆず葉「ルミちゃんは? 私が出たほうがうれしい?」
新山ルミ「・・・」
新山ルミ「うん うれしい」
新山ルミ「正直 私は浅倉玲司でもこのハンパな台本でもなくて」
新山ルミ「レインとゆずちゃんが出てくれるなら」
新山ルミ「それこそが一番の魅力になるって感じたの」
新山ルミ「幸い、ほとんど雰囲気だけで中身のない話よ」
新山ルミ「だからこそ、うちら裏方が撮影で支えてみせる」
新山ルミ「私のために、出て欲しいな なんちゃって」
月居ゆず葉「・・・・・・」
月居ゆず葉「ギャラ、は?」
新山ルミ「え?」
月居ゆず葉「お金ちょっと困ってて ギャラが出るなら、考えてあげないこともない」
新山ルミ「・・・・・・」
新山ルミ「うんっ!!」
〇中規模マンション
〇団地のベランダ
月居ゆず葉「もう、芯からレインのこと心配してるの私だけじゃない」
月居ゆず葉「なによキスシーンて 危なっかしいな」
月居ゆず葉「あの子と、キス・・・か 考えたこともなかった」
〇ソーダ
レイン「ゆず葉、さん・・・」
〇団地のベランダ
月居ゆず葉「えええ何考えてるの ドキドキするな、私っ」
月居ゆず葉「・・・キス」
〇森の中
──あの日 私が不意にしたキスが、仁絵ちゃんを傷つけた
ずっと、胸に秘めて生きようって思ってたのに
〇団地のベランダ
月居ゆず葉「私が、女の子と・・・」
月居ゆず葉「そういう事をする可能性が、まだあるんだ」
〇ソーダ
レイン「いいよ・・・きて」
〇団地のベランダ
月居ゆず葉「だから、何を考えてるの私っ!!」
〇空
明日、キッパリ断るんだから!
〇並木道
新山ルミ「ふふふ そんなゆずちゃんの強情も、お金の前にはあっさり崩れ落ちるのだった」
月居ゆず葉「ギャラの為だからね? それ以上深い意味ないから」
月居ゆず葉「あーあ ルミちゃんが監督さんだったら、もっと真剣に挑めるのにな」
新山ルミ「あはは それは難しいかなー」
新山ルミ「私には 人がわからないから」
〇学校の部室
レイン「ゆず葉さん、受けてくれるって信じてました!」
レイン「私のため、ですよね」
月居ゆず葉「はいはい 勝手に言ってなさい」
浅倉玲司「いやあ 本当にありがとう」
月居ゆず葉「それで、まずは何をしたらいいんですか?」
月居ゆず葉「お芝居なんて、本当に今まで一度も」
浅倉玲司「そうだね まずは、二人だけの世界を作り上げてもらいたい」
浅倉玲司「ワークショップでも開こうか? カメラの前で、いつでも君たちが」
浅倉玲司「『レイコ』と『メグミ』として過ごせるように」
レイン「そうですよね プロの役者でもないのに親密な関係性を演じるんですもん」
レイン「まずは私たちが親密な関係性にならなきゃ! あ~撮影楽しみっ」
月居ゆず葉(ああ~・・・これダメだ 私)
〇空
ずるずる流されていく~