エピソード34(脚本)
〇学生寮
川島ミスズ「ちょっと!」
夕食のためレイと共にG寮に戻ってきた俺だったが、二人の帰りを玄関口で待っていたと思われる川島に出迎えられる。
麻峰レイ「なんだ、ミスズ。約束の時間までには帰ってきただろう?」
川島ミスズ「違うの! いえ、レイとの食事はもちろん私も楽しみにしていたけど・・・今は彼に報せることがあって待っていたの!」
俺への風当たりの強さを懸念したレイが宥めるように川島に告げるが、彼女はそれを否定して待機していた理由を告げる。
「え、俺に?! 何を?」
レイならともかく、自分のために川島がわざわざ玄関で待っていたとは、通常では考えられない行動である。
俺は胸騒ぎを覚えながら彼女に続きを促した。
川島ミスズ「・・・実は生活指導の本田先生達が君に用事があるらしく寮にやって来ているの!」
川島ミスズ「あなたが何をしでかしたかは知らないけど、少しでも心の準備が出来た方が良いでしょ? それでここで待っていたの!」
麻峰レイ「私達二人ではなく? 一人だけ?」
「俺だけ・・・」
川島の説明に俺が答える前に、レイが一足早く問い掛ける。
捜査の続行を勘付かれたとしても、その場合にはコンビを組んでいる俺とレイの双方が説教や処罰の対象になるはずである。
俺一人だけに本田達が会いに来たというのは不自然だった。
川島ミスズ「ええ! 私が知る限りけど、君だけを探していたわ!」
麻峰レイ「生徒手帳に何か連絡は入ってないか?」
改めて本田達の対象が俺一人と判明したことで、レイは俺にメール等の確認を迫る。
「・・・入ってない」
レイに促された俺は生徒手帳を調べるが、それらしい履歴はなかった。
麻峰レイ「抜き打ちか・・・これは嫌な予感がするな! 私なら逃亡か証拠隠滅を悟らせないためにやる手段だ・・」
「そんな感じだね・・・本田先生達はどこにいるの?」
既にただならぬ空気を感じていた俺はレイの指摘に頷くと、川島に本田達の居場所を問い掛ける。
川島ミスズ「君の部屋の前であなたが帰って来るのを待っているみたい!」
「そうか・・・ありがとう、川島さん。本当に、いきなり鉢合わせしなくて済んだよ」
「とりあえず・・・会ってみるしかないな」
川島の心遣いに感謝をしつつも俺は、覚悟を決める。
先ほど釘を刺した生活指導の教師達が本来の勤務時間外に生徒の部屋までやって来たのである。
その理由は不明だが、それ相当の意味と必要があるに違いなかった。
麻峰レイ「・・・そのようだな」
俺の言葉を受けてレイも神妙な顔を浮かべながら頷いた。
〇マンションの共用廊下
本田ヨシオ「君が帰って来るのを待っていた・・・麻峰も一緒か・・・」
俺の個室の前には第二学年の生活指導を担当する本田と及川が待ち構えるように立っており、
部屋主の登場に気付いた本田が第一声を上げる。事件捜査の停止を約束させられてから、僅か数時間後の再会だ。
「はい。俺に何か用とか?」
俺は素知らぬ顔で返事をする。既に約束は破っているが、
相手の目的が不明である以上、自分から捜査を続けている事実を告げる必要はない。
本田ヨシオ「ああ、その通りだ。・・・わけあって君の部屋を検めさせてもらいたい」
本田ヨシオ「あれから君達のことを調べたのだが・・・その結果、君を中心に様々な出来事が起きているように思われるのだ」
本田ヨシオ「まるで誰か仕組んでいるかのようにな!」
及川マスミ「ええ、そうなの。ごめんなさい。申し訳ないのだけど、念のために調べさせて欲しいの」
本田に続いて及川がここまで来た目的を柔らかく表現するが、
結局は〝怪しいからお前の部屋を調べさせろ!〟と同じ意味の内容を告げる。
「それは・・・いえ、どうぞ」
自分を疑う明確な根拠を問おうとした俺だが、直ぐに考えを改めて大人しく従うことにする。
ここで下手に歯向かっても立場を悪くするだけであるし、
今、俺の後ろには心配して付いて来てくれたレイと川島に加えて野次馬の姿も見える。
レイはともかく、他生徒の前で本田達が具体的なことを言うはずがないからだ。
本田ヨシオ「君達は自分の部屋、もしくは一階に戻りなさい!」
俺が承諾して部屋の鍵を開けると、本田はそれまでのやり取りを見守っていたレイと川島達に告げる。
麻峰レイ「それには及びません。先生方は彼が私を含むG組女子を狙った靴の盗難事件の容疑者だと疑っているのでしょう?」
麻峰レイ「ある程度調べれば、私と彼が親しくなったのはこの事件が切っ掛けだと気付きますし、」
麻峰レイ「同じ組と寮の男子が被害者と急接近していたら不自然に思えるのは当然です」
麻峰レイ「お二人からすれば、そちらの事件も解決しなければならないでしょう・・・しかも、それが私達ならなおさらです」
麻峰レイ「そして・・・仮に彼の部屋から女子生徒らしき靴が見つかった場合、それが本当に盗品なのか確認する必要があります」
麻峰レイ「早いに越したことがありませんし、私も親しい友人が犯人でない確実な証拠を知りたいのです」
麻峰レイ「ここで待たせて下さい。もっとも、彼の部屋から女子の靴が見つかるとは思いませんがね!」
「・・・やはり、俺が靴事件の容疑者に疑われているのか・・・いや、そう見えないこともないか・・・」
「濡れ衣を解消するためにも、さっさと調べて下さい!」
本田達の意図を悟ったレイが先回りするように俺に許可を求め、彼も驚きながらも同意する。
靴事件の容疑者にされたことは寝耳に水だが、本田達がここ最近の俺達の行動を把握した場合、
俺がレイに近づくため仕掛けたマッチポンプだと疑うのは理に適っていた。
もっとも、俺としては容疑者リストに本田の名前が上がっていることもあり、
彼を全く信用していない。穏健派の及川がいるとは言え、レイも一緒にいてくれれば心強かった。
本田ヨシオ「いや、それは・・・」
及川マスミ「本田先生、確かに万が一に備えて、彼女には外で待機してもらいましょう」
及川マスミ「・・・では、麻峰さん。おそらくはあなたに頼ることはないと思いますが、そこでしばらく待っていて下さい!」
レイの提案は予期しない事態だったのだろう、本田が口ごもるが及川が折衷案を提示する。
いずれにしてもその口ぶりからレイの推測が的を射ていたことが判明する。
本田ヨシオ「・・・」
麻峰レイ「わかりました」
「・・・では、どうぞ!」
レイと本田が頷くか、反論を示さなかったことで合意と見た俺は、部屋の扉を開けるのだった。