第11話 想起(脚本)
〇城の会議室
2021年 青森県 三志和市 斎王家 客間
斎王幽羅「じゃあ今から父さんと婆ちゃんの遺言書を読みあげるね?まず父さんのから···」
斎王幽羅「我が子幽羅へ、お前には··· ··· ···」
〇暖炉のある小屋
2013年 エジプト 首都カイロ 自宅内
斎王勇次郎「我が子幽羅へ、お前にはこれから随分苦労をかけさてしまうことを許して欲しい」
斎王勇次郎「お前は雪羅···お前の『お母さん』に似て優しい子に育って良かったと思っている。だが一方で俺のように」
斎王勇次郎「『何かがきっかけで激情に駆られると手がつけられなくなる』所もあって手を焼いたものだ」
斎王勇次郎「そんなお前には3つの事を伝える。1つ目は『能力のコントロールについてだ』」
斎王勇次郎「お前は潜り込む能力を有している、きっと頼の所でハチャメチャな能力訓練をしたんだろう」
斎王勇次郎「恐くお前より大きい動物にでも潜り込ませて内側から引き裂く、みたいな事をさせたんだろう。だがこればかりは頼は合っている」
斎王勇次郎「何時いかなる時も能力がコントロールから外れるきっかけは『心』だ、これからお前はきっと人を殺める事になるかもしれない」
斎王勇次郎「俺にはそうなって欲しくない。が···絶対にないとも言えない、だから予めお前に心が揺さぶられないよう訓練したのだろう」
斎王勇次郎「幽羅、どんな時も『冷静さ』を忘れるな。頭に血が上った時は遺品で残した『砂時計』を思い浮かべろ」
斎王勇次郎「砂時計はゆっくりと、だが確実に落ち続ける。どれだけ砂時計は降っても落ちる量は変わらない」
斎王勇次郎「その時の状況を変えようと力いっぱい足掻いても変わることはまずない、『冷静に時を見るんだ』。これが1つ目だ」
斎王勇次郎「2つ目は『能力の覚醒方法について』だ」
斎王勇次郎「能力はある一定の条件を持って覚醒をする、覚醒する能力は『近しい能力』になる事が殆どだが」
斎王勇次郎「俺のように『無能力者が突然覚醒能力に目覚める』事もある。俺は元々ビートの使い手で適性は土だ」
斎王勇次郎「それがお前の母さんの死で覚醒能力に目覚めた。いいか幽羅、能力の覚醒に目覚める方法は今の所ひとつ」
斎王勇次郎「『自身の人生を変えうる感情と心の急激な変化』だ。そしてこれは異種族や非能力者にも言える」
斎王勇次郎「能力の覚醒はいい事かもしれんがきっかけは決まって『悲劇的な出来事』だ、お前にはそんな悲しい事が起こらないこと祈っている」
斎王勇次郎「3つ目はアメリカにあるとある施設についてだ、俺がエジプトで仲間を募っている時知った話だが」
斎王勇次郎「どうやらクローン計画が進んでいるらしい、組織の名前もアメリカのどこにあるかも不明だ。恐く頼なら知っているだろう」
斎王勇次郎「もし頼がお前に宛てた遺言書に書いていないのであればカナダも危険になる」
斎王勇次郎「アメリカに渡ることがあるのであれば『南部』から行くことを勧める、南米は頼の能力を恐れて異種族や異能力者を保護する」
斎王勇次郎「法律が続々と制定されている、お前がアメリカに渡る頃はどうなっているかは分からないが」
斎王勇次郎「少なくとも10年程度は法改正はしないはずだ、もしアメリカに渡ることがあれば南米に行き拠点を設け」
斎王勇次郎「そこから機会を伺いながらアメリカ入りするといい」
斎王勇次郎「最後になるが頼はお前の母さんが死んだ時『非能力者を皆殺しにする決意を固めた』。お前は何があっても『必要以上の事をするな』」
斎王勇次郎「お前も頼と同じ道を進んでほしくない、絶対に『必要以上の事をするな』。それが父としてお前に伝える事だ」
斎王勇次郎「俺も雪羅も、きっと頼もお前のことを愛している。例え死んでも『傍に居る』、お前は孤独じゃないって事を伝えておく」
〇城の会議室
2021年 青森県 三志和市 斎王家 客間
斎王幽羅「··· ··· ···父さん」
キング「錯乱の塵なんて異名があるからどんなやつかと思ったが···普通にいい人じゃねえか斎王の父ちゃん」
鸞「世界を混沌に落とした能力者、その中身はその辺の親御さんと変わりない人だったんだな」
フェード「気になることもあったな、アメリカにクローン研究をしてる組織があると。輸送している赤ん坊とその組織の関連も気になる所だ」
凪園無頼(能力の覚醒には『その者の人生を変えうる激しい感情と心の変化』が必要···)
凪園無頼(それには非能力者や異種族などの境界はない···か··· ··· ···)
フェード「凪園?何か考え後か?もしかして心当たりが···?」
凪園無頼「ぜーんぜんねーし。まぁちょっと色々考えてたけどねー···それよりさ、このジジイどーすんの?」
凪園無頼「能力の覚醒方法わかってそれに異種族や非能力者は関係ないって書いてあったんでしょ?じゃあまた同じ事繰り返すんじゃね?」
その言葉と共に凪園は突如現れた荒縄に締めあげられる。エンチャントを見るとエンチャントは鬼のような形相で凪園に向け
魔法陣を向けていた。
エンチャント魔導法士「おいクソガキ、調子にのるなよ?次は手が滑って『首を絞めてしまうかもしれんぞ』」
凪園無頼「は?俺とやんの?クソジジイ、じゃあ望み通り首絞めてみ···」
凪園が言い切る前に斎王が遮る。
斎王幽羅「2人ともやめてくれ。凪園、信用出来ないのはわかるけど変に煽らないで。エンチャントさん、凪園を離してくれ」
斎王幽羅「俺からも謝るよ、本当に失礼を働いて申し訳ないです」
そう言って斎王はエンチャントに向け頭を下げる。エンチャントはため息をつきながら魔術を解き、荒縄は消失する
エンチャント魔導法士「···凪園と行動を共にするなら抑え方を心得ておけ、今回のような事がまたおこるぞ」
そんな言葉を聞いた凪園は不貞腐れたような表情をし、斎王にだけ軽い謝罪をした
斎王幽羅「肝に銘じておきます。じゃあ···次は婆ちゃんの遺言書を読みますね」
斎王幽羅「愛する幽羅へ、貴方を···」
〇高層マンションの一室
2013年 カナダ 首都オタワ 自宅内
雪月頼「愛する幽羅へ、貴方には過酷な道を歩ませてしまっているのでしょう。どうかこんな私を許して欲しい」
雪月頼「私に残せる遺産なんてないけれど、この遺言書には『3つの情報』を残すわ」
雪月頼「1つ目は旦那の居場所、場所が変わっていなければ私の旦那はアメリカの『イリノイ州』にいるわ」
雪月頼「私が斎王と殺し合いになった時、私の仲間を旦那に預けるつもりでいるから何かあったら旦那を頼るといいわ」
雪月頼「ただ気をつけなさい、アメリカは『特例変法』という法律が次々に制定され異種族や異能力者に対して『厳しい罰則』があるわ」
雪月頼「ニューヨークやワシントンみたいな大都市は特に厳しく、異種族や異能力者というだけで『刑務所行き』になるわ」
雪月頼「私の働きかけでユタ州やネブラスカ州みたいな田舎では特例変法は何とか制定を止めることはできたけど、アメリカには渡航する時は」
雪月頼「特例変法が制定されている州を事前に調べておきなさい」
雪月頼「2つ目の情報はアメリカにあるとある施設について。恐く斎王もこの情報を貴方に託しているでしょう」
雪月頼「私が掴んでいる情報は『ミネソタ州』にあるということと『クローン研究』が行われていることよ」
雪月頼「なんのクローンを作るのかはわからない、ただ···仲間がアメリカの方に『光』を見たって言っているわ」
雪月頼「最初は気にもとめなかったけど、私もそれを見た時『変な違和感』を感じたわ」
雪月頼「今現在光の能力者は確認できてはいないし、喧嘩王と同じ『光のビート』を使うものもいないわ」
雪月頼「あまり考えたくないけど···『過去の光系異能力者のクローン』を視野に入れて行動した方がいいわ、警戒しておきなさい」
雪月頼「3つ目は力の覚醒方法についてよ、斎王は貴方にどう伝えたかは分からないけど」
雪月頼「力の覚醒には能力者や非能力者、異種族なんて関係ないわ。そして私の仲間に能力を一時的に覚醒させる能力者がいるけど」
雪月頼「能力の影響を受け、能力が覚醒状態になった者は決まって『感情の激しい変化と気分の高揚』があると言っているわ」
雪月頼「私が能力に覚醒した時も非能力者に対する激しい『怒り』と絶対に殺してやると言う『殺意』があったわ」
雪月頼「恐らくだけど力の覚醒には異常なまでに『脳に負荷』をかけなくてはいけないと思うわ」
雪月頼「娘が死んだあの日···娘を助けにいった私と斎王、そして旦那はその場で能力に覚醒した」
雪月頼「貴方は同じようにならないように仲間を守ろうとするかもしれない、けどね···幽羅」
雪月頼「『貴方が死んで守れるものなんてないわよ』。しっかり生きて守りたいものを守りなさい」
雪月頼「最後になるけれど、私はあなたに随分ひどい事をしてきたわ。能力の訓練と称して小さい貴方にたくさんの人を殺させてしまった」
雪月頼「こんな私が今更貴方に愛してるとか言っても貴方には届かないと思う、だから···だから最後に伝える事はひとつ」
雪月頼「『間違っても私みたいにならないで』」
雪月頼「それだけは心に留めておいて欲しい、どうかお願いね?幽羅」
〇城の会議室
2021年 青森県 三志和市 斎王家 客間
斎王幽羅「··· ··· ···婆ちゃん」
キング「自分がおかしいってわかっていながらそれでも娘の二の舞を作らないために『非能力者を殺してた』ってことか」
鸞「そんな彼女でも親心はあったのだろう、『知略の雪』なんて言われて恐れられてたが彼女もただの親でしかなかったというわけだ」
凪園無頼「つーかさー、思ったんだけど『光のビート』って何?ビートは空、風、土、火、水の5種類じゃね?」
エンチャント魔導法士「若いやつは物を知らんな···喧嘩王が当時ビートの適性が無く、それで独自で編み出したものが『光のビート』だ」
凪園無頼「へぇーそうなんだー、つーかさヤベーことまた書いてなかった?」
フェード「クローン研究についてだな、『違和感を覚える光』を見たと書いてあるが···どんな光だったんだろうか···」
フェード「斎王は見たことないのか?小さいころカナダに居たのだろう?」
斎王幽羅「何回かあるけど···別に変な感じはなかったと思う、まぁ小さい頃の記憶だしうろ覚えってのもあるけどさ」
フェード「どんな感じだった?私達なら違和感に気づけるかもしれないし、教えてくれ」
斎王幽羅「別に普通だと思うよ···?『線上の光が大量にあった』だけだしさ」
フェード「歌手のライブであるあれか···?」
斎王幽羅「うん、あれ。一本だけなら変だけど色んな色の線上の光があったから別に変には感じなかったよ」
鸞「雪月頼の言う通りなにか『違和感は感じる』が、何かはわからん。現地に行ってみればわかるかもしれんが···」
フェード「かもしれんな···あと『氷帝』の居場所が書いてあったな、ロシアにいると聞いていたがアメリカにいるとはな」
鸞「能力の覚醒者、雪月頼の夫『氷帝』鬼月冷羅。居場所が移っていなければイリノイ州は間違いなく安全だろう」
キング「おいおい、特例変法ってのがアメリカで制定されまくってんだろ?なんで安全なんて言えるんだ!?」
鸞「考えても見ろ、全世界を3日間雪と塵で覆うような戦いをした能力と同等の力を持った能力者だぞ?」
鸞「怒らせたら州ひとつ『氷漬け』なんてささっとやってのけるだろう、違うか?斎王」
斎王幽羅「冷羅さんならやれる。だから鸞が言う通りイリノイ州が安全っていう意見も正しいと思う」
斎王幽羅「ただ同時にあの人を狙う人間も多いと思う、だからイリノイ州も『無法地帯』になってる可能性も高いと思うよ」
エンチャント魔導法士「まぁまずある程度情報は揃ったが問題も多い、それをこれから話し合うとするか」
To Be Continued···