3.分岐する黄昏(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
アオイ「カイル、お手!」
アオイ「よし!いい子だね♪ よしよし♪」
カイル(うーん・・・ 僕のテレパシーがアオイちゃんにしか届かないのが不便だな・・・)
カイルが疑問符を浮かべていると、アオイちゃんのお母さんが近づいてきました。
母親「アオイちゃん、ジョージ先生はカイルくんと話せるの?」
アオイ「ううん。カイルが言ってることわかんないって」
カイル「うーん・・・ 僕のいた未来では誰とでも話せたんだけどな・・・」
母親「そう・・・ 何か条件があるのかしらね」
カイル「地質学に明るいジョージ先生なら、海面上昇現象についてなにか分かっていると思ったんだけどな・・・」
母親「海面上昇現象!? それって一体・・・」
カイル「僕のいた未来では、ある日突然海面が上昇し始めて、列島本土や様々な国が海に沈んじゃったんだ」
カイル「・・・でも、この島だけは何故か沈まなかった。ここよりも標高が高い場所でも沈んでいたのに・・・」
アオイ「ララバイ島、凄いね!」
母親「そうなんだ・・・ カイルくんはどうやって過去に戻ってきたの?」
カイル「それは──」
カイル「・・・え、待って。お、お母さんは僕の声、聞こえるの?」
母親「ええ、聞こえるわよ!」
え、アオイちゃんのお母さんも聞こえるの?そんなはずは・・・
アオイ「ほ、ほんとに!?いつから?」
母親「最初から・・・だけど? アオイちゃん、教えてくれたじゃない。頭に話しかけてくるって」
お母さんは大事なことを言わない人でした。
カイル「じゃ、じゃあなんでジョージさんは──」
母親「はーい!」
アオイ「多分ジョージ先生だね」
カイル(うーん・・・ なんとも間の悪い・・・)
〇おしゃれなリビングダイニング
ジョージ「お邪魔するよ・・・ やあ、アオイちゃん」
アオイ「こんにちは! ほんとにきたんだ!」
母親「今お茶を持ってきますね〜」
ジョージ「いえ、お気遣いなく。 実は私、あなたにお話を聞きたくてここに来たのです」
母親「私・・・ですか?」
母親「・・・ハッ!」
母親「い、いけませんわ。私には夫が・・・」
ジョージ「えっ!?いやいや違いますよ・・・」
お母さんはドラマの見過ぎで、
早とちりをする人でした。
アオイ「わーっ!昼ドラだ〜」
カイル(えぇ・・・)
アオイちゃんはお母さんの影響でドラマを見るのが好きでした。
ジョージ「ご存知の通り、私はこの島の地質を 研究している研究員です」
ジョージ「実は、この島に伝わるセイレーン伝説についても調べているのです」
母親「セイレーン伝説? そんなロマンチックな伝説があったんですね!」
ジョージ「ええ。ご存知ないのですか?」
母親「ええ、知らないわね」
お母さんは本当に知らない様子でした。
ジョージ「そうですか・・・ 伝説や民間伝承などは、必ず何か根拠があるもの」
ジョージ「私は、セイレーン伝説と、昨今の海面上昇現象に何か関連があるのでは無いかと睨んでいます」
母親「ふんふん、それで? 私に聞きたいことがあるの?」
母親「セイレーン伝説については初耳だからお力になれるか分からないけど・・・」
ジョージ「はい。アオイちゃんから聞いたのですが・・・」
ジョージ「『細波 万里奈』さん、あなたは海の中で歌を歌うことが出来ると・・・ 本当ですか?」
母親「えっ・・・」
母親「・・・」
母親「も、もう!恥ずかしいわね・・・ 確かに歌えますけど・・・」
母親「そんな人様に見せられるようなクオリティじゃありませんよ・・・」
ジョージ「そ、そうですか」
カイル(海の中で歌えることは否定しないのか・・・)
ジョージ「いったい、どうやって海の中で歌を・・・?」
母親「え、どうって・・・ 普通に歌ってるだけだけど・・・」
カイル「普通、海の中から周りに歌を聞かせるなんて出来ないよ」
アオイ「アオイもできるよ! お母さんほど上手くないけどね」
カイル「えぇ・・・ほんとに?」
ジョージ「なんという親子だ・・・」
アオイちゃん達は決して嘘をついていませんでした。
ジョージ「ではもうひとつ・・・万里奈さん。 あなたの出身は──」
???「ん?万里奈、誰か来てるのか?」
母親「あらアナタ、おかえりなさい」
父親「ん?あんたは・・・」
ジョージ「ああ、お邪魔しております、アオイちゃんの教師の──」
ジョージ「・・・いや、『地質研究員』のジョージ・モーリスです」
父親「──っ!」
お父さんはジョージの自己紹介を聞き、焦った様子で話し始めました。
父親「一体なんの話をしていたんだ? うちの家内になんの用事だ?」
母親「ちょ、ちょっとアナタ・・・」
ジョージ「用事と言うほどのことでは・・・ 奥さんに二、三聞きたいことがあっただけです」
父親「悪いが出ていってくれ。 娘の教師をしてくれているとはいえ、得体の知れない研究者なんぞ家には上げられん」
母親「ちょっとぉ!そんな言い方ないでしょ?」
ジョージ「いえいえ、すいません・・・ お邪魔して申し訳ありません」
ジョージ「また別の機会にお話させてください。 『セイレーン伝説』について・・・」
父親「──っ!」
ジョージ「では失礼します。 またね、アオイちゃん」
アオイ「またね〜っ!」
カイル「・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
その日の夜、お母さんとお父さんが真剣に話をしていました。
母親「もう、アナタ・・・ さっき、どうしてあんなにジョージさんに冷たくしたの?」
父親「・・・あんな得体の知れん研究員なぞ放っておけ。お前も気安く家にあげるな」
母親「も〜っ、ジョージさんは私の歌を聞きたいって言ってくれただけよ〜」
お母さんは少し勘違いしていました。
父親「歌・・・」
父親「歌だと!」
母親「な、何よ・・・」
父親「絶的にやつの前で歌うな! いいか、絶対だぞ!」
母親「そ、そんな怒ることないでしょ・・・?」
父親「・・・ふん。 とにかく、もうあの男に関わるな。 ・・・これは俺たち家族のためなんだ」
母親「・・・わかったわ、アナタ」
アオイ「どうしたんだろ、お父さん・・・」
カイル(お父さん・・・ ジョージさんが地質研究員だって聞いてから急変したな・・・)
お父さんがなぜここまで怒っているのか、誰も理解することは出来ませんでした。
〜次に続く〜
カイル(なんか雲行きが怪しくなってきたな・・・)
〇黒背景
父親(・・・)
父親「セイレーン伝説・・・ あいつは一体、どこで知ったんだ──」
うーむ、謎は深まるばかり
只一つ分かったことは…
作者は葵ちゃんのお母さんをものすごく気に入っているということ。
これは物語を解明する手掛かりになるのだろうか?