07 真実と対話(脚本)
〇田舎の学校
五日目
昨日は本当に楽しかった。友香ちゃんがアクションアドベンチャーの映画に誘ってくれて俺の心は盛り上がっていた。
最近友香ちゃんには助けられてばかりだ。俺から何か出来る事は無いか考えてた時だった。
星宮咲「あ!隼也!」
沢渡隼也「・・・・・・!!」
朝から咲と遭遇したが、俺は一目散に逃げて行った。これまで嫌がらせや裏切りを幾度と無く咲から受けて、とてもじゃ無いが
咲の事がどうしても信じられなかった。
三谷かな恵「ちょっとあいつ!咲の顔見て行き成り逃げるだなんて!咲、大丈夫!?」
星宮咲「かな恵・・・私、謝ろうとしたんだよ・・・だけど、隼也が・・・」
三谷かな恵「くぅ!!」
三谷は俺を追い掛けて走って行った。
〇学校の廊下
三谷かな恵「沢渡!!」
三谷が俺を見つけた途端に怒鳴り付けて来た。原因は俺にも分かっていた。三谷は俺が咲を無視したから怒っているのだ。
三谷かな恵「咲の事無視して逃げるとか、あんた一体どう言うつもりよ!あんたあいつがどんな気持ちか知ってる訳!?」
三谷は咲の友達だ。その友達が傷付けられれば怒るのは当たり前。だけど、
沢渡隼也「何だよお前、あいつが俺の事好きだとでも言いたいってのか?咲がどれだけ俺に嫌がらせして来たと思ってるんだよ・・・」
三谷かな恵「あぁそうだよ!あいつは沢渡、あんたの事が好きだから行動してたんじゃ無いか!」
沢渡隼也「だったら俺があいつに受けて来たこの仕打ちはどう説明してくれるんだよ!?」
三谷かな恵「・・・・・・!?」
沢渡隼也「そうだよ、俺はあいつの尻に敷かれてて鈍臭い俺の事何時も叱ってた。只無意味に叱ってた訳じゃ無いのは俺も気付いてた」
沢渡隼也「でもあの日、あいつの手作り弁当を食った時から、咲は必ずと言って良い程俺に何かしらの嫌がらせをして来た」
沢渡隼也「そんなのに何時までも、耐えられる訳無いだろ・・・」
三谷かな恵「沢渡・・・それは咲の本心じゃ無いよ。何かおかしいよ」
沢渡隼也「もう良いだろ。俺にだってやりたい事が有るんだ。友香ちゃんへのお礼考えたいから。じゃあな」
三谷かな恵「沢渡!!」
俺は我慢の限界だった。言いたい事は全部吐き出したが、それでもまだムシャクシャしていた。
こんな事しても俺の気が収まらないのは、俺が一番良く分かってたのに。
三谷かな恵「こんなの絶対おかしい。咲の所に戻ろう」
〇教室
星宮咲「・・・・・・」
三谷かな恵「咲、ただいま!」
三谷は咲の元へと戻って居た。咲は自分の席で何か手紙の様な物を書いて居たので、三谷はそれが気に成った。
三谷かな恵「咲、何してるの?」
星宮咲「隼也に対して手紙書いてるの。LINEとかでも良かったんだけど、こう言うのが一番良いかなって」
三谷かな恵「今時手書きって珍しいわね。誰にも言わないから少しだけ見せてくれる?」
咲は言われるがままに三谷に手紙の内容を見せた。俺に対する気持ち、これまでの行動に対する謝罪。自分のこれからに
対する考えを一枚の紙に全て書き込んでいた。
星宮咲「私、心から隼也と一緒に居たい。こんなんで納得なんてしてくれないと思うけど、かな恵はどう思う?」
三谷かな恵「いや!全然良いよ!自分から謝ったり変わろうとしたりするのって、凄く大事な事だよ!こう成ったらあたしも全力で応援するわ!」
星宮咲「かな恵、有難う!待ってて、もう直ぐ出来上がるから!」
咲は無事に手紙を完成させた。誤字、言葉の使い間違いが無いか良く確認して、何時でも渡せる様な状態だ。
三谷かな恵「やるじゃない咲!でも、今の沢渡はあんたに対して超御立腹だからそのまま渡そうとしても逃げられちゃうよ」
星宮咲「あ、そうだよね」
三谷かな恵「そこであたしから提案が有るんだけどさ、」
〇学校の昇降口
三谷が提案したのは下駄箱の中に手紙を入れる事だった。やり方は古典的だが、このやり方なら相手がどんな気持ちでも
絶対に読んでくれる。
星宮咲「ま、まさか私が、好きな人の下駄箱に手紙を入れる日が来るなんて、そう言うの確かに憧れてたけどさ。これ凄く時間掛かるよね」
三谷かな恵「まぁそこは仕方無いよ。これを読んで貰ったら、後は沢渡の気持ち次第さ」
二人は周囲に誰も居ない事を確認し、俺の靴が入った下駄箱に手紙を入れた。後は俺がこれを読んで考えを改める事を期待する
だけだった。
星宮咲「ねぇかな恵。私、ちゃんと隼也とやり直せるよね?」
三谷かな恵「やり直せるよ!もしあいつが何かしても、あたしはあんたの味方だから!」
星宮咲「かな恵、有難う!」
手紙を入れた二人は意気揚々でその場を後にした。手紙を読んでくれればまたやり直せるかも知れない。そんな淡い期待を
背負って。だが、それを許さない者が現れ、希望は打ち砕かれる。
黒崎友香「・・・・・・」
友香ちゃんは二人が去った後、俺の下駄箱を開けて手紙を取り出し、中身を確認した。
「隼也へ。私は小さい頃から貴方が好きです。その気持ちは昔からずっと変わってません。中学に上がって暫くしてから貴方に
冷たくしたり、怒ったりもしましたが、それは隼也にもっと確りした男性に成って欲しいからだったんです。高校に上がってから
正直私は今の関係で居るのが嫌に成って、私は貴方が好きだってアピールを試みましたが、それで貴方を傷付ける結果に
成ってしまった事、今でも私はそれを悔やんでます。それもこれも全部終わらせて、私は貴方と向き合いたいと思ってます。
今日の放課後、中庭で待ってます。咲。」
黒崎友香「・・・・・・」
友香ちゃんは咲の手紙の内容を見て怒りの表情を顕にする。咲の手紙を自分のポケットにしまい、自身が持ってたレターセットを
使い、別の手紙を書いて俺の下駄箱に入れた。
黒崎友香「さて、これは廃棄するとして、これさえ乗り切れば・・・」
怒りの表情が治まった友香ちゃんは、満足気に下駄箱を後にした。
〇学校の昇降口
学校のチャイムが鳴り響く中、今日の分の授業を終わらせてやっと帰路に着く事が出来ると実感した俺。
今朝の出来事が有ってから、俺は一日中咲の事を避けていた。これまでの経験から、また何か嫌がらせをされるのが怖いからだ。
今日もやり切ったと言う気持ちで、俺は下駄箱に手を掛ける。
沢渡隼也「ん?」
俺の下駄箱に入った靴の上に誰かからの手紙が置いて有った。何かの悪戯だったら質が悪いが、俺は手紙の中身を確認する。
「隼也へ。貴方は本当にどうしようも無い人。朝寝坊はするしガサツだし、私が居ないと何も出来ないんじゃ無いかって
何時も考えてたわ。隼也にお弁当を作った時、お弁当の中にお腹を壊す薬を入れて見たけど、それを食べて苦しむ姿は本当
見てて滑稽だったわ。隼也の気持ちを翫ぶのがこんなに楽しいだなんて知らなかった。本を無くしたり、約束を反故した時の
貴方の苦しむ姿を見れたのは最高だった。正直隼也がどう成ろうと私の知った事じゃ無い。高い所から飛び降りても
心配なんてしないし、死んだら塩掛けて上げようと思う位ね。そう言う事だから、これからもその滑稽な表情を私に見せてね。
私は中庭で待ってるから。言いたい事が有るなら言ってね。咲」
沢渡隼也「何だよこれ・・・何なんだよこれ!?ずっと前から咲の本心気に成ってたが、あいつ俺の事そんな風に見下してたってのか!?」
俺はこの手紙が偽物だとも知らずに怒りと悲しみで我を見失い、一目散に職員室へとこの手紙を先生に引き渡した。
〇華やかな広場
三谷かな恵「咲!確り謝罪して、確り気持ち伝えるんだよ!あたしは裏で見守ってるから!」
星宮咲「有難うかな恵!私頑張るから!」
何も知らない三谷と咲は、俺が来る事を待って居た。一対一で話す方が良いとの事で三谷は物陰に隠れる事に。
暫くして、俺は咲の前に現れる。
沢渡隼也「・・・・・・」
星宮咲「隼也!待ってたよ!」
星宮咲「貴方に伝えたい事が有るの。とても大事な事よ」
咲は俺にそう言ったが、俺にはその言葉に重みすら感じなかった。
沢渡隼也「そっか。俺もお前に大事な話が有る。俺はそれで全部終わらせる」
星宮咲「終わらせる?どう言う事?」
沢渡隼也「先生、こっちです」
星宮咲「え!?何で高崎先生が此処に!?」
高崎浩一「何でってなぁ、それは星宮が一番良く分かってる事じゃ無いか?」
星宮咲「え!?ちょっと隼也!説明してよ!」
あの手紙を読んだ後、俺はどうして良いか分からず職員室へ行き、担任で有る高崎先生にあの手紙と咲がこれまで
俺にして来た事を全て話した。
高崎浩一「説明も何も無い。お前は今週に入ってから沢渡に対して幾度と無く嫌がらせをして来た。反省した素振りを見せて」
高崎浩一「あっさり沢渡の事を裏切るとはな。これは明確な虐めだぜ。一年の時から見てたが、まさか星宮がそんな事する奴だとは」
高崎浩一「思いもしなかったぜ。どうも俺等教員でも見つけられなかった注意点だった見てぇだ」
星宮咲「ち、違うんです!あれは全部私じゃ無いんです!今日の手紙だって、隼也に謝る為に、」
高崎浩一「だったら沢渡が俺に見せたこの手紙、どうやって説明するつもりだ!?」
先生は咲に手紙を見せた。そこに書いていたのは、咲自身が書いた物では無く、友香ちゃんが書いた文章だった。
しかも、咲の名前も書いて有り、何をどう言っても言い逃れ出来る様な状況では無かった。
星宮咲「何よこれ・・・私こんなの書いて無い。何かの間違いよ・・・ねぇ隼也、これ以外に手紙無かった・・・?」
沢渡隼也「御免咲。俺の下駄箱に、それ以外の手紙なんて無かった」
星宮咲「そ、そんな馬鹿な!?私確かに・・・!」
三谷かな恵「待って下さい!」
この状況を見兼ねて、裏で見守ってた三谷が駆け付けた。
高崎浩一「何だ三谷。此処で何してた」
三谷かな恵「それは間違い無く咲が書いた物じゃ有りません!あたしは咲が手紙を書いてる所を見てます!」
高崎浩一「そうか。でもそうだって言うなら本物の手紙は何処に有るってんだ?」
三谷かな恵「それは、私も分かりません」
三谷かな恵「ですが、今咲を罰するのは何か違う気がするんです!お願いです、少し時間を下さい!」
三谷の発言で俺に対する咲の嫌がらせは保留と成り、三谷は俺に視線を移した。
三谷かな恵「沢渡、あんたの事で最近変わった事とか無い?あたしはこれまで咲を応援してた。咲はあんたに対して何時も一生懸命に」
三谷かな恵「頑張ってた。そんなあいつがあんたを貶めようとするなんてあたしには考えられない。だから、何か知ってる事が有れば」
三谷かな恵「何でも良いから教えて!」
三谷の必死さに応える形で、俺はこれまでの事を思い返した。あの時、この時と、自分の中で在る一つの答えに辿り着く。
沢渡隼也「黒崎友香ちゃん」
星宮咲「え?友香ちゃん?」
沢渡隼也「咲の弁当で腹壊した時、咲が本を無くした時、咲に約束を破られた時、何時も友香ちゃんは俺を助けてくれた」
沢渡隼也「今にして思えば、どれもこれもタイミングが良過ぎる。まさか友香ちゃん、咲の事邪魔して、俺も騙してて」
三谷かな恵「沢渡!あんたそれもう怪しいなんてレベルじゃ無い、明らかに確信犯よ!今直ぐその黒崎って子を問い詰めなきゃ!」
三谷かな恵「また咲が酷い事される!その子があんた等に何かしてなきゃ咲の失敗に対して説明が付かない!」
友香ちゃんの行動に対して、俺は衝撃を受けた。不思議とタイミングが良いと思っていたが、俺達の見えない所で友香ちゃんが
そんな事をしていたと成れば大問題だ。これ以上彼女を野放しにすれば何を仕出かすか分からない。俺の中でも、早く友香ちゃんを
止めなければと思った時、
高崎浩一「まてこらお前等!大人を差し置いて勝手に盛り上がるな!」
高崎先生は俺達にそう伝え、先生は視線を俺に向けた。
高崎浩一「全く何てこった。空想の中だけだと思ったが、沢渡お前、とんでも無い奴に目を付けられた物だな」
沢渡隼也「どう言う事です?」
沢渡先生は俺達に対して有る事を話した。
高崎浩一「お前等の話を聞く限り、星宮に手を出して沢渡に浸け込もうとした黒崎って女子は、ヤンデレって奴だ。親の愛情不足や」
高崎浩一「異性との交流が少ない奴が成り易い症状だ。一度好きに成った相手を手に入れる為やそいつの為に尽くそうとする奴は、」
高崎浩一「どんな事をしてでもやり遂げようとする。それが殺人や窃盗で有っても、好きな奴の為なら絶対に躊躇わねぇ」
高崎浩一「そんな奴を相手にするのは子供だけじゃ危険過ぎる。沢渡、お前は黒崎に監視されてるかも知れない。一度警察に相談するべきだ」
高崎浩一「星宮も三谷も、身の安全を考えた方が良い」
高崎先生はヤンデレに付いて話してくれた。実際漫画だけの話だと思ってたが、まさか彼女がそんな風に成っていたとは。
だけど俺は、一つ思う所が有った。
沢渡隼也「友香ちゃんはヤンデレ。しかも俺に対して。高崎先生、俺、友香ちゃんと対話しようと思います」
高崎浩一「な!?沢渡、それは無茶だ!何してくるか分からない奴だぞ!?」
高崎先生の言いたい事は分かる。ヤンデレ相手に対話するのは正直言って俺も怖い。だけど、俺の気持ちは変わらない。
沢渡隼也「そうですね。でも、俺の事が好きなら、俺の言う事聞いてくれるかも知れません。間違った事してたとは言え、」
沢渡隼也「もう友香ちゃんは他人じゃ無いんです。可能性が低くても、俺は友香ちゃんの目を覚まさせたい。何より、咲に酷い事した事、」
沢渡隼也「謝って欲しいんです。だから、友香ちゃんと対話します」
高崎浩一「何てこった。そこまで言うならやって見ろ」
高崎浩一「でも万が一の備えはさせて貰うからな。危なく成ったら一目散に逃げろ。それと星宮」
高崎先生は俺から咲に視線を向け、先生は自ら頭を下げた。
高崎浩一「最初は沢渡の状態を見てお前が本当に嫌がらせをしていたと思っていた。だけど、三谷と沢渡の話を聞いて、お前達が」
高崎浩一「そんな風に成っていたと気付かずに、お前を悪者にしてしまった。すまなかった。許して貰うつもりは無いが、責めて謝罪だけは」
高崎浩一「させてくれ」
星宮咲「高崎先生、私も誤解が解けて良かったと思います。私は何も悪い事して無かったんだって分かりましたから」
星宮咲「隼也!」
咲は俺に視線を合わせた。真実が分かった今、俺はもう咲が怖く無くなった。
星宮咲「友香ちゃんには、ちゃんと謝って貰おう!それで私達、本当の友達に成ろうよ!」
沢渡隼也「そうだな!行こう、咲!三谷!」
三谷かな恵「全く、あたしが居なかったらあんた等どう成ってた事か。沢渡、あんたには後で借り返して貰うからね!」
俺達三人は友香ちゃんと対話する決意を固めた。幸いにも俺は友香ちゃんの連絡先を持っていたので、俺は友香ちゃんを
呼び出す事にした。
高崎浩一「全く、あのガキ共が何だか眩しいぜ。あいつ等だけじゃ不安だ。俺もやれる事やるか」
〇学校の廊下
沢渡隼也「さて、連絡するは良いけど、何処に友香ちゃんを呼び出そうか」
三谷かな恵「沢渡、あの子を呼ぶなら屋上が良い。あそこなら下手に逃げられないよ」
俺達は友香ちゃんを呼び出す為に話し合っており、その上でどうするか話し合っていた。
星宮咲「それはナイスアイディアね!でもどうやって謝罪させるか決めてるの?」
沢渡隼也「そこなんだよね。流石に行き成り問い詰めたら逆に警戒されるし、そもそも俺、あの子に好かれる事した記憶無いし」
三谷かな恵「いや。それだよ沢渡!」
沢渡隼也「え?」
三谷かな恵「先ずは相手のルーツとかを知るのが大事だよ。沢渡は黒崎に対して何か好かれる事をしてるのは間違い無い。先ずそこから」
三谷かな恵「聞いた上で謝罪に持ち込ませれば良い!」
三谷の言う事は最もだった。先ずは相手を理解する事が、今の俺達に必要な段取りだ。友香ちゃんと最初に対話するべきは、
絶対に俺一人でやるべきだろう。
沢渡隼也「分かった。後は俺次第だな。友香ちゃんを呼び出したら、咲と三谷は見つからない所に隠れてくれよ」
星宮咲「え!?一人で!?てっきり皆で対話すると思ったのに。友香ちゃんに拐われたりしたらどうするの!?」
三谷かな恵「咲、行き成り三人で待ち構えてたらそれこそ黒崎に警戒されて何仕出かすか分からないよ。タイミングは必ず有るから、」
三谷かな恵「それまでは、ね?」
星宮咲「わ、分かった。でも隼也、危なく成ったら私達が助けるからね!」
沢渡隼也「あぁ、任せてくれ!」
話は纏まり、俺は早速友香ちゃんに連絡を入れる。幸いまだ帰って居なかったので、俺は今直ぐ、友香ちゃんに屋上に来る様に
伝えた。
三谷かな恵「それじゃあ沢渡、確りやるんだよ!」
沢渡隼也「あぁ、行って来る!」
準備が整った俺達は屋上へ向かう。友香ちゃんと対話して、この騒動を終わらせる為に。
〇高い屋上
夕焼けが眩しい中、俺は屋上のド真ん中で友香ちゃんをひたすら待っていた。予定通り咲と三谷には隠れて貰い、俺が合図するか
あっちが危ないと思ったら出て来る様にはして有る。
何時もなら皆帰る時間だが、友香ちゃんとのケジメを付けなければ、後にも先にも後悔が残る。今日で全てにケリを付ける。
そう思った時、遂に友香ちゃんは姿を表した。
黒崎友香「隼也さん!貴方が私を呼んでくれるなんて光栄です!今日はどうしたんですか?」
いよいよ対話の時だ。でも焦っちゃいけない。先ずは相手の事を知らねば成らない。
沢渡隼也「急に呼び出して御免。今大丈夫だった?」
黒崎友香「隼也さんからのお願いですもん!断る理由が何処に有るんですか?」
あぁ、やっぱりこの子は高崎先生の言う通り、ヤンデレなのだろう。でもどうして俺の事を知ってるのか、先ずはそこからだ。
沢渡隼也「君に聞きたい事が有るんだ。俺と君は、何処かで会った事が有ったかな」
黒崎友香「あれ?やっぱり覚えて無いんですか?私がこの学校に受験した日に、隼也さんは私を助けてくれたじゃ無いですか」
俺が君を助けたと言われて、俺が病院送りに成ったあの日が初対面じゃ無い事がはっきりした。でも俺はこの子を助けた事が
有っただろうか。
俺は目を閉じて、記憶を掘り返す事を試みた。
〇田舎の学校
数ヶ月前、この日は新入生の入学試験の日で有り、当時一年だった俺も学校には来て居なかったが、親からたまたま買い物を
頼まれていて、たまたま帰り道が学校の近くだったのだ。買い物袋を持って帰宅していた時、女の子が男達に絡まれていたのだった。
チャラ男1「良いじゃんか〜!もう受験終わったってんなら俺等と遊ぼうぜ!悪い様にはしないからさぁ!」
黒崎友香「あの、私急いでるんです。道を開けてくれませんか?」
チャラ男2「お〜怖い怖い。でも此処まで強情だとやっぱ無理にでも落としたく成るでしょ」
チャラ男2「大丈夫だよお嬢ちゃん。ちょっと俺等とお喋りするだけだからさ」
帰り道でたまたま通り掛り、その光景が俺の目にも入っていた。その時俺は、女の子が困ってそうだったので行動を起こす事にした。
沢渡隼也「お巡りさ〜ん!!こっちです!!女の子が変な奴等に囲まれてま〜す!!」
チャラ男1「ヤバ!サツだってよ!」
チャラ男2「おい逃げるぞ!」
男達は一目散に逃げて行った。警察が居ると言う嘘をあいつ等が見えない所で叫んで見た所、速攻で逃げ去った辺り、
肝っ玉が小さいと見えたが、そんな事は重要では無い。俺は絡まれて居た女の子に駆け寄る。
沢渡隼也「君、大丈夫?」
黒崎友香「あ、はい。あの、お巡りさんは?」
沢渡隼也「あぁ、あれ嘘。あぁ言えば大抵の奴は逃げると思って」
女の子はキョトンとした態度で俺を見てたが、怪我も無く、さっきの奴等に連れて行かれなくて良かったと思った。
沢渡隼也「さっきの奴等、受験がどうのって言ってたけど、もしかして受験生?」
黒崎友香「はい。さっきまで、夏目高校の受験受けてました」
沢渡隼也「え!?夏目高校!?俺の居る学校じゃん!俺そこで一年生やってるんだけど!」
黒崎友香「え?そうなんですか?」
沢渡隼也「受験受かると良いね!ってもうこんな時間か。じゃあね!」
黒崎友香「あぁ!待って下さい!って行っちゃった」
俺は女の子を助けて名前も告げずに帰った。それから暫くして、俺は女の子を助けた事すら忘れて、二年生に成っていた。
〇高い屋上
沢渡隼也「あぁ!思い出した!あの時チンピラに絡まれてた女の子、友香ちゃんだったのか!」
黒崎友香「はい!あの時変な奴等に絡まれて貴方に助けて貰った女の子です!」
黒崎友香「同じ高校だって事しか分からなかったけど、隼也さんを見つけるのは案外簡単でした」
当時の事を思い返した俺はチンピラから女の子を助けた時の事を思い出した。あの後何時も通りの生活の中でその事を
すっかり忘れていた。
黒崎友香「あの時お礼言いたかったのに、名前も言わずに行っちゃったのはちょっとムカつきましたけどね」
沢渡隼也「御免御免、色々と夢中だったから。でも良く俺だって分かったね」
黒崎友香「そりゃ私を助けてくれた恩人ですもの!覚えて無い方がおかしいですもん!」
黒崎友香「貴方があの雌豚と一緒に居たのを見た時はキレましたけど」
沢渡隼也「君の事は良く分かった。友香ちゃん、そろそろ本題に入るね」
昔の事を思い出し、友香ちゃんの事は良く分かった。俺は覚悟を決めて友香ちゃんに本題を打つけた。
沢渡隼也「友香ちゃん、君、俺の幼馴染の咲に嫌がらせしてるよね?」
黒崎友香「え?何の話ですか!?私そんな事・・・!」
沢渡隼也「友達と話し合って気付いたんだ。君は俺達の見えない所で咲に罪を被せて、俺と咲の仲を引き裂こうとした事。咲が俺に」
沢渡隼也「嫌がらせをされたと思わされた時、何時も友香ちゃんは俺を助けてくれた。ちょっと考えればタイミングが良過ぎるし、」
沢渡隼也「幾ら咲の当たりが強いからって、あそこまで酷い事には成らないよ。この話は高崎先生にも話してる。友香ちゃん、本当の事を言って」
俺は真っ向からこれまでの事を友香ちゃんに打ち明ける。これまでの不可解な出来事は明らかに第三者の思惑が無ければ成り
立たない。咲は本当は根が優しいのだと、俺がもっと早く気付いていれば早急に何とか出来たかも知れないのだ。
沢渡隼也「今日俺の下駄箱に入ってた手紙、有れは友香ちゃんが書いた偽物なんでしょ?本物は君が持ってるって見て良いかな?」
黒崎友香「隼也さん、はは、ふふ、あはは、あはははは、あはははははは!!」
沢渡隼也「・・・・・・!!?」
黒崎友香「そうです隼也さん、全部私がやりました!此処まで見破られたら、もう隠さなくて良いですよね!」
友香ちゃんは笑いながら白状した。裏で工作して俺達を引き離そうとしたのは友香ちゃんの思惑だった。
友香ちゃんは笑いながら全てを話した。
黒崎友香「最初貴方を見つけた時は真っ先にお近付きに成ろうとしました」
黒崎友香「でも貴方の側には何時も変な虫が飛んでましたよね。隼也さんは私の物なのに、態とらしい態度で私の隼也さんに」
黒崎友香「ズケズケと押し入って!私はあの雌豚に憎悪しか湧きませんでした!」
黒崎友香「ですが私思ったんです。隼也さんとあの雌豚、引き離せないかって。あの雌豚が隼也さんに対して何かやろうとしてて、」
黒崎友香「それに乗じて私が手を回しました。あいつの好感度を下げて、隼也さんの私に対する好感度を上げる為に」
黒崎友香「でも今日は第三者が居た所為で失敗して、今こうして隼也さんに全てバレました」
友香ちゃんはこれまでして来た事を全て告発した。流石に分かっていたとは言え、良くそんな事が何の躊躇いも無く出来ると
思った。ヤンデレは自分の好きな人の為ならどんな事でもやって除けるとは言ったが、その原因を作ったのは間違い無く俺だろう。
友香ちゃんの蛮行を知った上で俺は目を閉じて、友香ちゃんに対してどうするべきか考え、そして決めた。
沢渡隼也「友香ちゃんの言いたい事は全て分かった。咲に対する嫌がらせも、君が俺に対して好意的なのも、全て俺が原因で招いてしまった」
沢渡隼也「結果なんだよね。だったら、その責任は俺に有るって事だから言うよ。友香ちゃん、俺は、」
沢渡隼也「君を守るよ」
黒崎友香「え!?それって、私の彼氏に成ってくれるって事ですか!?」
沢渡隼也「違うそうじゃ無い。俺が守りたいのは、友香ちゃんの未来だよ。咲、出て来てくれ」
俺はこのタイミングで咲を呼び出し、友香ちゃんに対して今の気持ちを打ち明ける。
沢渡隼也「友香ちゃん、俺の事を心から好きだって言うなら、その気持ちが本物だって俺に伝えて欲しい。友香ちゃん、咲に今までの事」
沢渡隼也「全部謝って」
黒崎友香「な!?私がこんな奴に謝る!?隼也さん!本気で言ってるんですか!?」
沢渡隼也「此処から先は何も言わない。あっちに行くのも、こっちに行くのも、決めるのは友香ちゃんだから」
俺はそう言い残してこの場を一旦離れた。此処からはこの二人がどうするか決めなければ成らない。
星宮咲「友香ちゃん、隼也の事、そこまで好きで居てくれてたんだね。あいつ鈍臭いけど、根は良い奴だから」
黒崎友香「当たり前です。私の事を見返りも無しに助けてくれたんです。そんな優しい人が、別の女なんかと一緒に居るのが、」
黒崎友香「私には許せないんです。だから私は貴方に消えて貰いたかったんです!」
星宮咲「貴方と隼也がくっ付いて隼也が幸せに成れるなら私も文句は言わないよ。ずっと一緒に育って来た仲だもん」
黒崎友香「だったら、今直ぐ私達の前から消えて下さい。私には隼也さんしか居ないんです。だから!」
星宮咲「あのさぁ!そんなに隼也の事が好きなら、正々堂々と私と勝負しなさいよ!何で隼也が友香ちゃんの未来を守りたいって言ったか」
星宮咲「分かる!?」
黒崎友香「え!?えっと・・・」
友香ちゃんの言いたい事を聞いた上で咲は友香ちゃんを怒鳴り付けた。咲は俺の心情を友香ちゃんに説き始める。
星宮咲「友香ちゃんは私達より年下で、まだやれる事いっぱい有るんだよ!貴方が今やってる事は他人から見たら立派な犯罪なんだよ!」
星宮咲「好きな人の為に尽くすのは勝手だけど、もっとやり方を考えて!一歩間違えれば貴方は間違い無く豚箱送り、それで隼也と一緒に」
星宮咲「成れても、幸せに成れなきゃ意味無いじゃん!隼也はそれが嫌でこうしたんだよ!隼也の事好きだって言ってる癖にそんな事も」
星宮咲「分からないの!?」
黒崎友香「だったら、だったらどうしたら良いんですか!?貴方を排除出来なかったら私は!」
星宮咲「簡単な事よ。こんな陰湿な事全部辞めて私と勝負して、貴方が私に勝てば良いのよ。言っとくけど、只で負けるつもり」
星宮咲「無いからね。私も鈍臭いけど優しいあいつが好きだから。別に逃げても良いけど、私達は貴方を豚箱送りにする準備出来てるからね」
星宮咲「一度入れば、友香ちゃん本当に戻れなく成るよ」
咲から力強く論破された友香ちゃん。一歩間違えれば二度と戻れなく成る。俺と言う存在が二度と手に入らなく成る。
その事実を咲に諭され、友香ちゃんの身体はプルプルと震えだした。
黒崎友香「わ、わだし、ぢゃ、ぢゃんどやり直せまずがぁぁ」
星宮咲「やり直せるよ。隼也の事が好きなら、今度はちゃんと、私と真っ向から勝負して、私に勝ってよね」
星宮咲「何度も言うけど、私負けるつもり無いから」
黒崎友香「・・・!!ご、御免なざぁぁぁい!!御免なざぁぁぁい!!」
泣き崩れる友香ちゃんを咲は優しく抱き締める。これまでの愚行を深く反省してるのか、友香ちゃんは暫く泣き止まなかった。
俺達を取り巻くヤンデレ騒動は、漸く終わったのだった。
沢渡隼也「二人共大丈夫!?友香ちゃん!?」
黒崎友香「隼也さぁぁぁん!!もう私、二度と卑怯な事しませんからぁぁぁ!!」
星宮咲「隼也、今はそっとしといて上げて。もう友香ちゃんは大丈夫だから」
沢渡隼也「そっか。でも御免。行き成りで色々戸惑ったよね」
星宮咲「まぁ、流石にね」
俺は二人の安否を確かめる為に飛び出し、友香ちゃんは暫く動けそうに無かったが、俺は有る事を咲に話す。
沢渡隼也「そうだ咲。一つ聞いてくれるか?」
星宮咲「どうしたの?」
沢渡隼也「今まで、咲の事疑ったり、酷い事言ったりして、本当に御免。もっと早く気付いて、相談すれば良かった」
星宮咲「もう!本当隼也は馬鹿なんだから!全くその通りよ!私がこんな詰まらないヘマする訳無いじゃん!」
星宮咲「でももう良いわ。私は何時も隼也の事見てたんだから、隼也も私の事、ちゃんと見てよね」
沢渡隼也「咲・・・有難う!」
こうして、俺と幼馴染とヤンデレの一週間騒動は終わった。暫くして友香ちゃんが泣き止み、俺達は学校を後にした。
高崎浩一「おい!あいつ等どう成った!?黒崎は!?馬鹿な真似して無いよな!?」
三谷かな恵「あれ?高崎先生。あいつ等もう大丈夫ですよ。黒崎はもう問題起こしませんから、警察とかは入りません」
高崎浩一「って、マジかよ。本当にガキ共だけで解決しやがったよ」
三谷かな恵「只、沢渡はこれから、別の問題も解決しないと行けない感じには成りましたね。此処からはあたし等でもどうにも出来ませんし、」
三谷かな恵「何も心配しなくて良い筈です」
高崎浩一「ったく、心配させやがって。でもお前さんが言うなら良いか。さ、もう帰りな。下校時間はとっくに過ぎてるぜ」
三谷かな恵「はい!次の課題楽しみにしてます!」