エピソード33(脚本)
〇並木道
犯人がデータを学園外部に搬出したと思われる地点を探し出していた俺達だったが、
レイが予め大まかな目星を付けていたこともあり、夕飯の時間までにはその最大候補t地を見つけ出していた。
外側からも確認したことで外壁が曲線を描くテニスコート脇の雑木林地点こそが、
学園を囲む防犯カメラ唯一の盲点箇所と判明したのである。
内側を調べている時にテニス部に所属する川島に見つかって絡まれるというハプニングもあったが、
逆にそれがきっかけでテニス部員達からここ最近、教職員達をマラソンコースで見かけたことはないという証言を得ることが出来た。
これで少なくても月曜日から今日の木曜日まで、
部活中の午後3時過ぎから六時までの三時間は犯人に動きがなかったことが判明したのだった。
〇学園内のベンチ
麻峰レイ「犯人がデータの入ったメモリー媒体を外に投げ出したのはあの地点とだとして・・・」
麻峰レイ「それを実行したのは何時ごろだと思う?」
調査を終えて自分たちの寮に帰る中、レイは俺に問い掛ける。
「そうだな・・・犯人としては、データを盗んでからあまり時間を置きたくないはずだから、犯行の直ぐ後かな?」
「学園側に発覚したのが月曜日だから、日曜日の夜か月曜の早朝には実行したんじゃないかな?」
麻峰レイ「うむ、そうだろうな。最悪、犯人としては盗んだデータをさえ外に出せば発覚したとしても目的は達せられる」
麻峰レイ「我々には漏えい事件の正確な発生時刻を知らされていないが、」
麻峰レイ「君の言う通り、時系列的に日曜の夜から月曜の朝と見るべきだろう」
「そして月曜の昼にはレイを含むG組の特定の女子生徒の靴が盗まれ出した」
レイが会話形式で情報を再確認するのは俺にとって既知の事実だ。それに合わせて呼び水になるような情報を提示する。
麻峰レイ「ああ。つまり、犯人はデータを盗み出して搬出地点に向う僅かな間、」
麻峰レイ「あるいはその最中に靴を盗む必要が発生したわけだ・・・」
「その最中に?」
麻峰レイ「そうだ、前以って盗む必要がわかっていたのなら、大事な漏えい事件の決行前に済ませるだろう」
麻峰レイ「そうではないということは、犯人にとっても想定外の行動なのだろう」
「なるほど・・・でも何故、靴を盗む必要が?」
麻峰レイ「ふふふ。何故だろうな、まだ確実に・・・」
麻峰レイ「いや! そう言えば・・・あの日、君に助けて貰った月曜日は雨が降っていたっけ?!」
さすがのレイも犯人が靴に拘る理由については自信がないらしく苦笑を浮かべようとするが、
何かを思いついたのか俺とコンビを組む発端となった事件日の天候を問い掛ける。
「ああ・・・あの日は確か・・・日曜の夜から月曜の朝まで降っていたはず」
「特別校舎を出る頃には止んでいたけど・・・レイの足が濡れると思って助けを買って出たんだった」
麻峰レイ「そうか、雨・・・やはり、足跡だ! まさかとは思っていたが、雨だったのならところどころに泥濘が出来て、」
麻峰レイ「はっきりした足跡も残る!・・・やはり犯人は特定の人物を探し当てるために盗んでいたんだな!」
俺の返答で月曜日が雨であったことを最確認したレイは、興奮気味に自らの推測を口にする。
「ああ・・・それじゃ、犯人は足跡と靴のサイズ・・・」
「裏の靴底の状態を照らし合わせて目的の人物を特定しようしていたわけか?」
麻峰レイ「そうだ! それなら足のサイズが25㎝の女子だけが狙われた理由を説明出来る」
麻峰レイ「おそらく犯人はデータを盗んだ現場か外に投げ出した時に、私を除く被害者のいずれかとすれ違ったかニアミスでも起こしたのだろう」
麻峰レイ「そこからの発覚を恐れた犯人は、隠れてやり過ごして生徒を尾行した。・・・口封じをしょうとな!」
麻峰レイ「だが、その生徒は敵意を持った尾行者には気付かず自分の寮、すなわちG寮にまっすぐ戻った」
麻峰レイ「さすがに寮の中にまで入るのは目立ち過ぎるから、犯人はそこで追跡を断念しただろう」
麻峰レイ「だが、雨で残っていた足跡からその生徒を特定しようと、同じサイズの靴の女子を狙って盗んだのだ!」
現時点では仮説に過ぎないとは言え、レイはこれまで謎であった犯人が一部の女子生徒の靴に拘る理由を解き明かす。
そしてこの推理により二つの事件の合理的な接点も浮かび上がった。
「く、口封じ?!!」
より詳しい見解をレイから告げられた俺だが、口封じの意味を目撃者の殺害と捉えて慌てる。
これが事実ならレイ達被害者は死の淵に居たことになる。
麻峰レイ「ふふふ、口封じが必ずしも殺人を意味するわけじゃない」
麻峰レイ「目撃者である生徒の信頼を失わせて、評判を落とし、あわよくば退学に追い込むってことさ!」
麻峰レイ「犯人が学園の教師なら、それも不可能じゃないからな!」
「・・・ああ、そういうことか・・・良かった」
「・・・しかし、俺達が調べた限り被害者はここ最近、怪しいことはなかったと証言していたけど?」
レイが苦笑しながら説明を付け足したので、俺は不安を解消すると再び疑問点を告げる。
麻峰レイ「おいおい、しっかりしろ! 確かに殺人よりはマシだが、退学はそれほど良くないぞ!」
麻峰レイ「何の落ち度もない生徒の人生を狂わせる気なのだからな。将来に関わる」
麻峰レイ「まあ、それはそれとして、目撃者の方は特に気にするような状況ではなかったのかもしれないな」
麻峰レイ「部外者ならともかく学園関係者の姿を学園内で見ても不自然ではない」
麻峰レイ「それに漏えい事件の方は秘密にされているから、仮に何かを見ていたとしても印象が薄いのかもしれない」
俺が安堵した理由はレイの身を案じたからだったが、彼女はまぬけな俺の目を覚まさせる。事実、レイの指摘通りであった。
「ああ、良くなかった! 犯人はとんでもない奴だ!」
麻峰レイ「わかってくれたようだな」
「でもそうすると、目撃者の証言は期待出来ないのか・・・」
麻峰レイ「いや、今は被害者のいずれかが、犯人を目撃かニアミスした、およその時間を掴んでいる」
麻峰レイ「もう一度、具体的な時間を指定して質問すれば、何か思い出すかもしれないぞ!」
レイは犯人に至る可能性を指摘した。