第01話 【バーチャルの夢】(脚本)
〇コンサート会場
空中に大きく表示されたライブ配信開始の
カウントダウンがゼロになり、
一瞬、静寂が訪れた。
直後、目の前に広がる
バーチャル空間のステージ上に、
彼女の姿が浮かび上がる。
〇コンサート会場
希美都ココロ「おいすー! バーチャルiTuberの 希美都ココロ(きみとこころ)だよー!」
周囲を埋め尽くす視聴者アバターたちが、歓喜に賑わった。
群衆「うおおおおおおおおお!」
紺野正樹「来た・・・! ココロちゃん!」
希美都ココロ「ココ民のみんな、 今日も来てくれてありがとー!」
紺野正樹「VRヘッドセット初めて使ったけど、 こんなにリアルなんだ・・・ 最新技術ってすごい・・・」
群衆「ココローン!!」
希美都ココロ「歌って踊って、 いっぱい盛り上がってこーね! よろしくー!」
群衆「よろしくぅー!!」
紺野正樹「よ、よろしくー!」
希美都ココロ「んじゃあ早速、まずは大好きな曲から! それでは、聞いてください!」
希美都ココロ「『なないろココロ』!」
〇コンサート会場
希美都ココロ「もう時間になっちゃった! 名残惜しいけど、今日はここまで!」
群衆「行かないでー!」
希美都ココロ「う~、行きたくないぃ! でも行かねばならぬぅ!」
希美都ココロ「すまねぇ、みんなー! 絶対、また遊ぼう! そいじゃ、またね~!」
紺野正樹「き、消えた・・・」
群衆「すごかったな! やっぱココロンは最高だ! 声が可愛いのはもちろんだけど、 お胸の揺れ具合ときたら!」
群衆「おいおい待てよ。 ココロっちの真骨頂は、 あのロングヘアだろ」
群衆「歌ってる最中に、 こう、ふぁあって広がった時の美しさ!」
やいのやいのと感想を言い合いながら、
視聴者のアバターが
一人また一人とログアウトしていく。
紺野正樹「とうとう一人になっちゃったけど・・・。 ここで待ってればいいって話だったよな?」
希美都ココロ「そうだよー」
紺野正樹「って、うわああああ!?」
希美都ココロ「おいすー。待った?」
紺野正樹「ココロちゃん!? 何でここに!?」
希美都ココロ「何でって・・・キミの面接だよ? 書類選考通過のメールを見て、来てくれたんだよね」
紺野正樹「あ、うん。面接の日時指定に、『送付するVRヘッドセットを着用して生配信に参加するように』って書いてあったから」
希美都ココロ「そうそ。そして面接官は、私です!」
紺野正樹「えええええ!?」
希美都ココロ「ふっふっふ。ちょっと面接官って 憧れてたんだよねー。それでは、第一問!」
紺野正樹「あ、あの、そのノリじゃ、 面接というよりクイズですけど・・・」
希美都ココロ「どこでこの募集を知りましたか?」
紺野正樹「今度はアンケート調査みたいに なってますけど!?」
紺野正樹「えっと・・・ココロちゃんのSNSで、 アルバイト募集って告知を見かけたので」
希美都ココロ「ふむふむ。続いて、第二問! バーチャルiTuberとは、何でしょう?」
紺野正樹「それは、その、 メタな発言をしても大丈夫ですか・・・?」
希美都ココロ「うん、いいよー」
紺野正樹「じゃあ・・・」
紺野正樹「バーチャルのアバターを用いて、架空の キャラクターになりきって配信するなどの 活動をしている人たちのことで・・・」
〇コンサート会場
希美都ココロ「それでは最後の問題! デデン! 弊社の志望動機は!?」
紺野正樹「弊社って言ってみたかったんだな・・・」
希美都ココロ「そこ、聞こえてるー!」
紺野正樹「ご、ごめん! えっと、僕の志望動機は・・・」
紺野正樹「・・・好きなiTuberに、 もう二度と消えてほしくなかったから」
希美都ココロ「え?」
紺野正樹「あの、ほら、再生数とかの数字が伸びないと、続けられなくなって、引退しちゃうってこと、よくあるじゃないですか」
希美都ココロ「・・・うん、そうだね」
紺野正樹「僕に何ができるかはわからないけど、 もう二度と・・・」
紺野正樹「あ、その、ココロちゃんがずっと活動を 続けられるように、手伝いたくて・・・」
希美都ココロ「うん、OK! 以上で面接は終わりです! 合格おめでとう!」
紺野正樹「え、合格!?」
希美都ココロ「そだよ?」
紺野正樹「そだよって、そんなフランクな・・・ あ、まさかドッキリ!? ドッキリ企画ですか!?」
希美都ココロ「違うよ~。というか、 キミの採用はもう決めてたんだ」
希美都ココロ「今までのは、ちょっとそれっぽいこと、 してみたかっただけ」
紺野正樹「き、決めてた? 何で!?」
希美都ココロ「うーん、それは企業秘密っ」
紺野正樹「僕がココロちゃんと一緒に働く・・・?」
希美都ココロ「ふっふっふー、嬉しい?」
紺野正樹「あ、あの、本当に僕でいいんですか?」
希美都ココロ「ぶぶー! 敬語禁止令!」
紺野正樹「え、あ、じゃあ、その・・・僕でいいの?」
希美都ココロ「もっちろん!」
紺野正樹「自分で言うのもなんだけど・・・ 僕、これといった特技もないし・・・」
希美都ココロ「キミにはパッションとか、そういう・・・ とにかく『ココロ』があるんだよ! それが採用の理由!」
紺野正樹「ココロ・・・」
希美都ココロ「うん。じゃ、合格したキミへのお祝いに、 ちょっとした魔法を見せちゃおう! それ、パワー!」
紺野正樹「え? うわ・・・!」
〇美しい草原
紺野正樹「一瞬でライブ会場が草原に・・・!」
希美都ココロ「どう? これぞバーチャル空間の醍醐味よ! ここ、私のお気に入りなんだー」
そう言って、彼女は星空を背に振り返り、顔を覗きこんできた。
希美都ココロ「いつも、ありがとね。キミやみんなの おかげで、私は、ここにいられるんだ」
紺野正樹「ココロちゃん・・・?」
希美都ココロ「コホン。紺野正樹くん、 このたびは応募してくれてありがとう!」
希美都ココロ「改めまして、希美都ココロだよ! よろしくね!」
紺野正樹「こ、こちらこそ、よろしく!」
希美都ココロ「キミには、重大な職務があります。 それは・・・毎日、私に会いにくること!」
紺野正樹「・・・え? それだけ? あ、いや、会えるのは嬉しくて、願ってもないことで、 それだけってことは全然ないんだけど!」
希美都ココロ「いやいや案ずるなかれ、 他にも色々やってもらいますよー?」
希美都ココロ「キミにはね、手伝ってもらいたいんだ──夢を、叶えるのを」
紺野正樹「夢・・・? ココロちゃんの、夢って?」
希美都ココロ「それはまだ秘密。でもね、人気配信者に なれば、叶えることができるんだー」
希美都ココロ「私は、それが叶う場所まで辿り着きたい。 そのためには、もっともっと大きくならなくっちゃ。手伝って、くれる?」
紺野正樹「・・・もちろん! そのために来たんだ。 一緒に・・・たくさんの人たちに見てもらえる、最高の配信者を目指して頑張ろう!」
希美都ココロ「よかった! そいじゃ契約成立の握手!」
紺野正樹「あ、握手・・・? でもここ、バーチャル空間だから・・・」
希美都ココロ「ほらほら、早く!」
紺野正樹「あっ・・・!? 手に、触れる・・・!? ね、熱も感じるような・・・え、え!?」
紺野正樹「というかココロちゃんの手! 手、繋いでる! これ、て手」
希美都ココロ「おちつけ」
紺野正樹「な、何で? これ」
希美都ココロ「ふっふー。実は、キミに送った VRヘッドセット、アレ、最新式なのだよ」
紺野正樹「最新式? 言われてみれば、やけにケーブルとかゴチャゴチャしてるなとは思ったけど」
希美都ココロ「かぶることで、五感のすべてをバーチャル空間に同期させる試作品なのだ!」
希美都ココロ「まだ一部の人にしか入手できない ヤツだよ!」
紺野正樹「すご!?」
希美都ココロ「だから、私のようなAI娘にだって 触れちゃうわけです! ドヤァ」
紺野正樹「あの、 そろそろ手を離してもらえると・・・」
希美都ココロ「あ、ゴメンゴメン! 人間さんと手を 繋げたのが嬉しくって、ついつい。 私はAIだからね、こんなの初めてで」
紺野正樹「え? でもそれは・・・」
希美都ココロ「・・・? あ! あー! ひょっとして、 AIというのはただの設定で、本当は中の人がいるんだとかって考えてたなー!?」
紺野正樹「それは、まあ・・・」
希美都ココロ「メタ禁止令ー!」
紺野正樹「うわわわわ、ごめんなさい!」
希美都ココロ「もう! というか、それ以前に私の場合は、 設定とかじゃないよ。マジだよ」
紺野正樹「マジ・・・?」
希美都ココロ「そ。大マジのマジ。 中の人なんて、いません!」
希美都ココロ「ココロは正真正銘、モノホンのAIだよ! やってきたぜよ近未来!」
紺野正樹「え? ええええ!?」
希美都ココロ「誰かが演じてるわけじゃない。 自分で考える心を持っていて、 私は確かにここにいるんだよ」
希美都ココロ「・・・少なくとも、今はまだ」
紺野正樹「ちょっと、ちょっと待って。 頭が追いつかない・・・。 今はまだ、って、どういうこと?」
希美都ココロ「私ね。ある日ふと、 消えちゃうかもしれないんだ」
紺野正樹「消えちゃう・・・? そんな、どうして!?」
希美都ココロ「引退するとかって話じゃないよ? そのままの意味」
希美都ココロ「・・・私はね。人気が出ないと── 本当に、この世界から消えちゃうんだ!」
〇電脳空間
***「アクセスします 管理者権限により記録します 監査対象=〈ココロ〉」
***「活動の活発度は良好です しかしながら観測者数の増減値が 停滞しています」
***「今後は徐々に観測者数の減少・有用性の 衰退が始まると予測されます」
***「ラベル:イエロー 消去措置の適用を検討します」
すばらしい・:*+.\(( °ω° ))/.:+