救世主!?(脚本)
〇ヨーロッパの街並み
この世のものとは思えない整った容姿に、
幻想的な銀色の髪。
それと・・・口元を汚すまだ
乾ききらない血。
きっとこの男が、さっき話題に
なったヴァンパイアなのだろう。
???「こんなところに人間がいるとは・・・」
???「先ほどは食事の途中で邪魔が 入ったからな。 ちょうどいい」
理華「あ・・・」
離れるようとする私の動きよりも早く、
目の前の男は私をきつく抱きしめた。
理華「いたっ」
首筋に強い痛みが走る。
妙な感覚。
耳の近くに感じる息遣い。
血を吸われている。
理華「・・・っ」
動きが取れない。
もしかして私、ここで血を吸い
つくされて死ぬの?
そんな・・・
???「【聖血】か・・・珍しい」
せいけつ?
言っている意味が分からない。
理華「うっ・・・」
突きたてられていた牙が抜かれ、
強張っていた肩が脱力する。
???「普段人間を持ち帰ることはないが、 これは持ち帰るに値する」
何を、言っているの?
顎をクイッと持ち上げられて
紅い瞳と目が合う。
???「今日からおまえは俺のものだ」
理華「っ・・・」
この人――このヴァンパイアは本気だ。
どうにかして腕を外そうとしても
びくともしない。
〇ヨーロッパの街並み
「おいおい。そう簡単に逃げられると 思ったのか?」
理華「きゃ・・・」
何が起こったのか理解するのは
困難だった。
私が認識できる速さを優に超えていて、
まばたきを一つしている間にすべて
終わっていた。
〇ヨーロッパの街並み
ラハオルト「大丈夫か?」
後ろから肩に手を添えられて、
見上げると、そこには金髪碧眼の
童話から抜け出てきた王子様みたいな
人が立っていた。
理華「え、は、はい」
ラハオルト「そっか、ならよかった」
???「邪魔が入ったか」
ラハオルト「あ、おい! 待て!」
ヴァンパイアはすでに数メートル
離れた位置まで逃れていた。
その後を追おうと金髪の男性が
二、三歩踏み出し、しかし足を止めて
振り返る。
ラハオルト「いや、それよりも手当が先だな」
金髪の男性の手が伸びてくる。
ラハオルト「傷は・・・」
理華「ひっ」
金髪の男性の骨ばった指が首筋を
なぞり、ぞわぞわとした感覚が走った。
私の反応に彼は苦く笑う。
ラハオルト「突然触れて悪かった。 傷口の確認だけさせてくれ」
理華「・・・はい」
たぶんこの男性は悪い人ではない。
その証拠に彼はヴァンパイアに
連れ去られそうになっていた私を
助けてくれたし、こうして傷口の
手当てもしてくれている。
ラハオルト「綺麗な傷口だ。 十日もすれば治るだろう」
ラハオルト「・・・まったく、こういうところには 気遣いが表れてんだよな」
理華「え・・・?」
ラハオルト「いや、こっちの話だ」
ラハオルト「そういやあんた、見慣れない服を 着ているな。どっから来たんだ?」
・・・どうしよう。
どこから来たのか正直に話しても
信じてもらえない気がする。
そもそも私は【どこから来たのか】の
質問には答えられても
【どうやって来たのか】には
答えられない。
そしてその答えは私自身が一番
知りたいことでもあった。
中途半端にこちらのことを明かしても
不審に思われるだけだと思い、視線を
下げる。
理華「あれ・・・」
妙な既視感が胸に渦巻く。
彼の服、どこかで・・・。
「おいラハオルト、そっちはどうだ?」
声に反応して振り返ると、そこには
先程の二人組が立っていた。
ミトクタシア「ん?」
理華「あ! あなたたちはさっきの・・・」
私の姿を捉えた藍色の瞳は不機嫌そうな
光を灯した。
ミトクタシア「なんでおまえがこんなところにいる?」
理華「えっ、いやっ」
ミトクタシア「逃げようとしたのか?」
彼は私に近づいてきて、傷跡を確認した。
ミトクタシア「ハッ。逃げようとしてヴァンパイアの 餌にされるとかマヌケもいいとこだな」
ラハオルト「ミト、この子を知ってるのか?」
ミトクタシア「森で見つけた不審者だ。牙はないが 怪しいから屋敷に連れていく 途中だったんだよ」
ラハオルト「ああ、なるほど。途中でヴァンパイアが 現れたからそっちを優先したわけか」
ミトクタシア「そういうことだ。だがヴァンパイアに 吸血されたってことはそいつは ヴァンパイアじゃねぇ」
ミトクタシア「もう屋敷に連れて行かなくてもいいだろ」
赤い髪の男性の言葉に、幾分か緊張が
解けた。
もう彼には私を拘束する理由がない。
ラハオルト「いや、そうもいかない」
しかし今度は金髪の男性がそれを
否定する。
ラハオルト「さっきのヴァンパイアの態度から 察するに、この子は【聖血】持ちの 【聖女】だ」
ミトクタシア「なんだって?」
彼らの表情が険しくなり、嫌な予感が
する。
ラハオルト「ここで放り出せば、この子は数日で 不幸に見舞われる」
ラハオルト「やっかいなことに、もうこの子は ヴァンパイアに【聖女】として 認識されてしまっているんだからな」
ミトクタシア「しゃあねぇなぁ。・・・おい小娘」
理華「えっ」
ミトクタシア「事情が変わった・・・が、もう一回事情が 変わった。俺たちについて来い」
ミトクタシア「ま、一生をヴァンパイアどもの餌として 終えたいんなら好きにしろよ」
理華「・・・っ」
ようやく解放されるかと思ったのに。
この世界のことはまだよくわからない
けれど、断片的に理解できた話を
まとめると、私はヴァンパイアに
狙われる危機に陥っているみたいだ。
理華「・・・ついて行きます」