勇者の姉とビン詰め魔王

久望 蜜

第1話 不運の始まり(脚本)

勇者の姉とビン詰め魔王

久望 蜜

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〇レンガ造りの家
ライラ「──こうして、勇者は国を救い、お姫様と幸せに暮らしましたとさ」
ルーク「勇者って、すごいね!」
ライラ「ふふ。勇者になりたい?」
ルーク「うん! 僕が勇者になったら、お姫様じゃなくてお姉ちゃんを守るよ」
ライラ「あら、嬉しい」
ライラ「でも、お姉ちゃんだって、大事な弟のことはしっかり守っちゃうんだから」
ルーク「ダメだよ! 僕が守るんだから!」
ライラ「じゃあ、どっちが強くなるか競争ね」
  月日は流れ──

〇レンガ造りの家
村人「まさか、お前が本当に聖剣を抜くなんてな!」
村人「ああ、村の誇りだ!」
ルーク「俺は、必ず魔王を倒してきます!」
  弟は、本当に勇者になった。
ルーク「姉ちゃんには心配かけると思うけど・・・」
ライラ「あんたの小さい頃からの夢だったもんね」
ライラ「もちろん心配だけど、姉として誇らしいよ」

〇黒
  なんていった、翌日
  まだ弟は出発さえしていなかったのに

〇草原の道
ライラ「ケーキは焼いたし、ご馳走はみんなにお願いしたし・・・うん、準備バッチリ」
ライラ「それで、パーティーが終わったら、みんなでお見送りして・・・」
ライラ「それで、本当に出発しちゃうんだなあ・・・」
ライラ(ちょっと寂しいかも・・・)
ライラ「・・・なんて思っている場合じゃ──」
ライラ「ん? ガサガサ?」
ライラ「きゃあ、ヘビ!」
ライラ「ムリムリムリ! ヘビはダメなのお!」
ライラ「何かない? 何か、何か──あ!」
魔王「ヘビか。どれ、我がおい払って──」
ライラ「『我を見つめるもの、このビンに入れ!』」
魔王「え?」
魔王「うわああああ」

〇草原の道
ライラ「しまった、人を吸いこんじゃった!」
ライラ「でも今の人、魔王の姿絵にそっくりだったような・・・」
ライラ「あれ? 魔王を封印しちゃった?」
ライラ「魔王を倒したら、勇者の冒険譚って──」
ライラ「ま、まずいまずいまずい」
ライラ「このままじゃ、弟の冒険物語が1ページにも満たずに終わっちゃう!」
ライラ「いえ、勘違いよ! きっと、ただの人間──」
「おい小娘、我をここから出さぬか!」
ライラ「ご、ごめんなさい!」
ライラ「私、封印魔法は得意だけど、解放魔法は使えないの」
ライラ「村の大人でも、解けたことない」
ビンス「なら、無闇にそんな強力な魔法を使うでない! 危ないではないか」
ライラ「きゃああ、ビンに手足が生えた!」
ビンス「我はヴィンセント」
ビンス「ヴィンスと呼んでもよいぞ」
ライラ「ビンスくんっていうのね」
ライラ「すごい、まるでビンになるべくして生まれたようなお名前!」
ビンス「ビンじゃなくて、ヴィン!」
ビンス「お主、さては全く反省しておらぬな!?」
ライラ「あ、反省してます反省してます」
ライラ「でも、ビンスくんが魔王に似ていたから、びっくりしたよ」
ビンス「魔王だからな」
ライラ「え? またまたあ、ただの人間でしょ?」
ビンス「逆に、普通の人間を封印する方がまずくないか?」
ライラ「・・・・・・」
ライラ「どうしてくれるのよ!?」
ビンス「魔王を封印したのだから、大層な誉れだと思うが?」
ライラ「だって、弟の輝かしい冒険はこれからなのよ!?」
ビンス「弟が勇者なのか?」
ライラ「そうよ」
ライラ「今まで努力してきて、やっと選ばれたのに」
ライラ「このまま終わったら、あんまりよ!」
ビンス「我は新しい勇者が誕生したというから、お忍びで見にきたのだ」
ライラ「まさか、弟を襲いにきたの!?」
ビンス「そんなことせぬわ」
ビンス「・・・ただ」
ライラ「ただ?」
ビンス「お忍びだったから、ウマに乗って一人で来たのだ」
ビンス「だから、ウマが心配しているかもしれぬ」
ビンス「村の様子を見にくるくらいに」
ライラ「ウマが見にきたって、別に──」
「うわあ、魔物が出たぞ!」
「逃げろ!」

〇大樹の下

〇草原の道
ライラ「・・・ねえ、ウマっていわなかった?」
ビンス「見るからに、ウマだろう」
ライラ「あれのどこがウマなのよ!?」
ライラ「そもそも足の本数が違うし!」
ビンス「だが、魔界ではポピュラーな移動手段だぞ」
ビンス「我が愛馬のウマちゃんも、それはそれは速く走る立派なウマなのだ」
ライラ「・・・え? ウマちゃんって、名前?」
ライラ「イヌにイヌって名づけるタイプ?」
ビンス「ウマはウマなのに、何がいけない?」
ライラ「あーうん、何でもいいや」
ライラ「それより、早くあれを何とかしないと!」
ビンス「ふむ。どれ、我が止めてきてやろう」
ライラ「ビンスくんって魔王なんでしょ? 止めていいの?」
ビンス「ペットの粗相は、飼い主の責任だからな」
ビンス「ちょっと待っておれ」

〇大樹の下
ビンス「ウマよ、我だ!」
ビンス「待たせたな」
ビンス「心配をかけて、すまなかっ──」
ビンス「何をする!?」
ビンス「ガラスが割れるかと思ったわ!」
ビンス「まさかお主、我のことがわからぬのか!?」
ビンス「そんなに薄情なヤツとは思わなかったぞ!」

〇草原の道
ライラ「もう、何をやっているの・・・」
「おい、誰かルークを呼べ!」
「そうだ、勇者なら何とかしてくれるはずだ!」
ライラ「え・・・?」
ライラ「待ってよ、弟をあんなのと戦わせるの?」
ライラ「まだ戦闘の経験だって、少ないのに」
ライラ「絶対ダメ!」

〇レンガ造りの家
  小さい頃の約束を果たすために、私も強くなろうとした
  でも、適性があったのは封印魔法だけ
  だから、ひたすら封印魔法を特訓してきた

〇大樹の下
ライラ「あんたみたいなのと、ルーくんは戦わせられない!」
ライラ「封印魔法だけは、誰にも負けないんだから!」
ライラ「ルーくんのために、丹精こめてつくったケーキ・・・」
ライラ「もったいないけど!」
ライラ「『ウマちゃん、ケーキに封印!』」
ウマ「ウマウマ〜!!」
ビンス「わ、我のウマちゃんがケーキ魔人に!?」
ライラ「うん、これなら攻撃されても痛くない」
ライラ「ルーくんと戦って、よし!」
ウマ「ウマウマウマ!!」
ライラ「さあ、ここからが勇者の見せ場よ!」

〇大樹の下

〇大樹の下
ルーク「出たな、魔物!」
ルーク「俺が相手だ!」
ルーク「ハアッ!」
ウマ「ウマッ!」
ルーク「へっ、全然痛くねえよ!」
ルーク「これでトドメだ! タアッ!」
ウマ「ウマァ・・・」
ルーク「ふん、俺の村を襲おうだなんて、100万年早いぜ」

〇草原の道
ビンス「我のウマちゃんがぁぁ・・・!!」

〇大樹の下
ライラ「ルーくん、すごいすごい!」
ルーク「姉ちゃん!」
ルーク「巻きこまれなかった? 怪我してない?」
ルーク「右腕は!? 左腕は!? 右足は!? 左足は大丈夫?」
ライラ「ルーくんのおかげで平気よ、ありがとう」
ルーク「ぐあっ、ダメだ顔が──」
ライラ「え、怪我してる?」
ルーク「いつもどおり可愛い!」
ライラ「もう、バカなんだから」
「おいルーク、怪我人を運ぶのを手伝ってくれ!」
「こいつら、魔物を見て腰抜かしちまったらしい!」
ルーク「はーい!」
ビンス「あれが勇者か」
ライラ「シスターコンプレックスなのよ」
ビンス「そういうお主も、ブラザーコンプレックスだがな」
ライラ「こればっかりは、仕方ないもの」
ライラ「それよりビンスくん、私決めたよ」
ライラ「何があっても、ルーくんとその英雄譚を守ってみせる」
ビンス「どうやって?」
ライラ「まず、魔王がビン詰めなんて、ありえない!」
ビンス「お主がそれをいうか!?」
ライラ「これから、魔王城に帰るんだよね?」
ライラ「その帰り道か城で、誰か封印魔法を解けるでしょ?」
ビンス「断定はできぬが、魔族は魔法が得意だからな」
ライラ「じゃあ、私も手伝うよ!」
ビンス「はあ!?」
ライラ「その体で帰るのも大変でしょ?」
ビンス「まあ、封印されていては魔力が制限されておるし、転移魔法も使えぬしな」
ビンス「しかし、弟の敵を手伝って、どうするのだ?」
ライラ「だって、今のままじゃ、ルーくんの物語があんまりになっちゃうじゃない?」
ライラ「だから、私が暗躍することに決めました!」
ライラ「それに、まだまだルーくんは弱いから」
ライラ「私が影からサポートして、敵の強さを調整してあげないと!」
ビンス「それで、我にとりいる気か?」
ビンス「そんな理由で、我が同行を許可するとでも?」
ライラ「ところが、ビンスくんが断れない理由があるんだなあ、これが」
ビンス「何?」
ライラ「ウマちゃん」
ライラ「復活させたくない?」
ビンス「できるのか!?」
ライラ「ふっふっふ。私の封印魔法を舐めないでよ」
ライラ「剣で斬りきざまれたくらいで、私の封印は解けないのよ」
ライラ「ここら辺にあるケーキの残骸に──」
ライラ「『封印復活!』」
ウマ「ウーマー!」
ライラ「よしっ!」
ビンス「ウマちゃん!」

〇厩舎
ビンス「幼き頃よりいつも一緒で」

〇草原
魔王「ほら、エサだ」
魔王「新鮮な木を用意したぞ。うまそうだろう?」

〇魔界
魔王「やはりお主は速いな!」
ビンス「我の家族も同然だ」

〇大樹の下
ビンス「ウマちゃん!」
ビンス「よかった、無事で!」
ビンス「へ?」
ビンス「ウマちゃん、まだ我がわからぬのか!」
ビンス「そして、どうして小娘のほうへ行く!?」
ウマ「ウマ〜」
ビンス「なぜ小娘になつく!?」
ライラ「えへへ〜」
ライラ「こうして見ると、ウマちゃんも可愛いね」
ビンス「こら、我のウマちゃんをとるな!」
ライラ「大丈夫よ、ビンスくんも可愛いから」
ビンス「なっ!」
ライラ「じゃあ、ルーくんを手助けしつつ、 魔王城にしゅっぱ〜つ!」

〇草原の道
ルーク「あーあ、なんか姉ちゃんの近くに魔物がいたなあ・・・」
ルーク「魔物とも仲よくなるなんて、さすが姉ちゃんだけど・・・」
ルーク「邪魔だから、消すか」

次のエピソード:第2話 山賊の終わり

コメント

  • 面白かったです。主人公の姉のキャラが天然ぽく笑ってしまいました。

  • 姉のバックアップがある勇者って新しいですね😂
    姉弟のやり取りがかわいく面白かったです!
    ウマちゃんに愛着が湧いてきたところで
    不穏なラスト…!気になります✨

  • 姉さんの封印魔法が強い……!
    そしてまだ何もしてない魔王が封印されて不憫すぎて面白いです🤣
    ウマちゃんも可愛い❤️

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