Xヒーロー

語り部

第9話 幽光(脚本)

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〇城の会議室
  2021年 青森県内 三志和市 斎王家 客間
  新幹線に乗り車を走らせ数時間、斎王達は斎王家のある青森県へ向かっていた。
  斎王は暗い表情をしながら実家の門を叩く。門が開き、執事のような老人に客間に通され斎王達は各々席に着く。
  執事の老人が皆にコップ1杯の水を配膳し、老人は部屋の外へ出る。エンチャントを除く皆が驚きを隠せない中、斎王は俯いていた
  数分が経ち、斎王が話始める。
斎王幽羅「皆、神奈川にいた時にも言ったけど改めて言うよ?」
斎王幽羅「ここは俺の実家、警察も『礼状』程度では入って来れない。それくらい俺のじいちゃんは『公的機関を動かす』力がある」
斎王幽羅「俺達は改めてお互いの心の『泥』を見せ、洗い流さなきゃならない。だからまずは···俺から···」
  斎王はそう言うと俯きながら静かに話す
斎王幽羅「斎王家は表向きは不動産運用でここまで大きくなった様に見せてるけど実際は違う」
斎王幽羅「斎王源隆(さいおう げんりゅう)、俺の父方のじいちゃんは3代目の時代に『超人作成』の研究を政府の下請けで行ってた」
斎王幽羅「その際使った実験体は囚人を使っていたんだけど足りなくなり···『攫った』」
鸞「誰をだ···?」
斎王幽羅「『一般人』、北朝鮮に拉致されたという工作をして実験体を補充していったんだ」
斎王幽羅「他にも国内で起きたテロ事件等で死者数を改竄して、まだ生きてる人達を実験体にしていた」
斎王幽羅「結局、超人作成の研究は失敗して大勢の犠牲を払ったのに···何も得られず『政府からちょろまかした大金』だけが残った」
斎王幽羅「これが···斎王家の恥部、俺の『泥』だ」
  皆が押し黙る中エンチャントは我関せずと言わんばかりに割り込む。
エンチャント魔導法士「祖父は大量虐殺の研究者、父は理想のため大勢を『塵』に変えた殺人鬼、そしてその血を引いたお前は『灰色の悪魔』か」
エンチャント魔導法士「何もしてないのに『灰色の悪魔』ではないだろ?7歳~13歳の時雪月頼の元で何をしていたか話してみたらどうだ?」
斎王幽羅「っ··· ··· ···母方の祖母、雪月頼の元で俺は···能力の特訓と称し···『非能力者の人間』を殺した」
斎王幽羅「人体に···人体に潜り込んで··· ···俺は···俺は···!!『内側から』···!!」
鸞「やめろ!!もういい斎王、それ以上はいい!!次は···俺が話す···!」
  嗚咽と共に斎王は泣き崩れ鸞が慌てて止めに入る。
  斎王は幼少期の頃を思い出し自らの肩を掴み、泣きながら震えていた。そして鸞が語り始める
鸞「キングと斎王には話したが一文字族は鳥組、蟲組、魚組の3グループに別れそれらを鳳凰という存在が統括している」
鸞「··· ··· ···一文字族は初代鳳凰が倒した『大蛇』に今も尚呪われている。大蛇は初代鳳凰に呪いをかけようとしたが」
鸞「それを悟られトドメを刺される、しかし大蛇は最後の力で『土地』に呪いをかけた。数年後その土地である事がわかった」
鸞「『男が生まれない』、その土地に村を構えた者たちは半年もしないうちに男不足で廃村になり人も出ていった」
鸞「初代鳳凰はそれが自分の責任と悟りその土地に『一文字族』という忍者組織を作った。以降産まれてくる子供が男だった場合」
鸞「その子供が次の『鳳凰』として選ばれ、先代の鳳凰は土地の呪いで死んでいく」
キング「てことはお前···『女』なのか···?骨格どう見ても男じゃねえか···?」
鸞「それは鳳凰様の加護だ。一文字族は里を出る際鳳凰様の加護によって『骨格と筋組織』を変化させられる」
鸞「俺がフェードとエンチャントを拘束する際女になっていた姿が俺の『本来の姿』で、変化の術を使ったと言ったがあれは嘘だ」
エンチャント魔導法士「おいおい、肝心なことを言っていないな?『剪定の儀』について喋ったらどうだ?」
  鸞はその発言を聞き顔を曇らせつつ、エンチャントを睨みつける。そして斎王の方を1度見た後、話始める
鸞「クソっ···どうやって知ったんだ、まさか父が話したのか···?後で聞かせてもらうぞ···エンチャント」
エンチャント魔導法士「御託はいい、さっさと話さんか」
鸞「··· ··· ···剪定の儀は一文字族が成人する前に行われる儀式。里の外に出ても大丈夫か鳳凰様が見極めるものだ」
鸞「心·技·体を試され、合格した者は里の外へ出られる。不合格の者は··· ··· ···『その後一生里から出られない』」
キング「はぁ!!?一生っ!!?な、なんで···」
鸞「次の鳳凰様の為の触媒であり『母体』になるからだ。鳳凰という鳥は様々な動物の特徴を有している」
鸞「鳥はもちろん、魚や蟲、鹿、蛇果ては麒麟や龍までいる。勿論、一文字族は3つしかグループがない」
鸞「だから次の鳳凰様が産まれるために多くの触媒が必要で、そのために剪定の儀の不合格者は里を出られないという訳だ」
鸞「満足か?エンチャント魔導法士、魔術協会にいた大勢の教え子達にもこんな教育をしていたんだろうな」
エンチャント魔導法士「どうだろうな、さて。次は誰が『泥』を見せるんだ?」
キング「俺が話す。けど···何を言えばいい?変化武器と剣神についてなんて教科書に載ってるレベルの話だろ?他なんかあるか?」
凪園無頼「はいはーい。108の変化武器が住んでたっていう『炉郷荘』ってどうなってんのー?」
  炉郷荘。かつて剣神と呼ばれた男が変化武器という種族を作り出し住まわせたアパート、108の変化武器が暮らしていた場所である
キング「あぁ···そういえば知らねえやつもいるわな···炉郷荘に住んでた変化武器は全員『戻らなくなった』よ」
凪園無頼「は?どーゆーこと?」
エンチャント魔導法士「変化武器は錆が進行していくと徐々に元の武器の姿から人の姿に戻れなくなる」
エンチャント魔導法士「完全に武器の姿から人の姿に戻れなくなった者は一般的に『死んだ』と同義になる。治せるのはただの一人」
凪園無頼「その剣神ってやつだけ?でも3代目の世代の人間なら生きてんじゃね?」
エンチャント魔導法士「死んだよ。確か肺ガンだったはずだ、葬式にも出たから覚えてる」
凪園無頼「それでもまーだ待ってんでしょー?その剣神が死んでるのに自分達治してくれるって信じてさー」
凪園無頼「ふつーに考えて無理じゃね?」
キング「··· ··· ···何人かの変化武器は『あの世から来る方法がある』とは言ってた、だがその変化武器達も『全員戻れてない』」
凪園無頼「気休めの嘘だった。とかない?俺そっち考えんだけど」
キング「かもな。それでも···俺達変化武器ができるのは親父信じて待ち続ける事だけだ。それ以外···何も出来ない」
エンチャント魔導法士「健気だな、まるで忠犬ハチ公だ。いい事を教えてやる、喧嘩王が神にならないか?と誘われた日」
エンチャント魔導法士「3代目Xヒーロー幹部メンバー、剣神、死神、キックマスターも同様に『誘い』を受けている。ワシはこの目と耳でちゃんと見てる」
キング「は···?てめぇ何がいいてぇんだ?」
エンチャント魔導法士「『あの世にいるとは限らない』という事だ。仮に神になっていたら地上に来たくても来れないかもしれんしな」
エンチャント魔導法士「まぁこれもただの気休めだ、ほれ次は誰が話すんだ?ん?」
凪園無頼「はーいじゃあ俺ねー」
凪園無頼「俺はー今の苗字と本来の苗字が違うんだよねー、さっきも出たけど俺の本当の苗字はー『不帝』」
凪園無頼「3代目幹部メンバー、キックマスター『不帝』の孫が俺ねー?はーい終わり」
エンチャント魔導法士「大事な部分が抜けてるな凪園、なぜ『苗字を隠さなければならないか』を言ってないぞ?親父さんから知らされてない訳では無いだろ」
凪園無頼「チッ···ウザ···まぁいいよ。なんで不帝の苗字を隠したかって言うとね?」
凪園無頼「『雪月頼と斎王勇次郎、グレーデイを引き起こした能力者に目つけられないため』だって聞いてる」
キング「は···?それだけ?」
鸞「お前はわからんかもしれんが3代目の看板はそれだけでかいし影響力もある。俺の父も3代目の幹部メンバーだが」
鸞「当時しょっちゅう雪月頼と斎王勇次郎の使いが里に来ていたものだ」
キング「へぇ···でもそれが凪園の『泥』か。そういえばなんでお前ヤクザやってたんだ?気分屋のお前がやる理由あるか?」
凪園無頼「あー···斎王いるしあんま言いたくねーけど···父ちゃん『殺された』んだよね、雪月頼の部下に」
鸞「殺された···?お前の居場所を吐かせるためか···?」
凪園無頼「うん。父ちゃんはただの証券マンだったからさ、やべー拷問されて死んだって聞いてる。俺その時雷王跋会に拾ってもらった」
鸞「雪月頼は非能力者の人間を片っ端から殺していたと聞いているが···本当らしいな。まぁ···『あんな事』を経験すればな···」
凪園無頼「でもそれが父ちゃんを殺していい理由にならなくね?俺斎王気にってっけど雪月頼殺してーくらい恨んでるんだよね」
  そこで斎王はゆっくりと顔を上げ割り込むように凪園達の話に入る。
斎王幽羅「俺が出会った時でも子供ながらヤバさは感じてた。まるで虫を払うように非能力者の人間を『雪』で殺していたし」
斎王幽羅「俺は婆ちゃんに『なんで悪いことをしてない人をいじめるの?』って聞いた時···」
斎王幽羅「『もう理由なんてわからないわ、幽羅のお母さんの事がよぎって気づいたらいじめてるの。もう自分でも止められない』って」
斎王幽羅「悲しそうな顔しながら俺に話してくれたよ」
凪園無頼「でも···俺の父ちゃん殺す理由ねーじゃん。マジ意味わかんねーんだけど」
  凪園の言葉に斎王の口は止まり、ただ俯いて凪園の言葉を受け止めていた。
  理想の為に大勢の人々を殺した雪月頼と斎王勇次郎の子孫である自分は今までこのような被害者の声を聞いていなかった。
  斎王はそこから反論をすることはなく数分後
  、フェードが自身の過去を話始める。
フェード「お前達に喋ったことはあるが、私は北朝鮮の脱北者だ。脱北をしたのは12歳の頃で当時紅色派の幹部に拾われた」
フェード「助かったと安堵したが直ぐにその男の部屋に招かれ『ヤらせなければ朝鮮に戻す』と脅されその時···貞操を失った」
フェード「以降私は14歳になるまでの2年間、紅色派の幹部共に己の『性』を売り続けた。そこで私の恩人に出会って正しい教育を受けた」
フェード「殺しもその人から教わった。よき師だ、紅色派にいるのが不思議なくらい善い人だ」
斎王幽羅「フェードはさ、なんで紅色派のその恩人の所に行かなかったの?紅色派を裏切ったってことはその人を裏切ったってことにならない?」
フェード「行きたかったさ。今もまだ迷っているが···私はきっと許してくれると信じている。私の考えは甘いか?エンチャント」
フェード「お前は知っているのだろう?紅色派幹部 『明 天祐(ミン・チェンユー)』を」
エンチャント魔導法士「知ってるぞ、お前らと会う前に東京で酒を飲んどったからな」
エンチャント魔導法士「それとフェード、お前の本当の名を教えてやらんでいいのか?お前が『誰を殺したか』言わなくていいのか?」
  するとフェードの顔は曇る。フェードはまだなにか話すべき『泥』がある様子であった
  フェードは1呼吸置いて斎王達に話し始める。
フェード「私の名は王 文青(ワン・ウェイジー)だが朝鮮にいた時は···」
フェード「朴 秀晶(パク・スジョン)という名だ、殺しを始めたての頃は···こっちを名乗っていた」
  その名を聞くとキングの表情は怒りと困惑が入り交じったものとなった。
キング「変化武器を拉致ってた中国人ってのが···お前だったのかよフェード。なぁ···お前あいつらどうしたんだよ、教えてくれよ」
  フェードは静かにグローブを脱ぎキングに渡す。キングはそれに触れると何かを察知し静かに泣き始める
キング「クソっ···馬鹿どもが···中国なんてろくでもねぇって何回も言ったのに··· ··· ···」
フェード「キング··· ··· ···すまない、私が知ったのは19の時でその時既に大勢の変化武器が『こうなっていた』」
  キングの背中を斎王と鸞は優しく撫で、キングを落ち着かせる。キングはフェードに向け言葉を放つ
キング「お前は悪くねえんだろ?紅色派の誰がやった?お前が言ってたミンってやつじゃねえだろうな?」
フェード「わからない··· ··· ···が、エンチャント。お前なら···何か知ってるんじゃないのか···?」
斎王幽羅「それも含めて···あなたの知っている事を全て話してください、ウィリアム・バージェスさん」
エンチャント魔導法士「これ以上何を話せばいいんだ?ん?」
斎王幽羅「『貴方の過去を、話してください。』」
  To Be Continued··· ··· ···

次のエピソード:第10話 ルックバック

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