ぼくらの就職活動日記

大杉たま

エピソード39(脚本)

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〇おしゃれなリビングダイニング
  戸川はバッグから百万円の束を五つ取り出して紅音の前に置いた。
「!!」
戸川仁「これを受け取ってください。 そして、最終選考に進んでください」
真田紅音「あの、何言ってるんですか? 意味がわかりません」
戸川仁「・・・果たし状選考での、紅音くんの対戦相手である落合俊介」
戸川仁「彼が、対戦の時ババ抜きで不正行為を働いていたことがわかりました」
真田雅美「!」
戸川仁「紅音くんは、そのことは知っていましたか?」
真田紅音「そうかもしれないとは思っていました」
真田雅美「え、なんなのそれ、最低じゃないの」
真田博史「うちの息子はね、真剣にあの選考に挑んでたんです、それなのにイカサマだなんて、あんまりでしょう」
戸川仁「まったく、おっしゃる通りです」
戸川仁「こちらとしても、二度とこのようなことが起きぬよう、社員教育を徹底していく所存です」
戸川仁「ですから、そのお詫びとして」
  そう言いながら戸川は五百万を紅音の方へと押しやった。
戸川仁「どうかこれで、不正行為については内密にしていただいて、紅音くんには最終選考へと進んでいただきたいのです」
真田紅音「・・・・・・」
真田博史「なんでもね、金で解決しようなんてずいぶん虫のいい話だ」
戸川仁「おっしゃる通りです」
真田雅美「息子はね、一度絶望のどん底までたたき落とされているんです、その苦しみがわかりますか」
戸川仁「申し訳ございません」
真田博史「紅音、お前が自分で決めなさい」
真田博史「お前には五百万を受けとって選考を進む、正当な権利がある」
真田博史「それを使うことはまったく恥ずべきことではないよ」
真田雅美「ええ、あなたのしたいようにするのが一番いいって、お母さんも思う」
真田雅美「ただね、お父さんもお母さんも、紅音が本気でエリートピアに受かりたいって頑張ってたの、ずっと見てたから」
真田雅美「悔いのない選択をしてほしいと思う」
戸川仁「紅音くん、改めて本当に申し訳ありませんでした」
戸川仁「どうか、これを納めて選考に戻ってきていただきたい」
真田紅音「・・・落合さんはどうなりますか?」
戸川仁「彼は即刻解雇になると思います」
戸川仁「あんな、エリートピアの顔に泥を塗るようなことをしたのだから当然です」
真田雅美「恥さらしだわ」
真田博史「そういう人間はプライドがないのか」
真田紅音「・・・・・・」
  紅音はお金を見たあと、戸川に視線を移す。
  ガチャ
真田正志「ああ、お客さん?」
真田紅音「正兄!」
真田正志「おお、久しぶりだな、紅音」
真田紅音「今までどこ行ってたの」
真田正志「まあ、ちょっとな」
真田正志「・・・ただいま。 連絡も無しにいなくなってすみませんでした」
真田雅美「別に」
真田雅美「そんなことより、私たちは紅音のことで大事なお話をしているの」
真田雅美「用がないんなら出て行ってくれる?」
真田博史「すみませんね、一応せがれなんですが、礼儀がなってないというか」
戸川仁「・・・・・・」
真田正志「あんた、まだ人事やってたんだな」
戸川仁「ええ、ずっと人事ですよ。私は」
真田正志「デカい企業だと、異動ないって言うもんな」
戸川仁「そんなことないです。 私、人事が好きなんですよ」
真田紅音「え、正兄って、戸川さんと知り合いなの?」
真田正志「俺がエリートピア受けたときも、この人が人事だったんだ」
真田正志「それで、果たし状で落ちた俺に選考に戻らないかって声をかけてきた」
  紅音たちは驚いて戸川を見るが、彼は平然とした顔を崩さない。
真田正志「選考に不備があったとかなんとか言って、入社後の昇進を約束するから、選考の不備は内密にして、最終に進んでほしいって」
戸川仁「・・・はあ」
真田紅音「それで、正志はどうしたの」
真田正志「断った、それで落ちた。 別にかっこつけたわけじゃなかった」
真田正志「ただ、そういう裏取引みたいなのに乗らない方が誠実に見えるかと思ったんだ」
真田正志「だってこれも選考の一部だろ?」
戸川仁「・・・・・・」
真田雅美「え、そうなの?」
真田博史「なんだ、じゃあ受け取らない方がいいのか?」
真田雅美「でも、それで正志は落ちたんじゃないの」
真田博史「そうか、じゃあ素直に受け取った方がいいのか」
戸川仁「ただ私からは、五百万円を受けとって、それで選考に戻っていただきたいとしか申し上げられません」
  正志は言い争っている両親を横目に部屋を出ていった。
真田紅音「すみません、少し待っていただけますか」
戸川仁「ええ、かまいません」
  紅音は急いで正志を追いかけた。

〇男の子の一人部屋
  正志は机の引き出しから何かを探していた。

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