お手軽転生クッキング(脚本)
〇基地の廊下
立本 楓馬「不味いなぁ・・・春ちゃんを見失っちゃった」
立本 楓馬「はあ・・・」
立本 楓馬「それにしたって、あの中井地とかいう奴。 あんな物の言い方しなくたっていいだろうに!!」
立本 楓馬「・・・・・・」
立本 楓馬「・・・はあ」
立本 楓馬「でもなぁ・・・」
立本 楓馬「言ってる事は正しい、というか。 春ちゃんを母親に会わせるのは、確かに無理そうなんだよな・・・」
立本 楓馬「あんな小さい子に、死だとか生まれ変わりとか分かってもらう事も難しいだろうし・・・」
立本 楓馬「・・・・・・はあ」
立本 楓馬「まぁ、とにかく探すか」
男性「探してどうするんですか?」
立本 楓馬「うお!!?」
男性「おや、驚かせてしまいましたか?」
立本 楓馬「あ、え、なんすか・・・?」
男性「失礼。先ほどの窓口でのやりとりが聞こえて来てしまいましてね」
立本 楓馬「は、はあ・・・?」
男性「それで、貴方はあの子を見つけてどうするおつもりですか?」
立本 楓馬「え、えっと・・・」
立本 楓馬「どうって・・・」
立本 楓馬「あの子が泣かないで済むような方法を探す・・・?」
男性「ほう、それは素晴らしいですね」
男性「それで?具体的には・・・?」
立本 楓馬「それは・・・」
男性「・・・・・・」
立本 楓馬「・・・・・・」
立本 楓馬「まだ、何も思い浮かんでないですね・・・」
男性「そうでしょうね」
男性「どうですか」
男性「少し、私とお話でも」
立本 楓馬「え・・・?」
男性「貴方が抱えている悩みを解決するためのお手伝いが出来ればと思うのです」
立本 楓馬「それは、助かりますけど・・・」
男性「では、ついておいでなさい」
「懺悔室」
〇応接室
立本 楓馬「この部屋は・・・?」
男性「「懺悔室」と呼ばれていたのは大分昔・・・」
男性「今では転生する覚悟が決まらない亡者の方のお話を聞く、「相談室」となっております」
男性「申し遅れました」
ジャン・ドレミ「私、ジャン・ドレミと申します。 お気軽にジャンとお呼び下さい」
ジャン・ドレミ「ここ、煉獄部の贖罪課を担当している獄卒です」
立本 楓馬「あぁ、どうも。俺は立本楓馬です」
ジャン・ドレミ「楓馬君ですか。祝福された名前のようですね」
立本 楓馬「しゅ、祝福っすか・・・?」
ジャン・ドレミ「えぇ。君の表情、立ち居振る舞い、言葉遣い」
ジャン・ドレミ「全てにおいて、君が祝福された存在だと私に囁いて来ています」
立本 楓馬「・・・えっと・・・・・・?」
ジャン・ドレミ「幼気な女児を救おうと、貴方は今懸命に考えている」
ジャン・ドレミ「貴方の、あの子に対する慈悲の施しを神は見て下さっている事でしょう」
立本 楓馬「・・・・・・はあ、どうも」
ジャン・ドレミ「「隣人を愛し、隣人の為になる事せよ」と教えられた神の教えを体現する貴方は、実に好ましい」
ジャン・ドレミ「私は是非、貴方の役に立ちたいと思うのです」
立本 楓馬「そりゃあ、どうも」
ジャン・ドレミ「私は貴方に何をしてあげられるでしょうか?」
立本 楓馬「・・・それなら、」
立本 楓馬「その、此処について教えて欲しいんすよね」
ジャン・ドレミ「此処、と言いますと?」
立本 楓馬「えっと、俺さっき目を覚ましたばっかで、あんまりよく分かってないんすよね」
立本 楓馬「転生とか冥界?とか・・・」
ジャン・ドレミ「なるほど・・・では、私が教えられる事を説明してさしあげましょう」
立本 楓馬「お願いします!」
ジャン・ドレミ「ではまず、此処についてですね」
ジャン・ドレミ「ここは「霊魂冥界」。死んだ人間、亡者が転生するまでの時を過ごす空間です」
ジャン・ドレミ「所謂、死後の世界だと思ってもらって大丈夫です」
立本 楓馬「地獄とか天国って事すかね?」
ジャン・ドレミ「ええ、その通りです」
ジャン・ドレミ「霊魂冥界には、生前に犯した罪の量によって、亡者たちは「地獄」、「煉獄」、「天国」の三種類に分けられます」
ジャン・ドレミ「楓馬君が居るここは、「煉獄」になります」
立本 楓馬「地獄とかは聞いた事ありますけど、「煉獄」っすか?」
ジャン・ドレミ「煉獄は簡単に言えば、地獄に落ちる程の罪は犯していないけれど、天国に行くほど清い魂でもない亡者が辿り着く場所です」
立本 楓馬「え、てことは俺、なんかやらかしちゃったって事っすか?」
ジャン・ドレミ「何を罪とするか、ですよ」
ジャン・ドレミ「神様は潔癖なので」
ジャン・ドレミ「虫や植物すらも命があるとして、それを一つでも殺めれば、皆罪人なのです」
立本 楓馬「あぁ、確かに俺、虫殺した事あるっす・・・」
ジャン・ドレミ「なので、ほぼ例外なく亡者は煉獄に集まります。特に恥ずべきことではありませんよ」
ジャン・ドレミ「逆に天国に行く亡者が居ないので、天国部は実質無くなりましたから」
立本 楓馬「あ、そうなんすね・・・」
ジャン・ドレミ「そして転生の間で、魂魄を浄化し現世へと再び送り出す」
立本 楓馬「浄化、っすか?」
ジャン・ドレミ「現世で年月を過ごした魂魄は穢れを孕んでいるので、それを取り除き清い状態で現世へと送り出さないといけないのです」
立本 楓馬「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「理解できていますか?」
立本 楓馬「は、はあ、なんとなく・・・」
立本 楓馬「穢れとか言われてもピンと来て無いっすけど・・・」
ジャン・ドレミ「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「まあそうでしょうね」
立本 楓馬「どうにかして、記憶を維持したまま転生って出来ないんすかね?」
ジャン・ドレミ「・・・それは難しいですよ」
立本 楓馬「やっぱそうなんすか?」
ジャン・ドレミ「ふむ・・・」
ジャン・ドレミ「そうですね。転生の過程をもう少し分かりやすくお話するのであれば・・・」
ジャン・ドレミ「まずはミキサーを用意します」
立本 楓馬「え?」
ジャン・ドレミ「そこに魂魄を十個ぶち込みます」
立本 楓馬「ミキサーに?え?」
ジャン・ドレミ「コンセントを差してボタンを押して、ぐっちゃぐっちゃに撹拌します」
立本 楓馬「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「さて、次に水の張ったボウルを用意します」
ジャン・ドレミ「そしてドロドロになった魂魄たちをボウルに流し込みます」
立本 楓馬「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「するとどうでしょう。水に浮かび上がって来る物と沈んでいく物があるではありませんか」
ジャン・ドレミ「沈んでいったものは穢れているので使えません」
ジャン・ドレミ「浮いているのはキレイなのでもう一回使えます」
ジャン・ドレミ「浮いている物を掬い集めて、ラップに包みます」
ジャン・ドレミ「ぎゅ、ぎゅっとそれを握って丸めて」
ジャン・ドレミ「はい、一人分の魂の出来上がり」
立本 楓馬「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「・・・・・・」
立本 楓馬「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「こほん」
ジャン・ドレミ「つまり、何を言いたいかと言いますと、」
ジャン・ドレミ「一つの魂を丸々再利用できるわけではありません」
ジャン・ドレミ「一つの魂魄の中で、使える魂魄質と使えない魂魄質があるのです」
ジャン・ドレミ「複数の魂魄から、使える魂魄質を集めてようやく一つの魂が生み出される」
ジャン・ドレミ「入り混じってしまった中から、ある魂魄の特定の記憶だけを引き継ぐなんて事は無理なんですよ」
立本 楓馬「な、なるほど・・・?」
立本 楓馬「魂って、そんなリサイクルみたいな仕組みなんすね・・・」
ジャン・ドレミ「魂魄は、貴重な資源ですから」
立本 楓馬「な、なるほど・・・?」
立本 楓馬「転生後じゃあ望みがないなら、転生する前にどうにか出来ないもんですかね?」
立本 楓馬「此処から現世に行けたりしないんすか?」
ジャン・ドレミ「ふむ・・・・・・」
ジャン・ドレミ「基本的に現世へと繋がる道は、二つあります」
ジャン・ドレミ「一つは、亡者たちが煉獄にやって来る為の、現世から冥界への一本道」
ジャン・ドレミ「もう一つは転生後、冥界から現世へと滴り落ちていく一本道」
ジャン・ドレミ「どちらも、亡者が通れるものではありません」
立本 楓馬「・・・つまり道は無いって事っすか?」
ジャン・ドレミ「いえ、あるにはあります」
立本 楓馬「!?」
ジャン・ドレミ「以上二つが常設されている現世に繋がっている道になります」
ジャン・ドレミ「他にもう一つ。現世に繋がる道、というか扉があるんですよ」
立本 楓馬「え、そんなんあるんすか?!」
ジャン・ドレミ「えぇ、主に獄卒専用になりますが」
立本 楓馬「獄卒って、ジャンさんみたいな職員の事っすよね?」
ジャン・ドレミ「えぇ、そうです。業務の備品や嗜好品などを買いに使われているんです」
立本 楓馬「じゃ、じゃあその扉を使えば・・・!!」
ジャン・ドレミ「現世に行く事は可能です」
立本 楓馬「その扉はどこにあるんすか!?」
ジャン・ドレミ「四階の西棟に「通信室」という部屋がありますので、そこに行けば現世に向かえるかと」
立本 楓馬「四階の通信室っすね!!」
立本 楓馬「扉ってのは、どんな・・・?」
立本 楓馬「行ってみれば分かるっすかね!!」
ジャン・ドレミ「えぇ、まぁ・・・ですが、」
立本 楓馬「ありがとうございます!!めっちゃ助かりました!!」
立本 楓馬「これで春ちゃんを母ちゃんに会わせてやれます!!」
立本 楓馬「ありがとうございますジャンさん!!!!」
ジャン・ドレミ「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「随分とせっかちですね」
ジャン・ドレミ「まだ続きがあったのに・・・・・・」
ジャン・ドレミ「・・・・・・」
ジャン・ドレミ「まあ、いい暇つぶしになりそうですね」