お悔み申し上げます。こちら煉獄部転生課です。

無宿者

お節介(脚本)

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〇基地の廊下
立本 楓馬「さて・・・」
立本 楓馬「次の人の手続きがあるとか言って、窓口追い出されちまった・・・」
立本 楓馬「・・・」
  辺りを見渡してみれば、自分以外にも人が居る。
  あそこで呑気に会話しているおばちゃん達も、壁のコラムを読んでいる男性も、長椅子に座って爪を弄っている女子も、
  皆、死人なのだ。
立本 楓馬「・・・」
立本 楓馬「・・・」
立本 楓馬「・・・・・・ま、考えても仕方ないよな」
  思考も実感も放り出して、行く当てもなく歩き出した。
  死んだのだと言われても、変わらず自分は此処に居て
  物を考え、景色を見て、地面を踏みしめている。
  ただ、生きる場所が「この世」から「あの世」に変わっただけで、ただそれだけのように思えた。
立本 楓馬(俺の葬式とかやったのかなぁ・・・)
立本 楓馬(母ちゃんに無駄な金使わせちまったなぁ・・・)
  17年という長いようで短い歳月をぼんやりと思い返してみた。
  特段恵まれているとは思えないが、かといって不幸という程でもない。
立本 楓馬(母ちゃんは最高だったし、親友も居たし・・・)
立本 楓馬(悪くない人生だったんじゃねぇかなぁ・・・)
  上の空の脚は、気づけば階段を登っていた。

〇マンションの共用階段
立本 楓馬(何階まであるんだろこの建物)
  辺りにすっかり人の気配が無くなった階段の踊り場。
立本 楓馬「ん・・・?」
  静かにしたたる泣き声のようなものが聞こえる。
立本 楓馬(子供・・・?)
女の子「・・・っひ・・・ぐす・・・」
立本 楓馬「・・・きみ、大丈夫か・・・?」
女の子「・・・ひっく・・・えっく・・・」
  女の子は声を押し殺してひたすら涙を流している
  長い事泣いていたのだろうか、目元がすっかり腫れあがっていた。
立本 楓馬「どうしたんだ・・・?」
  楓馬は大きな体を縮めて、ゆっくりと女の子の隣に座った。
女の子「うっ・・・・・・ぐす・・・」
  彼女の小さい背を撫でながら、ひたすら様子を見守る。
女の子「・・・ぐす・・・だの・・・」
立本 楓馬「・・・え?」
女の子「お兄ちゃんも、死んだの・・・?」
立本 楓馬「えっと、」
立本 楓馬「お兄ちゃんって俺の事かな?」
立本 楓馬「えっとそれなら、そうなるな」
女の子「・・・春も死んだの」
立本 楓馬「春、って君の名前かな?」
女の子「うん・・・ぐす・・・」
立本 楓馬「そ、っか・・・」
立本 楓馬「・・・」
女の子「・・・ぐす・・・」
  まだ小学生低学年の頃であろうに、この幼さで死んでしまったのかと思うと心が痛んだ。
  あまりの悲壮さに言葉を失いかけたが、なんとか明るい会話をしようと務めた。
立本 楓馬「で、でも、ここは、転生・・・えっと、生まれ変われる場所なんだってさ!」
立本 楓馬「ね、猫さんとか、犬さんとかに成れるかもよ!!」
立本 楓馬「春ちゃんは好きな動物居る?」
女の子「どうぶつ・・・?」
立本 楓馬「うんそうそう!」
女の子「春、とりさんが好き」
立本 楓馬「鳥かー!じゃあ春ちゃんは鳥に転生できたらいいね!」
女の子「てんせー?」
立本 楓馬「えっと、転生っていうのは生まれ変わるって事だよ!生まれ変わりって分かるかな?」
女の子「春、とりさんになったら、ママに会える?」
立本 楓馬「そ、れは・・・・・・」
  楓馬が思わず言葉を濁すと、何かを察したのか春の表情がみるみる内に歪んでいった。
女の子「や、っぱり、もう春、ママに会えないんだ・・・」
女の子「春がわるい子だから・・・?」
立本 楓馬「そ、そんな事ないよ!!」
立本 楓馬(ま、参ったな・・・。こんな小さい子に関わるのは妹以来だ・・・)
立本 楓馬(俺は、転生の仕組みとかもよく分かってないんだよな)
立本 楓馬(一回、職員の人に報告するか・・・)
立本 楓馬(置いて、行って大丈夫か・・・?)
女の子「・・・ぐす・・・ずび・・・」
立本 楓馬「春ちゃん、」
女の子「・・・なに?」
立本 楓馬「ママに会えるかどうか、職員さんに聞いてみようか」
女の子「しょくいんさん?」
立本 楓馬「うん。ほら、ここに来た時に窓口でお話した人居なかった?」
女の子「・・・わかんない・・・・・・」
立本 楓馬「そっか。お兄ちゃんが案内してあげるから、一緒に行こう?」
女の子「ママに会える・・・?」
立本 楓馬「会えるかどうか聞いてみよう」
女の子「・・・・・・うん」
立本 楓馬「よし、行こうか。 立てる?」
女の子「うん」

〇オフィスのフロア
立本 楓馬「すみません」
久志方 利子「む?なんだ早かったな。もう転生する覚悟は決まったのか?」
立本 楓馬「あぁ、いや、そうじゃなくって」
久志方 利子「なら手短に頼む。まだ捌かなければいけない仕事が山ほどあるからな」
立本 楓馬「ええっと、」
立本 楓馬「転生しちゃったら、記憶とかって無くなっちゃうんすよね?」
久志方 利子「あぁそうだ」
立本 楓馬「じゃあ、前世での知り合いに会いに行くとかは、」
久志方 利子「無理だな」
立本 楓馬「ええとじゃあ、今の状態で一回だけ現世に戻るとか、出来ますか?」
久志方 利子「いや、無理だ」
立本 楓馬「そうっすよね・・・」
久志方 利子「なんだ回りくどい。やりたい事をはっきり言え」
立本 楓馬「えっと、この子を母親に会わせてあげたいんですけど・・・」
久志方 利子「?」
  その子を見た瞬間、利子は顔を顰めてため息を吐いた。
久志方 利子「実に典型的だ」
立本 楓馬「はい?」
久志方 利子「どこで出会ったかは知らないが、大方身の上を聞いて同情したといった経緯だろう」
立本 楓馬「まぁ、そんな感じっすけど」
久志方 利子「坊主、お前は今他人の事を気にしている場合か?」
久志方 利子「人助けにかこつけて、思考を放棄している暇があったら、さっさと自分の死を受け入れてもらいたいものだ」
立本 楓馬「まあ、まだ時間はあるんですしいいじゃないっすか」
久志方 利子「そんなんだから君は、いつも夏休みの最終日に溜まりに溜まった宿題の消火に、必死になって無様な姿を晒すんだ」
立本 楓馬「え、なんで知ってんすか!?」
久志方 利子「想像に容易い」
立本 楓馬「い、今はそんな事関係ないでしょう!」
久志方 利子「それで、もう一度言った方がいいか? その子を生き返らせる事は勿論、現世に送る事はできん」
久志方 利子「諦めろとはっきり言った方がいいだろう」
立本 楓馬「そんな非情な・・・」
久志方 利子「そもそも嬢ちゃんは私の担当じゃあない」
久志方 利子「彼女の未練を解決したいなら、彼女の担当に話をするべきだろう」
立本 楓馬「担当って誰なんすか?」
久志方 利子「聞いてみろ」
立本 楓馬「ここでお話してくれた人はどんな人だった?」
女の子「・・・こわい人・・・」
立本 楓馬「え?」
久志方 利子「おい、なんでこっち見た」
立本 楓馬「いや、別に!」
女の子「おとこの人・・・かみがへんてこで・・・声が大きくて・・・」
久志方 利子「ふむ、嬢ちゃん。発券番号を、手の甲を見せてもらってもいいか?」
女の子「はい」
久志方 利子「あぁ、アイツが担当か。哀れにな」
久志方 利子「中井地!!!!!!!!!」
中井地 元「っるせぇな!!んなデカい声だすんじゃねぇよ!!!!!」
久志方 利子「その子、お前んとこの窓口が担当だろう。 きちんと対応しろ」
中井地 元「他人のシマに手ぇ出してんじゃねぇよ!!!!引っ込んどけっ!!」
立本 楓馬「うっわ、なんだこの人」
中井地 元「なんだぁ?兄ちゃん・・・」
中井地 元「文句あんのかこらっ!!」
久志方 利子「関係の無い奴にまで絡むな。そんなんだからお前は亡者から距離を置かれるんだ」
中井地 元「るせぇな!!俺なんかにビビる奴らが悪ぃんだよ!」
久志方 利子「さて、坊主。 こいつは中井地 元(なかいぢ げん)」
久志方 利子「私が担当している四番窓口の、隣りにある三番窓口の担当者だ」
久志方 利子「そして、不服な事に私の同僚だ」
立本 楓馬「はぁ・・・・・?」
中井地 元「んでよ、俺を呼びつけて一体何用だってんだぁ?」
久志方 利子「さっきも言っただろう。そこの嬢ちゃんがお前に用だと」
中井地 元「あぁん!?」
女の子「ひっ・・・・・・!?」
中井地 元「何泣いてんだよ!!」
立本 楓馬「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい」
中井地 元「俺がなんか悪い事したかよっ!!」
立本 楓馬「その声、ボリューム落とせないんですか?」
中井地 元「ガキじゃ話になんねぇから、お前が話せ」
立本 楓馬(落とせんじゃん・・・)
立本 楓馬「この子、ずっと一人で泣いてたみたいなんですよ」
立本 楓馬「どうにも、母親に会いたいらしくって」
中井地 元「・・・・・・そんで?」
立本 楓馬「だから、どうにかしてもらえないかと・・・」
中井地 元「他人任せかてめぇ!!」
立本 楓馬「い、いや、俺はあんまりここのルールとか仕組みとか知らないんで何も言えないんすよ!!」
中井地 元「ちっ・・・じゃあ一回しか言わないから耳かっぽじってよおく聞け」
中井地 元「てめぇはもう二度と母親にゃ会えないからすっぱり諦めろ!!」
女の子「・・・・・・!!!」
立本 楓馬「ちょっ!」
久志方 利子「言い方はともかく、コイツの言う通りだ」
久志方 利子「死者が生き返るなんて聞いたことあるか?」
久志方 利子「もう一度現世の人間と会いたいなんて、ここに来た亡者であれば全員思う事だ」
久志方 利子「嬢ちゃんだけ特別扱いする訳にもいかない」
中井地 元「そういうこった。だからお前はさっさと転生の間に行っちまえ」
中井地 元「そこに行っちまえば、母親のことなんざ忘れちまうからよ」
女の子「・・・ふっ・・・うぅ・・・」
立本 楓馬「あぁ!ちょっと待って!!」
中井地 元「ふん、ガキが」
久志方 利子「どうするつもりだ?」
中井地 元「何がだよ」
久志方 利子「あの子、もう期限が無いぞ」
中井地 元「・・・・・・」
久志方 利子「今日を含めて後七日だ」
中井地 元「・・・」
久志方 利子「このまま転生させるのか?」
中井地 元「じゃあ何か?あっちに戻して母親に会わせてやれってか?」
久志方 利子「それは駄目だ。職員規律33条に違反することになる」
久志方 利子「規律違反者は切腹だ」
中井地 元「出たよ、切腹。くっだらねぇ」
中井地 元「はあ・・・・・・」
中井地 元「そもそも、なんで俺がガキの担当なんざしなきゃならねぇんだよ・・・」
久志方 利子「マザーはどうした?」
久志方 利子「子供の担当は主にアイツがしていただろうに」
中井地 元「アイツぁ今遠征中で居ねえんだよ」
久志方 利子「それは何とも間が悪い」
久志方 利子「それで、どうするつもりだ?」
中井地 元「別にどうもしねぇよ」
中井地 元「期限が来たら、泣こうが喚こうが転生させる」
中井地 元「そんだけだ」
久志方 利子「そうか・・・」
中井地 元「心配されなくとも、執行係の世話にゃなんねぇよ」
久志方 利子「だといいがな」
中井地 元「ふん」

次のエピソード:お手軽転生クッキング

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