06 映画のチケット(脚本)
〇田舎の学校
四日目
昨日は何だかんだ仲直り出来たと思ったのだが、仲直りしたと思ったのは俺だけの様だった。昔から一緒に育って来た幼馴染だが、
最近は当たりが強く、今では何かしらの嫌がらせを受けている。出来る事なら素直な気持ちが聞きたい。そんな事を考えた矢先、
咲が俺の前に姿を表した。
星宮咲「隼也!お早う!」
良くそんな屈託の無い笑顔を俺の前に晒せるなと、心の中で思ったが、そんな事を言う気にも成らなかった。
沢渡隼也「おい、何しに来た?」
星宮咲「あ!その、昨日は御免ね。あの写真、消したから。そもそも私がやった奴じゃ無いから!」
反省してるのか開き直ってるのかイマイチ分からなかった。だけど、咲はそんな事言う為に来た訳で無い事は何と無く分かる。
星宮咲「もうあんな物見せないって約束するから!それはそうと、今日の放課後暇よね!暇に決まってるわよね!」
沢渡隼也「な、何だよ?妙な事なら簡便な」
星宮咲「妙な事とかしないわよ!これを見なさい!」
咲が鞄から出したのは映画のチケット2枚だった。誘ってくれてるのだろうか。
星宮咲「友達と二人で行く予定だったんだけど、相手の方が行けなく成っちゃって。お金勿体無いし、あんたどうせ暇だから連れてって」
星宮咲「上げようと思って。感謝しなさいよ?」
何だ、俺は只のついでかと思ったが、良い機会かも知れない。
思い返せば咲はぶっきら棒ながらも俺を喜ばせようとしてくれている。最近では本当に嫌な思いをさせられたが。多分咲は俺に
少しは気を使ってくれているのだろう。この映画を見に行く際に、咲の俺に対する本心を聞くのも良いかも知れない。
沢渡隼也「分かった。放課後行こうか。丁度聞きたい事も有ったし」
星宮咲「え!?行ってくれるの!?でも隼也、聞きたい事って?」
沢渡隼也「映画見たら話すよ。今日も頑張ろうぜ」
星宮咲「分かった!今日の午後5時半に正門前に集合ね!遅刻したら只じゃ置かないから!」
俺達は映画に行く約束をして、自分達の教室に向かった。
黒崎友香「あいつ、まだ懲りて無い・・・」
〇高い屋上
午前の授業が全て終わり、昼休みに成っていた。各々が自由に過ごす中、咲と三谷も屋上で賑わっていた。
三谷かな恵「そうそう!最近はアクションアドベンチャーが大盛況なのよね!復興率も断トツで一番だし!」
星宮咲「えぇ!毎度毎度映画館が満杯で、チケット買えるか心配だったけど、私も手に入るなんて思って無かったよ!」
星宮咲「さてと、」
咲はスマホを取り出してアラームをセットし、屋上のベンチで横になり始める。
三谷かな恵「あれ?お昼寝でもするの?」
星宮咲「映画見てる途中で眠く成ったら困るから、今の内に寝て置こうと思って」
三谷かな恵「そっか。ならあたしはお邪魔に成らない様にしなきゃね。沢渡との映画、楽しみだね」
咲はこれから見る映画に備えて仮眠を取る事に。三谷もそんな咲に気を使う形で屋上を後にした。咲が仮眠して少し経った後。
黒崎友香「・・・・・・」
屋上に友香ちゃんが現れた。咲が爆睡している事を確認して、友香ちゃんは咲に近付いて、咲のスマホに手を出した。
黒崎友香「これで良しと」
友香ちゃんは咲のスマホのアラームを停止させたが、スマホを弄られた咲は起きる気配が全く無く、友香ちゃんは更に
咲の服のポケットに手を突っ込んだ。
黒崎友香「星宮先輩、これも頂いて行きます」
友香ちゃんは咲から映画のチケットを盗み出し、屋上から去って行った。
〇田舎の学校
夕方、俺は約束の時間の10分前に正門前に来ていた。良く良く考えたら俺は映画のチケットは見せて貰ったが、
何の映画を見るかまでは良く確認していなかった。状況が状況だった事も有り、俺自身気疲れを起こしていたのかも知れない。
取り合えずスマホで音楽を聴きながら咲を待ち続けたが、肝心の咲は一向に現れない。何かの用事だろうか。
沢渡隼也「咲の奴遅いな。今何時だ?」
スマホの時計を確認したら約束の時間は当に過ぎていた。言い出しっぺは咲なのに、何だかまた不安に成って来た。
沢渡隼也「何だよ、あいつ俺には散々偉そうにして来た癖に自分はこれかよ。約束を守るとか言ってたのに、あいつもしかして、」
沢渡隼也「口だけの奴だったのか?何だろう、あいつと真剣に向き合ってるのが馬鹿馬鹿しく成って来た」
何だかまた裏切られた気分に成ってしまい、このまま此処に居ても仕方が無かったので、俺は映画の話を無かった事にして
帰ろうとした時だった。
黒崎友香「隼也さん!今日も一日お疲れ様です!」
俺の前に現れたのは友香ちゃんだった。家に帰ろうとした俺は友香ちゃんの声に反応して足を止めた。
沢渡隼也「あ、やぁ、お疲れ様」
黒崎友香「隼也さん、何か元気無い見たいですけど、何か有ったんですか?」
友香ちゃんに勘付かれてしまい、隠しても仕方無いので俺は事の発端を話した。咲と映画を見る約束をしたのに、
肝心の咲は一向に現れない事を、俺は話せるだけ話した。
黒崎友香「そんな事が有ったんですね!」
沢渡隼也「うん。友香ちゃんは何処かで咲を見かけなかった?」
黒崎友香「いえ、私は今日、星宮先輩に一度も会ってません」
沢渡隼也「そっか。咲には映画見た後に聞きたい事が有ったんだけど、何か真剣に考えてるのが馬鹿馬鹿しく成って来ちゃって、」
沢渡隼也「でもこんな愚痴友香ちゃんに話しても良い事無いよね。俺はもう帰るよ。付き合ってくれて有難う」
黒崎友香「あ!隼也さん!ちょっと待って下さい!」
友香ちゃんは俺を呼び止めて、自身の鞄から何かを取り出した。
沢渡隼也「あれ?それは・・・」
友香ちゃんが俺に見せたのは映画のチケットだった。
黒崎友香「はい。最近流行ってるアクションアドベンチャーの映画で、たまたまゲット出来たんです。隼也さん元気無さそうだし、良かったら」
黒崎友香「気晴らしに一緒に行きませんか?隼也さんさえ良ければ」
沢渡隼也「え?アクションアドベンチャーって、何時も席が満席に成ってる有れか!俺も一度見て見たいと思ってたんだ!」
黒崎友香「この感じだと決まりですね!早く行きましょう、隼也さん!」
俺は友香ちゃんからアクションアドベンチャーの映画を見に行く誘いに迷わず乗って、咲に対する疑念を忘れ去っていた。
〇高い屋上
星宮咲「・・・すぅ・・・すぅ・・・」
三谷かな恵「咲!ちょっと咲!」
星宮咲「ふぇ!!?」
夕方の屋上。咲は三谷に叩き起こされていた。咲は何が起こったか理解が少し遅れたが、落ち着いて三谷の顔を見る。
星宮咲「どうしたのかな恵、何か切羽詰まった顔してるけど」
三谷かな恵「どうしたのはこっちの台詞よ!午後に成って通りで姿が見えないと思ったら、まだこんな所で寝て、アラームセットしたんじゃ」
三谷かな恵「無かったの!?」
星宮咲「そんな筈は・・・あれ!?何でスイッチオフに成ってるの!?ちゃんと設定したのに・・・て言うか」
咲はスマホの時計と周りの状況を確認した。外はもう夕方で、咲が約束した5時半から30分以上も遅れて居る事に気付いた。
星宮咲「そ、そんな!私そんなつもり無かったのに!!」
三谷かな恵「兎に角、今からでも遅く無いから早く沢渡に会って謝った方が良い!何よりチケットの期限終わっちゃうよ!」
星宮咲「そうだよね!早くしなきゃ・・・って、あれ?おかしいな、確かにチケット持ってたのに・・・」
三谷かな恵「咲?どうしたの?」
星宮咲「チケットが・・・無い・・・」
三谷かな恵「何よそれ!?あんたこのままじゃヤバいよ!あたしも探すの手伝うから!」
その後、咲は三谷と共にチケットを探し回った。教室、鞄の中、ロッカー等、思い付く限りの場所を探したがチケットを
見つける事は出来なかった。