テスト(脚本)
〇アパートのダイニング
由加「・・・結局、パパの『とっておき』も大して普段と変わらなかった」
〇古いアパートの一室
今、お前の家にある仮想空間に私のとっておきを転送する
これに難なく勝つ事が出来るのなら、最早ヤツなど敵ではない
〇アパートのダイニング
由加「パパはああ言ってたけど、ほんとに大丈夫かな・・・」
由加「念の為連絡しておこう」
由加「「終わった。簡単だった」で良いか」
由加「・・・よし」
由加「あとは暇な時にでも見てもらおう」
由加「・・・さて」
由加「次はあの詐欺グループ──もとい誘拐犯にお母さんと光・・・弟の場所を聞き出さないと」
由加「・・・」
由加「LINEで来た物にはLINEで返そう」
由加「『見てる?』」
由加「『これからそっち行くけど』」
由加「『どこにいるの?』」
由加「・・・・・・」
由加「来た」
〜信頼できる貴方様へ〜
「ご家族様誘拐サービス」 参加ありがとうございます!
開催場所・・・最寄りの公園
開催期間・・・本日より無期限
開催時間・・・10:00〜1:00
由加「・・・」
由加「『押し売りはわかったから、普通に書いて』」
由加「『開催時間、意外と長いね。あなたが寝てる時以外はいつでも良いって事?』」
由加「・・・」
ああ、成る程
由加「『?』」
いえ、すみません。久々の真面目な返信でしたので
由加「『どういう事?』」
今までの『お客様』は、此方の内容を無視されるか、逆探知等で直接割り出すなどして、まともに取り合わない方ばかりでした
こうやって対等な目線で連絡を取り合う『お客様』は、珍しいのですよ
由加「『口振りから察してたけど、やっぱり誘拐は初めてじゃないんだね』」
ええ
ロニー・アレクサンドル・ピナルド。若い貴方様でも聞いた事はおありでしょう
由加「『確か・・・研究者だっけ』」
ええそうです
今でこそ有名ですが・・・『モンスタリア遺伝子』を用いた彼の遺伝子工学は、世界にも大きな影響を及ぼしました
次に、ダミアン・ド・ノエル。聞いた事はおありで?
由加「『知らない』」
由加「『あんたが勝手に作ったんじゃないの?』」
いえいえ、実在しますよ
彼は優秀な医者でした。『毒癰(どくよう)』という病気の特効薬を作ったのが他ならぬ彼なのです
由加「『毒癰・・・あれに罹った時の顔の腫れ方はヤバかった』」
そして、伊吹由香
由加「『・・・』」
由加「『まさか・・・』」
ええ。全員もれなく、『ご家族様誘拐サービス』及び『ご家族様奪還イベント』の参加者です
まあ・・・イベントと言っても、貴方様は康孝様のお気に入りですので
由加「『・・・パパ?』」
現地に来ていただければ、此方の人質も無償でお返し致します
ただ・・・
私が個人的に、貴方様に『興味』を持っておりまして
少々、『テスト』をさせていただきたく思います
由加「『・・・戦うの?』」
おや、察しが良いですね
まあ、テストと言っても赤点もデメリットも御座いません。これに負けたら、貴方様はその程度のお人だったというだけです
由加「・・・」
由加「『デメリット』」
由加「『「負けたら死ぬ」で良いよ』」
由加「『負けないから』」
おや、そうですか
由加「『いつでも来て良いの?』」
ええ。1:00まででしたら、いつでもお待ちしております
ただ、それを過ぎてしまわれると営業時間外ですので・・・くれぐれも、時間厳守でお越し下さい
由加「・・・」
〇公園の砂場
由加「さて」
由加「目的地には着いたけど・・・」
???「おや、思いの外お早いお着きで・・・」
由加「・・・あんたが?」
???「ええ。私こそが貴方様を呼び出した張本人にございます」
由加「そう」
由加「それで、お母さん達はどこにいるの?この周りはざっと見たけど、見当たらなかった」
???「その件なのですが、困った事が起きまして」
由加「?」
???「つい先程の事です。我々の『ボス』が、貴方様のお母様と弟様を欲しがってしまいまして」
???「流石に我々も、ボスの命令には逆らえません。貴方様の来られる前に、車にお二方を乗せ、ボスの元へ──」
由加「どこに行ったの?」
???「ええ。ですから、今頃ボスの元へ・・・」
由加「場所を聞いてるんだけど」
???「・・・」
???「いやあ、それを伝えてしまうと『面白くない』ではありませんか」
由加「こっちはお母さんと光を取り返す為に来たんだけど」
由加「あんたにとっても大切な人質だったんじゃないの?」
???「まあそうですが・・・ボスの命令には逆らえません」
???「それに、貴方様は勿論、人質のお二方にも何も危害は加えない予定でしたので」
???「結局の所、貴方様が此方に来られれば何でも良かったのです」
由加「・・・別に人質を取られなくても来たけど」
???「そうだったのですか?それはそれで、フットワークが軽すぎて危ないような気がしますが・・・」
???「私が言うのもなんですが、得体の知れない人といきなり会うリスクは、あなたが思っている以上に大きいです」
???「ですが・・・『私個人』に関しましては、心配は不要です」
???「LINEでお話した通り、『少し貴方様をテストするだけ』で終わりますので」
由加「私がそれを受けるメリットは?お母さん達もいないなら、ただ働きも良いとこだよ」
???「・・・ここに、1000万円あります」
???「元々、貴方様への『挑戦報酬』としてお渡しする予定でしたが・・・」
???「これがあれば、『ボス』と会うまでの間、生活に困る事はないでしょう」
???「・・・さて、どうしますか?」
由加「・・・・・・・・・」
由加「やるよ。相手はあんたで良いの?」
???「まさか。私は至って普通の、少し興味対象が広いだけの人間ですので」
???「ご案内しましょう。準備はよろしいですか?」
由加「早くして。お腹空いた」
???「ハハハ、わかりました。それでは・・・」
???「バトルフィールド──展開」
〇荒廃した街
由加「・・・・・・」
由加「場所が変わった・・・」
これは『バトルフィールド』でございます
由加「バトルフィールド・・・初めて聞いた」
聞いたのは初めてでも、ご覧になった事はおありでしょう
何せこれは貴方様のお父様──伊吹康孝様の作られた『精神隔離領域』と同様のシステムを使っております
簡単に言えば、貴方様が日々、戦闘アンドロイドとの鍛錬に使っている疑似空間と同じようなものです。そして──
由加「!」
そして──これが貴方様への『テスト』です
まあ、普段の訓練と同じようにやっていただければ構いませんよ。私は貴方様の素の強さが観たいだけですので・・・
モンスターB「ゴアアア・・・」
由加「・・・」
モンスターB「ゴアアアアア!」
由加「・・・」
由加「これで良いの?何だかテストにしては随分と陳腐だね」
いえいえ、まさか。これだけな筈はありませんよ。・・・ほら、貴方様の真後ろに!
由加「!」
由加「増援・・・!?」
「ゴアアアアア!!!」
由加「・・・」
「ゴアアア!」
由加「・・・遅い」
由加「邪悪な気配・・・これがきっと『本命』」
獣型モンスター「・・・」
由加「・・・」
由加「(着替えた方が動き易かったかな)」
獣型モンスター「グルルル・・・」
獣型モンスター「ガアアアアア!!!」
由加「・・・」
獣型モンスター「ガアア・・・」
獣型モンスター「ガア!」
獣型モンスター「・・・・・・」
由加「ううっ!」
獣型モンスター「ガア!」
由加「う、動けない・・・やるなら今のうち・・・」
獣型モンスター「ガアアアアアアア・・・・・・」
由加「ううっ・・・」
獣型モンスター「ガアア!!」
獣型モンスター「・・・」
獣型モンスター「・・・ガッガッガッ」
獣型モンスター「ガッガッガッガッガッガッ!!!ガッ・・・」
由加「・・・・・・」
由加「(まあ、こんなもんだよね)」
由加「ねえ、どうだった?」
・・・・・・・・・
由加「見てたんでしょ?一部始終」
・・・・・・
由加「ねえってば」
・・・・・・・・・
いやあ、何と言いますか
率直に申しますと、貴方様の力は此方の想定を何回りも上回っておられました
特に先程の戦闘ですが──
貴方様は敵との戦いで、『あえて被弾した』
私にはそう見えました。・・・どうでしょうか?
由加「・・・うん」
やはりそうでしたか・・・何故ですか?幾ら『精神隔離領域』とはいえ、肉体とダメージはリンクしている。もし深い傷を負えば──
由加「この戦いは、常にあんたの監視下だった」
由加「私の戦いを見たいが為に、ここまで大層な物をわざわざ作ってくれてたんだ」
由加「なら、『魅せる』しかない。そう思っただけ」
・・・その為には、怪我をも厭わないと?
由加「今回はレベル差があったからね」
由加「私が虎だとしたら、あれは身の程も弁えず猪突猛進してきた猪に過ぎないんだよ」
・・・そうですか
ですが、その猪の突進で思わぬ一撃を受けてしまうかもしれませんよ
由加「大丈夫だよ。私は『魅力的』だから──」
〇公園の砂場
由加「お、戻ってきた」
???「・・・」
???「まずは、お疲れ様です」
???「正直、貴方様の強さは此方の想定を何倍も上回っておりました」
我孫子「まさか・・・この『好奇』の我孫子太一を以てしても、貴方様の足元にすら及ばないとは」
由加「『好奇』?」
我孫子「私の2つ名です」
我孫子「同じような2つ名を持った方が、私以外にもあと3人ほどおりますよ」
由加「プッ・・・何だか、『四天王』みたいだね」
我孫子「ええ、まあ・・・そう捉えていただいても構いません」
我孫子「そしてそれらを束ねるボス──我等4人の司令塔が頂点に君臨しております」
由加「全員殴れば良いの?用意は出来てるよ」
我孫子「好戦的ですねぇ・・・」
我孫子「まあ、それに近い事にはなるかもしれません」
我孫子「今回私だけでなく、『ボスを含めた我々全員が』貴方様に興味を持っておりますので・・・」
我孫子「貴方様の技量では早々な事では負けないでしょうが、くれぐれも油断は禁物です。万が一──」
我孫子「万が一、貴方様がやられてしまっては、康孝様も辛い思いをされるでしょう」
由加「・・・」
由加「あ、電話だ」