ヴィクトリア

ゆでたま男

エピソード3(脚本)

ヴィクトリア

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〇牢獄
  その男は、監獄の中にいた。
  きしむ木製のベッドに座り、写真を握りしめている。
リッキー「待っていろよ。必ず行くから」
  立ち上がると、壁際に立った。明かりをとるために鉄格子つきの窓がある。そこから月の明かりが優しく差し込んでいた。
  波の音が聞こえる。窓の外は崖になっていて、すぐ下は海になっていた。高さは十数メートルはあり、落ちれば助かる保障はない。
  男は、小さな鉄の板を加工したノコギリを取り出した。この日のために、数ヶ月かけて少しずつ切り込みを広げていたのだ。
  鉄格子を完全に切断して取り外すと、窓の縁に手をかけて壁をよじ登る。
  息をおもいっきり吸い込み、海に飛び込むと、豪快に水しぶきが上がった。
  その音を聞き付けて刑務官がやってきた。
  もぬけの殻になった部屋に鉄格子が転がっている。
刑務官「脱獄だ」
  刑務所中に緊急事態を知らせる鐘が響き渡った。

〇西洋風のバスルーム
  ヴィクトリアが、まず朝起きて最初にすることは、シャワーを浴びることだった。
  肩まで伸びたブロンドの髪を丁寧に洗う。
  体は一見すると細身だが、日頃の鍛練で鍛えた、しなやかな筋肉を身にまとっている。

〇貴族の応接間
  その後、朝食。
ダニー「お嬢様、お味はいかがですか?」
  羊のダニーが聞いた。料理はもちろん、掃除、洗濯、髪を切るのもダニーの役割だ。
ヴィクトリア「申し分ないわ」
ダニー「グリンピースがまだ残っておりますが」
ヴィクトリア「あっ、これ食べられるの?」
ダニー「もちろんでございます」
  ヴィクトリアは、スプーンですくい上げると、いっきに水で流し込んだ。
ヴィクトリア「うん。美味しかったわ」
ダニー「それは、よろしゅうございました」
  ダニーはお皿をさげた。
  食事が終わると、仕事にとりかかる。
ヴィクトリア「さてと、今日は誰にしようかな」
  数枚の紙をめくりながら、下唇を親指でなぞった。そこには、賞金首のデータが載っているのだが、ヴィクトリアの眉間にシワが寄る
ヴィクトリア「300万、450万、280万。どれも安いわね」
  一人の男に目が留まった。
ヴィクトリア「8500万ベイル。リッキー・ロウ」
  連続殺人の罪で無期懲役の男が脱獄。
  生死の有無は問わない。
ヴィクトリア「よし、こいつに決めた」
  膝まであるロングブーツに履き替え、ホルスターをつけ、二丁の拳銃をガンスピンして左右に納めた。
  コートを着て、テンガロンハットを被り家を出ると、トゥレイターNS300馬力のバイクに股がった。

〇中東の街
リッキー「腹へったな」
  リッキーは、とぼとぼと歩いていた。
  人目につく所は避けたいが、どうしても行きたいところがある。とにかく歩くしかない。

〇ヨーロッパの街並み
アーロン「あぁ、そいつか」
  眠そうな顔でアーロンが言った。
  ヴィクトリアは警察署に来ていた。
アーロン「こっちも探しては、いるんだけど手がかりがなくてね」
  予想通りの答えだった。
ヴィクトリア「誰かがかくまっているとか」
アーロン「う~ん」
  アーロンは、険しい表情をつくって考えているが、それは、考えているフリだということをヴィクトリアは知っていた。
ヴィクトリア「もういいわ。とりあえず詳しい情報をくれる?」
アーロン「了解」
  両親は、すでに他界。兄弟はいない。
  一度の結婚と離婚歴がある。離婚後は、酒におぼれ、初めの傷害事件を起こしている。
ヴィクトリア「この離婚した女性は今どこに?」
アーロン「あぁ、確かここからそんなに遠くない所に住んでいるよ」
  アーロンは、住所を探した。
アーロン「やっぱり。娘さんと暮らしてる」
ヴィクトリア「何か手がかりがあるかも」
アーロン「うん、行ってみて」
ヴィクトリア「なに言ってるのよ、あなたも行くのよ」
アーロン「え!僕も?」
ヴィクトリア「嫌なの?」
アーロン「いえ」
  ヴィクトリアは、アーロンをタンデムシートに乗せて向かった。

〇洋館の一室
  彼女に事情を説明すると、渋々といった様子で家にいれてくれた。 だが、彼女の口は重かった。
奥さん「あの人のことは、もう忘れました」
アーロン「忘れたってさ」
奥さん「今さら関わりたくありません」
アーロン「関わりたくないってさ」
  ヴィクトリアは、アーロンの靴を力いっぱい踏んだ。
アーロン「痛っ!」
ヴィクトリア「このままだと、また被害者が出るかもしれません。何でもいいので気がつくことがあれば」
奥さん「実は、娘は私に内緒であの人と手紙のやりとりをしていたようなんです。たまたま、娘の部屋で見つけて」
奥さん「もしかしたら、あの場所かもしれません」
ヴィクトリア「あの場所?」
奥さん「娘が小さい頃、よく行った場所です」

〇綺麗な港町
  小高い丘の上にリッキーは来ていた。
  水平線を船が行き交うのがよく見える。
リッキー「懐かしいな。この景色はちっとも変わってない」
ヴィクトリア「リッキー・ロウね」
リッキー「何だお前は、警察か?」
ヴィクトリア「賞金稼ぎよ」
リッキー「あぁ、カウガールか」
  リッキーは、落ち着き払っていた。
アーロン「ヴィクトリア」
  アーロンが息を切らしてやって来た。
アーロン「リッキー観念しろ」
リッキー「また変なのが一人増えたな。お前も賞金稼ぎか?」
アーロン「警察だ」
リッキー「すまないが、まだ捕まる訳にはいかない」
ヴィクトリア「往生際が悪いわよ」
リッキー「違う。そんなんじゃない。今日は、娘の結婚式なんだ」
ヴィクトリア「結婚式?」
リッキー「今まで父親らしいことは何もしてやれなかった。今日ぐらいは祝ってやりたい」
  リッキーの目は真っ直ぐヴィクトリアを見つめていた。
リッキー「頼む。一言だけ娘におめでとうと言いたいだけだ」
  リッキーの目の奥を見れば、それが真実かどうかを判断することは、ヴィクトリアには容易だった。
アーロン「信用できないな」
  アーロンは、銃をかまえた。
ヴィクトリア「ダメ」
アーロン「そうだ、ダメだぞ」
ヴィクトリア「違う、あなたよ」
  ヴィクトリアはアーロンを見た。
アーロン「僕?なんでさ」
ヴィクトリア「結婚式が終わったら。刑務所に戻ると誓える?」
リッキー「ああ、誓う」
ヴィクトリア「分かったわ」
アーロン「え?なんだよ。こんなやつのこと信じるのか?ダメに決まってるだろ」
  その時、アーロンは、ふと自分の腕に何かが付いてるのに気がついた。
アーロン「がっ!む、虫」
  アーロンは、気絶した。
ヴィクトリア「あら、いつの間についてきたのかしら」
  それは、ミッチが作った例の虫だった。
ヴィクトリア「以外と役に立つわね。あなたが虫嫌いでよかった。気が向いたら起こしに来るわ」
  倒れてるアーロンにそう言って、二人は丘を降りた。

〇綺麗な教会
リッキー「ここだ」
  協会から少し離れた所で、二人は、バイクを降りた。
  正面の扉が開き、中から人が出て来た。
  両側に並び、その間をウェディングドレスの女性が歩いている。

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