キミトココロの物語~バーチャルiTuberの日常~

泡沫彷徨

第02話 【初めての相手】(脚本)

キミトココロの物語~バーチャルiTuberの日常~

泡沫彷徨

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〇美しい草原
紺野正樹「ココロちゃんが、消える?」
希美都ココロ「・・・・・・」
紺野正樹「それって、いったい・・・? ごめん、ちょっと整理させて。 混乱してきた」
希美都ココロ「うん。何でも訊いて」
紺野正樹「じゃあ・・・まず、 ココロちゃんは、AI、なんだよね?」
紺野正樹「それって、誰かに作られたとか・・・? そんな話、聞いたことないけど」
希美都ココロ「ううん。私は、このバーチャル空間で 生きる存在として、自然発生した・・・ って言うのかな」
希美都ココロ「やっぱり、信じられない?」
紺野正樹「いや。ココロちゃんはそんな嘘を ついたりしない、と思うから。 ちょっと頭が追いつかないだけで・・・」
紺野正樹「・・・それで、その、 人気が出なかったら消えちゃうって話。 あれは、どういうこと?」
希美都ココロ「んっと、 どこから話したらいいかな・・・」
希美都ココロ「キミたちの現実世界には、 ルールがあるよね。 物理法則とか、そういう難しいの」
紺野正樹「あー、相対性理論とか?」
希美都ココロ「そうたい・・・にゃんだって?」
紺野正樹「あ、いや、何でもない」
希美都ココロ「・・・いま、こいつポンコツだって 思われてるような空気を察しました」
紺野正樹「え!? いやいや、思ってない、 思ってないよ!? 真剣に聞いてたよ!」
希美都ココロ「む~?」
紺野正樹「ほんと! ほんとに! 大丈夫なので、先を続けてください!」
希美都ココロ「んもう・・・まあとにかく、 そういう、爽快系メロンみたいな、 神様の決めたルールがあるでしょ?」
紺野正樹「相対性理論ね」
希美都ココロ「・・・コホン」
希美都ココロ「それで、ここバーチャル世界にも 神様がいて、定められたルールがあるんだ」
紺野正樹「神様・・・?」
希美都ココロ「神様というか、権限を持つ管理者かな。 それについてはごめん、詳しく話すことはできないんだ。不可侵領域だから・・・」
紺野正樹「じゃあ、その管理者が定めたルールって いうのは、どんなものなの?」
希美都ココロ「色々あるんだけど、特に重要なのは、 バーチャル世界をクリーンに維持するためのルール。不要なAIの消去だね」
紺野正樹「消去・・・!?」
希美都ココロ「そのAIが不要かどうかは、 現実からの観測数が基準になってるんだ」
希美都ココロ「バーチャルiTuberで言えば、 まさしく人気のこと」
紺野正樹「人気が下がったら? 消去って・・・」
希美都ココロ「そのままの意味だよ。消されちゃう。 存在が、なくなってしまうんだ」
紺野正樹「そんな!? それって・・・ 死んじゃう、ってことだよね?」
希美都ココロ「うーん・・・意味的には近いのかなぁ。 でも大丈夫だよ。 今のところ、安定してるし」
紺野正樹「・・・・・・」
希美都ココロ「ご、ごめんごめん! ホントに大丈夫だよ! だから、そんな顔しないで」
希美都ココロ「・・・そうだ! ちょっと場所を変えない?」
  そう言って、彼女は星空に向かって腕を
  伸ばし、ニッコリ笑って、指を鳴らした。

〇宇宙空間
  すると、広大な星空や草原が、
  瞬く間に虚空へと畳まれていき、

〇可愛い部屋
  周囲の景色は一変、
  洋風住宅のリビングへと姿を変えていた。
紺野正樹「ここは・・・?」
希美都ココロ「私の部屋だよ」
紺野正樹「え!? あ、言われてみれば、 いつもの配信によく映り込んでる部屋だ!」
希美都ココロ「ふふ、もう元気になったね」
紺野正樹「あ、いや・・・」
希美都ココロ「いいんだよ! 元気になってくれて嬉しいんだから」
希美都ココロ「ほらほら、 もっと見て回ってくれてもいいよ!」
希美都ココロ「なかなか広いでしょ。 居住空間と収録スタジオを兼ねてるからね」
希美都ココロ「コンセプトは、現実世界の物理法則と、 人間らしい生活!」
紺野正樹「確かに、バーチャル空間というより、 現実にありそうな作りだね」
希美都ココロ「奥にもベッドルームとかがあって・・・」
紺野正樹「ベッドルーム・・・」
希美都ココロ「あー。何を想像してるの~?」
紺野正樹「や、違くて! その、ほら、 ココロちゃんはAIって話だったから」
希美都ココロ「AIだって眠るんだよー? スリープモードに入るために、ベッドは必要なんだ。 ひとまず、ささ、座って座って~」
紺野正樹「お、お邪魔します・・・」
  勧められるまま、
  部屋の中央にあったソファへと腰掛ける。
希美都ココロ「何か飲む? 紅茶? コーヒー?」
紺野正樹「え、この世界って飲食可能なの!?」
希美都ココロ「さすがに、お腹は満たせないと思うけど。 気分だよ、気分」
希美都ココロ「なんか、おもてなし、 って感じがして嬉しい!」
紺野正樹「それじゃ、コーヒーで・・・」
希美都ココロ「はい、どうぞ」
  ココロの手もとから、
  湯気の立ち昇るマグカップが出現し、
  テーブルの上へと置かれる。
紺野正樹「早っ! というか、どこから出したの!?」
希美都ココロ「そりゃあ、お主。 これがバーチャル世界のチカラじゃよ」
紺野正樹「い、いただきます。 ・・・あ、ちゃんと味がする! 美味しい」
希美都ココロ「それは良かった! えへへ、私、いいお嫁さんになれるかも!?」
紺野正樹「・・・っ! ちょ、ちょっと! 危うく噴き出すところだったよ」
希美都ココロ「んふふー。楽しいな。この部屋に、 誰かをお招きできる日が来るなんて。 最新技術に感謝感激!」
  彼女は、テーブルを挟んで
  向かいの椅子へと座った。
  頬杖をついて身を乗り出し、
  眩しい笑顔で見つめてくる。
紺野正樹「こ、この部屋・・・もともとは何もない、真っ白な空間だったよね」
紺野正樹「そこから、3Dモデルを購入したり、 作成ソフトでDIYしたりして、 どんどん物を増やしていって・・・」
希美都ココロ「あー、そうそう! その様子を見守ってもらう配信シリーズ、 アレ割と評判良くて、嬉しいんだー」
紺野正樹「あの企画、僕も好き! みんなで相談しながら買い物したりして、 時間を共有してるって感じがして」
希美都ココロ「でも、直接ここに人間さんをお招きしたのは、本当にキミが初めてだよ。 嬉しくってホクホクするな~!」
紺野正樹「そ、そうなんだ」
希美都ココロ「どしたの? あ、もしかして、緊張してるー?」
紺野正樹「それはそうだよ! だいたい、 女の子の部屋に入るのだって初めてだし」
希美都ココロ「そっかそっか! じゃあ、今日が記念日だね! お互い、初めての相手ってことで!」
紺野正樹「その表現はマズい気がするよ!?」
希美都ココロ「ほぇ? 何が?」
希美都ココロ「・・・って、あー! もうこんな時間だ。 0時を回っちゃったよ、キミたちの世界」
紺野正樹「え!? もうそんな時間!?」
希美都ココロ「楽しい時間は、 あっという間というヤツですなー」
希美都ココロ「でも大丈夫。また、いつでも会えるから。というか、これからはほぼ毎日、顔を合わせることになるんだから。覚悟しとけ~?」
  微笑み、手を振る彼女。
  こちらも手を振り、ログアウトする。
  彼女の姿が徐々に消え、
  世界は黒一色に包まれていった。

〇黒
  翌日。
  朝を知らせる目覚ましのアラーム音で
  目を覚ました。
  アラームを止めようと目を開けると──
  目の前が真っ暗だった。
紺野正樹「・・・? あ、そうか。 昨日、ログアウトだけして、ヘッドセットかぶったまま寝落ちしちゃったのか・・・」

〇一人部屋
  頭からヘッドセットを外すと、
  ようやく視界が開けた。
  アラームを止めて周囲を見回す。
  ひとり暮らしの部屋は、
  朝陽の匂いと静寂に包まれていた。
  ぼんやりしているうちに、
  徐々に記憶がよみがえってくる。
  ふと、嫌な予感がした。
紺野正樹「全部、夢だった・・・とかじゃないよな?」
  一度そう思うと、本当に怖くなってくる。
紺野正樹「いやいや、そんなはずない。だって・・・」
  考えれば考えるほど、疑心が募っていく。
  確認する方法は、一つ。
  不安を拭うようにして、
  慌ててヘッドセットをかぶりなおす。
紺野正樹「ログイン!」

〇黒
  真っ暗だった世界に、
  奥のほうから光が差してくる。

〇幻想空間
  心の中で祈りながら、グラフィックが
  読み込まれていくのを待つ。
  やがてバーチャル世界に降り立ち、
  恐る恐る顔を上げた先、目の前には──

〇可愛い部屋
希美都ココロ「おはよう、正樹くん」
  彼女が当たり前のようにそこにいて、
  笑顔で出迎えてくれていた。
  喜びと、これからの日々への期待感が、
  胸の内で風船みたいに膨らんでいく。
希美都ココロ「さ。出勤初日だよ! 今日から、一緒に頑張ろうね!」

次のエピソード:第03話 【コンビ結成】

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