谷川くんのトラウマ(脚本)
〇大企業のオフィスビル
〇休憩スペース
前園はるか「十年経ってラブレターの返事が来た?」
前園はるか「随分のんきな彼女ね」
谷川りく「のんきってもんじゃねぇだろ」
前園はるか「──っで、付き合うの?」
谷川りく「今更付き合えるわけねぇだろ!」
〇大企業のオフィスビル
前園はるか「あー、終わった終わった」
前園はるか「あれが例の彼女?」
前園はるか「結構な美人じゃないの」
谷川りく「あいつ・・・会社まで来やがった」
澤山りつ「お疲れさま」
澤山りつ「ジー」
前園はるか「じゃあ私、先に帰るから」
前園はるか「お疲れさま」
澤山りつ「・・・・・・」
澤山りつ「もしかして付き合ってる人って、あの人?」
谷川りく「さぁね」
谷川りく「それより、なにしに来たんだよ」
澤山りつ「夕飯でも一緒にどうかなって」
〇大衆居酒屋
澤山りつ「ぷは〜」
澤山りつ「あー、おいし」
澤山りつ「さあさあ、谷川くんも飲んで」
谷川りく「下戸なんだよ」
澤山りつ「あら残念」
谷川りく「なに考えてんだよ」
澤山りつ「なにが?」
谷川りく「まさか、これからずっとストーカーするつもりなのか?」
澤山りつ「人聞きの悪い事言わないでしょ」
澤山りつ「私は純粋にお付き合いをしたいだけ」
谷川りく「だから付き合うつもりは──」
澤山りつ「あっ、すいません」
澤山りつ「つくねとタン塩追加ね」
谷川りく「うわ〜」
澤山りつ「なに?」
谷川りく「付き合いって、互いが好意を持っているから成立する訳だろ」
澤山りつ「だから?」
谷川りく「・・・お前、絶対俺の事好きじゃないだろ」
澤山りつ「どうして?」
谷川りく「普通は好きな人の前でそんなに豪快に食べられないだろ」
澤山りつ「・・・谷川くんは、そうなの?」
谷川りく「一般論を言ってるんだよ」
澤山りつ「・・・正直に言えば好きじゃないわね」
澤山りつ「だって、これから好きになるんだもん」
澤山りつ「お互いにね」
谷川りく「何で俺なんだ?」
谷川りく「あんたみたいな美人なら周りにいくらでも相手はいるだろ?」
澤山りつ「今まではいたのよ、今まではね」
澤山りつ「ところが周りを見てみると、みんな席が埋まっていて」
澤山りつ「私一人があぶれていたの」
谷川りく「とっくに結婚してると思ってたよ」
澤山りつ「ミスった」
〇女の子の一人部屋
澤山りつ「ふ〜」
澤山りつ「出だしは上々ね」
澤山りつ「私の事好きじゃないと言ったって」
澤山りつ「しっかり相手してくれる所を見ると」
澤山りつ「まんざらではないって事よね」
澤山りつ「こりゃあ一ヶ月もかからないな」
澤山りつ「お父さん待っててね」
澤山りつ「素敵なお婿さん連れていくから」
〇モヤモヤ
「やめてって」
「人がいるんだよ」
「だから興奮するんだろ」
「それより、あいつだろ」
「お前にラブレター渡したやつって」
「今どき・・・昭和かよ」
「ゲラゲラ・・・」
谷川りく「う〜ん・・・」
〇一人部屋
谷川りく「はっ」
谷川りく「くそっ、思い出しちまった!!」
〇大企業のオフィスビル
〇オフィスのフロア
谷川りく「ふあぁ〜」
前園はるか「寝不足?」
前園はるか「愛する彼女に寝かせてもらえなかったとか?」
谷川りく「ふざけるなよ」
谷川りく「悪夢だよ悪夢」
前園はるか「ふ〜ん・・・」
前園はるか「──っで、彼女とはどうするつもりなの?」
谷川りく「終わってる恋なんだから、どうにもならないだろ」
前園はるか「でも、向こうは本気みたいじゃない」
谷川りく「そうなんだよな」
谷川りく「下手に拒否してムキにさせてストーカー化されても困るしな」
谷川りく「でも、まぁ──」
谷川りく「何度か食事でもすれば合わないのが分かるだろ」
〇大衆居酒屋
澤山りつ「ぷは〜」
谷川りく「すごい飲みっぷりだな」
澤山りつ「好きな人の前だとお酒が進むのよね」
谷川りく「昨日は、これから好きになるって言ってたよな」
谷川りく「もう好きになったのか?」
澤山りつ「ふふ、だって〜」
澤山りつ「谷川くんってさぁ──」
澤山りつ「そんなにイケメンだったっけ?」
澤山りつ「昔はもっと地味だったイメージだけど」
谷川りく「最初からイケメンだよ」
谷川りく「あんたが気付かなかっただけだろ」
澤山りつ「言うわねぇ」
谷川りく「俺は再会してショックだったけどね」
谷川りく「美少女がおばさんになってて・・・」
澤山りつ「酷いこと言うのね」
澤山りつ「これでも二十代前半に見られるのよ」
谷川りく「悪いけど、ピーク時の美貌で記憶されてるんでね」
澤山りつ「来年は30だし、衰えるのも仕方ないわよ」
澤山りつ「それより彼女さんの方は大丈夫なの?」
澤山りつ「毎日私と会ってヤキモチ焼かないの?」
澤山りつ「あっ、セフレだから割り切ってるのか」
谷川りく「なんだよ、セフレって?」
澤山りつ「好きでもない女と付き合ってるって言ってたじゃない」
澤山りつ「つまり・・・そういう事でしょ」
谷川りく「お前なぁ」
谷川りく「俺をそんな人間だと思っていたのか?」
澤山りつ「違うの?」
谷川りく「好きでもない女と付き合える器用さがあれば」
谷川りく「過去の恋愛を引きずってるわけないだろ」
澤山りつ「谷川くんも辛い恋愛をしたのね」
澤山りつ「同じ傷を持つもの同士」
澤山りつ「きっと上手くいくわ」
澤山りつ「かんぱ〜い」
谷川りく「お前ってやつは・・・」
谷川りく「ああ、ダメだ!!」
澤山りつ「あっ、谷川くん!」
〇繁華な通り
澤山りつ「待ってよ」
谷川りく「やっぱり、お前とはこれ以上付き合えない」
澤山りつ「どうしたのよ急に」
谷川りく「本当に忘れたのか?」
谷川りく「俺にした仕打ちを」
〇住宅街の公園
谷川りく「忘れてるって事は──」
谷川りく「お前の中で俺は、その程度の存在だったって事だ」
澤山りつ「だから彼氏がいたから保留にしただけって言ったでしょ」
澤山りつ「そこまで根に持たれても・・・」
谷川りく「振られたって事が問題じゃないんだよ」
〇教室
澤山りつ「やめてよ、人がいるんだよ」
橘正樹「だから興奮するんだろ」
橘正樹「それより、あいつだろ」
橘正樹「お前にラブレター渡したやつって」
谷川りく「・・・・・・」
橘正樹「くそウケるわ」
橘正樹「時代間違えてるんじゃねぇの」
橘正樹「昭和かよ」
澤山りつ「ちょっと、聞こえるよ」
橘正樹「良いじゃねぇか」
橘正樹「お前も言ってただろ」
橘正樹「キモいって」
橘正樹「どうせお前とエロい事したくて告ったんだよ」
澤山りつ「ふふ・・・」
澤山りつ「相手して欲しいならイケメンになれっての」
「ゲラゲラ」
橘正樹「なぁ・・・」
橘正樹「ズリネタ提供してやろうぜ」
澤山りつ「やめてよ」
澤山りつ「私、そんな趣味ないから」
〇住宅街の公園
谷川りく「──そう言う訳だ」
澤山りつ「それはないと思うなー」
澤山りつ「記憶違いじゃないの?」
谷川りく「お前の頭は本当に都合良く出来てるな」
谷川りく「とにかく俺は──」
谷川りく「これ見よがしの行為を見せつけられて」
谷川りく「本気で嫌われてるって分かったんだ」
谷川りく「その瞬間、スーッと気持ちが冷めていった」
谷川りく「終わったんだよ」
澤山りつ「・・・・・・」
谷川りく「その後、気持ちを切り替えて新しい恋をしようと思っても」
谷川りく「よりによって澤山の外見は、俺の理想そのものだったんだよ」
谷川りく「だから好きになる女が、ことごとくお前に似ている」
谷川りく「その度に嫌な思いが蘇る」
澤山りつ「十年経っても癒えないの?」
谷川りく「癒えてれば、とっくに彼女出来てるだろ」
澤山りつ「・・・・・・・・・・・・」
谷川りく「そう言う訳だから──」
谷川りく「相手なら他を探せ」
〇女の子の一人部屋
澤山りつ「・・・・・・」
澤山りつ「・・・そうだ」
澤山りつ「みんなで回し読みして笑ってたんだ」
澤山りつ「そして──」
澤山りつ「そのまま捨てるの忘れてた」
澤山りつ「うわ〜」
澤山りつ「最低だ、私」
澤山りつ「どうしよう・・・」
──次回に続く──
りつさんの神経の図太さやポジティブ思考、そして谷川くんとの会話の噛み合わなさに笑ってしまいました! 谷川くん、過去のトラウマを呼び起こされる事態に…可哀想…
澤山さん、それは忘れたらアカン過去やろ〜とツッコミたくなりました。
さすがに厳しい状況というか、このトラウマから逆転する術があるのか?
と〜っても気になりますね!