エピソード7:記憶の廻廊(脚本)
〇研究開発室
目が覚めてから、呆然としていた。
僕が殺した──
誰かは分からない、けれど僕は誰かを殺した。間違いなく。
あの記憶の中の、鬱屈した感情と情報が頭の中を支配している。
イチジク「・・・・・・ 僕は・・・・・・」
懐にある拳銃に触れる。
イチジク「・・・やっぱり、これは・・・ 死ぬための──」
コトブキ「アンタどういうつもりよ!」
怒号が聞こえて個室の外に出ると、コトブキがアサリに掴みかかっていた。
アサリ「ごめんなさい。 でも決まりじゃ見るのは自分の記憶じゃなくても良かったんでしょう?」
コトブキ「決まりかどうかじゃないわよ! 第一アンタがアタシの記憶を見る理由は何なのよ・・・!」
アサリ「見たかったから」
コトブキ「はあ? アンタ、アタシのこと好きなの?」
アサリ「そんなわけないでしょ」
イチジク「こ、コトブキ・・・・・・ 気持ちはわかるけど・・・・・・」
コトブキ「・・・・・・」
コトブキ「──はあ・・・ もういいわ」
コトブキ「アタシの記憶盗んだからにはアタシに教える義務があるでしょ。見たもの教えなさいよ」
アサリ「・・・それなんだけど・・・プライベートな事になるし、向こうで話さない?」
コトブキ「・・・わかったわ」
イチジク「・・・・・・」
ハジメ「あ、あの・・・・・・」
イチジク「・・・・・・なに」
ハジメ「イチジクさんは、どんな記憶を見たんすか」
イチジク「・・・・・・」
ハジメ「いや、言いたくないっすよね・・・多分良いものじゃない・・・ すっかり人が変わったみたいなんで・・・」
ハジメ「・・・・・・自分もっす」
イチジク「もしかして、僕たちが自分で決めた死ぬ二人って・・・・・・」
ハジメ「自分と、イチジクさんってことっすか ・・・・・・そうかも、しれませんね」
コトブキ「なによそれ・・・・・・!」
二人は部屋のすみでひっそりと話していたはずなのに、相当驚くような記憶を聞いたのか、コトブキの声がこちらまで聞こえてきた。
ハジメ「・・・・・・変っすよねアサリさん」
イチジク「コトブキの記憶を見たのが?」
ハジメ「それもっすけど・・・そもそも、こんな状況じゃ普通は自分の記憶を見たいものじゃないっすか? 他人の記憶を見てる余裕なんて・・・」
ハジメ「アサリさん、最初から妙に落ち着いてるし・・・もしかして自分が何者か分かってるからなんじゃ・・・」
イチジク「・・・・・・」
確かに。二人には秘密にしているけどアサリは自分が探偵だと言っていたし、他にもなにか知っているようだった。
イチジク(・・・アサリは何者なんだろう・・・)
コトブキ「・・・・・・」
イチジク「・・・あ、コトブキ・・・」
ハジメ「大丈夫っすか、コトブキさん・・・」
コトブキ「触らないで!」
ハジメがコトブキの肩を支えようとした。
それをコトブキが手で払おうとして、逆にハジメにその腕を掴まれる。
コトブキ「あ・・・・・・」
ハジメ「コトブキさん・・・!」
コトブキは青ざめた顔で慌ててハジメの手を振りほどき、逃げ出すように部屋を出ていった。
ハジメもそのあとを追う。
アサリ「・・・・・・」
イチジク「あ・・・・・・ ねえアサリ・・・コトブキになに話したの?」
アサリ「・・・・・・個人的な事よ」
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