田舎娘、渋谷へ。

nagi

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〇渋谷のスクランブル交差点
萌恵「うわぁー! ここが渋谷・・・!」
  大学進学を機に上京し、今日訪れたはじめての渋谷。
萌恵「やっぱり田舎と違って人が多いのね」
  人混みの中を歩いて行くとあのテレビで何回も見た交差点が広がり気分はさらに上がった。
萌恵「これがあのスクランブル交差点ね!」
萌恵「あったわ!」
  見つけたのは反対側にそびえるビルに掲げられたスから始まるあの有名カフェ。
  今日はここでコーヒーを飲んでから買い物を思う存分楽しむつもりだ。
  でもそれは次のアクシテンドので簡単には叶いそうになかった。
萌恵「きゃあっ!」
男「あぶねーな!ちゃんと前見て歩け!」
萌恵(あぶない。危うく自転車と接触事故を起こす所だったわ)
萌恵「す、すみません!」
萌恵「あれっ・・・これって」
  ロードバイクにヘルメット。背中に背負う四角い黒リュック
萌恵「ウーバーイーツ!はじめて見たー!」
男「あ?なんだ?あんたもしかして見たことないのか?」
萌恵「地元には洒落たお店なんてまるっきしなかったのでつい感動して・・・」
萌恵「ってあぁ!リュックの中大丈夫ですか!?」
  私の言葉に反応して大慌てで相手の男性はリュックを開いた。
男「あーあーぐっちゃぐちゃ」
萌恵「私のせいですね・・・」
萌恵「あの、ちゃんと弁償しますから。どこのお店ですか?」
  男性が指差したのは私が行こうとしていたカフェだった。
萌恵(都合が良いわ。余計な出費でも私のミスだしここは引き受けないと)
萌恵「わかりました!すぐ買ってきますね!」

〇テーブル席
店員「ありがとうございました!」
萌恵(レシートを見せて同じ商品を買えたはいいものの、ウーバーさんどこに行っちゃったんだろう)
  カフェのガラス窓から見下ろし交差点を見回してもさっきの男性が一向に見当たらない。
萌恵「どうしよう・・・」
「ちょっとそこのお嬢さん」
  不意に後ろから声をかけられた。
  地元じゃあるまいし、こんな都会で顔見知りに遭遇なんてない。誰かしら
萌恵(なに、この人・・・)
男「私こういう者でして」
  渡された名刺には芸能事務所の文字が書かれていた。
萌恵(これってもしかして・・・!?)
男「お嬢さんがあまりにも素敵でしたから思わず声をかけてしまいました。どうです?モデルのお仕事なんて興味ありませんか?」
萌恵「まさか!ここからきらびやかなスター街道が始まる!?」
萌恵「モデルですか!?私が?なれるんですか?」
男「ご興味あるようですね。どうです?ここではなんですから別の場所で詳しい話をしませんか?」
萌恵「ぜひ・・・あっ、でも・・・」
  今すぐにでも着いて行きたかったけど、ぶら下げた紙袋の重みに気づいた。いけない。目的を忘れる所だったわ。
萌恵「すみません。私、まだ別の目的があるんです」
萌恵「詳しい話はまた後程にお願いできますか?」
男「すぐには無理ですか・・・残念です。では今の話はなかったことに」
萌恵「ちょっと待ってください!なかったことにってどういう事です!?」
男「私もそんなに暇じゃないんですよ。今この瞬間を大事にしない方とは前向きにお話しできませんので」
男「ではこれで失礼して・・・」
萌恵「ま、待ってください!だったらすぐ着いて行きますから!お願いします!」
男「・・・そうですか?しかし、貴方には別件があるのでは?」
萌恵(交差点にさっきの男性はいなかったし少しの時間くらい大丈夫よね・・・!!)
萌恵「大丈夫です。急ぎの用ではないので」
男「そうですか、それならゆっくりと話せそうですね」

〇渋谷のスクランブル交差点
  カフェを出て先程のスクランブル交差点に向かった。
萌恵(やっぱりウーバーのお兄さんが見当たらない。どこに行っちゃったのかしら)
萌恵「まぁ、今の私にとっては都合が良いけど」
男「ところでお嬢さん」
男「ウーバーのお品ものは届けなくてもよろしいのですか?」
萌恵「えっ・・・」
男「ほったらかしじゃないんですか?」
萌恵「どうしてその事を・・・」
男「いけませんねぇ。大事な用件をほったらかしにして自分の行動にもっと責任を持たないと・・・」
萌恵「でも、芸能人になれるチャンスなんて滅多にないです。今この瞬間を大事にしないといけないと言われたので・・・」
男「言いましたが、私はあなたに提示しただけであって言葉の受け取りかたはあなた次第でした」
男「有名人になりたかったんですよね。それならご安心を。もうあなたは有名人です。ほら、上を見てごらんなさい」
  男性が上を指差し、釣られるように交差点を見上げると、大型ビジョンの中の私と目があった。
萌恵「私・・・なんで・・・?」
男「実はわたくし本当はこういう者でして」
  再び名刺を差し出されたそこには書かれていた身分は
萌恵「東都テレビ・・・?」
男「はい。実は現在生放送中でして、既にあなたの顔は全国に流れて既に有名人ですよ」
男「目の前の利益を優先するか、チャンスを棒に振ってでも他人を優先するか・・・人間性チェックという実験ロケ企画の最中です」
  男性の言葉に合わせて、ぞろぞろとカメラマンやスタッフと思われる集団が現れた。
男「先程はどーも」
萌恵「あっ!?」
  集団にはさっきのウーバーイーツの人も混ざっていた。
萌恵「じゃあ、今までのは全部・・・」
男「はい。ご協力ありがとうございました」
男「都会は恐ろしいものです。今回は洗礼だと思ってください。それと、チャンスは自分から掴むものです」
男「そう簡単に転がっているようなものではありませんからね、お嬢さん」
萌恵「・・・肝に命じます」
  私の落胆した一言にスタッフの笑い声が交差点中に響き渡った。

コメント

  • 初めて渋谷にきたなら仕方ないような気もします。
    用事を優先するか、自分のことを優先するか…ですが、それをネタにするテレビ局の人たちにモラルを問われても、って感じですよね。笑

  • 途中途中で「大丈夫かな?」とハラハラしながら読み進めました😂
    ウーバーも初めて見るような子だったらこんなの絶対にテンパっちゃうよなぁと同情しましたが、彼女にはこれから東京で強く生きてほしいです😭

  • 上京したての頃は全部新しく、新鮮で、また反面怖く感じたりするものですよね、どこの場所でも生活は「慣れ」なんでしょうが、慣れるまでが大変ですよね。

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