第二話 ルドルフ家の腕輪(脚本)
〇草原の道
アシリア姫「神座、わらわはもう馬車の荷台にあの村娘と寝るのは飽きた。今日は家で寝たいぞ」
神座慎吾「分かりました、ソフィアも高熱を出して寝込んでいるので医者に見せたいですね」
ソフィアの声「す、すみませんご迷惑をお掛けして・・・ゴホゴホ」
〇枯れ井戸
神座慎吾「おっ、あそこに井戸があるぞ」
俺は馬に水を飲ませると、ソフィアの為に水を汲んで馬車に持って来た
神座慎吾「ほら、ソフィア水を・・・」
ソフィアの声「ありがとうございます」
神座慎吾(それにしてもひどい熱だ人家を見つけなきゃ)
〇森の中の小屋
神座慎吾「やったー!人家だ」
俺はソフィアを背負い姫と共に人家に近づいた
アシリア姫「今夜はベッドだ」
魔女アイリーン「こんな夜更けに誰だい?」
神座慎吾「夜分すみませんが寝る所をお貸しして貰えませんか」
魔女アイリーン「ダメダメ」
老婆はそう言うと扉を乱暴に閉めた
神座慎吾「病人がいるんです、せめて納屋でも」
魔女アイリーン「うるさい!寝られないじゃない」
神座慎吾「ソフィアが高熱を出して医者に診せたいんです」
老婆は俺の背中のソフィアの顔を見るなりハッとした表情になった
魔女アイリーン「仕方ないねぇ、その代わり宿代は頂くよ」
神座慎吾「ありがとうございます」
〇兵舎
俺はソフィアを干し草の上に寝かせ彼女の額の汗を絞った布でふき取ってやった
神座慎吾「旅の疲れか・・・ひどい熱だ」
魔女アイリーン「薬を持ってないのかえ?」
神座慎吾「はい」
魔女アイリーン「じゃぁ、薬を作ってやるから明日材料を集めて来ておくれでないか」
アシリア姫「ところで、ベッドはどこじゃ」
魔女アイリーン「干し草がベッドじゃよ」
アシリア姫「姫の身分でか・・・」
〇兵舎
神座慎吾「おはようございます。えーっと」
魔女アイリーン「アイリーンじゃ、お主は?」
神座慎吾「神座慎吾です」
魔女アイリーン「ほれ、地図と材料表だよ」
アシリア姫「おばば」
魔女アイリーン「アイリーンとお呼び・・・全く近頃の娘は」
アシリア姫「朝食は・・・」
魔女アイリーン「蛇の煮込みだよ」
アシリア姫「要らない」
〇岩山の崖
神座慎吾「ヘレン草って、崖に生えてるのか」
俺は崖を降りていった
神座慎吾(あ、あともう少しで届く・・・)
神座慎吾「う、うわー!」
気がつくと俺はヘレン草を握り締め崖の下で気を失っていた
〇森の中の小屋
その頃、アシリア姫はアイリーンの手首の腕輪を驚きの目で見つめていた
アシリア姫(我らアドルフ家の腕輪、どうして?)
アシリア姫「アイリーンとやらその腕輪何処で」
魔女アイリーン「昔ある殿方から貰ったのさ」
アシリア姫(ま、まさか昔に父上と)
アシリア姫「ま、まさかその男、現国王のわらわの父上だと申すのか?」
魔女アイリーン「娘のソフィアが国王の子である事の証としてね」
アシリア姫(マズイ明るみに出ればお家騒動と)
アシリア姫「戯言を、お前のような身分の女とわらわの父上が関係を持つとは・・・二度とそのような戯言を言ってはならん、言ったら首をはねる」
〇山中の川
俺はアカネ魚を採る為小川にやってきた
神座慎吾「つ、捕まえたぞ」
その時だった俺は背後に妙な殺気を感じた
俺は熊から逃れようと川に飛び込み泳いだ
〇山中の滝
俺は滝の前まで来てしまった
神座慎吾「前は滝、後ろに熊かよ」
俺は滝に飛び込んだ
〇滝つぼ
気がつくと滝壺に熊の死体が俺の隣に横たわっていた
神座慎吾「ラッキー、これで材料の一つである熊の胆汁が採れた・・・さぁ帰ろうか」
俺は指輪を掲げ、ソフィアの所へと念じた
〇森の中の小屋
神座慎吾「ただいまー」
アシリア姫「腹ペコじゃ慎吾、早く中へ運べ」
〇兵舎
俺は材料をテーブルの上に置いた
魔女アイリーン「じゃぁ、早速薬を作るとするかね」
アシリア姫「嬉しいな今夜は熊の肉が頂けるぞ」
暫くするとアイリーンは俺の前にどろっとしたスープが入った皿を差し出した
魔女アイリーン「ほれ、薬じゃ飲ませてやれ」
神座慎吾「ありがとうございます」
早速、俺はソフィアの口へスプーンで薬を流し込もうとしたがソフィアは飲み込んでくれない
神座慎吾「ソフィア飲んでくれ、薬を」
魔女アイリーン「口移しで飲ませればいいじゃろ」
神座慎吾(えっ、意識のない女性なんだけど・・・仕方ないか)
俺は恐る恐る口移しで薬を飲ませようとするとソフィアは上手く薬を飲み込んでくれた
神座慎吾(よかった~)
魔女アイリーン「娘が好意を持っている人の唾液を薬に混ぜると薬は飲みやすくなるんじゃ」
それからというもの俺は毎日ソフィアへの薬の口移しや手足の汗のふき取り等々看病に追われた
神座慎吾「おっ、大分熱が下がったみたいだ」
アシリア姫「よし、トルメニアに出発じゃ神座」
神座慎吾「ダメですよ姫、まだソフィアの家へ行かなくては」
魔女アイリーン「ここが娘のソフィアの実家じゃ、そして私が母のアイリーンじゃよ・・・神座とやらもう心配はないぞ、行きなされ」
神座慎吾「よかった~これで約束は守れたぞ!!後はよろしくお願いします」
〇森の中の小屋
アシリア姫「ちと尋ねるが、お主とソフィアの関係はなんじゃ」
神座慎吾(村人には、許嫁って嘘をついたけど・・・)
神座慎吾「村で魔女と言われ、家畜泥棒の嫌疑をかけられたのを助けた、ただそれだけです姫」
アシリア姫「随分と親切に・・・何時もそうなのか?」
神座慎吾(見知らぬ土地に来たら力になってくれる人脈を広げるのが良い選択でしょうに)
神座慎吾「依頼されたら全うする、それが俺の主義なんですよ・・・情けは人の為ならずって言うでしょ」
アシリア姫「そうか・・・それとわらわの事、美香と叫んでたが」
神座慎吾(そう言えば美香をなんで好きになったんだろう・・・道で見ず知らずの俺の名前を叫んで腕を絡ませてきたのが出会いだったっけな)
神座慎吾「過去の話です姫」
アシリア姫「ところで、そちの仕事はなんじゃ」
神座慎吾(何だったんだろう本当、経理でも総務でもないし利害関係を調整、宴会のセッティング)
神座慎吾「太鼓持ち・・・パリピ」
アシリア姫「なんじゃそれ?」
神座慎吾「あぁぁ、つまりですね人が不可能と言われる事をやってのけるのが仕事です」
アシリア姫「ふーん・。・、それって楽しいか?」
神座慎吾「わくわくします。俺としては、お金よりそれをやり遂げる達成感を選びますね」
アシリア姫「そうなのか、遊び人かと思うたがトリックスターか汝は」
神座慎吾(詐欺師じゃぁないんだけど)
〇草原の道
ダフィット「いたぞ・・・今度こそは逃がさない」
神座慎吾「ま、まずいぜ追って来やがった」
俺は馬に鞭を入れた
神座慎吾「し、しつこいなぁ、何をやらかしたんですか姫」
アシリア姫「マクシミリアン伯爵との婚約を破棄したのじゃ」
神座慎吾「なんでまた?」
アシリア姫「第一や第二夫人より領地が少ないから第三夫人にすると言われたのじゃ」
神座慎吾「それで?」
アシリア姫「伯爵にお茶をぶっかけてやったわ」
ダフィット「さぁ、アリシア姫を渡してもらおうか」
神座慎吾「どちら様?」
ダフィット「ワシはマクシミリアン伯爵軍総司令官ダフィットである」
神座慎吾「アシリア姫?彼女は妻の美香です」
ダフィット「妻だと、嘘をつくな!」
神座慎吾「俺達、新婚旅行でトルメニアまで行く途中なんですよ」
ダフィット「だったら、ここで夫婦である事を証明しろ」
アシリア姫(な、何をするつもりなのじゃ下郎)
俺は後でぶたれるのを覚悟し姫を抱きしめてキスをした
アシリア姫「や、やめてください恥ずかしいですわ」
アシリア姫(ゆ、許さん)
神座慎吾「いてぇ・・・もう結婚したんだからいいじゃないか美香」
アシリア姫「でも・・・人に見られるなんて恥ずかしいわ私」
ダフィット「もういい、わかったよ他に旅人を見なかったか?」
神座慎吾「そう言えば、橋を渡った二人連れを見たよ」
ダフィット「橋だとぅ、そんなものはなかった」
神座慎吾「嘘だと思うなら戻って確認したら?」
ダフィット「皆、戻るぞ」
俺は指輪を掲げ叫んだ
神座慎吾「川に橋を」
その時、俺はいきなり姫からぶたれた
アシリア姫「ぶ、無礼者、わらわのファーストキスを」
神座慎吾「申し訳ございません。さぁ、急ぎましょ姫」
〇兵舎
干し草の中から私は半身を起こした
魔女アイリーン「おや、大分元気になったねソフィア」
私はその声だけは聞きたくなかった
ソフィアの声「お、お母さん!?」
ソフィアの声(家に帰るなんて・・・それ以上に母に再会するなんて、最悪)
私は辺りを見廻した・・・慎吾がいない
ソフィアの声「あの人・・・慎吾はどこ?」
魔女アイリーン「あぁ、あの男はここがお前の家だと言ったら納得して出発したよ」
私は飛び起きた
ソフィア「えぇっ!」
私は急いで衣服を整え玄関に向かおうとした
魔女アイリーン「お待ち、ソフィア、魔女の修行をしなければいけないよ」
ソフィア「何度言わせるのお母さん・・・私は魔女にならないわ」
魔女アイリーン「人間の事は忘れて大魔女にならなければいけない定めなのだよ、お前は」
ソフィア「幼い頃からお母さんの言いつけを守ってきたわ私・・・でもその結果魔女の娘の私に友人なんかいなくなってしまったわ」
魔女アイリーン「人間は信用できないよ・・・昔あんなに愛し合った国王のアドルフ3世だって私や乳飲み子だったお前を捨てたわ」
ソフィア「本当のことを言うとね、お母さん。幼いころはお母さんに気に入られようといい子を演じてたのよ私」
魔女アイリーン「いい子だから、これまで通り大魔女になる修行をして親戚の魔女達を見返しておくれ」
ソフィア「お母さんの言いつけで修業したけど、いつもお母さんは私を認めてくれなかったじゃないそれを今更・・・」
魔女アイリーン「怒ったのは、お前を思ってのことさ、それに失敗は成功の基だよ、めげる事はないさ」
ソフィア「慎吾はねぇ、魔女の私を信じてくれたのよお母さん」
魔女アイリーン「行かせはしないよ、既にこの家の中で空間移動出来ないよう結界をめぐらしておいたからね」
ソフィア(仕方ないわ、玄関から出てゆけば良いのよ)
私は母の言葉を聞かずに玄関の扉を開けた
ソフィア「あら、家から出たはずなのに」
魔女アイリーン「家から出しはしないよ」
ソフィア「お母さんは、何時もそうやって私を家に縛り付けようとする・・・もう沢山」
魔女アイリーン「五月蠅いねぇ・・・修行しろと言ってるでしょ」
ソフィア「や、やったわねー母さん」
魔女アイリーン「フン、油断してるお前が悪いんだよ」
ソフィア「負けないわよ、母さんなんかに」
魔女アイリーン「上手くなってるじゃないか」
魔女アイリーン「でも、私には敵わないね」
ソフィア「お母さんだって、ルドルフ3世と恋に落ちたでしょ」
魔女アイリーン「そうさ、それで自分の浅はかさを知ったのさ」
ソフィア「でも、人生楽しかったんじゃない?」
魔女アイリーン「あの男はお前を愛してるって言ってくれたのかい」
ソフィア「告ったけど、慎吾は・・・」
魔女アイリーン「見たところ流れ者の甲斐性なしだねあの男一緒になったら苦労するよ」
ソフィア「そ、そんな事ないわよ」
魔女アイリーン「女はね手に職を持って自立するのが一番さ、男に頼ってはダメ」
ソフィア「慎吾の傍にいても自立できるわ」
魔女アイリーン「好きなのかいあの男」
ソフィア「・・・慎吾の気持ちを考えなかった私が悪かったのよ」
魔女アイリーン「相手の気持ちではなくお前の気持ちはどうなんだい?」
ソフィア「慎吾に無理強いはさせたくないわ、だから今は、分からない・・・でも信用できる人間だわ」
魔女アイリーン「信用できるって!お前の気の迷いさ・・・相手はお前をすぐに忘れるよ」
私は力いっぱいテーブルを叩いた
ソフィア「慎吾はそんな男ではないわ」
ソフィア「彼の悪口を言うなんて、許さない・・・」
魔女アイリーン「フン、お前に何がわかる」
ソフィア「だったら、お母さん、ルドルフ3世を憎んでる?」
魔女アイリーン「いいや、憎んではいないよ」
ソフィア「母さんと同じく私も楽しい思いをしたいわ・・・世捨て人の生活はイヤ」
魔女アイリーン(そうだアドルフの腕輪をこの子に持たせれば姫から虐められて私のところに帰ってくるはず)
魔女アイリーン「わかったよこれを持って行きなさい」
ソフィア「お母さん」
魔女アイリーン「気をつけるんだよ」
〇湖畔の自然公園
ダフィット「あった、橋だ・・・行くぞ」
兵士が橋を渡りかけた時、白い霧と共に橋が消えた
ダフィット「ムムム、またしても・・・」
〇けもの道
アシリア姫「見て慎吾、マクシミリアン伯爵軍よ」
アシリア姫の叫び声を聞いて俺は振り返った
神座慎吾「ちっ、しつこいぜ」
俺は指輪を掲げた
神座慎吾「コピーしろ」
煙の中から俺と姫のコピーが現れた
神座慎吾の声「俺たちは隠れていましょう姫」
ダフィット「クソ、よくも騙したな」
ダフィット「さぁ、アシリア姫こちらへ」
ダフィット「さて、魔法使いめ、死んでもらおう」
コピーの俺にダフィットが剣を振り下ろすとコピーの俺は消えた
ダフィット「ムムム、また魔術か・・・姫をここに」
ダフィットがアシリア姫に剣を振り下ろすとアシリア姫のコピーが消えた
ダフィット「やはりな、観念して出てこい」
俺は仕方なく姫と一緒に木の影から出てきた
神座慎吾「なぁ、物は相談だけど」
ダフィット「うるさい!斬る」
神座慎吾「ま、待ってくれ提案を聞いてからでも遅くはないぜ」
ダフィット「遺言として聞いてやる」
神座慎吾「第一夫人としてくれないか?姫を」
アシリア姫(神座約束が違うぞ・・・わらわをトルメニアに連れ帰る約束)
ダフィット「儂は命令通り姫を連れ帰る・・・それだけだ」
俺は指輪を掲げた
神座慎吾「霧よ我々を隠せ」
〇けもの道
ダフィット「な、何だ急に霧が」
ダフィット「また魔術か・・・ギリシャ火で焼き殺せ」
神座慎吾「あ、熱い」
アシリア姫「ムムム、もはやこれまで、是非もない」
神座慎吾「諦めてはいけません姫・・・私が囮となって出てゆきますから、姫はそれを利用してお逃げください」
アシリア姫「そうか、分かった死ぬなよ」
神座慎吾「勿論ですとも・・・落ち合う先はトルメニア」
神座慎吾「ソフィア」
アシリア姫「汝は家に残してきたはずじゃが?」
ダフィット「クソ、魔術のほかに今度の新手は武器を使うのか」
ダフィット「た、退却」
ソフィア「さぁ、慎吾と姫私と手をつないで・・・」
俺と姫はソフィアと手をつないだ
ソフィア「さぁ、行くわよ。トルメニアへ」