灰色(脚本)
〇未来の都会
ここは錆と煙で満ちた蒸気機関都市、スモーキィ
灰色の目をした住人たちが熱狂するのは
炭鉱鉄道レース!
住人「今日は誰に賭ける?」
住人「情報屋も占い師も ブリリアントが一着と言っていたぞ」
〇岩山
リポーター「今日も大勢のファンが炭鉱に集まってきていますね! どうですか ブリリアントさん」
ブリリアント「ふん 平常心よ」
ブリリアント「ワクワクしすぎてね・・・!」
リポーター「これは〜今日の走りも期待できますね!」
リポーター「透明なスモーキィ石の鉱山の中を轟音と共に駆け巡る、狂気の炭鉱鉄道レース!」
ブリリアント「一着はあたしよ あたしに賭けなさい!」
リポーター「とのことです!」
〇コックピット
スタートの号令が鳴る前の瞬間が
身が捩れるほど好きよ
深海に潜っているようで・・・
落ち着くの
これから あたしは 未知の扉を
通り抜けて 死ぬのだわ
うふふ
3.2.1
〇コックピット
ズガガガガガガガガガガガ
スモーキィ山の中を轟音が響き渡る
何かを運ぶためではなく、ただひたすらにスピードに捧げるためだけに
あたしの意識は機関車と一体化し、観音像の水瓶の流れのように、コースを下っていく
壮絶な振動と深海の孤独の中で
あたしは生きてる
生きてるのを感じるわ!
バリバリギャギャギャギャギャギャギャ
あたしの愛機 エイティーシックス
美しい悲鳴でしょう?
あたしの叫びを代弁してくれているの
エイティーシックスだけよ
あたしのことを愛して、知って、代弁してくれるのは
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
さあ!
最終コーナー
行くわよ
〇岩山
リポーター「おーっとトンネルから出てきた 一着はー! 赤いエイティーシックス! ブリリアントだ!」
〇未来の都会
ブリリアント「はあ・・・ エイティーシックスの側から離れると、あたしがあたしじゃないみたいで落ち着かないわ」
ブリリアント「この街の灰色の住人たちと同じになったような気分で・・・」
ブリリアント「あたしってイカれてるのかしら?」
〇校長室
マネージャー「ブリリアント。明日の炭鉱鉄道のイベントにこれを着て出てくれ」
ブリリアント「まあー! そんな格好をするなんて! それはコンパニオンガールの仕事でしょう」
マネージャー「炭鉱鉄道レースを愛好する層のことを考えてみろ」
ブリリアント「・・・女の私は男性レーサーのようにアスリートとして扱われないのね」
ブリリアント「コンパニオンガールたちはコンパニオンガールをすることに喜びを感じるのだろうから、それでいいのだろうけど」
ブリリアント「私は鉄道レースを極めることに喜びを感じるの」
マネージャー「なに 女であることを有効活用すればいいじゃないか」
ブリリアント「活用するしないの問題ではない・・・ そんな格好していたら、フェミニストになってしまいそうだもの 男嫌いにはなりたくないわ」
ブリリアント(・・・そろそろ潮時なのかもしれない ずっと違和感があったの ここは本当に私がいたい環境なのか・・・)
ブリリアント(産業に純粋さを求めても無駄でしょうね)
〇コックピット
あたしはレーサーをやめた
全財産をはたいて買ったエイティーシックスのなかでぼんやりとこれからのことを考える・・・
レールがなければ動けないあなたをこの草地の上に運んだのは あたしのエゴ・・・
エイティーシックス、あなたは私の家になるの
レールは一緒に作りましょう
ブリリアント「誰かの敷いたレールなんて、いらないわ」
スチームパンクのリクエストをした本人です。理想の夢小説が具現化して、作者さんの素敵なスチルまで拝むことができて感無量です!機械と人間の逃避行、ステキ。ラストのセリフもバッチリきまりましたね。さすがです。