エピソード1(脚本)
〇大樹の下
スミレ「うっ ひっくひっく」
コロコロ・・・
リカ「ごめーん! 転がってっちゃった」
スミレ「はい。 ひっく」
リカ「どうしたの?泣いてるの?」
スミレ「・・・」
リカ「ワタシ、リカ。 アナタは?」
スミレ「・・・スミレ」
リカ「スミレちゃん! いい名前!」
スミレ「・・・ありがと」
ハヤト「・・・」
ザッザッ
リカ「あっ、ハヤトじゃん。 何やってるの?」
ハヤト「種、植えてるの。 ヘチマの種。 センセイに余ってるのを、もらったから」
ハヤト「学校の裏で植えてるじゃん。 あれ」
ハヤト「他にもあるから、やるよ」
リカ「植えてみる?」
スミレ「コクン」
スミレはうなづいた。
〇大樹の下
リカ「このへんでいいかな?」
ハヤト「ツルが出るから、 棒とか木の近くに植えると良いと思う」
ハヤト「実は、他にも植えてるんだ。 朝顔、トマト、大豆、菜の花。 花も植えてるし」
ハヤト「チューリップ、カーネーション、 スミレもあるよ」
リカ「スミレ? スミレちゃんのスミレだね!」
スミレ「ワタシの?」
リカ「そうだよ!」
ハヤト「まだあるから種あげるよ」
リカ「植えてみたら?」
スミレ「うん」
ザッザッザッ
リカ「どんな花が咲くかな? 楽しみー!」
〇教室の教壇
ザー
スミレ「雨・・・」
〇大樹の下
ザー
・・・
雨だね
ハヤト「様子見に来たの?」
スミレ「・・・」
スミレ「コクン」
ハヤト「時々、僕も見てるから そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
ハヤト「日が当たりすぎても、良くないから 少ししたら植え替えるつもりだ」
スミレ(不思議な人)
〇教室の教壇
キーンコーンカーンコーン
リカ「スミレちゃーん!」
スミレ「リカちゃん、どうしたの?」
リカ「大変なの! 例の植えた所! 刈られちゃう!」
スミレ「えっ!?」
リカ「放課後、行ってみよう!」
スミレ「うん」
〇草原
ハヤト「やめろーーーー!」
ハヤト「だめーーーー!」
リカ「やっとついた! ハァハァ」
スミレ「どうしたの!?」
ハヤト「この一帯を開発するって 全部ここを刈り取るっていうんだ!」
作業員「危ないから 子どもはどいてな! 怪我するぞ!」
ハヤト「いやだ! 絶対にどかないからな!」
リカ「そうだ! ココにはワタシたちの大事な 植物が植えてあるんだ!」
作業員「何いってんだ。 ココはお前たちの土地じゃないだろう。 ホラ作業始めるぞ。 どいたどいた!」
作業員「やめろーーーーー!!!」
やだーーーー!
やめろーーーー!
作業員「嬢ちゃんも、 ほら、どいたどいた」
スミレ「・・・ どかない」
作業員「ん?」
スミレ「絶対に、どかないもん!」
作業員「あのなぁ・・・」
作業「お嬢さん、 ココは元々マンションが 建つ予定だったんだよ。 ほら、書いてあるだろう?」
作業「もう法律で決まっちゃってんの。 変えられないんだよ」
作業「植物植えたんだって? 残念だったなぁ」
作業「菓子あげるから コレ持って帰りな」
スミレ「そんなの、いらない」
作業「ん?」
スミレは植えたところを
手で掘り返した。
ザッザッザッ
作業「嬢ちゃん・・・ 手が汚れるぜ」
スミレ「うっ ううっ ひっくひっく」
ザッザッザッ
作業員「ショウガねぇなぁ」
作業員「ほらよ」
スミレ「いらない。 種や苗が傷ついちゃう」
ザッザッ
ハヤト「僕も手伝うよ」
リカ「ううっ わーん」
ザッザッザッ
バケツいっぱいに埋めた種や
芽をつけた植物を詰めた。
作業員「もう良いだろ。 作業するぞ」
〇繁華な通り
ハヤト「重いだろ?持つよ」
スミレ「ひっく」
スミレ「ううん、大丈夫」
ハヤト「ごめんね。 僕が非力なばかりに」
リカ「ハヤトは悪くないよ。 大人たちが悪いんだ」
スミレ「うぅ ひっく」
リカ「ドロドロになっちゃった 怒られるう〜」
リカ「なんてね」
ハヤト「ぼくんち寄ってく? 洗濯乾燥機あるし すぐ乾くと思うから洗ってけば?」
リカ「ハイテク〜 いいの?」
ハヤト「うん。いこう」
〇シックなカフェ
カラララン
スミレ「ここ?」
店長「いらっしゃい」
スミレ「あの、ワタシ、 ハヤトくんのお友達で・・・」
リカ「おじゃましまーす! お家、カフェだったんだ すごいね〜」
スミレ「あっ お店汚しちゃう・・・」
店長「そのバケツは何? 大事なものなのかな、預かるよ。 よかったら奥で洗っておいで」
ハヤト「こっちだよ」
〇白いバスルーム
ハヤト「チョット待ってて」
バタン
ハヤト「ここで シャワー浴びるといいよ 一応、お風呂もためておいたから」
ハヤト「ひねれば、お湯出るから」
ハヤト「タオルと着替え。 着替えは僕のだけど、置いとくから。 脱いだのは洗濯のカゴに入れておいて」
ハヤト「じゃ」
パタン
リカ「よっし入るぞ〜」
〇広い和室
リカ「ふえ〜あったまった!」
スミレ「ありがとう、ハヤトくん」
リカ「換えの洋服 貸してくれてありがと! ちょっと派手だけど!」
「アハハハ」
ハヤト「チョット待ってて。 僕も風呂行って、洗濯してくる」
ハヤト「よかったら これでも見てて」
リカ「わー凄い! お花の写真がたくさん!」
スミレ「ホントに凄い・・・」
ハヤト「いままで、育てたやつ!」
ハヤト「誰にも見せたことが なかったけど・・・」
リカ「ありがとう! 見せてもらうね!」
ハヤト「うん、じゃ」
パタン
リカ「ハヤトって、 凄いしっかりしてるよね」
スミレ「うん、そうね」
リカ「でも今日は、びっくりしたよ。 スミレは強いね!」
スミレ「強い?ワタシが?」
リカ「そうだよ! あの大人たち相手に、一歩も引かなくて! かっこよかった!」
スミレ「そうかな・・・ なんか悔しかっただけ」
リカ「ワタシは良いと思うよ!」
ハヤト「おまたせ」
リカ「あれ上着・・・ 暑くない?」
ハヤト「だってこの下パジャマだから 恥ずかしくて・・・」
リカ「大丈夫だよ! ね?スミレちゃん」
スミレ「うん」
ハヤト「じゃぁ・・・」
スミレ(もしかして、ワタシたちが 服を借りちゃったから 着替えが・・・)
店長「君、良く来てくれたね。 ハヤトのお友達なんて 嬉しいよ!」
ハヤト「やめろよ、父さん」
店長「家族を事故で亡くしてしまってね」
店長「なかなか友達ができない子でね。 君みたいな友達がいて 良かったよ」
リカ「仲良くするよ!ね、スミレちゃん!」
スミレ「よ、よろしくお願いします」
ハヤト「こ、ちらこそ・・・」
店長「よかったら飲んでみて。 うちの珈琲」
スミレ「珈琲って、はじめて飲むわ」
リカ「そうなの?」
スミレ「うん、親が繁華街や 喫茶店も大人の行く所だからって いっちゃ行けませんて」
リカ「そうなんだ、厳しいんだね。 スミレちゃんのお家」
スミレ「少し苦いけど美味しい。 すごく大人になったみたい」
店長「そう、僕のところは いつでも来ていいからね。 その方がハヤトも喜ぶだろう?」
ハヤト「もー、父さん!」
店長「じゃあ、ごゆっくり」
ハヤト「ごめんねなんか」
リカ「いいお父様じゃん! ねえ?」
スミレ「うん」
〇団地のベランダ
スミレ「・・・」
ハヤト「これ、君の分。 種を分けておいたよ」
スミレ「種・・・植えたいな」
何してるの?スミレちゃん。
先生がお見えになったわ。
ピアノのレッスンの時間よ。
スミレ「はい」
カラカラ
パタン
〇教室の教壇
スミレ「すみません リカちゃんいますか?」
リカちゃん?
この学校にはいないよ。
スミレ「え?」
そういえば・・・
近くの広場で・・・
〇大樹の下
スミレ「あれ・・・ココは・・・」
スミレ(ココは昔、 みんなで種を植えた場所だった)
〇中規模マンション
ザー
スミレ「いまはこんなに 立派なマンションになって 跡形もなくなって」
・・・
また雨だね
ハヤト「もう、ここでは 昔のように、花は咲かないんだ。 ごめんね」
スミレ「ううん・・・違うの」
スミレ「種があるから お花は別のところでも 咲いたでしょ」
スミレ「もしあのまま、ここが みんなで育てた綺麗な花畑の ままだったらって思うと」
スミレ「なんだかわからないけど、 涙が出るの」
スミレ「居場所がなくなったことで」
スミレ「ワタシはまた誰にも愛されず 一人ぼっちになってしまうんじゃ ないかと考えてしまうの」
スミレ「おかしいでしょ」
・・・
ハヤト「スミレって 不思議な花でね」
ハヤト「普通の花は、 花開いた時に、派手な色と甘い蜜で たくさんの昆虫を誘って 花粉を他の虫に運んでもらう」
ハヤト「でも、スミレは違う。 他と交わって受粉をしないで ひとりで種を作る」
ハヤト「自分の花粉だけ運んでもらうだけ。 ジブンがそのまま 種に変身するんだ」
スミレ「種になるの?」
ハヤト「そうだよ」
ハヤト「そして 特定の蟻の好むモノを種に添えて 蟻に種を運んでもらって移動するんだ」
ハヤト「スミレは純血を守り 他と交わらないことで 生き抜く すごく賢くて高貴な花なんだよ」
スミレ「高貴?」
ハヤト「そう」
スミレ「・・・」
スミレ「アナタって不思議な人よね」
スミレ「スミレスミレって 自分のことを 言われてるみたいに聞こえる」
ハヤト「僕、変なこと言って 気味悪い?」
スミレ「ううん・・・」
ハヤト「僕は褒めてるんだ 君のこと」
ハヤト「強くて凛とした君をね」
スミレ「・・・」
ハヤト「良い蟻に巡り会えるといいね」
スミレ「ありがとう」
ザー
スミレ「うっ ひっく」
〇シックなカフェ
カララン
店長「いらっしゃい」
スミレ「こんにちは」
店長「どうぞ」
スミレ「ありがとう」
スミレ「そのお写真は?」
店長「あぁ、庭に咲いたスミレ。 ハヤトが昔撮った写真でね。 スミレの花が好きだったんですよ」
店長「今では形見になったけど」
スミレ「そうですか」
スミレ「その飾ってる玉は?」
店長「それは女の子がくれたよ。 ハヤトの葬儀に 飾ってくれって渡されて」
店長「どこにいるか わからないけどね」
スミレ「・・・」
〇繁華な通り
スミレ「雨がやんでる」
〇広い公園
繁華街を抜け
少し広めの公園の丘を登ると
以前の広場のような場所がある
〇菜の花畑
・・・
スミレ「見てて、ハヤト、リカちゃん」
スミレ「ワタシ、種を植えたの」
丁寧で細やかな描写に導かれて、作中世界を存分に堪能させてもらいました!喜怒哀楽さまざまな感情が内包されたお話で、胸がいっぱいになります!
以前に読んだことのある現代俳句の「すみれ雨泣きて還らぬものばかり」を思い出しました。二人との出会いを経て少し強くなったスミレ。雨がやんだ今、もう涙を見せずに心晴れやかに前を向いて歩けそうでよかった。
子供同士の会話とは思えないほど、繊細で奥の深い表現に圧倒されてしまいました。人それどれの信念、思いが花を通して伝わってくるところが素晴らしかったです。