エピソード4(脚本)
〇テーブル席
──メアのことについて、相談に乗ってもらった男性は、後日再び、ガールズバー店員の女性と落ち合う。
しかし、男性は、未だにメアのことを忘れられずにいたのだった。
そして、メアのほうも・・・
「・・・・・・」
(・・・あれから、全然会いに来てくれなくなった・・・)
(まぁ、メアがあいつのこと、めちゃくちゃ怒っちゃったのもあるけど・・・)
(だからって・・・)
「・・・最近、何してるのかしら」
「あ・・・」
(あいつだ・・・。 ・・・1人でランチ?)
女性「お待たせ。ドリンクバー、めちゃ種類あって、迷っちゃった」
男性「・・・そっか」
(え、誰・・・? 誰、あの女???)
メアは、現実を生きる人々を、任意のタイミングで観察できるものの、常に見張っているわけではない。
久しぶりに男性の様子を見にきたメアにとって、女性の存在はまったく知らなかったのだ。
メアは、男性のことを好意的に見ているわけではない。
はずだったのだが・・・
「メアのことほっといて、別の女と付き合ってるわけ!!?!」
「・・・ムカつく」
「ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく・・・マジでムカつく!!!!」
「ああーーんもぉーー!!!!」
男性(・・・)
男性(もし、メアがいたら・・・いや、でも、 あの子は僕の夢の中にいる存在だから・・・)
女性「ちょっと!ちゃんと聞いてる?」
男性「えっ、あ、ご、ごめん・・・ なんの話だっけ、」
女性「もう・・・私の今の仕事の話だよ。もー、今の職場、ホントめちゃくちゃストレス溜まるんだから」
男性「う、うん・・・」
女性「ホントさー、店長が毎度毎度無茶いってくるわけ。シフト入ってない休みの前日に、平気で突然シフト入れてきたりさぁ~?」
女性「あ、あと先輩もめちゃくちゃウザイの!先輩ヅラやたら聞かせるって言うかさ、別にそんなこといちいち言われなくてもわかってるし」
女性「みたいなことまでめちゃくちゃ言ってくるんだよ。しかもこれがまた言い方が超ムカつくの!なんか、一言多いっていうかさ、そんな」
女性「こと言う必要ある?みたいなことまでグチグチ言ってくるし・・・あ、そうそうグチグチといえば、後輩がめちゃあざとくて、あたし」
女性「のお客さん全部横から持っていっちゃうんだよ!せっかく私が仲良く話してたのにさ、横から割り込んできて「ねぇ~私にもいれて」」
女性「「くれないんですかぁ~」みたいなさ、甘えた猫なで声でいうんだよ!お客さんなんかすーぐ騙されちゃうんだからその子にもお酒・・・」
男性「う、うん・・・」
男性(やばい・・・なんだか眠たくなってきたぞ・・・)
永遠に続く女性のトークに、男性は耳を傾けつつ、やや疲れを感じ始めていた。
繰り返される女性の自分語りの内容にも退屈してきてしまい、日頃の仕事の疲れも乗じて、男性はついうとうとしてしまう。
女性「私、今の職場に満足感とかやりがいとか感じられないんだよねぇ。たまに常識ある人くるけどそんな人くるのホント稀で・・」
男性「・・・うん・・・」
女性「別に人と話すのは嫌いじゃないけどね?ただ、みんな自分本意で語りすぎなのよ。別に私は話聞くのが仕事みたいな・・・」
男性「・・・うん、」
女性「ところあるから、まーいいかなーっておもうこともあるけど、それでもやっぱり私も人間だから、耐えられないこととかも中には」
男性「・・・」
女性「あったりすんですよねぇ。私、実はなんか自分がなんで生きてるのかとか、たまに考えちゃったりするわけよ。だからなんか、そう」
女性「いう自我?とか自分の意識とか思考みたいなの失くしてしまいたいって思いもあって・・・まぁそんなのなんか非現実的なんだから」
女性「そんなことできるわけないなとは思うのよ。でもだからといって自分で死ぬとかは考えたくなくて、せっかくならやっぱ有効な」
男性「・・・・・・・・・」
「全く・・・メアの知らない、どこの馬の骨かもわかんないような女と楽しく喋ってるなんて・・・」
「・・・どうせ、メアのことなんて、どうだっていいって考えているんでしょう?」
「・・・全く、もう、ホントに・・・」
「メアが、どれだけあなたのことを、 考えてるかも知らずに・・・」
「・・・こんな気持ちになってるのは、 メアだけなんでしょう?」
「・・・もっと、」
「・・・メアのこと、見ていてよ」
「・・・」
「バカぁーーーーーーーーーっっ!!!!!」
男性「わぁっ!!!」
女性「うぁ!えっ、なに急に叫んだりして・・・」
男性「・・・メア、」
女性「・・・え?」
男性「メア、ごめん・・・メア」
女性「な、何?何?」
男性「・・・ごめんね、僕、行くところがあるんだ」
女性「え?ちょっと?」
男性「支払い、全部僕がするから、これ使ってね じゃ、僕いくから。またね」
そういうと、男性は財布から万札券を1枚出して、机の上に置くと、足早に店内を後にした。
女性「ちょ、ちょっと!どこいくのよ! ・・・もう、急にどうしちゃったのよ・・・」
〇大樹の下
男性が店の外に出ると、あたりはすでに薄暗くなっていた。
人々が、まばらに帰路に着くなか、人の波を掻き分けて、男性は一心不乱に走る。
町の外れまで、人目もくれず走り、公園までたどり着く。
そして、男性は──
男性「メア!メア!」
男性「聞こえてるかい? いや・・・聞こえてなくてもいい!」
男性「・・・(ゴクン)」
男性「好きだ!メア、君のことが好きだ!!」
男性「他の誰よりも、何よりも・・・ 好きなんだ!大好きなんだ!」
男性「好きなんて気持ちじゃ収まらない・・・ 愛してるよ、」
男性「メア! 君のことを、他の誰よりも、ずっとずっと 愛してるよ!!!」
メアの想いに、ようやく気づいた男性は、メアといつも話した場所で、人目も憚らず、ひたすらメアへの愛を叫びまくる。
会えなくなって後悔していること、会い方がわからないこと、会えないと気持ちが不安定になってしまうことなど・・・
メアに対して感じていること、全部全部、
空に向かって吐き出した。
男性「メア!君に、もう一度会いたい! 君に会いたいんだ!」
──しかし、メアにはその行為は、一切届かない。
メアが観察できるのは、あくまで寝ている人の姿や声である。
起きている人間の、姿は観察可能であるものの・・・
起きている人間の声は、メアには一切届かない。
「・・・・・・」
「・・・・・・何もないところに向かって、何を叫んでるのかしら?」
「・・・馬鹿馬鹿しいわ」
〇公園のベンチ
──男性が起きている間、メアは、男性に認識されることはない。
また、メアも、男性が起きている間、
男性の言葉は聞こえない。
男性は、来る日も来る日も、メアへの想いを叫び続ける。
その行為が、メアには一切届かないことも知らずに──
ひたすらに、がむしゃらに、一心不乱に、
メアへの想いを、空っぽの空間にぶつけ続ける。
男性「・・・・・・・・・」
「なんだなんだ、突然叫び出したと思ったら、死んだように止まりやがって・・・」
「ねぇ、ママ、あの人なにしてるの?」
「しっ、見ちゃダメ」
「うわ、、出た、あのキチ○イじゃん 毎晩、マジキモいんですけど・・・」
「回りの迷惑も少しは考えておくれよ、、」
男性(・・・メア、)
男性(・・・僕の気持ちが、少しでも君に伝わったなら・・・)
男性(・・・)
男性「・・・僕の存在も、誰かに肯定してもらえるのだろうか」
〇汚い一人部屋
それから、数日後。
かつて男性が発症していた夢遊病であったが、一時期回復の兆しを見せたものの、再び悪化してしまった。
主には、職場での人間関係のストレスと生活リズムの不安定さ、そして気分の不調が長引く原因と考えられる。
さらに、メアへの想いの号哭を、毎晩続けていることによる精神的・肉体的負担、睡眠不足により、夢遊病が再発症したのだ。
疲れ果てた男性は、部屋のベッドに倒れ込むようにして、床に伏した。
ドサッ、と大の字に横たわり、ため息をつきながら天井を見つめる。
男性「はーー・・・・・・・・・」
男性「・・・・・・」
男性「・・・つかえないヤツ」
男性「所詮社会のゴミなんだ・・・・・ 負け組で・・・敗者で・・・」
男性「生きていてもなんの得もない、僕に価値なんてない、人生に意味すらない・・・」
男性「・・・僕は、一体なんのために生きているんだろう・・・」
男性「あー・・・ 僕が死んでも、悲しむ人間などいない・・・」
男性「ニュースで取り上げられることもなく、静かにその存在を無に帰してゆく・・・」
男性「これが・・・僕の・・・」
男性「あるべき・・・姿・・・」
男性「・・・・・・・・・」
男性「・・・・・・Zzz・・・」
男性「Zzz・・・Zzz・・・」
〇大樹の下
男性「メア!メアーっ!!」
「わっ、なによ・・・夢を見始めるなり、急に叫んd」
男性「好きだ!メア!大好きだ!」
「へっ!!?」
男性「メア、他の誰よりも、君のことが一番、好きだ」
「なっ・・・あ、あ・・・」
男性「好きなんて気持ちじゃ収まらない・・・ 大好きだ。君のことを、愛してる」
「えっ、あ・・・ちょ、ちょっと・・・」
隠すつもりのない男性の真っ直ぐな思いに、メアは戸惑ってしまい、上手に受け答えができない。
「なんっ・・・あ、え、、と、突然すぎる・・・」
男性「好きだ。君のことが、誰よりも好・・・」
「わ、わかった!!わかったから!! も、もういいわよぉっ!」
「もう、、一体なんなの?新手のいたずら?」
男性「いたずらじゃないよ。気づいたんだ、僕の本当の気持ちに」
男性「僕は・・・メアと一緒にいたいんだ」
男性「君がいないと、何もかも不安になる。気持ちが不安定になる。心が穏やかでなくなる」
男性「でもきっと、君が僕の隣にいてくれたら、こんなに嬉しいことはないと思うんだ」
「・・・・・・っ」
男性「だから・・・っ!」
「ま、待ちなさい!!」
「あのね、メアからも言わせてもらうけれど」
「こっちはね、朝から晩まで、あなたのことばっか考えさせられて、ホントに迷惑してるったらないんだから!」
男性「・・・!!」
「あなたに会ってない時でも、怒鳴ったあとでも、嫌になるほどあなたのこと考えて・・・」
「あなたが他の女と話してると、胸がズキズキするし・・・めちゃムカつくし・・・」
「だから・・・!好きとか言われても、その・・・」
男性「・・・ふふ」
「な・・・なにニヤニヤしてるのよ・・・」
男性「いや、・・・ふふ、なんか、君にもそう思ってもらえてて・・・」
男性「・・・とっても嬉しいよ」
「はぁ・・・?・・・もぅ・・・ ホント、不器用っていうか・・・なんていうか・・・」
「・・・べつに、メアも・・・ 悪い気は、しないけど・・・」
男性「・・・メア、おいで」
「・・・あ、」
メアは、男性から視線を反らしながらも、満更でもない様子で、男性の呼び掛けに応じる。
「・・・っ」
男性「メア・・・」
──男性は、ようやくメアに、自分の想いを伝えることができたのだった。
2人は、めでたくお付き合いを開始する。
しかし、ある問題が残されたままだ。
────夢の中でしか、会えないこと。
無事結ばれて良かった☺️👏