1 絶縁と出会い(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
桐宮和也「父さん!母さん!これ見てよ!」
桐宮父「どうしたんだ和也?」
桐宮母「何か有ったの?」
桐宮和也「へへ!じゃじゃーん!!」
桐宮父「おぉ!!また満点を取ったのか!!」
桐宮母「頑張ったじゃ無い和也!!今日の夕飯は腕を振るうわよ!!」
桐宮和也「二人共有難う!!僕もっと頑張るよ!!」
普通の家庭に有る様な普通の光景。父が居て、母が居て、その間に子供が居て、子供が高い成績を残して両親が喜ぶ。
この家もそんな在り来りで普通の家族。一目見れば誰でもそう思うだろう。
桐宮霧斗「皆、只今」
桐宮和也「・・・・・・」
桐宮父「・・・・・・」
桐宮母「・・・・・・」
桐宮霧斗「あのさぁ父さん、母さん、俺もう直ぐ受験だから、高校のパンフレット持って来たんだけどさ」
桐宮父「何だそんな事か。お前の好きにやれば良い」
桐宮母「そうよ。今私和也にご馳走様作ってあげるのに忙しいの。邪魔しないで頂戴」
そうだ、これが俺の、桐宮霧斗の家族だ。幼い頃、両親は俺に良くしてくれてたが、弟の和也が生まれてから、両親はずっと
こんな調子だ。俺は何時二人に悪い事したのか、皆目検討が付かなかった。
桐宮霧斗「い、いやさぁ、やっぱ就職するなら高校出た方が良いって言うし、俺としても勉強したいし」
桐宮父「ごちゃごちゃ煩いぞ!お前の就職先なんて知った事か!私達は和也の事で手一杯なんだ!」
桐宮母「そうよ。自分のやりたい事が有るなら勝手にやりなさい」
桐宮和也「だっせぇ!兄さんまた父さんと母さんに無視されてるし!」
桐宮霧斗「はいはい分かった。部屋に戻ってるから飯出来たら呼んでくれ」
桐宮和也「そう言えば、兄さん新学期に成ったら受験なんだってね」
〇一人部屋
桐宮霧斗「こうして見ると悩むな。高校生に成りに行くのは良いけど、やりたい事って何だろう」
自室に戻った俺は高校のパンフレットを読み漁って居た。距離、学費、教育目標等、良さそうな所は沢山有った。
取り合えず勉強だけは怠らない様に努力だけはしている。
桐宮霧斗「俺が好きな物・・・スポーツ、勉強、マジで分からないな。取り合えず何処か良さげな場所は探さないと」
まだまだ何が出来るか分からない未来に不安を感じるも、今は何かしてる方が落ち着くので勉強に身を投じる俺。黙々とやっていたら
和也が俺の部屋に訪れる。
桐宮和也「やぁ兄さん」
桐宮霧斗「おい、ノックしろって何度言えば分かる?」
桐宮和也「そんな固い事言うなよ。僕達兄弟だろ?僕ちょっと分からない事有るんだけどさぁ、兄さんに教えて貰いたくて」
桐宮霧斗「お前がそんな事聞くなんて珍しいな。何の課題が分からないんだ?」
桐宮和也「あのね兄さん、僕が分からないのは、」
桐宮和也「兄さんは何時この家を出て行くのかなって」
桐宮霧斗「は???お前意味分かって言ってるのか???」
桐宮和也「ずっと気に成ってたんだよね。父さんと母さん、兄さんの事妙に嫌ってるでしょ?父さんから聞いたけど、僕等子供の学費って」
桐宮和也「馬鹿に成らない程高いんだってね。それで僕思ったんだ。今から父さん達に親孝行出来ないかなって」
桐宮和也「父さんと母さんは兄さんを嫌ってる。なら、今直ぐ兄さんが居なくなってくれれば、父さん達は絶対喜ぶと思わないかい?」
桐宮霧斗「ちょ、ちょっと待てよ・・・!お前より年上つっても、俺まだ未成年だぞ。幾らお前の事溺愛してるからってそんな!!」
桐宮和也「兄さんも父さん達の事知ってるでしょ?実は僕、母さんからスマホ借りて父さんと繋いでるんだ。これがどう言う意味か分かるよね?」
桐宮霧斗「お、おい!?まさか今の会話!?」
桐宮和也「御名答!今の会話は父さん達に筒抜けさ。もうこっちに来てるんじゃ無いかな?」
果てしなく嫌な予感がした。幾ら俺に冷たいとは言え、育児放棄をする親なんて居ない。心からそう願った。だけど、
聞こえて欲しく無い足音が俺の部屋に近付き、俺の希望はあっさり砕かれた。
桐宮父「和也!お前はなんて良い子なんだ!霧斗が出てってくれれば、全ての学費をお前に廻せる!」
桐宮母「とっても名案じゃ無い!生活費のやり繰りで困ってたのよ!流石私達の自慢の息子!!」
桐宮和也「でしょでしょぉ!!僕って本当天才!!」
桐宮霧斗「ま、待ってくれよ!俺これから中3に成るんだよ!これからどうしろってんだよ!!」
桐宮父「何か問題でも有るか?私達は最初からお前に興味は無い。私達の息子は一人だけだ」
桐宮母「そうよ。居候はとっとと何処かへ消えなさい。私達家族の団欒にこれ以上水を刺さないで。これ以上此処に居ようってなら」
桐宮母「警察呼ぶわよ!」
駄目だ、この親達には何を言っても聞いてくれない。このまま此処に居ては自分が危ない。そう思った俺の答えは一つだった。
桐宮霧斗「父さん、母さん、和也、本当に後悔しないんだよね?」
桐宮父「お前等息子では無い。最初から私達の息子は一人だけだ」
桐宮母「さっさと支度しなさい。準備なら手伝って上げるから」
桐宮和也「だってさ兄さん。って、そもそも僕達他人だったよね」
桐宮霧斗「・・・分かった。俺出てくよ」
桐宮和也「そうこなくっちゃ!僕も荷造り手伝うよ!何処かの誰かさん!」
〇おしゃれなリビングダイニング
桐宮霧斗「最後にもう一度聞く。皆止めるなら今の内だぞ。それでも良いのか?」
桐宮父「何時まで此処に居るつもりだ?さっさと出て行け!」
桐宮母「私達は貴方に興味無いの。目障りだから早く消えて」
桐宮和也「だってさ誰かさん!父さん達が迷惑してるから早く消えてくれよ!」
桐宮霧斗「皆言いたい事は分かった。今日までお世話に成りました。さようなら」
桐宮父「いやぁ、良くやったぞ和也!これで私達は安泰だ!」
桐宮母「和也が邪魔者を追い払ってくれたお祝いに、今日は蟹しゃぶにしましょう!貴方、今日は久し振りに飲まない?」
桐宮父「良いなぁ!久々に一杯やろうか!!」
桐宮和也「二人共最高だよ!僕、中学に入っても頑張るから!」
〇住宅街の公園
俺は荷物を纏めて家を追い出された。これから受験だって有るのに、何もかも投げ出されて和也だけ贔屓して、俺は親に
何か悪い事したのか、俺が生まれて来なければ良かったのか、俺には何もかもが分からなかった。
桐宮霧斗「何処に行けば良いんだよ。俺は何したら良かったんだよ・・・」
佐藤博之「・・・・・・」
落ち込んでる俺の前に現れたのは見知らぬおじさんだった。だけど、今の俺には何かをする気力は無かったのだが、
佐藤博之「だぁぁぁぁ!!!」
桐宮霧斗「な、何だよおっさん!!??」
佐藤博之「俺はお前見たいに自分は世界で一番不幸ですって顔してる奴が大嫌いなんだよ!!今直ぐこっち来やがれ!!その曲がった根性」
佐藤博之「俺が叩き直してやる!!」
桐宮霧斗「はぁ!?訳分からねぇよ!」
桐宮霧斗「ちょ!待て!放せって!!」
訳が分からず、俺は知らないおじさんに連れて行かれた。
〇大衆居酒屋
桐宮霧斗「な、何する気だよ!俺は何も!」
佐藤博之「ガキがギャアギャア騒ぐな!此処で大人しく待ってろ!」
俺が連れて来られたのは飲食店だった。あのおじさんは料理人でもやってるのだろうか。
奥から聞こえる料理の音。此処からでも分かる美味しそうな匂い。やがておじさんはこっちに戻って来た。
佐藤博之「待たせたな坊主。ほれ」
桐宮霧斗「あ、あの、これは?」
佐藤博之「良いから食え」
桐宮霧斗「は、はい」
おじさんからおにぎり弁当を手渡された。俺は言われるがままにおにぎりを食す。
桐宮霧斗「あ、あれ・・・???」
佐藤博之「お、おい!?大丈夫か!?まさか、不味かったか!?」
桐宮霧斗「違うんです・・・おにぎりってこんなに美味しかったっけって思って・・・・・・こんなに美味いおにぎり食ったの始めてで・・・」
佐藤博之「んだよ驚かせやがって!!味噌汁温め直したんだが食うか!?」
桐宮霧斗「はい・・・はい・・・!!」
佐藤博之「おっしゃ!!待ってな!!」
何だか不思議な感じだった。何時も食べ慣れた筈の味が何時も以上に美味しかった。母に作って貰った料理も美味しかったが、
あのおじさんの作ったおにぎりの方が何倍も美味しかった。
佐藤博之「待たせたな坊主!ってか何時まで泣いてんだ。男だろ?」
桐宮霧斗「ご免なさい・・・どうしても止められなくて・・・」
佐藤博之「へへ、まいっか!」
食えるだけ食った俺は、おじさんに質問される。
佐藤博之「なぁ、見た所坊主は学生見たいだが、あんな時間に何してたんだ?ヒッチハイクって訳でも無さそうだが」
桐宮霧斗「実は俺、家族に捨てられたんです。弟が居るんですが、両親は弟ばかり溺愛してて」
佐藤博之「おいおい!自分のガキを差別するたぁ、そんなふざけた親ってのは本当に居るもんなんだな!!」
桐宮霧斗「それで俺、このまま居ても自分が危ないって思って逃げたんです。でも、俺まだ14ですし、やりたい事も行く所も無くて」
佐藤博之「なんてふざけた話だ!一発かましてやりたいぜ!」
桐宮霧斗「でも、本当に有難う御座いました。明日も学校有りますから、俺もう行きますね」
佐藤博之「おい待て!」
桐宮霧斗「はい?」
佐藤博之「俺は佐藤博之。見ての通り料理屋を営んでる。坊主、名前は?」
桐宮霧斗「桐宮霧斗」
佐藤博之「そうか!なぁ霧斗。もしやりたい事が無いってなら、内で料理やって見ないか?」
桐宮霧斗「え!?でも俺まだ中学生だし、行く所も無いし」
佐藤博之「ガキが大人に気を使うな。良いか?一人って事は最強って事だ。何でもやれるし、何処でも行ける。でもな、それでもやっぱり」
佐藤博之「ある程度の事が出来なきゃアウトだ。料理、掃除、礼儀作法。行く所無いなら此処に居ろ。学費ならくれてやるから学校には」
佐藤博之「行って来な。確り勉強する事を条件にな!」
桐宮霧斗「い、良いんですか!?」
佐藤博之「男に二言はねぇ。料理も掃除も、スパルタで教えるから覚悟しな!」
桐宮霧斗「あ・・・有難う御座います!!!」
家族と絶縁させられ、見知らぬおじさん、佐藤さんに助けられた俺は、此処から新しい生活が始まるのだった。
まさに「地獄に仏」の第一話で。。。
理不尽に捨てる家族、気持ちの赴くままに手を差し伸べる佐藤さん、感情に基づく行動でも極めて対照的ですね!
夏目心さん!暗森です!
会員登録で手間取って遅くなりました・・・
とりあえず一通り夏目心さんの作品を見せていただきましたが、どれも良い作品ですね!
特にこの幸せの味はとても良かったです!
作品はすべて見ていますので初めて見た時の感想を伝えます。
しかし、この家族は最悪ですね。しかも弟は勉強が出来るというだけで。一話目から霧斗の悲惨すぎるのですが、料理人の佐藤さんに拾われ、人生がどう変わるか期待です