第一話「小惑星バナナ」(脚本)
〇王宮の入口
リンゴ「ああっ! まさかオレンジ一個で こんなことになるなんて!」
男「全兵士に告ぐ。犯人は東棟5階を逃走中 生死は問わん。必ず捕まえろ」
リンゴ「マジ!? 捕まったら殺される!」
兵士「見つけた! あそこだ!」
リンゴ「! 早く逃げなきゃ!」
〇王宮の入口
宮殿の柱に停めていた
小型宇宙船へと乗り込む
〇カラフルな宇宙空間
〇コックピット
後方から無数のビームが飛んでくる
リンゴ「あー! やばいやばいやばい!」
リンゴ「どこか逃げる場所を検索して・・・」
リンゴ「! 銀河メロウ・・・」
リンゴ「確かにあんなところまで追ってこないだろうけど、一度入ったら出られないって──」
リンゴ「くっ! 被弾した!」
リンゴ「こうなったらイチかバチかだ! 加速装置でワープするしかない!」
〇宇宙空間
9つある銀河の中で
最果てにある銀河メロウ
そこは他の銀河から
ゴミを捨てられるほど汚く
銀河全体が巨大な
ゴミステーションと化していた
だがこの銀河の中にも
いくつかの小惑星があり
そこには懸命に暮らす人々がいたのだ
そんな銀河メロウに
いま一隻の小型宇宙船が
迷い込んできた──
〇岩山
リンゴ「いたた・・・ここはいったい──」
あちこちにゴミが広がっている
リンゴ「そうか・・・ 銀河メロウの小惑星に墜落したんだ」
リンゴ「そうだ! 宇宙船は──」
リンゴ「良かった、動く」
リンゴ「エネルギーが充電されるのを待って その間に食料を──」
ミミズ「やあ」
リンゴ「ひぃっ・・・! 誰!?」
ミミズ「人間・・・久しぶりに見たな」
リンゴ「はあ?」
ミミズ「この星には僕しかいないんだ」
ミミズ「僕は一人で暮らしている」
リンゴ「! あんた、まさか ずっとここで暮らしてるの・・・?」
リンゴ「こんなゴミ溜めの中に?」
ミミズ「この星はそんなに悪くないよ おいしいバナナも取れるしね」
リンゴ「バナナ?」
〇美しい草原
リンゴ「ね、ねえ。こんなゴミだらけの星で バナナが取れるの?」
ミミズ「うん。おいしいよ」
リンゴ(ふう。こんな汚い銀河の奴とは 関わりたくないけど・・・)
リンゴ(食料の確保は大事だし)
リンゴ(こいつがホントにこの星の住人なら 利用しない手はないよね)
リンゴ「ね、ねえ。あんた名前は?」
ミミズ「僕? 僕はミミズ」
リンゴ「ミミズ? 変な名前」
ミミズ「君は?」
リンゴ「私はリンゴ。惑星フルーツ出身」
ミミズ「ふーん。聞いたことないや」
リンゴ「嘘でしょ!?」
リンゴ「惑星フルーツって言ったら 憧れの惑星第一位だよ」
リンゴ「みんな知ってるわよ」
ミミズ「僕はこの星と、近くの小惑星くらいの ことしか知らないから」
リンゴ「ふーん。あんた世間知らずなのね ま、こんな星にいたら当然か」
ミミズ「着いた。ここだ」
天にも届くほどの巨大なバナナの樹が
生えている
リンゴ「で、でかい・・・雲に隠れて てっぺんが見えないじゃない・・・」
ミミズ「この星で一番大きな樹なんだ 一年中、好きなだけバナナが取り放題」
ミミズ「その代わり、僕は毎日水を上げたり 近くのゴミを取ったりしているけど」
リンゴ「毎日?」
ミミズ「そう毎日」
リンゴ「あんた仕事は?」
ミミズ「この木を世話すること」
リンゴ「たったそれだけを・・・ 誰にも会わずに、毎日続けているの?」
リンゴ「・・・私だったら退屈すぎて死んじゃう」
ミミズ「ん? なんか言った?」
リンゴ「べ、別に」
ミミズ「お腹空いてるんでしょ? とってきてあげるよ」
〇美しい草原
リンゴ「こんなに・・・」
ミミズ「食べてみて。おいしいよ」
リンゴ「う、うん・・・モグモグ・・・」
ミミズ「どう?」
リンゴ「これは──」
リンゴ「嘘でしょ・・・私、何かを食べて 泣いたことなんて一度もないのに──」
ミミズ「おいしくなかった?」
リンゴ「ううん。今まで口にした全ての 食べ物の中で、一番美味しかった」
リンゴ「身体中に幸せが染み渡るような 不思議な──」
ミミズ「良かった」
リンゴ「こんな、こんなおいしいものが 存在するなんて・・・」
リンゴ「こんな銀河の果ての ゴミの中にあるなんて・・・」
ミミズ「リンゴの星にはバナナないの?」
リンゴ「私の星は何でもあるよ 色々なフルーツが取れる」
リンゴ「でも、このバナナほど 美味しいものは取れない」
ミミズ「そっか。なんか照れるけど嬉しいな 一生懸命、育てている甲斐がある」
リンゴ「そうだ・・・!」
リンゴ「もしこのバナナを惑星フルーツに 持って帰れれば」
リンゴ「王様も私のことを許してくれるかも・・・」
ミミズ「王様? 王冠被っている人?」
リンゴ「うん。大のフルーツ好きでね」
リンゴ「私が王様のおやつを食べたら 全兵士に追われるはめになっちゃって」
ミミズ「泥棒ってこと?」
リンゴ「違う違う。トレジャーハンターって言って」
ミミズ「トレジャー?」
リンゴ「まあいいわ」
リンゴ「とりあえずここのバナナ、あるだけ もらっていくけど、構わないわよね?」
ミミズ「それは・・・まあ」
ミミズ「でも、多分この星の外に持ち出しても すぐに腐っちゃうと思うよ」
リンゴ「嘘!?」
ミミズ「前にも近くの小惑星の人が来て バナナを持って行こうとしたら すぐに腐っちゃったみたいだし」
リンゴ「そんな・・・何か方法ないの?」
〇小さな小屋
ミミズ「これ、僕が使っている 特別なリュックなんだ」
ミミズ「これにバナナ入れると腐らないんだよ」
リンゴ「なんだ。ならそれ貸して」
ミミズ「ダメだよ これがなかったら、僕が困るもん」
リンゴ「すぐ返すからさ」
ミミズ「ダメダメ。毎日使うんだから」
リンゴ「ぐぬぬ・・・」
リンゴ「なら、あんたも私の星についてきて」
ミミズ「僕が?」
リンゴ「ずっとこの星にいるんでしょ? たまにはいいじゃない」
リンゴ「バナナの樹だって、ちょっとくらい 世話しなくても平気よ」
ミミズ「うーん」
リンゴ「宇宙には色んな人がいるのよ そういう人に会ってみたいと思わない?」
ミミズ「うーん・・・ま、いっか ちょっとくらいなら」
リンゴ「やった! 話がわかるじゃん」
ミミズ「さっそく支度してくる」
リンゴ「あ、それはそうと・・・」
リンゴ「私、元の星に帰る方法がわからないん だけど、あんたわかったりする?」
ミミズ「え? 僕は、この星から一度も 出たことないし、わからないよ」
リンゴ「マジ・・・? じゃあどうするのよ」
ミミズ「とりあえず・・・」
ミミズ「バナナでも食べる?」