5.セイレーンの正体(脚本)
〇沖合
漁師「ナミさん・・・? こっちは結構深いですよ?」
父親「ああ。今回獲りに来たのは魚じゃない」
父親「ここにまだある筈だ・・・ かつて飛んできた遺物が・・・」
漁師「ナ、ナミさん・・・? 働きすぎて夢でも見ちゃってるんスか?」
父親「いいや、俺は現実をしっかり見ている。 妻と娘を守るためにな」
父親「ダイビングスーツはあるな? 中に入るぞ」
漁師「ええ・・・」
漁師「ナ、ナミさんがそう言うなら一緒に行きますけど・・・」
父親(・・・やはり、止めることは出来ないか 万里奈・・・)
〇海辺
母親「うーっ、やぁ!」
母親「アナタ〜っ! 私の歌を聴いて〜っ!」
ジョージ「やはり彼女は・・・!」
アオイ「ジョージせんせーい!」
ジョージ「ア、アオイちゃん!? どうしてここに・・・自習は?」
アオイ「アオイ、自習キライ!」
カイル「そっ、それよりもセイレー・・・ いや、お母さんが海に飛び込んでったけど?」
アオイ「お母さんなら大丈夫だよ! アオイの何倍も泳ぐの上手いから!」
アオイちゃんは事の異質さに気がついていませんでした。
アオイ「・・・? いしつさって・・・?」
・・・!
カイル「ア、アオイちゃん! とりあえずお母さんを呼び戻そうよ」
アオイ「えっ、う、うん・・・」
アオイ「おかーさ〜んっ」
カイル「あっ、待ってアオイちゃん! そうじゃなくて──」
・・・アオイちゃんは話を聞かない子でした
ジョージ「・・・アオイちゃんもまた、あのお母さんの娘ということか」
ジョージ「君がアオイちゃんをけしかけたのか? ・・・今回は確認だけに留めておこうとしていたんだがな」
カイル「・・・オブザーバー、干渉許可を出してくれ」
・・・正気か?下手に追憶に干渉すると次の機会を完全に失うかもしれないんだぞ?
カイル「・・・構わない。今回は自信がある 僕を信じてくれ、オブザーバー」
・・・分かった。
ジョージ「・・・何か話しているのか? 君もセイレーンを追っていたのかもしれないが──」
ジョージ「な、なんだ今のは・・・?」
カイル「全てが繋がったよ、ジョージ」
ジョージ「なっ、声が聞こえるように・・・?」
カイル「お前はこの記録に埋め込まれたもう一つの特異点だな」
ジョージ「・・・!」
ジョージ「特異点・・・その言い方をするとは── やはりアオイちゃんが言っていた、 君が未来から来たという話は本当なんだね」
カイル「この追憶に突如現れた特異点『セイレーン』は、元々埋め込まれていた特異点のお前と接触させることで──」
カイル「『記録』という、定められた世界から新たな分岐を作り出して逸脱し、自身の行動制限を取り除いたんだな!」
ジョージ「なるほど・・・ 私は元々記録の一部であるから、それを認知することは出来ないが・・・」
ジョージ「『外』から干渉してきた者からはそう見えているのだな」
カイル「その証拠に、お前は以前の記録にあった我々の観測とは全く異なる動きを始めている・・・」
カイル「・・・っ!オブザーバー! つまり、これは──」
ああ。この追憶に干渉している者が他にも居たという事だな
・・・何かの理由で『セイレーン』が過去に戻ったことで、この記録にも影響を及ぼしたということか
ジョージ「・・・どの道、セイレーンはこれから歌を歌うだろう。この座標は前から超新星が現れると予期されていた場所──」
ジョージ「つまりこの星の終わりの場所さ」
カイル「いいや、そうとは限らない。 お前は知らないかもしれないが、我々の世界でも、この星は海面上昇現象で済んでいる」
カイル「つまり星の破壊までには至らないということだ」
ジョージ「どうかな、今回はもう1人『セイレーン』が居る。新しく分岐したこの世界では、その事実は事実たりえないだろう」
カイル「くっ・・・!」
落ち着け、カイル。
我々は既に『干渉』したのだ。この世界からの規制はもう受けない。
少々手荒いが、座標の『編集』をする。
意識をしっかり保て
カイル「──っ!ちょっ、待っ──」
〇沖合
カイル「ほ、本当に手荒いな・・・」
仕方ないだろう、緊急事態だ。
直ぐに来るぞ
カイル「どういうこと?アオイちゃんの元に飛ばしたんじゃ──」
〇沖合
父親「だからなんで海に犬が居るんだ・・・ こっちは沖合だぞ?カイル・・・」
カイル「ああ・・・なるほど」
父親「なっ・・・喋った!?」
カイル「ごめん、説明してる時間はないんだ。 セイレーンとアオイちゃんを助けよう」
父親「なっ・・・!」
カイル「お父さんは気づいているんでしょう? 『セイレーン伝説』の謎について」
父親「・・・」
父親「・・・ああ、もう、今更驚いていられん そうだ、俺は過去に万里奈を・・・ セイレーンを助けたんだ」
父親「あれは、この島── ララバイ島に移住したばかりの頃・・・」
〇海岸の岩場
父親「この島は最高だな。 大枚はたいて買った甲斐があったな」
俺は立地のいいこの島を買った。
なんでも色々ないわく付きだと聞いていたんだが、当時の俺は気にもとめなかった。
父親「こんだけ魚も捕れんのに土地代が安いなんてな〜 やっぱ海外の連中は何考えてんのか分からんな」
俺は本土で雇用していた組合の漁師たちにも移住を進めようとしていたんだ。
だが、海岸を歩いていた時、『彼女』を見つけた──
父親「・・・ん?」
母親「・・・」
父親「なっ──!こいつは・・・!」
その時、俺は思い出したんだ。この島には『セイレーン伝説』なるものが存在していたことを
父親「お、おいっ 大丈夫か?」
母親「ううう・・・」
父親(ひとまず家に運ぶか・・・ 見るからにコイツは只者じゃないが──)
父親(──美しい女性が倒れているんだ。助けてやらないとな)
〇沖合
父親「俺は彼女を連れ帰って看病し、やがて彼女は目覚めた」
父親「だが、彼女は記憶を失っており、自分が何者なのかも分かっていなかった」
カイル「──そして、彼女を『人間』として生活させるために、自らの妻にしたんだね」
父親「そうだ。そして驚いたことが・・・」
父親「『セイレーン伝説』の消滅だった」
カイル「・・・!」
父親「ただの1人としてこの『セイレーン伝説』を知るものは居なくなった。何故かは分からないが・・・」
──対消滅だな。
恐らく過去に送られたセイレーンとその時に存在したセイレーンが同一人物だと互いに認知したんだろう
消えた方のセイレーンの存在が抹消され、それと同時に伝説も記憶から消えたのだろう
だが、片方がタイムパラドックスによる存在の対消滅を免れたのは、『セイレーン』がショックで記憶を失ったからだな
カイル「ちょっと待って・・・ じゃあ今居る『セイレーン』・・・ 細波 万里奈はいつどうやって生まれた?」
・・・これはまだ憶測に過ぎないが、その時過去にいたセイレーンもまた、未来から送られてきていた存在なんだろう
カイル「つまり・・・ あの時点では『セイレーン』は存在していなかった・・・?」
そうだ。宇宙人によって異能をもつ存在に改造されたということだろう。
──そして、恐らくだが・・・
『セイレーン』細波 万里奈は──
娘である細波 葵と同一人物だ
〜次に続く〜
カイル(ワケガワカラナイヨ・・・)