04 小説(脚本)
〇田舎の学校
二日目
俺は一人で学校へと来て居た。昨日咲に怒られた反省を活かし、目覚ましアラームの見直しをして何時もより早く学校に来て居た。
個人的にも、また咲に怒られるのには嫌気が指して居たので、今日から自分の生活態度を改める事にした。
沢渡隼也「(流石に早く来過ぎたか、咲の姿は見当たらないな。友香ちゃんへのお礼、考えないとな。)」
そんな事を考えてる最中、後ろから聞き慣れた声が俺の耳を捉えた。
星宮咲「隼也〜!隼也〜!」
沢渡隼也「あぁ、咲、お早う」
昨日は咲に不味い弁当を食わされたが、もうあんな事は無いと思いたい。病院に行く破目に成ったのは事実だが、
友香ちゃんが助けてくれたのは嬉しかった。
星宮咲「ねぇ隼也、先生から一年生の子が隼也を病院に連れてったって聞いたけど、大丈夫だった?」
沢渡隼也「あぁ、あの子のお陰で本当助かったよ」
沢渡隼也「あの恐ろしい味は当分忘れられそうに無いけど」
星宮咲「そう、だよね。私があんなの食べさせた所為で隼也が酷い目に合ったんだよね」
星宮咲「でも!今度は絶対美味しいお弁当作って上げるからね!」
やっぱりそうだ。咲は態度はデカいけど自分の間違いは確り受け入れられる子だ。そんな子が下手な嫌がらせをする筈なんて無い。
今の態度でその事を再認識出来た。
星宮咲「それにしても、あんたが私に起こされる前に家を出てるなんて、明日は雨と言うか、槍でも降るのかしらね?」
うん。間違い無く咲は良い子だ。でも口の悪さは何時も通りだ。これさえ無ければな。
星宮咲「こんな朝早くに来て、何かしたい事でも有るの?」
沢渡隼也「やりたい事、特に無いけど・・・これはやりたいかな」
俺は鞄の中から有る物を取り出し、それを咲に見せる。
星宮咲「本?って事は読書?」
沢渡隼也「あぁ、最近買った冒険物でさ、中身が凄く面白くてさ。朝のホームルーム始まるまでにゆっくり読もうかなって!」
星宮咲「へ、へぇ・・・男の子ってそう言う冒険物とか好きそうだもんね。何か進展したら教えて」
沢渡隼也「あぁ!それまで待っててくれ!」
俺と咲はそのまま校舎の中へと話しながら入って行った。俺達の会話を、俺達の目の届かない所で見ている人が居る事を知らずに。
黒崎友香「・・・・・・」
〇教室
休み時間。俺は冒険物の小説を夢中で読んで居た。冒険物の内容は、宇宙飛行士を務める主人公が宇宙ステーションに取り残されて、
密かに住み着いて居た肉食のエイリアンから逃亡すると言う内容だった。読んでるこっちにも緊張感が走り、ハラハラとドキドキが
止まらず、見るも見るもで目が離せなかった。
沢渡隼也「さて、此処の所でキリが良いかな」
俺は一旦読むのを止めて一息着いた。少し休憩を挟んで再び読もうとしたら、このタイミングで咲が教室に入り込む。
星宮咲「隼也〜!何してるの〜?」
沢渡隼也「お〜咲!何って、読書だよ。ちょっと休憩してた」
咲が俺に駆け寄って来る。俺はまた読むつもりの本にしおりを挟んで本を閉じ、視線を咲に向けるのだった。
星宮咲「ねぇ、それそんなに面白いの?」
沢渡隼也「あぁ!もう毎度毎度ハラハラさせられっぱなしで目が離せなくて、寝る事すら忘れちゃいそうで!」
思わず読んだ本の世界を熱く語る俺に対して、咲は若干呆れ気味だった。俺はそんな咲の心情も知らずに本の中身を語るのだった。
星宮咲「ねぇ隼也、それってそんなに面白いの?」
沢渡隼也「あぁ、俺には最高に面白い!まだ全部読み終えて無いけど、一周目終わったらまた読み直そうって思ってる!」
星宮咲「ふーん・・・」
俺が手に持ってる本を見て、咲は俺に申し出た。
星宮咲「ねぇ隼也、私にもその本読ませてくれない?」
沢渡隼也「あれ?また急だね。もしかして興味湧いた?」
星宮咲「うん。隼也が嵌ってる世界ってどんな感じなのか気に成って来た。だから・・・」
俺は咲の意見を聞いて少し考えた。この本はまだ読み終わって無いし、今も続きがかなりと言って良い程気に成る。でも、折角
興味を持ってくれたのなら、独り占めは良く無いと、俺はそう思った。
沢渡隼也「分かった。ちょっとだけ貸すよ」
星宮咲「え!?本当に!?」
沢渡隼也「うん。読んだら素直な感想聞かせて欲しいな。でも、ネタバレとかは無しね」
星宮咲「やった!有難う!」
俺は咲に本を貸す事にした。本を受け取った咲は教室では無く外で読みたいと言って外へと向かった。
沢渡隼也「(早く続きが読みたいな。)」
〇華やかな広場
星宮咲「へぇ、意外と凝ってるのねぇ。あいつ嵌り過ぎて寝不足に成らなきゃ良いんだけど」
咲は学校の中庭で俺が貸した本を読んで居た。この中庭は緑の自然が豊富で鳥類の囀りも響き、勉学等に疲れた生徒に取っての
憩いの場で有り、生徒同士の告白が行われる事も珍しくは無い。自然な空気に包まれながらの読書は、嫌な事すらも忘れさせて
くれる。
三谷かな恵「咲〜!こんな所で珍しいわね!何してるの?」
黙々と読書をしていた咲の前に友達の三谷が現れ、咲が読んでる本に対する質問をして来た。
星宮咲「かな恵じゃ〜ん!今隼也から本借りてて、読んでる所なんだ」
三谷かな恵「へ〜、沢渡の奴から借りたの。どんな感じ?」
星宮咲「あぁ!あのね・・・」
咲は自身が座って居た所に本を置き、三谷の元へ話をしに行った。
黒崎友香「・・・・・・」
咲が本から目を離している所に、何処からとも無く友香ちゃんが俺の本に近付く。
咲は三谷とのトークに夢中に成っててその場に友香ちゃんが居る事に全く気付いて無かった。友香ちゃんはそれを確認したのち、
友香ちゃんは俺の本を持ち去ってしまった。
星宮咲「宇宙飛行士が肉食エイリアンから逃げる話でさぁ!こりゃ確かに男子なら嵌るなぁって」
三谷かな恵「成る程ねぇ。男ってSF好きそうだもんねぇ」
二人が女子トークに嵌る中、咲は自分が座ってた場所を見て有る事に気付く。さっきまで自分が読んでた本が無いのだ。
星宮咲「あ、あれ?隼也の本が無い。どうして?さっきまで誰も居なかったのに!?」
三谷かな恵「え!?ちょっと咲、それ結構ヤバいんじゃ無い?最後何処置いたの!?」
星宮咲「おかしいな。確かに此処に座って置いたんだけど」
三谷かな恵「流石に借りた物無くしたら怒られるだけじゃ済まないよ。あたしも探すの手伝うからさ」
星宮咲「う、うん!」
咲と三谷は協力して中庭を探し回り、校内の生徒から情報収集をして見たが、誰も俺の本の事は知らず、授業を終えた後でも
見つける事が出来なかった。
〇田舎の学校
放課後、俺は咲を呼び出し、本を返して貰う様に頼んだ。しかし、俺を待って居たのは、俺に取ってとてもショックな出来事だった。
星宮咲「しゅ、隼也・・・」
沢渡隼也「咲、待ってたぜ。貸した本どうだった?俺もそろそろ続きが読みたくてさ。返して貰おうと思ってるんだが」
星宮咲「そ、それが・・・」
咲は事の経緯をありのままに話した。中庭で本を読んだ事、三谷と話して居る時に本が無くなって居た事、学校中を探しても
見つけられなかった事。その事実に、俺は言葉を失った。
沢渡隼也「咲、お前それマジで言ってるの?有れまだ買ったばっかりで、俺まだ最後まで読んで無いんだぞ?」
星宮咲「分かってる!だからかな恵にも協力してもらって!でも見つからなくって!」
沢渡隼也「人から物を借りるってどう言う事か、お前が一番良く知ってる事だろ?なのにどうして!?」
星宮咲「ち、違うの隼也!私は、私は!!」
余りの出来事に俺は咲に対して怒りの感情しか湧かなかった。でも、此処で咲を責めても、俺の本が帰って来る事は無い。
その事は俺が一番理解していた。
沢渡隼也「もう良い、分かったよ」
星宮咲「隼也・・・待ってよ隼也!!」
俺は咲を置き去りにして学校を後にした。咲は弁解の余地すら無く、その場に立ち尽くす事しか出来ず、泣く事しか出来なかった
〇通学路
咲と喧嘩別れした後、俺は一人で帰路に着いて居た。何時もなら咲と一緒に行き来したこの道。一人で歩いても何だか気分が
晴れなかった。昨日は不味い弁当を食べさせられて、今日は大事な本を無くされた。これって本当に偶然なんだろうかと思ったが、
今は本を無くされたショックの方が大きかった。そんな事を思ってた矢先、後ろから誰かの声が聞こえて来た。
黒崎友香「隼也さん!」
俺を追い掛けて来たのは友香ちゃんだった。何だか凄く切羽詰まった感じに見える。
沢渡隼也「や、やぁ、こんな所で奇遇だね。何か合ったの?」
何も傷付いて無いと言えば嘘に成る。だけど、対して恨みも無い相手に八つ当たりするのは子供のやる事なので、
俺は友香ちゃんの前で無理矢理笑顔を作って見せた。だけど、
黒崎友香「聞きましたよ隼也さん!大事な本、お友達が無くして怒ってたって!辛いのに無理して笑わないで下さい!」
友香ちゃんにはお見通しだった。俺成りに気を使ったのだが、どうも逆効果だった。
沢渡隼也「御免ね。そんなつもりじゃ無かったんだ。本の事で気分が良く無いのは本当だけど、俺にはどうして良いか分からないんだ」
沢渡隼也「勿体無いけど、本ならまた買い直せば良いだけだし、こんな事で怒ってたら自分が子供だよね。俺は大丈夫だから、じゃあね」
俺は逃げる様に友香ちゃんから離れようとした。だけど友香ちゃんは、俺を逃がそうとしなかった。
黒崎友香「待って下さい!」
友香ちゃんは俺を引き止めると、自分の鞄から何か取り出そうとした。
黒崎友香「隼也さんの本って、もしかしてこれですか?」
友香ちゃんの鞄から出て来たのは、紛れも無く俺の本だった。念の為中身を確認したが間違い無い。友香ちゃんは俺の本を
見つけてくれたのだ。
沢渡隼也「し、信じられない!でも友香ちゃん、これを何処で?」
黒崎友香「隼也さんが学校を出た直後だと思うんですが、私が外へ出る直前に一年の下駄箱の所に置いて有ったんです。多分、」
黒崎友香「誰かが拾ってくれたと思うんですが、私が見つけた時には誰も居なくて。隼也さんが星宮先輩と喧嘩してるって聞いた時、」
黒崎友香「もしかしたらと思って追い掛けたんです」
思わぬ形で本が見つかり、何だかさっきまで怒ってた自分が馬鹿らしく成ってしまった。
本が見つかって安心したのか、俺は思わず腰を抜かした。
黒崎友香「隼也さん!?」
沢渡隼也「大丈夫。好きな本が見つかって安心したら、何か自分が怒ってた事が馬鹿らしく成ってって考えたら、力抜けちゃって」
黒崎友香「ビックリさせないで下さいよ」
彼女は俺に手を差し伸べて、俺はその手を掴んで立ち上がった。さっきまでの苛立ちは、俺の中から完全に消え去った。
沢渡隼也「でも本が見つかって本当に良かった。明日は咲に、本が見つかった事伝えて、俺が怒った事確り謝らないとだな」
黒崎友香「そうですか。この程度じゃまだ足りませんか」
沢渡隼也「友香ちゃん?どうしたの?」
黒崎友香「え?何でも無いですよ!さぁ隼也さん、帰りましょう。困った事が有れば、一番に私に相談して下さいね!」
友香ちゃんが何か思う所が有る様な素振りを見せたが、彼女はそんな事無いと言わんばかりに明るい表情を見せた。
ともあれ本が無事で良かった事と、明日改めて咲と仲直りしようと、俺はそう思った。