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ひよ紅茶

エピソード6:子供(脚本)

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〇公園のベンチ
  ※妊娠中および妊娠の経験がある方には閲覧を推奨できない内容です。
  ※小さなお子様がいる方も、念のためご注意ください。

〇公園のベンチ
女の子「おねぇちゃん!」
  駆け寄って来た女の子は、瞳を輝かせ、可愛らしい笑顔でそう言った。
  もうそんな呼ばれ方をするような歳でもなく、何より、小さな命を抱えたお腹は目に見えてふっくらとしている。
  「こんにちは」
  声をかけると、女の子はハッとしたように顔を上げて、にっこり笑った。
女の子「こんにちは!」
  けれど、女の子の視線はすぐに下がって、何やらこの膨らんだお腹を見ているようだった。
  「お腹、気になる?」
女の子「うん」
  「今ね、私のお腹には、赤ちゃんがいるの」
女の子「うん。わかるよ マナより小さいね」
  「まな?」
女の子「うん。私、マナ」
  「そう。まなちゃん
  そうね、まなちゃんより小さいね」
女の子「お腹、触っていい?」
  明るく元気な印象の女の子だが、乱暴をするような子には見えなかった。
  「いいよ」
  女の子の手がぺたりとお腹に触れた。
  その瞬間、お腹の中がざわついた気がした。
  ドクドクと鼓動のようなものを強く感じる。
  運動したりお腹に力を入れてしまったときとも違う反応だった。
  お腹の内側を蹴るというわけでもない、むずがるような、悶えるような動きだろうか。
  触れられるとき無意識に緊張してしまって、それが赤ちゃんにも伝わってしまったのかもしれない。
  「ほーら、まなお姉ちゃんがよしよししてくれて嬉しいねー」
  お腹の子をあやすように声をかけると、女の子が首を振った。
女の子「違うよ。マナは『いもうと』 おねぇちゃんはこっちだよ」
  そう言って女の子はお腹を優しくさする。
  どうしてか、お腹の中はより一層騒がしくなる。
  出産予定日もまだ遠いのにどうしてしまったのか。
  よくない病気にでもかかってしまったのか。
  お腹が痛い。
  気持ち悪さが襲う。
女の子「ね。おねぇちゃん」
  女の子は愛おしそうにお腹を撫でている。
女の子「おねぇちゃん、マナは怒ってないよ だから早く出てきてね。ね。ね?」
  女の子は、なおもお腹に同意を求めるように問いかける。
女の子「おねぇちゃん、マナはちゃんと待ってるからね。遅くてもちゃんと待ってるからね。怒ったりもしないからね」
  「会いたいね、会いたいね」と、女の子はお腹に繰り返す。
  そうして顔を上げて、可愛らしい笑顔で同意を求める。
女の子「早く会いたいね?」
  「そ・・・」
  「そうだね」と、言うのは簡単だったのに、なぜかその一言が出なかった。
  お腹の痛みのせいでも、気分が優れないせいでもない。
  恐れてしまったのだ。
  女の子の言葉が、どうしてか、怖かった。
  子供というのは不思議なことばかり言う。
  それは支離滅裂だったり、大人からすれば意味のない言葉ばかりで
  けれど、その中には大人になる途中で忘れてしまった何かがある。
  七つ前までは神のうち。
  目の前の子も、今お腹の中で眠るこの子も、この世の誰の子でもない存在であるかのように感じる。
  まだ会ったこともない自分の子に、知らない思い出があるかのように・・・。
女の子「あ、戻らなきゃ」
  振り向いた女の子の視線の先には、辺りを見回す女性がいた。
女の子「あの人ね、私を産んでくれた人 もうすぐ同じだね」
女の子「それじゃあね、またね」
  女の子は女性の元へ走っていった。
  女性も女の子を見つけると、ほっとした顔で駆け寄り、身を屈める。
  楽しそうに何かを話す二人の姿は、仲睦まじい親子そのもの。
  ただ、あの子にとってあの女性は『家族』ではないかもしれない。
  お腹の子は「おねぇちゃん」で、実の母親は「産んでくれた人」。
  お腹をさする。
  痛みは引いて、落ち着きを取り戻していた。
  けれど、気分は変わらず優れない。
  まだお腹で眠るこの子に、自分は「お母さん」と呼ばれないかもしれない。
  その不安がずっと付き纏っていた。

〇公園のベンチ
女の子「空っぽだね」
  肌寒い季節になり久しぶりに会った女の子は、以前会ったときよりもあたたかそうな服に身を包んでいた。
  あの女性が用意した、愛情の籠もった姿だろう。
女の子「ね、ね! おねぇちゃん、もう出てきてくれた? いつ会える?」
  随分平らになってしまったお腹と見比べながら、期待した面持ちで問いかけてくる。
  だが、その期待に応えられる言葉はなかった。
  「・・・もう会えないの」
女の子「どうして?」
  「遠くに行っちゃったから・・・」

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コメント

  • 「子供」という存在は、どこか神聖なもので、無邪気な振る舞いの中のナニカに理由があるのではないかと考えたくなりますね。このお話の底に、ある種のリアリティと恐ろしさを感じてしまいました。

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