ストリゴイ(脚本)
〇山中のレストラン
僕の名前はミハイ、ルーマニアの大学で教授をしている。全く愛していない妻と家庭内サービスの一環としてこのレストランに来た。
ミハイの妻「あなた、今日は食事に連れて行ってくれてありがとう」
ミハイ「あぁ...予約してあるからすぐにお店の席に着こうか」
本当に研究以外は退屈だ。ご飯を済ませ、適当に相槌を打って接待して『明日は仕事が忙しいから』と言い訳して大学に戻るか...
親が決めた婚約さえなければ一生孤独でオカルト研究に励めるのに...
ミハイの妻「あなた、またボッーとしてらっしゃるわね。疲れてるのかしら」
ミハイ「...すまない、大学の仕事が立て込んでいてね」
〇レストランの個室
レストランのオーナー「ミハイ様、お待たせいたしました。どうぞこちらへ」
私は妻とこのレストランで食事を待っていた時だった。
ミハイ「・・・」
ミハイ「!?」
隣斜めの席にいたのだ。
あの赤髪、あの蒼い眼、僕が幼少期の頃から今まで待ち焦がれた存在...【ストリゴイ】!?
ストリゴイ「...」
彼は周りに目も暮れずスマホをいじっていた。
ミハイの妻「あなた...あなた!」
ミハイ「ハッ...どうしたんだい?」
ミハイの妻「もう前菜が来てるのに一切手をつけていないなんて...相当つかれているの?」
ミハイ「...あぁ、その様だね」
私はサンドイッチを食べつつも隣の席にいる憧れの存在を眺めていた。
ストリゴイの特徴は先程言った通り知っていたが何故か彼はスウェット姿でよく見ると顔や首に細かい傷があった。実に興味深い。
妻の様子を見るに...もしかしたら僕以外はストリゴイは見えていない可能性が高い。
格式の高いレストランにふさわしくない格好をしている者がいたら何者でも噂をするだろう。
...それに人ならスエット姿で店に入ったらオーナーに追い出されているはずだ。
現に、オーナーは他の客と談笑しているのでやはりストリゴイの姿は見えていないという仮説は正しいと思われる。
彼の席にあったのだが...こんなゲテモノはメニューになかったはずだ。
彼は再びスマホを見ると顔を少し歪ませた。
〇地下室への扉
店の裏口の方に向かってる...?
〇レストランの個室
ミハイ「嗚呼!待ってくれ!行かないでおくれ!!」
ミハイの妻「ちょっと、あなた!ど、どうしたの?」
僕は思わず妻を置きざりにしてストリゴイの彼を追ってしまった。
はて?しかし何故だろう。部屋の照明が赤みを帯びている。...気のせいか。
〇山中のレストラン
僕は彼の後を追い、外に飛び出して叫んだ。
ミハイ「待ってくれ!!僕を置いていかないでくれ!!!!!」
ストリゴイ「...え?」
振り向いた彼はすごく驚いた表情だった。
ミハイ「嗚呼、やっと振り向いてくれた」
僕の方を彼が振り向いてくれた事に凄く感動して頭が熱くなった...
ガンッ
ミハイ「...え?」
視界が段々とぼやけていった。
僕の身に何が...
〇牢獄
──ルーマニア郊外
クリナ「さすがアタシの弟、 作戦大成功だよスーちゃん! 協力ありがとう!!」
ストリゴイ「...無事に捕まえられてよかったね。あとスウェット返して。これキツイ」
クリナ「ダサいからヤダ」
ストリゴイ「()」
...なんだ、誰か話してる?
ミハイ「...ハッ、こ、ここは?」
目が覚めるとあの追いかけいたストリゴイの彼と仲間らしき女性のストリゴイがいた。
クリナ「ようこそ、ミハイ教授。 アタシはクリナ、隣のストリゴイの姉です」
クリナ「単刀直入に言うわ、あなたは我々吸血鬼の奴隷として働きなさい。 もちろん人権なんてないわよ」
ストリゴイ「...姉さん。それじゃ説明できてないよ」
ストリゴイ「要約するとお前の研究している[人工血液]を我々吸血鬼族の食糧政策の為に貢献して欲しいという事だ」
ストリゴイ「もちろん、姉の言う通りお前に自由は無いが最低限の生活費は出してやる。食糧難の今、我々には人工血液が必要なんだ」
──何という事だ。
僕は裕福な家に生まれ、飛び級で若くして大学教授となり、愛は無いがそれなりの身分の婚約者と結婚して..
〇牢獄
順風満帆な生活を過ごしていていたのに...こんな埃まみれの牢獄でバケモノ達に必死に世の中の為に役立つ研究を横取りされて
ノーベル賞も取らず、歴史に名も残せず、無名のまま消えてしまうなんて...なんて...
なんて...
ミハイ「・・・フッ」
ミハイ「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハ」
クリナ「な、何がおかしい!?」
ミハイ「まさにこれが僕の求めていた者だ...!!昔、図書館で読んだストリゴイの本と同じだ!!そこのストリゴイの彼!!!!」
ストリゴイ「えっ俺?」
ミハイ「まさに僕が求めていた理想のストリゴイが君だ!!その薔薇の様な紅い髪、海の様な蒼い眼、一目惚れしてしまったよ!!!」
ミハイ「頼む、僕を眷属にしてくれ...君の為なら何でもするから」
クリナ「あら、アタシの褒め言葉は無いのかしら」
ミハイ「君は外見は魅力的だけど中身が人間くさいから好みでは無い」
クリナ「何ですってもう一回ハンマーで殴ってあげましょうか⁈」
ストリゴイ「姉さん...落ち着いて、一応そいつは大事な研究をしている人間だから殴って怪我をさせるのはよそう」
ミハイ「あぁ、君は僕なんかに寛大な心も持っているんだね...♡」
ストリゴイ「やっぱりコイツはキモいから頭以外殴ってもいいよ」
ガンッッ
〇英国風の図書館
100年後、教授とストリゴイの姉弟の人工血液の研究は姉弟の精神的な犠牲により素晴らしき万能人工血液が完成したのであった。
この話は魔界でも有名な話として歴史書でもよく記載されている。
最初は覇気のない主人公でしたが、いきなりイキイキとしはじめて、そんなに好きだったんだなぁと思いました。笑
ラストのコメディ調のお話も楽しかったです。
ドラキュラも食糧難で大変なんですね。人間の生き血を食するよりミハイが研究している人工血液に目をつけるところは、人間を傷つけない優しい素敵なドラキュラです。
ミハイが視野の狭い(すみません)ホラー映えのする性格で、どんどん怪しい世界の深みにはまっていく…かと思いきやコメディで笑いました。うっとりするようなホラーテイストと面白い掛け合いの両方が楽しめて、何だか得した気持ちです。