読切(脚本)
〇公園のベンチ
ムサシ「まだかな・・・」
ムサシは公園のベンチに座り、恋人を待っていた。
携帯電話の画面に、少し遅れる、とのメッセ―ジが入る。
待ちぼうけ。
斜め向かいのベンチに、そっと誰かが座る。
若い女性で、とても真っ赤である。
厚手のコートを着込み、ラグジュアリー感あふれるドレスが覗く。
そのどれもが赤で統一され、全身を覆い尽くしそうなほどの、赤毛のウィッグをかぶっている。
かぶり方がどうも雑で、頭が浮き上がって見える。
肌も上気し、唇もたいそう真っ赤である。
目の先の一点を無心に見つめており、ムサシはぞわりと寒気がした。
ムサシ「・・・(張り詰めるように、真顔だ)」
そのとき、恋人のサキが遅れてやって来た。
謝りながら、隣に座る。
サキ「ごめんごめん。玄関の鍵、閉めたかどうか気になって」
サキ「鍵、閉まってたんだけどねー」
ムサシ「俺も今来たとこ、ではないけど。ハハハ(と乾いた笑い)」
サキ「お詫びにたこ焼き一個おごるわ。十個入りの一個ね」
ムサシ「せこい」
サキ「まず一個食べてみて、気に入ったら、相談しよ」
ムサシ「あくどい感じが、すごいする」
ややあって、斜め向かいのベンチに座る、真っ赤な女の人の話を、小声で振る。
ムサシ「どう思う・・・?」
サキ「おそらく、人ではないと思う・・・」
ムサシ「あー、まじ・・・?」
サキ「どう考えても、ね・・・」
ムサシ「まばたきしてないもんなあ・・・」
ムサシ「まばたきをしない人間など、おそらくいないよな・・・」
サキ「おそらく。彼女の周りだけ、水のように潤ってたら違うのかもしれないけど・・・」
ムサシ「ハハハ(と乾いた笑い)」
サキ「未練があるから、現世にとどまるとかよく言うじゃない・・・?」
ムサシ「あそこで未練が残るようなことがあった・・・?」
サキ「あれは、間違いなく凄惨(せいさん)な事件よ・・・」
二人は、携帯電話を取り出すと、この公園について調べ始めた。
大都会の片隅にたたずむ公園である。
世界で最も有名な交差点、流行の発信地。
ブームをつくり、おくりだす。
あらたなトレンドが生まれ、めぐるめく。
そんな日陰に隠れるような。
何もないはずがない。
しかし、めぼしい情報は見当たらず、この公園には、古墳が存在することだけがわかった。
サキ「え、嘘」
ムサシ「どうした?」
サキ「古墳の数って、コンビニの三倍あるんだって」
ムサシ「知らなかった」
ムサシ「すごいな、古墳って」
ムサシ「頑張ってる」
サキ「そもそも古墳って何なんだろう」
ムサシ「何だろうな・・・」
サキ「調べる気力が・・・」
ムサシ「普通にないな・・・」
二人は、携帯電話の画面を閉じた。
────。
ムサシ「まったく、まばたきをしないどころか、血走ってる始末(しまつ)だよ」
サキ「眼球が、お祭り騒ぎだわ・・・」
真っ赤な女の人は、微動だにしない。
しかし、彼女は、何かを小声でつぶやいた。
だが、二人には、聞こえていなかった。
真っ赤な女の人「わたしは、」
真っ赤な女の人「赤くなることにハマっている・・・」
だそうである。
(了)
ホラーコメディという自分には初体験のジャンルでした
個人的に一番ツボだったのは、古墳頑張ってるのくだりでした 笑
怖い話のような雰囲気で、最後は笑えました笑
赤くなることってそんなに大事なことなのか?と一瞬考えてしまいました。
その人にとっては大切なことなんでしょう。
タイトルと表紙とホラーというのにハラハラしながら進めていたのですが、とても独特な世界観と魅せ方だなと思いました😊!
最後のオチの持っていき方も予想できなかったのですごいです✨